好奇心は猫をも殺す。退屈と無関心は人を殺す。しかし、どうやら最近は別のものだって人を殺すらしいです。

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エイプリルフール

 始業式の朝。

 そのクラスには異様な空気が漂っていた。

「ねーね、みんな一週間くらい前からラインとかツイッターで何も反応してくれなくなったんだけど、どうして?」

「…………」

 少女、上里亜花梨の声に、クラスメイトは誰も答えない。

 誰しもが少女ではない誰かとの会話を一度止めて、少女の声を聞いてから再び会話を始める。分かりやすいくらいの無視だった。

「あれ……? なんで、無視するの?」

「…………」

「私、何か、悪いことした? ねぇ、答えてよっ!」

「…………」

 誰かに、語りかけるだけならば無理だと思った亜花梨は唯一無二の親友である少女、鴻上那奈に語りかける。

「ねぇ、何か言ってよ! 謝るからさ、お願い、何か言ってよ!」

「…………」

 亜花梨の必死の声を那奈は平然と無視して、友達との会話を続ける。何もかもが少女を無視して始まっていた。

 無視できないくらいに亜花梨は那奈の肩を揺らすが、それでも那奈は無視をし続ける。それでも無視をし続けると、亜花梨は那奈から他のクラスメイトに対象を移し、肩を揺らす。仲の良い友達のほとんどの肩を揺らしたが、誰も反応を見せなかった。

「……もういい。――もういいっ!」

 亜花梨は叫んで教室から飛び出す。遠ざかり、階段を駆け上る音がして、扉を開く音がして。

 ――グシャッ。

 という、何かが潰れる音がした。

 朝の、式が始まる前の数十分の事件だった。

 

 少女、上里亜花梨の自殺。

 それはクラスメイトにしか分からない理由によって自殺した。

 そしてクラスメイトは誰も口に出そうとしない。証拠も一人を除いて全て消し去り、それで終わりだった。

「――とは、まぁ、行かないんだけどねぇ」

 と、亜花梨の隣のクラスに振り分けられた少年が口を出す。

 亜花梨のいたクラスの教卓の上に、どうどうと片膝を立ててあぐらを欠いた横柄な態度で。

「……誰かな、君は」

「別に、名前なんて気にすることじゃない。僕はそうだねぇ、『同級生』ってくらいかな。どんな物語にだって現れる『同級生』。まぁ、単純にキャラとして配役し易いから、その配役に甘んじるだけの、ただの少年だよ」

「何の話を、しているの?」

「さぁね? 僕も君も、それに死んだ亜花梨も、一体どんな話のための配役なのかな。さしずめ、今回は投稿日に関係のあるものなのかな。まぁ、タイトルを見れば一目瞭然なんだけど」

 ぺらぺらとのべつ幕なしに、少年は話し続ける。脱線しているようで、ちゃんと話をしている。話の話をしている。あまりにも曖昧で、あまりにも無茶苦茶で、しかし、それが正しいように思わせてしまう。

「だからっ!」

「投降しろ、って言ってるんだよ。いや、自主かな。んー、でも、もう事件は起こってるから、出頭なのかな。まぁ、ともかく、君の頭がとてつもなくいいことを僕は知っている。そしてだからこそ、こんな事件を起こせたことも知っている」

「何のことかしら。亜花梨の自殺は、私達が一番悲しんでいるに決まっているじゃない。特に私は最も仲のよかった、大親友なのよ?」

 表向きは、そうなっている。突如自殺した少女。何故死んだのか分からず、クラスメイト達特に鴻上那奈は悲しんでいる。

「別に僕は上里亜花梨の自殺の件だとは言ってないけどな。だけど、うん、そうだね、君達は――いや、君以外のクラスメイトにとってはとっても悲しい事件だよね。まさか、こんなことになるなんて思っていなかった。だけど誰かが言ってしまえば誰しもが悪となる。だから何も言わない、何も言えない。だってみんなが、この事件の共犯者なんだから」

「知ったかぶりもいい加減にしてくれないかな? 私がどんなつもりで、今もこうして亜花梨の名前を口に出しているのか分かるのかな?」

「さぁ、愉悦かなぁ。思い通りに死んでくれた、感受性の強い、そして思い込みの強い、大馬鹿者。くくっ、――本当に、そうだね。亜花梨は馬鹿だ。もう少し、考えたらよかったんだ。君の本性を」

「チッ、うるさいなッ!! アンタは一体何を知っているって言うの!?」

「そうだね、那奈がラインで亜花梨以外のクラスメイトに『今日から亜花梨のこと無視ね』って言ったことくらいかな」

 その言葉で、那奈の表情は怒りから焦りに変わる。

「……ッ。どうして、それを」

「あれ? 今の冗談だったんだけど、当たったのかな? へぇ、そうなんだ。だから、みんなが反応しなかったんだ。まぁ、そうだよね。亜花梨と那奈は、確かにこのクラスではかなり上位グループの、リーダーだった。だから那奈がそう言えば、誰も破る訳ないか。何せこの猿山のボス猿だもんねぇ」

「――あはは、あーあ。バレたか。まぁ、だけどさ、私は悪くない。こんな馬鹿げたことを信じたみんなが悪いんだ」

「責任転嫁かい? 最低だね」

「責任転嫁じゃないわよ。だって私は、嘘を吐けっていう空気に流されただけ。クラスにっていうか、クラスグループに流れていたそういう『空気』をね。そして、私の吐いた嘘を信じこんだ、このクラスの馬鹿達の『空気』に、もう一度私は流されただけ。誰かが反応してあげていたら、私だってこうなる前に無視なんてこと止めてたわよ。貴方が言ったんでしょ、このクラスは全員が共犯者だって」

「……まぁね。じゃあ、そうだね、なら、一つだけ聞いておこうか。どうして、そんな『空気』が流れていたの? 誰かに嘘を吐けなんて、そんなくだらない『空気』が」

「日が変わってから私がみんなに、亜花梨を抜きにしてメッセージを送るまで、みんながみんんが嘘を吐かないで、嘘を吐かせる『空気』を作っていた。だから私が乗ってあげた。普通なら信じないだろう、馬鹿げた嘘を吐いてあげたのに、まんまと引っ掛かってさ」

「……じゃあ、どうして、日が変わってから君が送るまで、そんな空気が流れたのかな?」

 そんなの、決まっているじゃない、と那奈は笑う。

 

「――だって、この日は、エイプリルフールだもの」




嘘は人を殺します。自殺なり、他殺なり。嘘は人を傷付けます。

まぁ、僕は嘘なんて吐いたことはありませんけどね。

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