悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999 作:41
厳かな木彫の装飾に囲まれた薄暗い部屋……深い皺が刻まれた老人たちが円卓に座り、中央の若者の報告に耳をかたむけている。
「……以上が今回のドラキュラ討伐の詳細です」
若者はまるで狼の群れの中に放り込まれた羊の様に震えながら、上擦った声で説明を終えた。だが老人たちは一言も発せず、場にはただただ重い沈黙が流れる。
「報告御苦労……下がってよい」
若者にとって永遠にも感じられる静寂の中、ようやく円卓の最奥に陣取った老人が退出の許可を告げた。その言葉を受けた若者は、まるで逃げる様にそそくさと部屋から出て行った。
……老人たちだけが残った室内を、再び重い静寂が包む。やがて先の老人とは別の、やや柔和な顔つきをした老人がおもむろに口を開く。
「人類の敵と、教会の不穏分子、その両方を始末出来て、まずは重畳……と言った所かな?」
「まさかここまでうまくいくとはな……」
「そうとも限らんぞ?報告が真実ならば、手柄は日本の神官共に奪われたようなものでは無いか」
「そう気にする事もあるまい。所詮極東の引きこもりだ。”つつましさ”こそ美徳とのたまう輩など、我々の政治力でどうとでもなる」
続けて残りの老人たちも口を開いた。教会の重鎮と見られる5人の老人は、どうやら先の闘いの後処理を話し合っている様だ。
「日本の神社については放っておいて構わん。それよりも
「軍に関しては根回しはすんでいるよ。あちらとしても今回の事はあまり荒立てたくは無いようだ。何しろ数十年に渡って上層部に死神が紛れ込んでいた事に気付きもしなかったのだからな。とても公表などできまい」
「では残る問題は……」
五人の思考が一致する。
『ジョージ・ジョーンズの処遇か』
「……奴の研究を黙認していた事が表沙汰になれば我々の地位も危ういぞ?万が一にでも総主教の耳に入れば……」
「案ずるな、印術の研究など最初から
「それはいかん。それではジョーンズがドラキュラに立ち向かい殉教した ”聖人”になってしまう。奴はあくまで教会の ”裏切り者” でなくては!」
老人たちの議論に”黒い”熱が帯びる。その時眼鏡をかけた老人が三人の議論に割って入った。
「何、心配するな。罪状などいくらでもでっち上げられる。現に奴は宝物庫からドラキュラの魂が封印された十字架を盗み出したでは無いか」
「よく言う……わざわざ衛士や結界をゆるめて盗みやすくしていたのは誰だ?」
「さて?何の事やら、とんと記憶に無い」
『ハハハハハ……』
陰気な笑い声が部屋に木霊する。
「死人に口無し……奴は私欲により教会の宝を窃盗。いたずらに混乱を招いた罪で破門とする。事態を収束させたのはあくまで
『異議なし』
長老の号令の下、他の老人たちも一様に賛同した。議題は終了したのか、皆思い思いに席を立つ、が、柔和な顔つきの老人がふと何か思い出した様に口を開く。
「ああそうだ。ベルモンド……奴の監視はどうする?」
その発言に、皆一様に不快な顔をする。
「記憶を無くしているそうだな……」
「そのまま放置で構うまい。変に刺激して記憶が戻られてもかえって困る」
「うむ、あくまでドラキュラ封印を主導したのは我々教会。それが
「例のダンピールが監視しているそうだが……奴のみに任せておくのも具合が悪いな。仕方がない、こちらからも人を出しておくか……」
「全く、記憶があろうと無かろうと厄介な物だなベルモンドというものは。神も何故かような者を現世に遣わしたのか……」
目つきの鋭い老人が呆れたように首を振る。それを見ていた眉の長い老人が言葉を紡いだ。
「それは……毒をもって毒を制す……という事ではないか?」
『ハハハハハハハ!!』
老人の発言に、再び”ドッ”と笑い声が木霊する。薄暗い部屋の中、抑揚の無い笑い声がいつまでも響いていた……
◆
◆◆
◆◆◆
まだ私が幼かった頃……母は事あるごとに私に言って聞かせた。
「あなたの父は偉大な人物だった」と……
「理知的で、聡明で、何よりも家族を大切にする素晴らしい人間だった」と……
「だからグラハム、他所の人が言う事など信じてはダメ。あなたの父さんは悪い人たちに騙されて死んだの。父さんを悪く言う人達は皆その悪い人達に騙されているの」
「だから私達だけは絶対に騙されてはいけない……お父さんを信じなければいけない……解ったわね?グラハム………………」
◆◆◆
◆◆
◆
”ざわざわ”
”ザワザワ”
”ザワザワ”
大勢の群衆がひしめき合う薄暗いホール。何かの宗教団体なのか、群衆は皆一様に同じ模様の記された白いローブを羽織っている。
その時、一段高い場所に設けられたスピーチ台に集団と同じローブを羽織った細身の男が現れた。男が現れるや否や、それまでざわめいていた観衆は波をうったようにピタリと静まり返る。
男は壇上のマイクのスイッチを入れると、穏やかな口調で集団に語り掛けた。
「我が親愛なる子供らよ……間も無く”その時”が訪れようとしています。そう、世界の終焉の時が……」
『おおお……、』『ああ……』
教祖と思われる男の言葉に、集団の中から嘆きの声が上がる。
「ですが恐れる事はありません。何故ならば私にはその終わりから我が子らを守る ”術” があるのです」
教祖とみられる男は壇上に置かれた古い書物を開き朗読を始めた。
「予言にはこうあります……”魔王ドラキュラは1999年に完全に滅ぶ”……と」
「ですが予言にはこうも書かれています。ドラキュラの死から丁度36年後の日食の日、城は新たな城主を迎え入れ、再びドラキュラは ”復活” する……と」
「ドラキュラは西暦1999年7月××日の正午に滅ぼされました。それは私がこの世に生を受けた日時と全く同じ。つまり私こそがドラキュラの力を受け継ぐべき者……ドラキュラの生まれ変わりなのです!!」
『オオオオッ!!』
「間も無くその日が訪れます。私は城に迎え入れられ、新たな力を手にするでしょう。
その時こそ!我が教団がこの世界を終わりから救い、新たな秩序を生み出す時!さあ皆、その日まで祈るのです!!」
『ウオオオオオオオオ―――ッッ!!!』
教祖のスピーチが終わるや否や、堰を切ったように信者たちから歓声が巻き起こる!
ある物はひれ伏し、ある者は叫び、ある者は歓喜の涙を流す……。
だが千を超える観衆の中、ただ一人別の動きを見せる者を教祖は目ざとく見つけていた。
「……どうやら皆と心を一つに出来ない不心得者がいるようですね……」
『!!』
教祖の指さす方向に、信者たちの視線が一斉に集まる!
「やばッ!!」
教祖に名指しされた人物は即座に目くらましの呪文を唱えると、長い金髪を翻し瞬く間にホールから逃走した。
「逃がすな!教会のスパイだ!」
混乱の渦に包まれるホールの中、教団幹部の怒号が響く。だが阿鼻叫喚の中、壇上の教祖は一人冷静に舞台袖に引き下がった。
「あの魔法はヴェルナンデスか。性懲りも無くご苦労な事だ……」
教祖は秘書と思われる信者に、脱ぎ去ったローブを渡すと今後の指示を出した。
「私は今日中にここを発ち、日本へ向かう。後の事はまかせたぞ。スパイは見つけ次第殺せ」
歩きながら簡潔に命令を下すと、教祖は外に用意された車に乗り込んだ。空港へ向かう車中で、男は静かにこれまでの虐げられてきた人生を振り返った。
……教会の裏切り者という汚名をかぶせられ破門された父。そのせいで半ば狂ってしまった母。日陰者としてぞんざいに扱われてきた少年時代……
「もうすぐだ……もうすぐ母の悲願と、父の復讐が叶う……フ……フハハハハハハ!!」
不気味に笑うその冷酷な顔は、既にドラキュラが乗り移っているかのように見えた…………