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感謝感激です。
これからもよろしくお願いします。
あとSAOの二次創作を書きました。
浮気です。よければどうぞ。
更新ペースは週にそれぞれ1、1以上が目標です。
青年はもらった剣を持って一人、部屋にいた。
剣というより刀という方が適切な武器。彼女がここが京であることを考慮したと思わせる。未完成であるがゆえに銘はない。意思ある剣だと聞いているが特に何の反応も示さない刀。青年は未完成の意味を思い出し、肩を落とした。
その夜。
神鳴流の長が殺された。
長の部屋。足をつける畳も目に入る壁も赤く染まっていた。部屋の真ん中には長の死体と彼が使っていた布団。
長の妻は取り乱し、弟は泣き叫び、青年は父の変わり果てた姿に思考を停止させた。
「犯人の目星は?」
上層部たちが集まり、重苦しい会議を始めた。
「さっぱりやなぁ」
「傷を見るに刀でやられたことは間違いないですね」
「青山は術者ではないから障壁もなかった……寝ている人間に刀を突き立てるだけなら子どもでも可能だ」
「……言いたかないですけど、ここは部屋に結界張って寝るほど殺伐としたとこやおまへんし、誰でも殺せるんやないですか?……内部の人間なら」
沈黙。ここ関西呪術協会本山には結界が張ってあり、敵は入ることができない。ならば内部の人間が。という結論が出るのは至極当然のことだった。
「……調査を続けよう。皆、身の安全には気を配るように」
青年は母と弟と共に母の部屋にいた。
母と弟は元気をなくしていた。青年は自身がしっかりしなくてはと自分を鼓舞し、懸命に平静を保った。
「母上、お茶です」
「……ありがとう。けど今はいいわ」
「……そうですか。お前は?」
「僕もいいです……すみません。兄上」
「いや、いいんだ」
二人に席を外す旨を告げ、青年は部屋を出た。とは言ってもどこにも行かず、部屋の前の廊下に腰を下ろした。
「何故なんだ」
疑問。何故父は殺されたのか。誰が父を殺したのか。父は剣を持つ者としては優しい性格で恨まれることなどない。父の人格が問題でないなら神鳴流の長だからという理由だろうか。もしくは青山の血を疎む者か。もしそうなら自分も母も弟も危ない。弟は自分よりも強いが、自分は兄なのだ。
信頼できる護衛が来るまでは二人の傍を離れない方がいい。と思った青年は立ち上がり、部屋に戻った。
その後。上層部の面々やその家族に護衛がついた。青年の護衛は神鳴流のベテラン剣士二人と古参の術者が一人だった。術者は青年の部屋に入り、結界を展開。剣士は部屋の二つ出入り口を体で塞いだ。
「これで大丈夫です。私がいると落ち着かないかもしれませんが、有事ですので」
「いえ、分かっています。ありがとうございます」
青年には気になることがあった。
「他の方に護衛は?母と弟には……」
「ご安心を。もちろん、協会、神鳴流の腕利きがついています」
「そうですか……」
分かってはいたことだが、他人の口から聞くと随分と落ち着くことだ。と青年は思った。
「……もうお休みになられますか?」
「ええ。今日は疲れました」
「そうですか。お休みなさいませ」
その言葉を聞いて、青年は眠った。
青年はしばらくすると目を覚ました。それを見た術者の男が青年に声を掛けた。
「もう起きられたのですか?」
青年はゆっくりと顔を男の方に動かし、答えた。
「ええ。何だか目が覚めてしまって」
そう言って、立ち上がる。
「何かお飲物でも?お茶ならばここでもご用意できますが」
「ありがとうございます。すみませんが、いただけますか?」
「かしこまりました」
術者の男は青年に背を向け、手を動かし始めた。
青年は刀を手に取り、その背に襲い掛かった。
「なっ!?」
青年が刀を振り上げた瞬間。術者の男は懐の護符を手にし、防御魔法で自身を守る―はずだった。 青年の刀が男の展開した壁を斬り、そのまま男の体まで真っ二つに斬り裂いた。
血しぶきが上がり、部屋の結界が解ける。異変を感じ、部屋の両側の襖の向こうにいた二人の剣士が入ってくる。襖が破られる。それと同時に青年は刀を振り抜き、剣士の一人に斬りかかった。護衛対象からの急な攻撃に剣士は反応が遅れ、その刃を身に受けた。
「若!?何を!?」
部屋の反対側から入ってきた剣士が声を上げる。
青年はそちらへ向き直り、薄く笑って、斬りかかった。
悲鳴と怒声が響く本山。
その原因は最弱の青年だった。
「あははははははは!!」
神鳴流の剣士たち。自分が勝てなかった者たち。青年は斬った。
―お前は強い。証明して見せろ―
青年の頭に声が響く。
その声に突き動かされ、青年は斬った。
「何だ!?」
協会の長の部屋。中で一人の老人が声を張り上げた。
「戦闘だな……」
金色の少女が静かに答えた。
「なっ!?確かですか!?」
少女と共に護衛についていた術者が大きな声で尋ねる。
「ああ。どうするか……」
「待ってください!!エヴァンジェリン様には長の護衛の任が!!出撃されては困ります!!」
「ふん。そんなことは分かっている。だが相手はかなりの手練れのようだ……このままではかなりの被害が出るぞ?」
「ぐっ……しかし……」
「チッ。アリスもチャチャゼロも他の奴の護衛で動けんし、こうなったら……」
出てもらうか。という言葉が続きそうになったが。
「お待ちを」
少女の言葉を遮り、長が言葉を発した。
「何だ?」
「エヴァンジェリン殿に賊の対処をお願いしたい」
「お、長!?何を!?」
「戦っているのは皆、京の仲間だ。私だけエヴァンジェリン殿に守られて安全にいるのは私の誇りが許さんわ」
「ほう……あの泣き虫坊主がそんなことを言うようになるとはな」
笑いを堪えきれない様子で立ち上がり、外に向かって歩く少女。
「ふん。すぐに終わるさ。何せ私は世界で二番目に強いからな」
「岩斬剣!!」
「どうされたのですか!?若!?」
二人の剣士が戦っている。
「俺は強くなるんだ!俺は強い!」
二人の内の一人、最弱の青年は剣を振るい続ける。
「っ!?」
もう一人の剣士が苦しい顔で剣を受ける。剣士は困惑していた。剣士は自分は神鳴流の中でも上位に位置する剣士であると自負している。対する青年は、言い方は悪いが、下の下。斬り合えば一瞬で片が付く、はずの二人。だが。
「はぁ!!」
「ぐっ……」
剣士は押されていた。青年の技量がとてつもなく上がっている。このままではまずいと判断した剣士だが、突破口が見つからず剣を受け続けることしかできない。すると。
「まさかお前とはな」
幼さの中に一種の厳かさを含んだ声が二人の耳に入った。
そして。剣士の影から金髪の少女が急に現れ、青年を蹴り飛ばした。
「下がって治療しろ」
「……若は、どうしたのでしょうか?」
「知らん」
剣士はきっぱりとそう言い放った少女にそれ以上声を掛けるのを止め、撤退した。
「エヴァンジェリン様」
いつもなら起き上がることの出来ない少女の攻撃。しかし。今日に限っては青年は立ち上がった。
「お前……何かに憑かれたか?」
「どうなのでしょうか?自分ではよくわかりません」
「チッ。やっかいだ…な……その刀は―」
「はい。アイリス様にいただきました」
「何?まさか……いや、確かに使えなかったはずだ」
「何の話です?ああ、いえ。何でも構いません。あなたを斬れば俺はもっと強くなる」
それだけです。そう言って青年は少女に斬りかかった。
甲高い金属音が鳴り響く。少女の小太刀と青年の刀がそれを奏でる。
「―――岩斬剣!!」
「ふん」
青年の一撃を少女は涼しい顔で受け止める。
「くそっ!!」
そう吐き捨てながらも青年は目の前の少女を斬らんと剣を振るう。
「甘い」
青年の隙を突き、少女の蹴りが再び青年の腹に突き刺さった。
「がっ!!」
小柄な少女の攻撃を受けたとは思えない速度で後方へ吹っ飛ぶ青年。
「多少強くはなっているが、その程度だ。神鳴流をかなり殺ったようだが、そんなもので私を斬るだとかほざきよって」
端正な顔を歪めて、言う少女。
「な、何故……斬れない?」
―斬れる。斬れるさ。お前なら。自身を持て。斬れ―
心が揺らいだ青年の頭に声が響きわたる。それをきっかけとして青年はまた動き出した。
「はぁーーーー!!」
「相変わらず懲りない奴だ……とっととその刀を渡せ」
「断る!!」
「チッ!なら力ずくで奪うまでだ!!」
「ケケケ。オレモマゼロヨゴシュジン」
両者が再び激突しようとした時。人の声ではない声が聞こえた。
「チャチャゼロ、お前護衛はどうした?それに―」
「アリス様……」
キリングドールのチャチャゼロ。そして少女たちの妹分アリス。
「ケケケ。ジジイガコロシテコイダトヨ」
「ふん。どいつもこいつも考えることは一緒か。……アリスのところもか?」
主従が会話している間。青年と青い目の少女は黙って見つめ合っていた。主従はそれを見て、念話で作戦を組み立てる。アリスが裏切った時の為に。
アリスが青年を可愛がっていたことは京の皆が知っていること。100年を超える付き合いのエヴァンジェリンにもこの状況でアリスがどう動くか。全く分からなかった。
「アリス様」
青い目の少女は何も答えず、青年を見つめる。
「アリス」
赤い目の少女が呼びかけても反応がない。
「わたしがやる」
しばらくして青い目の少女から出た言葉はそれだった。
そう言った後も少女は突っ立たまま。動かない。それを見た青年は笑って刀を構え、少女に向かって 走り出す。
「ふっ!!」
青年が振り下ろした剣は少女に、また届かなかった。
「はは……また私の負けですね」
衣服を所々焦がし、傷だらけの体を地面に置いた青年が言う。
「ですが、今日はあなたを動かしました」
笑って言う。
「……すみません」
少女は答えず、青年の顔を見下ろしていた。
「殺してください」
笑顔のまま青年は少女に懇願した。
「私は死ぬべきです。死で償うしかない。あの刀は使用者の欲望や願望を肥大化させる人格を作るようです……私のそれはひどく醜かった」
「……それを持った初日はそいつがお前の寝ている間に精神を覗いて、人格を形成したんだろう」
「……そして父を殺したのですね」
「そうだな。お前が殺した」
「……今日のことは覚えてますが、その時のことは全く覚えていません。ほんとにダメですね、私は」
「何だ?今気づいたのか?」
「いえ。知っていましたよ。十数年も前から」
「……アリスに持たせたときは何も反応がなかった。だから私たちは理論上完成していたそれを不良品だと判断し、倉庫にしまったんだが……」
「止めて下さい。あなたが気に病む必要などありません。これは私の弱さが招いたこと。私の罪です」
「……そうか」
そう言って、赤い目の少女は青い目の少女を一瞥し、従者を連れてその場を離れた。
「アリス様。殺してください。私はあなたに殺してほしい」
「……わかった」
少女は青年に近づき、手を振り上げる。
「ああ。最期に二つだけ。あなたの白い羽が大好きでした」
「そう」
「あと、願いは抱きましたか?」
「うん。けどもう叶わない」
「それは、うれしいです」
その後。刀は意思を奪われ、再び封印された。
刀の銘は―ひな―と名付けられた。
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