明日から忙しいので、この更新ペースは維持できなくなります。
迷子。遭難。彼女は、どちらになるのか。100年以上生きてはいるが、見た目が子どもだから。迷子か。遭難は山のイメージが強い。まぁ、どちらでもいい。とりあえず。迷子だ。エヴァンジェリン。断じて。私ではない。
転移魔法は一人用だった。先代は長い間、一人で旅をしていたと言っていた。おそらく二人の時は、世界の移動はしなかったのだろう。だから。と自分を納得させる。だが、どうしてくれる。一人用の魔法を始祖の魔力にものを言わせて、無理やり二人で使った。そのおかげで、迷子だ。エヴァンジェリンが。何処かに飛ばされたか。地面の中とかでなかったらいいが。全く。手間のかかる真祖だ。と憤慨。
しかし、特に問題はない。なぜならば、吸血鬼としてのつながりが私たちにはあるからだ。さすがに地面に埋まっているかはわからんが。まぁ、あの時と同じように放っておけば、向こうからやってくるに違いない。私は始祖。お前は真祖。
魔法世界に来てから数か月。特にこれと言って問題は起こらなかった。顔を隠し、魔法生命体の製作に必要な材料を着実に集めていた。各地をウロウロしているからか。まだ。現れない、真祖。近づいては来ているが。
そして、今。問題が目の前にある。というか。いる。誰だ、こいつ。
「あなたが、今代の始祖、ですね?」
ローブだ。ローブが話している。私に。どう答えるべきか。考える。Yesと答えれば、捕まるか。戦闘開始か。何にせよ、ろくな事にはならない。気がする。なら。
「始祖ですか。いったい何のことやら。私は見た通り、幼気なただの少女ですが。」
とぼける。ローブのなかで口が笑っている。気がする。何だ、こいつ。しかし、私が優しい吸血鬼でよかったな。もう一人の金髪幼女なら。いや。まぁいい。
「そう警戒しなくても。別にとって食おうというわけではありませんから。私はただ、彼の後輩を見に来ただけです」
彼の後輩。彼。彼とは、先代のことか。
「ふふ。では質問を変えましょう。カイロス、という名に心当たりはありませんか?幼気なお嬢さん」
確定。彼=先代。しかし、こいつの目的は何だ。そもそも誰だ。私が始祖だとわかったのはそういう魔法でもあるのか。あっても不思議ではないが。ふむ。埒が明かない。少し、乗ってみるか。
「カイロスという名。聞き覚えがありますね。いったい誰だったか。忘れました。まぁ、もし知っていたとしても、名前も知らない見知らぬローブに教えることなどありはしませんが。」
「おや。これは手厳しい。可愛らしい顔に似合わず」
笑うローブ。死ね。
「ふふ。確かにあなたの言うことは正しいでしょう。では、自己紹介を。私はアルビレオ・イマ。始祖の吸血鬼、カイロスに吸血鬼にされた吸血鬼です」
フードの中から端正な顔立ちの青年が現れる。何処かで見たことがある気がしないでもない。忘れた。保留。ともかく、先代とつながりのある吸血鬼。おそらく、あの眷属。それが急に目の前に。
「よろしくお願いします」
どうする。どうすればいい。
「お嬢さん」
助けてくれ。エヴァンジェリン。
「それで」
細い目が私を、射抜く。
「あなたが、今代の始祖、ですね?」
同じ質問。こいつは確信している。逃れられない。なら。こちらも聞きたいことを聞こうか。
「そうだ。しかし、何故わかった。」
「私が吸血鬼だから、という至極単純な理由ですよ」
「お前が吸血鬼であると私には感じられないが。」
「吸血鬼はお互いの存在がわかるという能力のことですか?」
そう。
「あれは完璧ではありません」
「完璧ではない、とは。」
「吸血鬼が三種類いることは知っていますか?」
頷く私。笑う青年。
「始祖は他の吸血鬼からは簡単に見つけることが出来ます。強力な分、目立ちますからね。そして、始祖からみて、存在を感知できるのは真祖か自らの眷属のみ。私はあなたの眷属ではないので」
わからなかった、と。なるほど。理解。
「で。私に何か用か。」
ぶっきらぼうに、そう言う。アルビレオ・イマは胡散臭い笑顔をキープしたまま、答える。死ね。
「先ほど言った通りです。彼の後輩を見に来ただけですよ。本当は遠くから見るだけの予定だったのですが、あなたがあまりにも可愛らしいので、つい」
もう少し年下がよかったですが、と付け加えた変態。死ね。いや、落ち着け。先代の眷属。生きる情報源だ。
「お前は吸血鬼に関して詳しいのか。」
少し驚いた表情。初めて。
「そうですね……あなたよりは詳しいかと」
うざい。死ね。
「なら、聞きたいことがある。」
「対価を」
何だ、急に。対価だと。何もないぞ。金。ない。知識。こいつのほうがあるらしい。私が持っているもの。城か本。先代たちの遺産。まだ必要だ。こいつにくれてやるものなど、ない。どうする。力づく。いけるか。
物騒なことを考えているとアルビレオ、もとい変態が手を差し出してきた。何だ。薬。
「年齢詐称薬です。これを飲んで着替えてもらえますか?」
ふむ。とりあえず。
「死ね。」
「始祖とは何だ。」
私が知りたかったこと。
「始祖とは、ですか……正直なところ私にも分かりません。ですが、カイロスから聞いた話と私が調べた情報から推察するに、始祖は自然に発生するものなのか、疑わしいですね」
「つまり。誰かが私たちを。」
作ったと。と続けようとしたが、変態が首を振った。
「自然と人工の中間とでも言いましょうか。とは言っても、明言できませんが……」
あくまで推測にすぎませんよ。と言う変態。
「なら、真祖化については。」
エヴァンジェリン。
「真祖化についての情報も少ないですね。真祖化の魔法は少なくとも1000年以上前に作られ、習得するのも行使するのも最上級の難しさです。使ってもまず成功しないということぐらいでしょうか。私が知っているのは」
始祖はともかく。真祖化について目新しい情報は特にない。大して使えんな。この変態。
「カイロスの前の始祖についての情報は。」
「カイロスが彼女と呼んでいた方ですね。私も興味があって調べているのですが、彼女に関する情報はほぼありません。」
本当に。使えん。変態。
「ですが」
「何だ。」
「魔法世界の古い伝説をご存じですか?」
「伝説か。生憎、この間こちらに来たばかりだ。そういうのには疎い。」
「では、少しお話を。魔法世界の文明の始まりを作ったと言われるウェスペルタティア王国の初代王女、アマテルとそのパートナー。彼らは最期、美しい悪魔と壮絶な戦いをし、敗北。結果、殺されたと言われています。そして、この悪魔に関してなのですが、場所によっては亜人や吸血鬼という伝説が語り継がれているところもあるのです。どの伝説にも共通する点は、彼らを殺害したのは金髪で赤目の美しい少女、ということですね」
金髪、赤目、美しい少女。おそらくそのアマテルとパートナーとやらはかなりの力を持っていたのだろう。伝説に残るくらいの人物。しかし、その少女は一人で打ち勝ったと。
「なるほど。お前はその悪魔が、彼女だと睨んでいると。」
「いえ。その可能性もある、という程度ですよ」
笑う、変態。ともかく、その伝説自体の信憑性を脇におけば。その悪魔が彼女だという可能性はあるのか。先代の言う通り、彼女に関する本は書庫に一冊だけあった。ペラペラの本で書かれていることは彼女の容姿や性格についてほんの少しだけ。その情報からでは判断できない。私が考え込んでいると、変態が言う。
「質問はおしまいですか?」
ふむ。
「そうだな。特にはない。」
「では、対価のほう、よろしくお願いしますね」
「あぁ。分かっている。」
頼んだ。エヴァンジェリン。お前の帰りを待っている。