悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

10 / 108
レライエの魔弾

 

「きゃんッ!」

 

子猫のような甲高い悲鳴を上げ、ハルカの体が宙を舞った。一体何が起きたのか、本人はもちろんユリウスやラングにもすぐには理解できなかった。

 

……止まった時間、……舞い踊る肢体、……何かの跳ね返る音、……綿毛の様にふわりと浮いたその幼い体は、やがて重力とともに……堅い大理石の床に力無く落ちた……

 

 

 

 

陸軍及びトランツ将軍との望まぬ交流を終えた後、ユリウス達は再び鏡を設置するポイントを探すべく歩き始めた。

 

一口に”礼拝堂”と言っても中は存外に広い。出掛けにジョーンズに貰った地図にはおおまかな間取りと方向しか描いておらず、途中からはほぼ手探りで進まなければならなかった。どうやら単純に礼拝堂ならどこでもいいという訳ではなく、もっと奥にその場所はあるようだ。

 

「近くまで行けば鏡が教えてくれる」との事ではあったが……悩んでいても仕方が無いので少しでも近づくのを優先する。

 

 

それともう一つ、予定外の仕事が増えた。陸軍の去り際、兵士の一人がユリウスの強さを見込んだのか「置いてきた仲間を助けて欲しい」と懇願してきたのだ。

本当なら自分達が助けに行きたかったが、将軍が二次被害を憂慮し泣く泣く見捨ててきたのだと言う。

 

「姿の見えない敵だった、何が起きたのか解らなかった」 

 

不安を煽る言葉だけを残し、兵士は将軍の後を追って行ってしまった……。

 

 

 

……ユリウスの心に、なんとも煮え切らない”しこり”のような物が残る。基本組織と言うものに属した事がないユリウスには、部下を見捨てる将軍の非情な決断も、それに逆らおうともせず唯々諾々と従う兵士達の考えもほとんど理解できなかった。

 

 

確かに登山家など、仲間がはぐれたり、力尽きて動けなくなった時、その仲間を助ける事で自分の身にも危険が及ぶようならば、あえて何もせず見捨てるケースもあるという。過酷な山における非情の掟。暗黙の了解だ。

 

確かに彼ら軍にとってこの状況は非常事態だし、この悪魔城はエベレストよりも高い難攻不落の頂だろう。だとしても……やはり仲間や弱者を放って置く事など自分には出来ないとユリウスは思った。

 

これだけを聞けば人生経験の少ない青年の綺麗ごとのようである……とはいえユリウスも頭ではそれらの決断を理解できていた、ただ本能が納得できないのである。

 

例え自らが傷つこうとも困っている人がいたら考えるより先に先に体が動いてしまう……ユリウス自身も何故そうしてしまうのか解らなかった……しかしそれこそが代々受け継がれてきたベルモンドの血の証明にほかならない。

 

彼の中に流れる”ベルモンドの血”……それ自体が根っからの”善”なのである。だからこそ彼らベルモンドの一族は、千年の永きにわたり、破壊と混沌を司るドラキュラとの戦いの、人類の切り札として存在してきたのだ。

 

 

……だが現代社会……ましてその負の部分を凝縮したかのようなこの悪魔城において、それは茨の道を行くのと同義であった……やがてユリウスもそれを否応無く理解していく事になるのだが……

 

 

 

 

 

 

陸軍の兵とのやりとりを二人に説明すると、ハルカはもちろんラングも快く同意してくれた。自分の部隊があんな事になった分、例え別の軍とはいえ一人でも助けたいのかもしれない。

 

こうして結界ポイントの探索と兵士の捜索、その両方を平行して行う事になった。幸い小部屋や迷うような小道も少なく、目的地へはほぼ一本道のようなので進行中に見つけられるだろうとタカをくくっていた。

 

……だがここは礼拝堂と銘打っていても事実上城の砦。比較的弱いといっても中枢に行くに従い瘴気は濃く、必然敵も強くなる。今にして思えば、何故自分がハルカの変わりに先頭を行かなかったのか……と、ユリウスは今になって後悔していた。

 

 

 

 

 

 

兵士が見つかったのは三階層が吹き抜けになっている長方形のロビーのような場所だった。

その中央、幾何学模様の描かれた床に、大きな血だまりを作って兵がうつ伏せに倒れている。

 

念のため周囲を警戒する。魔物の気配や殺気は感じられない。

ハルカもそう感じたのか兵を見つけるなり小走りで駆け寄った。

……しかし!

 

「やめろ!行くな!!」

 

”何か”に気付いたラングが止める間もなく、ハルカは見えない何者かの攻撃によって吹っ飛ばされていた。

 

すぐに救出に向かうため部屋に駆け込む!が、ラングにのし掛かられて止められる。

 

「何しやがる!」とラングを睨んだが「行くな!スナイパーだ!!」と逆に鬼のような形相で言い返された。

 

「戦場……特に市街戦でよく使われる手だ……敵をあえて殺さず、半生に留めておいて、そいつを助けようとノコノコやってきた者を撃つ。そいつを撃ったら次にきた奴も撃つ、後はその繰り返し…………人の情を利用した汚い手さ」ラングが自嘲気味に語る。

 

 

「じゃあハルカは無事か!?」

 

「……生きてはいるだろうな、だが急がないと……」

 

 

「ハルカ―――ッ!!」思い切り叫んだが反応は無い。気絶しているだけなら良いのだが……

 

ラングはロビー入り口の壁に寄り添いながら周囲を見回す。しかしどこにもスナイパーらしき人影は見当たらない。逃げたのか?とも考えたがどうにも嫌な視線は拭えない……ここに来てからずっと何者かによって”見られて”いる気がする。

 

 

と、ここでユリウスは思い出した!かつて師がここ悪魔城で闘ったという魔族の狙撃手の事を……!

 

 

「レライエだ!!」そうユリウスはラングに語った。

 

 

「レライエ」―――魔銃を駆る悪魔城随一のスナイパーである。その銃の腕もさる事ながら、この魔物が恐ろしいのは跳弾(壁などに当たって跳ね返った弾)を自由自在に操る所だ。

 

実在の銃でも堅い金属などを撃って反射させる事は可能である。しかしそれを意図的に行い相手に命中させるなど現実には不可能、それをこの魔族のスナイパーは自由自在に行い、S字型に入り組んだ通路や、遠く離れた上の階などからターゲットに狙い当ててくるのだ。当然ターゲットからはレライエの姿は見えないし、反撃の仕様が無い。

 

 

「ハルカはほぼ真下から攻撃をくらったように見えた。最初は透明な魔物かと思ったが、レライエの跳弾なら納得いく……!」

 

敵の正体は掴めたが……依然最悪の状況という事は変わらない。三階層の吹き抜けになっているこの部屋は、一階につき二つの出入り口がある。今自分達がいる場所は除くとして、残り五つの入り口の奥、その何処かにレライエは居るのだろうが……と、ここでラングが何か閃いたように話しかけてきた。

 

「さっきの紙が舞う本はどうだ!?視界が遮られている内に助けに行けば……!」

ラングが希望の眼差しでこっちを見る、しかし……

 

「聖書はあれ一つだけだ……もう無い」

即座に落胆の色に変わる。

 

……こんな事ならあそこで聖書を使わず何か別の方法を取るべきだった。しかしいくら悔やんでも後の祭りだ。第一仮に聖書の紙吹雪でハルカを助け出せたとしても、レライエを倒した事にはならない。そう思案する間にも時間は刻一刻と過ぎていく……

 

「くそ!これじゃあのムカつく将軍が正しいみたいじゃないか!!」

 

ユリウスは怒りと焦燥に悶え、頭を掻き毟った…!

何とかしてあの跳弾を潜り抜けられないか………………跳弾………跳ねる………反、射?

 

――そうだ”アレ”があった!ここでユリウスは自分が持っている”ある”退魔武器の事を思い出す!これならいけるかもしれない!………だがその作戦は傍らにいるラングに文字通りの出血を強いるものだった。

 

この作戦をラングに言うべきかどうか、ユリウスが迷っていると何かを察したラングが

 

「何か策があるなら言ってくれ」とこちらを見た。

 

ユリウスは無言で腰のサイドバッグから淡い翡翠色をした大粒の石を取り出す。

 

「跳鉱石と言うものだ、奴の弾丸と同じで、壁や床を反射する」

 

「レライエの弾丸は壁、床、天井、それらへの反射を繰り返してここまできている。逆を言えば来た弾道と全く同じ角度でコイツを投げれば奴の弾丸の軌道を逆にたどってレライエに命中する………はずだ」

 

ラングが”おおっ!”と小さい歓声をあげた。

 

「……だが……さっきは離れていたから俺の位置から弾道がよく見えなかった……こいつを命中させるにはもう一度奴に銃を撃たせないといけない」

 

 

……そこまで言うとラングは全てを察したように立ち上がった。

 

「……まかせろ、要はあそこまで走ればいいんだな?」

ラングが部屋の中央を見据えながら言う。

 

「ただ頼みがある。さっき俺に飲ませてくれた不思議な薬はまだあるか?」

ラングがユリウスに問いかけた。

 

「ポーションか?あと二瓶あるが……」

ユリウスが胸元から青い液体の入ったガラス瓶を二つ取り出す。

 

 

「俺に預けてくれないか?せめてあの二人は助けたい」

 

お前はどうする気だ、とユリウスは言った。

 

「何、見ての通りガタイの良さだけが取り得さ、鉛玉の一つや二つ喰らったって死にはしないよ……それに……」

「それにここに来てからお前達にフォローされてばかりだからな……少しはオッサンにもかっこつけさせろ」

 

ラングがおどけたようなジェスチャーをする。………こいつ思ってたより肝が据わってるな、とユリウスは正直ラングの事を見直していた。

 

「わかった……必ず当てる」

 

目と目で合図する……言葉はもういらない。

 

 

 

ユリウスはバッグからもう二つ程石を取り出すと、気取られないように少しだけ部屋の入り口から下がった。

 

ラングはさらに下がった所から少しでも早く走るため、クラウチングスタートの体勢でタイミングを計っている。視線の先にはピクリとも動かないハルカと兵士の姿……

 

 

「うおおおおおおおおおおッ!!!」

 

次の瞬間ラングが遠く離れたレライエに届くほどの大声をあげ、部屋の中央へ向かって吶喊する!

この世の者とは思えぬその凄まじい形相に、魔族のスナイパーは一瞬たじろいだが、このデカい的に対し冷静に引き金を引いた!

 

通路の壁、吹き抜けの天井、二階の壁、床、そしてまた壁と、弾丸は乱反射を繰り返し、今度はほぼ真横からラングの体に命中した!100キロ以上あるラングの巨体が軽々と吹っ飛ばされる!

 

「見えたッ!!」

 

ラングが吹っ飛ばされた直後、出口付近に控えていたユリウスが一気に飛び出す!!宙に浮いたラングが地に落ちるより素早く中央まで飛び込むと、ラングを弾き飛ばした軌道に向かって寸分違わぬ角度で跳鉱石を投げ込んだ!!

ユリウスの手から放たれた数個の石は光の尾を引きながら、たった今弾丸が通った道を逆に辿りレライエのもとへ突き進む!!

 

 

予想外の事態にレライエはすぐ次弾を撃とうとした……だが魔力の補充が間に合わない!やむなくここから離れようと、慌てて体を起こす!

 

………もしそのまま身を屈めていればこの魔物の命は助かったかもしれない…………だがこの判断がレライエの命運を分けた!体を起こすというこの行為は、レライエを目指し向かってくる石に対して、自分という的の面積を広げる結果にしかならなかったのである……

 

 

 

 

 

 

………数秒後、「ギャッ!」という獣のような断末魔が二階の通路から響き………

 

やがて辺りには元の静けさが戻っていった……

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。