悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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序章
試練


 

嵐吹きすさぶ草原に2人の男が対峙している。

 

 

一人は20歳くらいだろうか、年若い青年である。顔にはまだ幼さが残っているがその精悍な顔つきはおおいに将来の可能性を感じさせる。

 

もう一人はかなりの高齢のようだ。顔は皺だらけで頬はこけ、髪も豊かではあるが総白髪。身長こそ高いもののかなりの痩せ身と、その体からは生気がまるで感じられない。だがその落ち窪んだ眼窩の奥に光る目の輝きだけは、彼が歴戦の戦士であることを雄弁に物語っていた。

 

 

今時B級映画ですらそうそうお目にかかれないベタなシチュエーションである。

 

 

これでお互いが銃でも持っていればまさに「決闘」だったのだろうが、一つだけ決定的に違う点があった。それはこの2人の持つ武器が銃や剣ではなく、鎖状の「ムチ」だったということである。

 

 

 

―――しばしの沈黙の後、老人が口を開く。

 

 

「今から最後の試練を始める……いいな?」

 

青年が答える

「はい」

 

「このムチが生み出す幻影に見事打ち勝ってみせよ、さすればムチの所有者として認められる」

 

青年が答える

「はい」

 

会話はそれだけだった、余計な言葉は必要ない、もうすでに覚悟は決まっている、そういった雰囲気だ。

 

 

 

―――遠くでは稲光も鳴っている、しばらくすれば雨も降り出すだろう。

 

 

 

 

やにわに老人が鞭を掲げ静かに呪文のような言葉をつぶやき始める。途端青白い光が老人とムチをつつみこみ、その姿は騎士の姿をした長髪の男性に変化した。

 

刹那男性がムチをふりかざし青年に襲い掛かる!だが青年は少しの動揺も見せず、手にしたムチを横薙ぎに振り払い、一撃で騎士の幻影を打ち払った。

 

胸を引き裂かれた騎士の幻影は一瞬で霞のように霧散する……が、青白い霧はまたすぐに集まると別の男性に姿を変えた。

 

 

今度は筋骨隆々、見るからに偉丈夫といった風体の大男だ。その大柄な図体にもかかわらず動きは素早く、男は先手の一撃を青年に叩き込む! ……しかし青年は既にそこにいなかった。一撃をみまったと思ったのは青年の残像で、男性がムチを振り下ろした時にはすでに青年はその背後に回りこんでおり、逆に必殺の一撃を男性に叩き込んでいた。

 

 

――大男の次は暗器使い、その次は剣を振るう者、その次は術使いといった具合に倒す度に幻影は姿を変え青年に襲い掛かってきた。中には女性もいた気がする。しかし青年はその全てをほぼ一撃で屠っていった。

 

 

 

……一体何人倒したのか?10人か?20人か?多種多様な幻影が現れたがどれも青年の敵ではなかった、しかしここで始めて青年の表情が曇る。

 

最後に現れた幻影は明らかに今までの敵と異質だった。体躯こそそれほどでもないが髪を振り乱したその形相はさながら悪鬼のようにも見える。

 

 何より違っていたのは幻影から発せられるオーラのようなものだった。かすかにではあるが邪悪な意思を感じるのだ、これまでの相手が皆一様に聖なる波動に満ち溢れていたのに対し、この幻影からは闘争心というか……人間の持つある種醜い「生」の感情がひしひしと伝わってくる。

 

 

「コイツはやばい……ッ!!」

 

 

青年のカンがそう告げていた。その幻影が現れた時お互いの距離は4~5メートルは離れていたが、この戦いで初めて青年は自ら距離をとった。が、それよりも速く幻影が距離を詰める!!

 

 ”ヂィッ!!”

 

直撃こそ避けたものの、幻影の放った飛び膝蹴りが青年の鼻っ柱をかすめた!しかも上体のみでかわしたので大きく仰け反ってしまっている、丁度幻影に覆いかぶさられている状態だ。この体制では残像でよけることもできない。

 

幻影がこの機を逃すはずがなく、瞬時に身をひるがえし、強烈な回し蹴りを放ってきた!!

 

「ごほッ!!」

 

この試練で初めてまともな攻撃をくらい、青年は横薙ぎに吹っ飛ばされた!苦痛で思わず顔が歪む。しかも幻影は尚も追い討ちをかけようと瞬時に体制を立て直し、青年に向かって突進してきた!

 

だが、その闘争心あふれる戦い方が逆に仇となった。青年は吹っ飛ばされながらも懐から数個のガラス瓶を取り出し、地面にばら撒く! するとどうだろう……瓶が割れた場所からたちまち青白い火柱が巻き起こり…… ――まるで篝火に吸い寄せられる蛾のように―― 幻影は自分から火柱に突っ込む形になってしまった。

 

「小細工をッ!!」

 

そう言ったかは解らないが怒りに燃える幻影は渾身の力を込めムチを振るい、炎をかき消す!

……だがこれは短慮だった。自身のムチで炎を振り払った次の瞬間、開けた視界に飛び込んできたのはムチを振りかぶりながら突っ込んでくる青年の姿だった!

 

幻影もすかさずムチをふりおろす!! ……が、時既に遅く、青年のふるった渾身の一撃が幻影の体を引き裂き、勝負は決した。

 

……最後の瞬間……この戦いに満足したのか……幻影は微笑みながら静かに消え…… 

やがて現れたのは青年の攻撃をその身に受け続け、ボロ布のように成り果てた師の姿であった。

 

 

 

 

 

 

戦いが始まる前はポツポツとしか降っていなかった雨は、いつのまにか大降りになっていた。

 

 

冷たい雨が打ちつける中、青年はボロキレのようになった師を抱き抱えた、その体は驚くほど軽い。こんな体であれだけの戦いを繰り広げたのだ。言葉では言い表せない感情が青年の心を駆け巡る。

 

「見事だ……リウ……スよ……」

 

消え入りそうな声で師が話し始める。

一撃だけでも致命傷になりかねない青年の攻撃を何十回と喰らったのだ、もう師を助ける術は無い。

 

「まったく……私の時は……随分苦労したというのに……あっさり乗り越えおって……」

 

「先生のおかげです」

青年はそう言いたかったが、体が震えて言葉が出てこない。

できるのは今まさに命を終えようとしている師の瞳を見つめ続ける事だけだ。

 

「だが…何とか……間に…合った……」

 

「これで…この鞭の正式な所有者は……お前となる……」

 

「……頼んだ…ぞ、千年前から続く因縁……を……終わらせて…くれ………」

 

 

そこまで言うと突然師の息づかいが荒くなった。最後の時が近いのだ。抱える青年の手に思わず力が入る。

 

「はあ……はあ……」

 

師の両眼はもう青年を見ていない。青年の顔には打ち付ける雨がとめどなくつたい……流れ落ちていた。

 

「……と…う……さん……お……れ……うまく……やれた……かな……」

 

「……………………………」

 

「……ハハ、………シャ…ロ…しんぱ……い…ら……な……」

 

「………………………」

 

「…………………」

 

「ユ…リ…・…ウ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・」

 

「・」

 

 

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 

 

 

……枯れ枝のようだった師の体が……  ……また少し……軽くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――10年前に青年がその師、ジョナサン・モリスと出会った時、すでに師の生命の炎は

燃え尽きかけていた。それを青年を一人前のヴァンパイアハンターにするため、無理矢理に気力で繋ぎ止めていたのだ。

 

本来なら立つのもやっと、腕一本動かしただけで激痛が走る、だが決して表には出さず、師は青年を鍛え続けた。

 

 

厳しい修行だった……笑顔など一度も見たことはない、しかし青年はその奥底にある師本来の優しさを不思議と感じ取っていた。

 

 

”この人は自分を強くするため心を殺し、鬼を演じているのだ”と……

 

 

 

 

 

林檎の木の木陰に作られた、小さな二つの墓の前に青年は一人佇んでいた。

 

「自分に何かあったら父の墓の隣に埋葬して欲しい。」

 

それが生前に師が残した遺言だった。

 

 

人は死ぬ間際、今までの思い出を振り返り、子供の頃に戻るという……

最後の瞬間、師の顔も母に抱かれる子供のそれに戻っていた。

今際の際に師が見せた安らかな笑顔、きっとあれが師、本来の姿だったのだろう……

 

 師は……最後の瞬間、満ち足りていたのだろうか?簡素な師の墓の前で青年は思う。

代々受け継いだこの”ムチ”を守り、それを自分に託し、その教え子にによって命を断たれた師の事を……

 

 

いくら考えても答えは出なかった。悲しいのか、悔しいのか、怒りたいのか、泣きたいのか……あらゆる感情がまぜこぜになって齢20にもならない若い身空にはこの気持ちを表現する術がない。

 

ただ一つ言えることは師は自分に全てを賭けた、自らの命を燃やし尽くしたのだ。涙を流している暇はない、うつむいている暇があったら一歩でも前に進まなければならない。踵をかえすと青年はもう振り返らなかった。

 

不思議ともう悲しくはない、青年の顔からはいつのまにか幼さが消え、変わりに師と同じ闘志がその眼に宿っていた。

 

次ここに来るときは自らの宿命に決着を着けた時…! 師匠の……そして一族の……!!

 

 

「――目指すは魔窟!悪魔城!!」

 

 

 

 

 

……季節はずれの桔梗の花が一輪……風に揺られながら誇らしげに咲いていた。

 

 

 

 

 

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