悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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昇る暁月
有角幻也


 

……私が神社の境内を掃除していると、長い石段を登って来る男の人の姿が見えました。

 

 ぞっとするほど美しい顔立ち……

 濡れるような漆黒の髪……

 全身黒尽くめのスーツ……

 

その人は私の姿に気付くと軽く会釈をし、いつも決まってこう言うのです。

 

 

「……忠守はいるか?」

 

 

と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は白馬弥那(みな)、高校生です。私の家は代々続く古い神社で、昔から国事に関する祈祷や祭事を執り行ってきました。

 

 ”あの人”と初めて会ったのがいつだったかはっきりとは憶えていません。ただ物心ついた時には既に神社に来ていた様な気がします。一度気になって父にいつ頃からあの人が家に出入りするようになったのか聞いた事があります。父の話では父が子供の頃にはもう来ていたそうです。

 

 でも……そう考えるとおかしいのです。父の子供時代という事は今から30年以上前、でも”あの人”の外見は多く見積もっても20代後半くらい。私の記憶を辿ってみても十年以上前から見た目が全く変わっていないのです。

 

 確かに今はアンチエイジングとか、整形手術とかで50代でも20代と変わらないくらい若く見える人もいます。でもそういう人はやはり無理があるというか……顔はごまかせても手や爪に皺が出来ていたり、髪の毛に艶が無かったり、注意して見ればすぐに解ります。

 

 でもあの人はそういった所が全く無い。まじまじと観察した訳ではないですが、手も、髪も、まるで女性のように艶やかで、女の私が嫉妬してしまう程です。いや、そもそも顔つきからして日本人離れしています。名前こそ日本名ですが、鼻は高く、顔の彫りも適度に深く、肌の色は陶磁器のように真っ白で、日本人どころか同じ人間とは思えないほど美しいのです。

 

 

 ただ……正直なところ私はあの人が少し苦手でした。常に近寄りがたい雰囲気を放っていて、その端正な顔立ちも、むしろその近寄りづらさに拍車をかけているようでした。

 

 たまに廊下などで擦れ違ってもきさくに話しかけてくれる事などありません。勇気を出してこちらから話しかけても非常に淡白な、事務的な言葉しか返してはくれませんでした。

 

 祖父に対する態度もその1つです。ずっと年上の祖父に対しても、まるで年下の部下に接するような口調で話しかけるのです。それに対して祖父も別段怒りもせず、逆に祖父の方が敬語で話す始末……不思議に思い一度祖父に聞いて見ましたが、

 

「大切な友人だから」

 

 の一言で済まされてしまいました。人の良い祖父の事なので、ひょっとして騙されているのではないかと思ったりもしました。もっとも父やマキおばさん、実の姉のように接してくれるヨーコさんの話しぶりから、誤解はすぐに解けましたが……

 

 

 それでも、あの人に対する苦手意識は完全には無くなりませんでした。

……ただ孤高というか、どこか儚げで寂しそうなあの人を、知らず知らずの内に目で追う事が多くなりました。

 

 

 そして今日も、私は祖父の部屋に入って行くあの人を1人、離れた境内から見つめるのでした……

 

 

 

 

 

 

 若い神官に案内された和室。障子を開けるとその男はいつもと変わらぬ柔和な笑顔で私を出迎えた。

 

「おお、有角殿、度々ご足労いただき申し訳ありません」

 

 布団から身を起こそうとする忠守を制し、自身も傍らに腰をかける。

 

 

「すみません、せっかく有角殿に来ていただいたというのにこのような姿で……」

 

「……気にするな」

 

 

 恐縮する友人に対しいつも通りの言葉をかける。どうにも日本人というのはどうでもいい事でもすぐに謝る。ある意味奥ゆかしいともとれるが。

 

 部屋の中を見回す。派手な装飾も調度品も無いが、実に質素で清潔な部屋だ。住人の誠実な人柄が感じられる。もっとも実際に掃除をしているのは本人では無く、若い部下の神官か、先ほど境内で会った少女だろうが。

 

 

 ……忠守は数年前に体調を崩してから、床に臥せる事がめっきり多くなった。若い頃もどちらかといえば痩せ型ではあったが、ここ最近は目に見えて線が細くなり、肌つやもくすんだように見受けられる。年が年であるから仕方の無い事ではあるが、その容態はあまり芳しくはなかった。

 

 

「で、有角殿……本日お越しになった御用の向きは?」

 

 

 忠守の言葉に我に返る。心の内を気取られたかと少し不安になったが、別段忠守の表情に変化は無い。気を落ち着けて話を切り出す。

 

 

「次の日食が近づいている。今度の場所は……おそらくここ白馬神社」

 

「…………!」

 

 有角の発言にしばしの沈黙が流れる。

 

「そうですか……あれからもうそんなに経ちますか……」

 

「前回のヨーロッパに比べれば規模は小さいし、あくまで主目的は悪魔城が今どうなっているかの調査だ。だがそれでも被害が出ないとも限らない。出来るだけ人払いをしておいて欲しい。詳しい話はそのうちまたヨーコが伝えに来るだろう」

 

 かしこまりました。と忠守が頷く。

 

「この不自由な身が口惜しい……私の体が万全ならば……」

 

 忠守が年甲斐も無く実に悔しそうな声を出す。その目線の先、床の間には一振りの刀……かつて有角から託された妖刀村正が飾られている。

 

 

「無理をするな。今は体を治す事だけ考えろ忠守。こちらは俺たちだけで何とかする」

 

 

 ……そうは言ったものの、正直な所漠然とした不安が重くのしかかっていた。父、ドラキュラの生まれ変わりであるあの少年がもしも覚醒してしまったら自分1人……いやヨーコもいるが、まともに戦えるのがたった二人では正直戦力として心もとない。

 

「麻季がいれば……あの子には悪いことをしてしまった……今更どうにもなりませんが、やはりあの戦いに連れていくべきでは無かった。剣においてはいずれ私を超える逸材であったのに……」

 

「…………」

 

 忠守が姪である少女剣士の名を出した。剣において天分の才を持ち、アルカードに比肩しうる腕を持っていたはずのマキは何十年も前に剣を置き、今は人の妻となり一線を退いている。理由は36年前……悪魔城の戦いが原因だ。

 

 本当にわずかな時間であったが、少女はかけがえのない友人と出会い、共に死線をくぐりぬけた。だがその友人との余りにも唐突、かつあっけない不完全燃焼な別れは、齢15の少女の心を折るには十分だったのだ。

 

「………………」

 

 重苦しい……長い沈黙が部屋の中を支配する。その時アルカードの脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。

 

 

「ユリウス殿は……来られるのでしょうか……」

 

「!」

 

 唐突にその名が出て驚く、やはりこの友人は人の心が見通せるのではないかと勘繰りたくなる。

 

「解らん……、一応それとなく様子は見ているが今も記憶は戻っていないようだ。出来る事ならこのままそっとしておいてやりたいが……」

 

 36年前の闘いで宿命の決着は確かについた。だが再びドラキュラの魂は現世に蘇った。善も悪も無い一人の人間として。

 

 だがもし、再び悪の芽が伸びるようならばユリウスは必ずここへ来る。いや、導かれるだろう。奴自身が言っていた。業という物からは逃がれる事はできない。ドラキュラも、ベルモンドも、そしてかくいう俺自身も……

 

 

”ボーン” ”ボーン”

 

 

 突如壁にかけられた時計が大きな音を鳴らす。それほど長居したつもりもなかったが、いつの間にかかなり時間が経っていたらしい。

 

「長居をしてしまったな……今日はもう帰る」

「何のおかまいもできませんで……」

 

 寝たままの状態から立ちあがろうとする忠守を再び制し、申し訳なさそうにこちらを見上げる友人に静かに笑みを返す。

 

 部屋から出ようと障子に手をかけた時、不意にあの少女の事が気になった。

 

 

「お前の孫娘……名はなんといったか」

 

「弥那(みな)の事ですか?何か粗相を?」

 

「いや、そうではない。ただ例の少年と幼馴染だそうだな」

 

「はい、蒼真君ですな。あなたから彼が ”×××××” の生まれ変わりと聞いた時は信じられませんでした」

 

「城を日食に封印し、魔王の魂を呪縛から解き放った者の孫と、魔王の生まれ変わりである彼が親しい間柄となるとは何の因果か…………これも運命なのでしょうか」

 

 忠守の思い詰めたような言葉に、有角は何も答える事が出来ない。

 

「…………また来る」

 

 ただ一言そう告げると、有角は友人の部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 境内に出た所で、神社を振り返る。日は落ちかけ、夕日が社を朱に染めていた。

 

 

 忠守にはああ言ったが今回の日食……正直嫌な予感がする。おそらく調査だけで事はすむまい。間違いなく何かしら戦いは起きる。だが人間として晩秋を過ぎつつある友人に無理を強いる事など出来ない。不死のこの身からすれば人間の命は酷く儚い物に思えた。

 

 

……果たしてあの友人と後何度会えるのだろうか?後どれだけ話せるだろうか?

 

 この世に生を受け幾百年……数え切れない程の人の死をこの目で見てきた。それを持ってしてもやはり親しい者の死は堪える。だからこそなるべく人と関らないように生きてきた……が、それでもいつの間にか知らず知らずに人との触れ合いを求めてしまう。

……人の性……これも業の内なのかと1人思う。

 

 

父も……父の魂も同じなのだろうか……

 

 

 

 

 

「あ……お帰りですか」

 

 

 声のした方向を振り返ると、巫女装束に身を包んだ少女の姿があった。忠守の孫娘にあたる弥那という名の少女だ。

 

 

 今まであまり意識して顔を見た事は無かったが、改めて見ると顔かたちから肌の色まで、母と似ている所などほとんど無い。だがただ一つ、その周囲を優しく包み込む暖かな雰囲気だけは、少しだけ母と似ている気がした。

 

 

「……あの、私の顔に何か……?」

 

 

 少女は少し不安気な顔で覗き込む様にこちらを見ている。我ながら何をしているのかと自嘲する。

 

 

「いや……何でもない、蒼真君と仲良くな」

 

 そう言い残し、石段を降り、帰途へとつく。

 

 

 

 霧の様にその場から立ち去るアルカード。普段あまり会話もしない男の口から不意に出た幼馴染の名前に、弥那はただ首をかしげるばかりだった………

 

 

 

 

 





ご無沙汰してます作者です。

以前予告していた短編の方がある程度かたちになったので、またぼちぼち投稿していきたいと思います。内容は1999年の闘いと原作「暁月の円舞曲」の隙間を埋めるプロローグ的な話なのでそれほど長くはならないと思います。

それでは2025年も本小説を何卒よろしくお願いします。

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