悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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ヨーコ・ヴェルナンデス

 

 

――1999年、ロンドン正教会系列病院――

 

 

教会の人に連れてこられた外国の病院、そこで僕はその少女と出会った。

 

彼女は人が何人も入れそうな大きな個室に、いつも一人でいた。

 

栗色の長い髪に、吸い込まれそうな程綺麗な翡翠色の瞳をしていた。

 

知り合いが誰もいない外国で、僕はいつの間にかその娘の病室の前を通る事が多くなった。

 

そんな事を何日も続けていたある日の事―――

 

 

 

 

 

 

「ねえ、覗いてないで入ってらっしゃいよ」

 

「!」

 

 栗色の髪の少女に不意に声をかけられ、咄嗟に僕は身を隠した。しばらくは病室の壁に身をかがめていたが、やがて恐る恐る顔を窓にあげる。彼女は真っすぐな眼でこっちを見ていた。

 

「来るの?来ないの?」

 

「…………」

 

 僕は少女の視線に促される様に……いや、どちらかといえば半ば強制される形で、おずおずと病室に入り、少女が座るベッドの横の椅子に乗った。少女は僕が隣に座るなり、真っすぐ僕を見て言った。

 

 

「ずっと私の事見てたでしょ?」

 

「え……!あ……、うん ……ごめんなさい」

 

 

 少女の詰問に 僕は思わず目を背け、謝った。でも少女からの返答は意外な物だった。

 

 

「別にいいわよ、慣れてるから」

 

「(……慣れてる?)」

 

 

 少女の言っている意味が解らず、僕はおずおずと顔を上げ少女を見た。その顔はまるで高級なフランス人形の様で、僕は危うく見とれそうになった。

 このままじゃ嫌われる。何か話さなくてはいけないと僕は咄嗟に口を開いた。

 

 

「き、きみは何で入院してるの?」

 

「……!」

 

 僕の問いに、彼女は一瞬思いつめた様に俯いた。しまった!勢いに任せて聞いてはいけない事を聞いてしまったと僕は後悔した。

 けど……少女は怒るでも、悲しむでも無く、僕に理由を話してくれた。

 

「五年位前に事故に遭って……そのままずっと眠っていたの。少し前に目が覚めたけど、まだ体が思う様に動かせなくて」

 

 彼女の話を聞いて驚くと共に、僕は少しだけ納得した。その子の肌は何年も陽の光を浴びていないせいか青白く、病院服から覗く腕も枯れ木の様に細かったからだ。

 

「あなたは何で入院しているの?」

 

 今度は少女から同じ質問をされる。僕は一瞬どう話すべきか迷ったが、必死に頭を整理し、ゆっくりと口を開いた。

 

「僕も……事故にあったって、教会の人が言ってた」

 

「……言ってた?」

 

「物凄く大きな爆発があったって、それにぼくの住んでた村が巻き込まれて……ぼくは……よく覚えていないけど……」

 

「お父さんや、お母さんは?」

 

「……解らない。教会の人は……別の病院に入院してるっていってた……けど…………」

 

「……」

 

 僕は俯き、口を噤んだ。

 少女の翡翠色の瞳が一瞬憂いを帯びる。

 

 

 

「私と……同じだね……」

 

「……!」

 

 

「私も……一人ぼっちだから……」

 

「…………」

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

「ねえ……」

 

「?」

 

 

 

「私達……友達にならない?」

 

「え……」

 

 

 

「……いや?」

 

「い、いやじゃないよ!」

 

 

 僕は慌てて否定する。その慌てぶりがおかしかったのか、少女は「ふふっ」と大人びた笑い声をあげる。僕も照れながら「へへっ」と笑った……

 

 

「私はナオミ。あなたは?」

 

「僕は……クリス」

 

 

「そう……いい名前ね。よろしくね、クリス」

 

「うん!こちらこそ、ナオミ!」

 

 

 ナオミが見せた屈託のない笑顔に、僕はこの病院に来て初めて笑っている事に気付いた。殺風景な病室に、僕たちの明るい笑い声がいつまでも木霊していた…………

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「Hello!ミナちゃん!元気してるぅ?」

 

「ヨーコさん!」

 

 流れるような金髪を靡かせながらその女性は颯爽と私の前に現われました。

女性の名は”ヨーコ・ヴェルナンデス”。私はヨーコさんと呼んでいます。一人っ子の私にとって実の姉と言っていいくらい仲の良い大切な人です。

 

「相変わらずCuteね、食べちゃいたい位だわ❤」

 

 ヨーコさんはそう言うといつもと同じ様に力一杯私にハグをしてきました。その途端ふわりと甘い香水の香りが鼻をくすぐります。

 

「もー!からかわないでください。でも今日は急にどうしたんですか?」

 

「アレ?最近有角の奴が来なかった?私が来るって聞いてない?」

 

「いえ何も」そう答えると、ヨーコさんは笑顔のまま片眉を少しだけ上げ、小声で「あんにゃろう……」と呟きました。怒っている時の癖です。

 

 

「……まあいいわ、後できっちり落とし前つけさせるから。あー、それじゃあミナちゃんお父さんかお爺ちゃんいる?伝えなきゃいけない事があるんだけど……」

 

「父は地鎮祭で出払ってますけど、お爺ちゃんなら部屋にいると思います。案内しますね」

 

「あー大丈夫、大丈夫。一人で行けるから。こっちこそ掃除の邪魔しちゃって悪かったわね」

 

「あの……ヨーコさん、今日はゆっくりできるんですか?」

 

「もちろん!話が終わったらミナちゃんの部屋に寄らせてもらうから!嫌って言っても寄ってくからね?」

 

「そんな、嫌じゃないです」と言ったら、「ジョーダンよ?」と転がる様な笑い声を上げ、ヨーコさんは母屋の方へ歩いていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ―――っ、生き返るわぁ……。やっぱり緑茶は軟水に限るわね」

 

「……………ふふっ」

 

「ミナちゃん……今私の事()()()()って思ったでしょ?」

 

「え!?そ、そんな事思ってません!」

 

「いーのよ別に、年の割りに老成してるってよく言われるし、どっちかってーと老け顔だし、もー諦めたわ」

 

 若干やさぐれた調子でヨーコさんが語りだしました。慌てて否定します。

 

「そんな、ヨーコさん若いしとっても綺麗です!」

 

「……華の女子高生のミナちゃんには負けるわよ……」

 

「あうう……」

 

「アハハ!ウソウソ!ごめんごめん!ミナちゃんがあんまりかわいいからまたからかっちゃった!まーこれでも私四分の一は日本人だし?きっと私の中を流れる大和スピリッツがそーさせるのよ。たぶん、きっと、Maybe」(かみなりおこしウメー、ボリボリ……)

 

 

 ヨーコさんは父や祖父との仕事が終わると、いつもこうして部屋に寄ってとりとめもない話に付き合ってくれます。一人っ子の私にとってそれは”兄弟や姉妹ってどんな感じなんだろう……”と想像するしかなかった夢を叶えさせてくれる、とても大切なひと時でした。

 

 

 

「で……ミナちゃん。そーま君との仲はどうなの?キスくらいした?」

 

「ブぼッ!!」

 

「あっつ!熱ッい!顔にお茶が!!」

 

 何の脈絡も無く幼馴染の事を聞かれ、私は口に含んだお茶を盛大に噴き出してしまいました。

 

 

「あー、死ぬかと思ったわ。ひどいわよミナちゃん!何か恨みでもあんの!?」

 

「けほっ、こほっ、じ……自業自得です!ヨーコさんが変な事言うから……」

 

「でもー、別に嫌いって訳じゃないんでしょー?ホントのとこどー思ってんだYOー、正直におねーさんに話してみー?」

 

「そ……それは……蒼真君は大切な友達ですし……でもそういう事はあんまり考えた事無いっていうか……今の関係を壊したくないっていうか……でも、ちょっとくらいならってたまにそれとなくアピール……って何言わせるんですか!!」

 

「フフフ……語るに落ちたわねミナちゃん……で、そのアプローチの効果はどうだったのよ?蒼真くんの様子何か変わった?……()()()とか、()()とか……」

 

「え?うーん……何か変わったとかは……無いと思いますけど……」

 

「………そう、……蒼真君は随分ニブチンさんのよーだねー?そーいう男はこっちから積極的に攻めないと進展しないと思うわよ?ガブっといっちゃえ!こう……首筋にガブっと!」

 

「な……何をさせようとしてるんですか!そ、それを言うならヨーコさんこそどうなんですか!好きな人とかいないんですか!」

 

「え!?アタシ!!?」

 

 逆に話題をふられてヨーコさんに明らかに動揺が見えました。

 

「好きな人……かあ……。正直仕事忙しくて恋人作る暇なんて無いのよねえ……。職場で会うのもほとんど顔見知りの教会関係者だし。それにあいつら半分くらいゲ……」

 

「ゲ……?」

 

「い、いや何でもない。ミナちゃんは知らなくていい事よ。でも恋人かー、欲しくない訳じゃないけど出会いが無くてね……」

 

「でもヨーコさん綺麗だし、その気になればいくらでもお相手が……ほら例えば有角さんとか……」

 

 不意に口から飛び出た名前に、ヨーコさんはこれでもかというくらいのオーバーリアクションで答えました。

 

「はぁ!?有角っ!?冗談はよし子さんよミナちゃん!あいつと恋人?ないない!」

 

「(……よし子って誰だろう?)は、はあそうなんですか……」

 

「確かにアイツ顔はいいかもしれないけど、あの仏頂面よ?あれと丸1日ひとつ屋根の下で暮らすの想像してみ?ミナちゃん耐えられる?」

 

 ちょっと想像して見ました……30分でも無理そうです。

 

「それにあたしはあんな優男じゃなくて、もっと朗らかで頼りがいのある男が好みなの、アタシの全力の一撃を喰らっても平然と笑ってる様な……ミナちゃん知り合いにいない?そんな人」

 

「いません」

 

 ……そんな人がいたらこっちが見てみたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後まで見送るというミナちゃんを玄関でとどめ、私は手を振りながら神社の石段を下りる。止めないと車が置いてある麓の駐車場まで見送りに来るのだ。さすがにそれだけの為だけにあの長い石段を上り下りさせるのは悪い。

 

「対象に変化は見られず……か、」

 

 麓の駐車場から神社を見上げる。有角からそれとなく”対象の少年”の現状を聞き出してほしいと言われ探りを入れてみたが、これといって変化は無い様だ。あの子は嘘をつくような子では無いし、実際変化など無いのだろう。

 有角がわざわざそういった指示を出すという事はあの少年 ”来須蒼真” には何かあるのだろうか?少し引っかかる。

 

「フゥ……」

 

 妹同然に思っている少女を騙す様な真似をして気疲れしたのか、私は車の運転席に納まると同時に深いため息をついた。その時、不意に携帯ツールが大きなアラームを響かせる。……発信者は父だ。

 

「Hi!、もしもし?父さん?どうしたのこんな時間に?そっちはまだ朝でしょ?」

 

「え?いつ帰って来るかって?ごめんなさい、まだ当分帰れそうも無いの……再来月くらいにはまとまった休みが取れると思うから……うん、私も愛してるわ、じゃ、バイバイ」

 

 とりとめのない話でつじつまを合わせ、私はツールの電源を切った。

 

「う―――ん……」

 

 心の中で父に謝る。今回の件、父には話していない。父は退魔の力を持たない一般人だ。だからこそ人一倍私を心配してくれるのだが……できればあまり”こっち側”に巻き込みたくはない。

 

「親孝行しなくちゃなあ……」

 

 ため息交じりに言葉が漏れる。……そうだ。そのためにもくよくよなんかしていられない。次の戦い……なんとしても生き残らなくては。

 

 

”ヴオォォォォン……!!”

 

 

 私は改めて決意を固めると、愛車のスイッチを入れ、いつもより強くアクセルを踏み込むと、夕闇に染まる白馬神社を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”……ファンファンファンファンファン……”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、スピード違反ね。免許証のデータ見せて」

 

「あ、はい……すみません」

 

「お!A級ライセンス!、……おたくイギリスの人?日本語上手だね」

 

「あ、どうもありがとうございます。クウォーターなんです。あ、いえ、すみません」

 

「最近はそのへんうるさくてね~、1kmでもオーバーしたら声かけないといけないんだよね。ついてないねー、おねーさん。な~んでスピード出しちゃったのよ?」

 

「あ……すみません、テンション上がっちゃって……あ、いえ、ほんと……ご迷惑おかけしました…………」

 

 

 

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