悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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今回の話も原作ゲーム「暁月の円舞曲」を元にしていますが、

・原作準拠のセリフ(大幅なコピー防止のため一部改変してあります)
・設定の異なる部分
・原作ストーリーの「重大なネタバレ」

があります。
以上の事柄をご了承の上、お読みください。

 


ドラキュラ

  

 

”ダッ、ダッ、ダッ……”

 

 冷たい夜風が頬をかすめる中、石段を踏みしめる靴音だけが嫌に響く。

 俺は長い旅路の果て、本城最上階から城主の間へと続く悪魔城大階段を一人登っていた。

 

――城主の間へ行け、そこで全てが解る――

 

 有角の言葉を信じ、何とかここまで来たが……果たしてここで一体何が解るというのか?俺の胸にあるのはただ漠然とした不安だけだった。

 

 

 

◆  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”ゴ……ゴウゥゥゥン……!!”

 

「――!」

 

 重く、威圧的な扉を両手で押し開ける。瞬間、眩暈がする程の眩い光が俺を襲った。あまりの眩しさにおもわず手を翳し、おおきく仰け反る。

 

 

「ようこそ……我が崇高なる玉座の間へ!!」

 

 

 視力が戻るよりも先に、聞き覚えのあるヒステリックな声が聞こえた。

 どうにか目の痛みも治まり、かろうじて瞼を開く。玉座の間は暗黒の力を持つ悪魔城に似つかわしくない、清らかな純白に染められていた。

 

 壁も、床も、柱も天井も奥にある巨大な聖母像も何もかも白一色。それ以外の色と言えば、天井から垂れた赤いカーテンと、聖母像から流れ出た真っ赤な血の絨毯。そしてその先にある金に縁どられた豪奢な玉座だけだった。

 

 

「……遅かったね蒼真君。すでにドラキュラの力は私のものだ」

 

 

 城主の間の放つ異様な空気に飲まれかける俺を尻目に、グラハムは自身の座る玉座に勝るとも劣らぬ高慢な態度で俺に話しかけてきた。人の神経を逆なでるその態度に、思わず俺は怒鳴り返す。

 

 

「ドラキュラの力なんて関係ない!俺がここにきたのはこの城から出るためだ!」

 

「……ふむ、今の私の力を持ってすれば、君を外に出すなど簡単な事……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしながら、君は私の資産というべき、魔物の魂を支配している、

そんな事が許されるか?いや、許されるはずが無い!

 

 

 グラハムは無茶苦茶な理屈を捲し立て、逆に俺を詰問しだした。もはや奴に理性や道徳といった物は通用しないのだろう。

 

 

「返せるものなら全部返してやるさ。方法があるならな!」

 

「いまさら返してもらっても、人の物を盗んだ罪は消えんのだよ!そして、罪を犯した者には罰が与えられるのは当然の事!」

 

「何、勝手なこと言ってんだよ!」

 

「罪状はこの私からの ”窃盗”!従って死刑以外は考えられません!」

 

「ふざけるな!!」

 

 

 グラハムは自身の身勝手な”ルール”を早口でまくし立てるのみ。俺の意見など聞いちゃいない。

 その態度はまるで、無実の人間を問い詰める高慢な裁判官の様だった。

 

 

「どうやら反省する気は微塵も無いようだ……。身の程を知らぬ貴様には特別に城主である私自らが罰を与えてくれる!」

 

「!」

 

 それまで玉座に座っていたグラハムが、躍り出る様に立ち上がった。そしてその右手を天に向かい高々と上げる。と同時に、その身は紫色の光の柱につつまれる。

 

 

「――消えた!?」

 

 立ち昇った光の柱が掻き消えた後、グラハムの姿は玉座から風の様に消え去っていた。

 

 

「――ッ!」

 

”キィィィン!”

 

「何!?」

 

 俺は咄嗟に背後に向かって剣を払う!目の前には鋭利に伸びるグラハムの爪があった。

 瞬間移動によって背後から俺を切り裂くつもりだったのだろう。だが間一髪の所で防ぐのが間に合った。逆にグラハムは不意打ちを失敗した事でその顔に明らかに動揺が見える。

 

「貴様!また私の所有物である魂を……!」

 

 俺の背後に浮かぶ魔眼の監視者(ピーピングアイ) の魂に、グラハムは目ざとく気付いたようだ。巨大な魔眼を持つ魔物の魂が、死角から忍び寄っていたグラハムの動きを事前に察知、俺に教えてくれていた。

 

「このコソ泥が!さっさとその力を返せ!!」

 

「人の話聞けよ!好きで手に入れた訳じゃ無いって言ってんだろ!!」

 

 鍔迫り合いをしながらお互い舌戦に発展する。しかしグラハムは再び瞬間移動で距離を取ると、その手に魔力を集め始めた。

 

「我が力に跪け!ダーク・インフェルノ!!

 

 グラハムの翳した右手から、マグマの様に煮え立つ火球が放たれる!

 

「ちッ! バレット・ソウル ”フレイムデーモン”!!」

 

 ほぼ同時に、俺は炎の悪魔を召喚。燃え盛る火炎を奴の火球目掛けて放った!

 

 

”ドォォォンッ!!”

 

 

 空中でかち合ったお互いの炎は、互いを喰らう様にからみ合ったのち大爆発を起こした。

 しかしやはりドラキュラの魔力は圧倒的だった。相殺はしたものの、そのエネルギーのほとんどは俺の方に押し返され、二人分の暗黒魔法が俺に襲い掛かる!

 

「はははは!見たか魔王の力を!紛い物の力で叶うはずがなかろう!」

 

 業火にまかれる俺を見て、グラハムが高笑いをあげる。

 

”バオウッ!!”

 

「!」

 

 だがその瞬間、燃え盛る業火の中から一筋の影が飛び出す!

 

「ガーディアンソウル!おおこうもり!!」

 

 俺は炎に巻き込まれる直前、巨大な蝙蝠に姿を変え炎を脱出した!そしてそのまま急降下!変身を解除すると同時に大剣を構えグラハム目掛け突撃する!

 

「うおおおおお―――ッ!!」

 

”ザシュウッ!”

 

「ぐあああッ!?」

 

 光の聖剣(クラウ・ソラス)の斬撃がグラハムにクリーンヒットした!

 青白く輝く聖なる刀身は、闇の力を持つ魔王には特攻だ。グラハムの白いスーツが、瞬く間に赤く染まっていく。

 

「そ、そんな、いた……痛いィィィィ!?

 

 きっとグラハムは今までケガを負った事がほとんど無く、痛みへの耐性が無いのだろう。聖剣の持つ浄化の痛みにのたうち回っている。

 

「よくも、よくもこの魔王の体に傷を!だがこの程度の傷すぐに……は!?」

 

 その時、グラハムの傷を白魚の様に細く美しい手が撫でた。

 

「エンチャントソウル……、”サキュバス”」

 

 グラハムに憑りついていたのは俺の使役する淫魔の魂だった。美しい女悪魔は流れるグラハムの血から生命力を吸収すると、すぐさま俺の元へ戻り、そっと俺の頬を撫でる。

 たちまちさっきの爆発で受けた傷が癒され、顔の火傷も元通りになった。

 

「わ、わたしの資産だけでなく、わたしの命まで……ッ!!」

 

 サキュバスの魂によって自らの生命力まで奪われ、グラハムの顔色が目に見えて変わった。

 

「おのれ…………おのれおのれおのれおのれぇぇぇぇ―――ッ!!

 

「!!!!」

 

 頭を掻きむしりながらグラハムが絶叫する。同時にその背から、何か得体の知れない物が浮かび上がった!

 

「楽に殺してやろうと思ったが気が変わった!ただの死刑では生温い!!貼り付け!獄門!火あぶり!水攻め!車裂き!ありとあらゆる苦痛を味合わせなければわたしの気が治まらん!!」

 

 グラハムは瞬間移動で玉座に移動すると、そのまま宙へ浮かび上がった。と同時に傷口から流れていた血が、間欠泉の様に一斉に噴き出す!!

 

「うわッ!」

 

 あふれ出た血液と、その背後に浮かんだ”もや”のような物がグラハムを包み込む!そして真っ赤な物質は、次第に何かを形作っていく………

 

 

 

 

「な、何だコイツは……!?」

 

 その姿はひどく巨大で、不気味で、そしてそれ以上に美しかった。

 天使と見紛う美しい二人の少女が、向かい合わせの状態で浮かんでいる。その白い長髪はまるで白鳥の羽の如くそよぎ、頭上には白い光輪が輝いている。まるで宗教画の天使や神様の様だと俺は思った。

 

「……ん!?」

 

 だが……目を凝らしてよくよく見れば、それはとても天使と呼べるような代物では無かった。

 

 天に輝く光輪は数珠つなぎの不気味な髑髏。向かい合った少女達の眼球は金色のリングで貫かれると同時に拘束され、その眼窩から血の涙を流している。逆に手の甲には巨大な瞳が埋め込まれており、品定めするかのようにギョロりと俺を睨んでいた。

 少女たちの胴体から下は無く、上半身は剥き出しの内臓がシャム双生児の様に中央で結合されている。そしてその中心、鼓動する心臓に、魔王であるグラハム本人が埋め込まれていた。

 

「う……、おえッ」

 

 そのあまりのグロテスクさに、俺は思わずえずいてしまう。そんな俺を、グラハムは嘲笑交じりに見下ろしていた。

 

「はははは!どうだね蒼真君。美しい姿だろう?これが……力だッ!」

 

「…………ッッ」

 

 グラハムは完全体になって高揚しているようだが、こっちの気分は悪くなる一方だ。こんな気味の悪い茶番にいつまでも付き合っていられない。

 

「何が力だ!今度こそ終わらせてやる!!」

 

 俺は両手でクラウ・ソラスを思い切り握りこむと、宙に浮かぶグラハム目掛け突撃した!

 

「馬鹿め!魔王の真の力、見せてくれる!!」

 

「!」

 

 グラハムに向かって走る俺に、巨大な少女の右手が迫る!その手から生えた爪は一本一本が巨大なジャマダハルの様に鋭く尖り、まともに喰らえば簡単に俺の体を抉り、貫くだろう。

 

「くッ!」

 

 俺は両腕に力を込め、迫る爪目掛け全力で聖剣を振るう!

 

”ガアァァァンッ!”

 

 グラハムの力は相当な物だったが、闇の力と相反する聖剣の効力のおかげか、俺は敵の攻撃を弾き飛ばす事に成功する。

 

”グウォオッ!!”

 

「なッ!?」

 

 だがグラハムの攻撃を防いだと思った刹那、今度は逆方向から残る左手が襲い掛かってきた。俺は全力で剣を振りきった状態で、バランスを大きく崩している!

 

「死ね!来須蒼真!!」

 

「!!」

 

 

”――ヴァサァアッ!”

 

「むッ!!」

 

 グラハムの攻撃は空を裂いた。間一髪、俺は大コウモリに変身する事で爪と爪の間をすり抜け、上空に抜け出す事に成功した。

 

「くらええええッ!!」

 

 グラハムの頭上に躍り出た俺は、すぐさま変身を解除、再び聖剣を大上段に構えた!例え完全体になったドラキュラでも、聖なる力を宿すクラウ・ソラスならば絶対に倒せるはずだ!

 さっき一撃与えた時と同じ様に、俺はグラハム目掛けて急降下する!!

 

 

「――馬鹿め」

 

 

 

 

”ビシャァァァンッ!!”

 

「が……ッ!?」

 

 俺が聖剣を天に振り上げたその瞬間、轟音と共に激しい稲光が俺の体を貫いた。

 不気味な化け物の頭上に浮かぶ髑髏の輪は飾りなどでは無かった。核である心臓を守るための最終防衛装置だったのだ。

 

「がはッ!」

 

 落雷よりもはるかに強い電撃を浴びた事で、俺の体は一気に弛緩し、地面目掛けて落ちていく。そして同時に俺の意識も、物言わぬ深い闇へと沈んで行く…………

 

――しく……じった……まさか……こんなこと……で……

 

 薄れゆく意識の中、自身の未熟さへの後悔だけが反芻される。いや……それだけじゃない。俺が本当に後悔しているのは―――

 

 

 

 

 

 

 

――蒼真くん!――

 

「――弥那!」

 

 

 

 

 

 

”ドスゥッッ!!”

 

 

 

 

 

 

 

「ぎいいやああアあァァァァッ!!」

 

 グラハムが埋め込まれている心臓に、クラウソラスの刀身が深々と突き刺さる!

 意識が完全に闇に飲まれる直前、幼なじみの声が俺を現世に連れ戻した!!俺は撃ち落とされながらも手に持った剣を咄嗟に突き出し、奴の急所を貫く事に成功した。

 

「うおおおおおおッ!!!」

「ぐううああああッ!!?」

 

 俺は痺れの抜けない肉体を奮い立たせ、突き刺さった聖剣にしがみ付くようにしてさらに奥へと剣をねじ込んだ。

 例え仮初の身体でも痛覚は共有しているのだろう。グラハム本人は傷ついていないにもかかわらず、断末摩のごとき絶叫が城内に響く。

 

「どうだ痛いか!剣を抜いてほしかったら今すぐ俺たちを元の世界に戻せ!!」

 

 渾身の力をこめ聖剣を押し込む!俺の起死回生の攻撃にグラハムだけでは無く、巨大な混沌の少女像すら苦しみ、藻掻く!しかし……

 

 

「調子に……乗るなァッ!!」

 

”ガシィィィッ!!”

 

「うぐぁッ!?」

 

 攻撃に集中しすぎるあまり周囲の警戒がおろそかになっていた。俺はグラハムが伸ばした混沌の両腕によって、がっしりと握りこまれてしまった!

 

「許さんぞ来須蒼真……よくも完全なる魔王の体を傷つけてくれたなァァ!!」

 

 怒りに我を忘れたグラハムが、その両手に渾身の力を込める!これほどガッチリと拘束されてしまっては、蝙蝠に変化して逃げる事も出来ない……!

 

「う、がッ……はッ」

 

 グラハムは子供が捕まえた蟲を握りつぶす様に、どんどん握る力を強めていく。やがて俺の体から骨の軋む不気味な音が鳴り響き、そして――

 

 

”ゴキィィィッ!”

 

「――!」 

 

 ”何か”がへし折れる、重く鈍い音が城主の間に響いた。

 グラハムがその手を緩める。現れたのはあらぬ方向に首がねじれ、死んだ様にうな垂れる少年の姿だった……

 

 

 

 

 

 

「……ふ」

 

 

「ふはははははははッ!!」

 

 

「思い知ったか来須蒼真!これが魔王ドラキュラに逆らった者の末路だ!!」

 

 グラハムが手の中の少年を、まるで優勝トロフィーでも翳すかのように天高く抱え上げる。

 少年は首だけでなく、全身の骨が砕け、目、鼻、口、耳、体中の至る所から出血していた。呼吸をしているのかどうかも解らず、その肌からは血の気が引き、ただでさえ白い肌が一層青白く変色していた。

 

 

「何が支配の力だ!ドラキュラの生まれ変わりである私に、そんな紛い物の力など……」

 

 

”ザンッ!!”

 

 

 

 

 

 

 

”ヒュウウゥゥゥ……”

 

 

”ドスゥッッ!!”

 

「……は?」

 

 ――グラハムは最初何が起こったのか全く分からなかった。いまの今まで、少年の亡骸を握りしめていたはずの混沌の右腕が、気づいた時にはその手首から先が無くなっていた。

 

「な……なにが?何が起きた!!?」

 

 斬り飛ばされた手首は、玉座から遠く離れた壁際の床でピクピクと蠢いていた。そしてさっきまで手を掲げていた場所の真下。折れた首をぶらりと垂らしたまま仁王立つ、来須蒼真の姿があった。

 

 

「貴様は……誰だ……」

 

「!?」

 

 首がへし折れたまま、少年が言葉を発した。だがその声は今までの少年の声とは全く違う、明らかに壮年以上のしわがれた男性の声だった。

 

「誰の断りを得て……そこに立っている?」

 

「!!??!?」

 

 幽鬼のように体を揺らしながら、少年がグラハムに迫る。だがその死にかけの体から発せられる波動は、もはや少年のそれでは無い。何億、何十億の怨念を煮しめ固めた様な、重く、どす黒い負の感情だった。

 

「く……来須蒼真……きさま……まさか……ッッ」

 

 蛇に睨まれたカエルが如く、グラハムはどんどん後ずさる。だがまもなく、その背中に玉座があたり、グラハムはそれ以上退けなくなった。

 

「その椅子は……我が玉座……」

 

「ひ……っ!?」

 

 その時、それまで閉じていた少年の瞼が開き、グラハムを睨みつけた。

 

「紛い物が……そこから退けいッ!!」

 

「ひいいいいいッ!!」

 

 自身におそいかかる圧倒的な恐怖に耐えかね、半狂乱になったグラハムが残された左腕を少年目掛け叩きつける!だがその瞬間、少年の背後から黒い何か……グラハムと同じ巨大な腕が伸び、混沌の左腕を受け止めた!

 

 

”メリメリメリイイッ!!”

 

「GYAAAAA!!?」

 

 少年の背後から伸びた腕が、グラハムの混沌の腕をあらぬ方向へ捻りつぶす!同時にグラハムごと玉座のある上段から引きずりおろすと、城の壁面に向かっていとも簡単に放り投げた!!

 

 

”……ゴキッ、メキッ、グニッ、”

 

 グラハムの攻撃をなんなく退けた少年……、やがてその背後にある黒い”何か”が少年の周りにまとわりつく。

 その黒い”何か”は瞬く間に少年の折れた骨を繋ぎ、裂けた皮膚を繕い、まるでビデオの逆再生の様に元通りに体を修復してしまった……

 

 

 

 

 

 

「…………う、うぅ……」

 

 つんざくような悲鳴に俺は目を覚ました。何か酷い悪夢を見ていた様な気がする。確かグラハムに捕まって……それから…………

 

「う……ぐ……おげァ!」

 

 記憶を辿ろうとした瞬間、猛烈な痛みと吐き気が俺を襲い、思わずその場に戻してしまう。まるで体の中を、脳みそ、内臓、骨と筋肉から神経に至るまで、まとめてミキサーでかき回されたような気分だ。

 

「…………?」

 

 不可解な事は続いた。さっきまで宙に浮かび威容を誇っていたグラハムが、片腕を失い、ズタボロになって床に這いつくばっている。

 

「馬鹿な……、何故貴様にその力が有るというのだ!?」

 

「その力?、一体何を言って……」

 

 どういう訳かグラハムが俺を見てひどく狼狽えている。いままでの奴とはまるで別人の様だ。

 

 

「認めん……認めんぞ……」

 

 

 

「魔王は……ドラキュラは私だアアアァァァ―――ッ!!」

 

「!!?」

 

 突然グラハムが奇声をあげ、修羅のごとき形相で俺に向かってきた!俺はわけも解らぬまま、再び戦闘に巻き込まれる!

 

「うあああああ―――ッ!!」

 

 無我夢中……突っ込んでくるグラハムと衝突するまさにその寸前。俺は心臓に突き刺さったままの聖剣を反射的に掴むと、そのまま一気に振りぬいた!

 

 

”ズパアアァシュゥゥゥッ!!”

 

 

 ――聖光一閃!クラウ・ソラスの青白い剣閃が煌めき、グラハムは背後の混沌ごと真っ二つに切り裂かれる!!

 

 

 

 

「馬鹿……な、あり……えん……」

 

 

「私は……ドラキュラでは、無いというのかァァァ―――ッ!?」

 

 

 城主の間に響き渡るグラハムの断末魔!全身全霊で剣を振るった俺は、勢い余って床にすっ転んでしまった。クラウソラスを杖代わりにどうにか身を起こし、グラハムの最期を確認すべく後ろを振り向く。

 

「!?」

 

 だが……、その瞬間真っ二つにされたグラハムの身体から、黒色をした不気味な ”何か” が、ポンプが逆流するようにあふれ出した!

 

「な、何だ?お、俺の中に、何かが流れ込んでくる!?」

 

 間欠泉の様に噴き出した”何か”が、そのまま俺目掛けて殺到する!必死に抵抗するが、その勢いはすさまじく、俺の意思など無関係に体を蹂躙した!

 

 

「や、やめろ……! やめてくれぇぇぇ―――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 一体どれだけの時間がたったのだろう?30分か……、1時間か……、いや、数秒にも満たない一瞬の出来事だったのかもしれない。

 

 さっきまでの激闘と騒乱が嘘のように、城主の間は静まり返っていた。あれほど大きかったグラハムは跡形も無く消え去り、室内に残ったのは俺一人……

 

 

「今……、全てがわかった……」

 

 

 

「俺が……」

 

 

 

「俺がドラキュラだったんだ……」

 

 

 得体の知れない”何か”が俺の中に入り込んだ瞬間、俺の脳の……いや、魂の奥底に眠る記憶が呼び覚まされた。

 

 最愛の女性との出会い、神の裏切り、闇との契約、友との決別……

 

 人間達への復讐、いつ終わるとも知れない神の使途との戦い……

 

 

 殺戮……死闘……復活……、殺戮……死闘……復活……

 

 

 殺戮

 

 

 死闘

 

 

 復活

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とんだ……笑い話だ。出て来いよ有角、いるんだろ?」

 

 薄ら笑いを浮かべながら、俺は背後にいるかすかな気配に向かって話しかける。やがて擦り切れたカーテンの影から、黒い人影が音も無く姿を現す。

 有角は普段と変わらないポーカーフェイスで、静かに俺を見つめていた。

 

「何故……、何故俺を目覚めるよう仕向けた!?俺はあのままで良かった!」

 

 無表情の有角に、俺は感情をむき出しにして訴えかける。有角は一瞬だけ何か思いつめた様に視線を外すと、その重い口を開いた。

 

 

「本来なら、お前はこの城に来てはいけない存在だった」

 

「だったら何故俺をここに来させた!?お前の力ならいくらでも俺を止められただろう!」

 

 ある意味無責任ともとれる有角の発言に、俺は思わず大声で怒鳴る。だがそんな俺を諭すように、有角は静かに理由を話し始めた。

 

「ドラキュラの魔力と、お前の魂はもともと一つのものだ。どんな手を講じようとも、こうなる運命だった……」

 

「そんな……!!」

 

 有角の説明に、俺の心はハンマーで殴りつけられた様に大きく揺さぶられた。この城に呼び寄せられたのも、俺がドラキュラになる事も、最初から決まっていた事だなんて……

 

 ただ弥那と一緒に元の世界に帰る。そのためにここまでしてきた努力は全て無駄だったというのか……

 俺は目の前が真っ暗になり、思わずその場に膝をつきそうになる。だが有角は続けて意外な事を口にした。

 

 

「それならば、俺の力が届く所で目覚めさせるしかないと考えた」

 

「……!?、何を言ってるんだ?意味がわからない」

 

 

 有角の言葉に、俺は思わず顔を上げる。混乱する俺に有角は尚も続ける。

 

 

「魔力と一つになったお前には、巨大な邪悪の意思が流れ込んでいるはずだ」

 

「ああ……、さっきから少しずつ大きくなってる。飲み込まれないように耐えるのがやっとだ……」

 

 有角の言う通り、苛立ちとも、怒りともつかない、とにかく不快で、得体の知れない”何か”が絶えず俺の心の中に入り込んでくる。少しでも気を抜いたらあっという間に自我を失ってしまいそうだ。

 

 

「お前が、それをすべて受け入れた時、魔力はお前の物になる。しかし、かつてのドラキュラと同じように魔王の宿命も負うことになる。……俺は、そうさせたくない!」

 

「俺だって魔王になんかなりたく無い!」

 

「分かっている。だからこそ、危険を承知でこの方法を選んだ」

 

「方法……?何か解決策があるのか!?」

 

 

 この城に来ておそらく初めて俺たちの意見が一致した。有角ははやる俺を落ち着かせるように、ゆっくりとその”方法”を話し始める。

 

 

「ドラキュラの邪悪な意思は、混沌を求める人間達によって作られたものだ。ならば、その意思に影響を与えている”混沌”を切り離せば良い」

 

「切り離す……!?そんなこと出来るのか?」

 

 有角の言う方法は、まるで雲をつかむ様なものだった。形も無い混沌を切り離すなんて、本当に出来るのだろうか?

 

 

「ドラキュラの魔力から生まれているこの城は、精神世界そのものだ。つまり混沌もこの城のどこかに存在する。ドラキュラに目覚めたお前だけが行ける場所……。そこに混沌はある!」

 

「行くのは良い……、行ってどうする?」

 

「後はお前自身の力で打ち勝つしかない。ここまで来る事が出来たお前になら、必ずやれるはずだ!」

 

「……!」

 

 普段冷徹な有角らしくない熱い激励に、俺は正直面食らう。何の確証も保証も無い言葉だが、不思議とその言霊は俺を勇気づけた。

 

「分かった。自分自身を取り戻せるなら、やってみせるさ」

 

 ドラキュラの記憶が蘇った事で、何かに引き寄せられるのを感じる。有角の言う ”俺だけの場所” は、この本能が指し示す先にあるのだろう。

 

 

「俺の力が続く限りは、邪悪は少しずつしか流れ込まないはずだ。時間は無い、急げ!」

 

「すまない、皆を頼む」

 

 座る者のいなくなった玉座と、憂いの瞳を湛える有角を残し、俺は城主の間を後にした。絶えず体を浸食する大きな不安と、ほんのわずかな希望を胸に……

 

 

「絶対に、絶対に弥那と一緒に元の世界に帰ってやる!」

 

 

 鬼か、邪か、この先に待つ者は一体何なのか?湧き上がる混沌を必死に抑えながら、俺はただひたすらに荒城の回廊を走り続けた……

 

 

 

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