悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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今回の話もゲーム「暁の円舞曲」のストーリーを元にしています。またオリジナル設定、原作ゲームのネタバレを含みます。

以上の事柄をご理解の上お読みください。



ユリウス・ベルモンド

 

 悪魔城の遥か上空に点在する空中庭園……主を失い訪れる者が絶えて久しいその場所はいまや「忘却の庭園」と化していた。

 だが……誰一人来るはずの無い寂れた庭園に、不意にひとつの人影が現れる。

 

 

「やっと…ついた……」

 

 

 城主の間を出てから、本能に導かれるままに走り続け、俺はようやく”その場所”に辿り着いた。

 

 そこは忘却の庭園と呼ばれる、悪魔城上空に浮かぶ庭園群だった。フットボールのフィールド程の大きさの庭園は、道には大理石の石畳が敷き詰められ、整然と区画されたバラの生垣と、ミケランジェロを思わせる石の彫刻が至る所に立ち並んでいる。

 

「……あれは!?」

 

 実はこの庭園は大分前に攻略済みだったのだが、以前来た時とは明らかに違う箇所がひとつだけあった。庭園の奥にある重厚な門が、閉じていたその双鋼を大きく広げ、俺を待ち構えていた。

 

「弥那……」

 

 あの門の先に、一体何が待ち受けているのか……たった一人で強大な宿命に立ち向かう心細さに、無意識に幼なじみの名を呼んでしまう。

 

 俺はほんの少し前の出来事を思い返していた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おかえりなさい。蒼真君……だよね?」

「あ、あぁ……」

 

 城主の間で有角と別れた後、俺は弥那のいるエントランスまで戻っていた。本当ならすぐにでも”俺だけの場所”に行くべきなのは解っていたが、俺が俺である内に一目だけでも弥那に会いたい……彼女と話しておきたい……。その想いを抑えきれず、俺はここまで来てしまっていた。

 

「何かあったの?すごく、怖い感じがする」

「な、何もないよ。いつもと同じさ」

 

 俺の”魂の変化”に、弥那は一目で気づいた。けど俺の正体が魔王ドラキュラだったなんて、弥那にだけは知られたくない……。俺は必死に平静を装い、しらを切った。

 

「そう……」

 

 弥那は半信半疑といった様子だったが、きっと何かを察してくれたのだろう。それ以上は何も言わない。

 

「……」

「……」

 

 気まずい沈黙が二人の間を流れる。いつもなら何も考えなくても会話が続くのに、変に意識してしまって言葉が浮かばない。俺は取り繕うように無理やり弥那に話しかけるが……

 

「なぁ、弥那……」

 

「何?」

 

「俺が、俺じゃなくなったとしたら、どう思う?」

 

「ど、どうしたの?いきなり」

 

 重圧に耐えられなかったのか、俺は思わず余計な事を口走ってしまった。弥那が明らかに動揺しているのが解る。

 

「いや、もし……もし、外見は俺だけど中身が俺じゃなかったら、弥那はどう思うんだろうって、……何を言ってるんだ俺は!忘れてくれ!!」

 

 本当に俺は何を言っているんだろうか?弥那に正体を知られたいのか?それとも知られたくないのか?抱え込んだ真実が大きすぎて自分で自分を押さえられない。

 

 

「そうね、きっと嫌いな人リストに載るかもね。目つきとか悪いし……」

 

「!」

 

「それなら、外見が変わっても、今の蒼真君のままでいて欲しいな」

 

「……弥那……」

 

 

 

 

 

「駄目だったら、ごめん……」

 

「!?、ごめんって、何!?」

 

 

「な、何でも無いんだ……さぁ、もう行かなきゃ」

 

「あっ!待って、蒼真君!」

 

 必死に呼び止める弥那に背を向け、俺は逃げる様にして再び城へと走りだす。もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。できるならずっと傍にいたい。そう叫びたいのを、ぐっとこらえて…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弥那……」

 

 誰もいない庭園で、もう一度幼なじみの名を呼ぶ。強大な不安に押しつぶされそうな時でも、彼女の顔を思い出せば少しだけ勇気が湧いてくる。

 

「……よし」

 

 ……覚悟は出来た。俺は自身の運命に決着をつけるべく、混沌の門に向かって庭園の石段を一歩一歩降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て」

 

「!!」

 

 だが石段を降り、庭園の中ほどまで進んだその時、背後から何者かに呼び止められる。振り返った先に居たのは、赤くくすんだ長髪を結った壮年の男性だった。

 

「ユリウス……」

 

 赤い長髪を夜風にたなびかせながら、ユリウスはじっと俺を見つめていた。その顔は初めて会った時とは違い、眉間に皺が寄り、憂いと苦渋に満ちていた。

 

「蒼真、やはりお前がドラキュラの……出来る事なら信じたくは無かったが」

 

 時計塔で初めて会ったとき、「ドラキュラを倒すのが俺の宿命」とユリウスは言った。だが城主の塔に辿り着いた際、グラハムは無傷でそこにいた。

 なんてことはない、ユリウスはあの時すでに、俺がドラキュラである事に感づいていたのだ。ユリウスが倒さなければならない相手とは、この俺、来須蒼真だったのだ。

 

「確かに俺はドラキュラの生まれ変わりだ。でも……、でも違うんだ!!」

 

 俺が魔王の生まれ変わりである事は覆せない事実。だがそれは決して自分が望んだ事じゃない。俺は必死に訴えかけたが……ユリウスの態度は頑なだった。

 

 

「例えお前が何者であろうと、ドラキュラは倒さねばならん。それが俺の宿命だ」

 

「やめてくれ!俺はあんたとは戦いたくないんだ!!」

 

 俺はユリウスを制止するように手を前に翳した。だがあえて無視するようにユリウスが一歩前に出る。同じ様に俺も一歩後ずさる。

 

 

 

「………問答無用、行くぞッ!!」

 

 俺の請願を振り払う様に、ユリウスが猛然と突っ込んできた!

 

「くそッ!どうしてもやらなきゃならないのか!」

 

 なし崩し的に戦いに巻き込まれる!だが俺だってここまでいくつもの激闘を乗り越えてきた。偽物とはいえドラキュラだって倒した。

 動揺する言葉とは裏腹に、俺の瞳は冷静に目の前の”敵”を観察していた。

 

「!」

 

 ユリウスの手に以前には無かった ”銀色の鞭” が握られているのを俺は確認した。

 

 ――前に会った時、ユリウスは「武器を取りに行く」と言っていた。あの鞭がそれなのか?――

 

 一体あの鞭でどんな攻撃をしかけてくるのか?どんな動きをするのか?俺の頭脳がフル回転し未知数の敵の戦力を推し量る。

 だが目の前のヴァンパイアハンターの前では、ほんの一瞬の迷いが命取りになる事を俺は思い知らされることになった。

 

「甘い!」

 

 目にも留まらぬ速さでユリウスが鞭を振り被る!次の瞬間、銀色に輝く閃光が俺に向かって伸びてきた!

 

「なッ!?」

 

 10メートルは離れていた彼我の距離を一瞬で詰める鞭のスピード!だが俺は咄嗟に身をよじり、かろうじて鞭の攻撃を避ける!しかし――

 

 

”ヂィッ!!”

 

「ぐうぁッ!?」

 

 紙一重で避けたはずの鞭。だが躱したと思った瞬間その先端が不意に伸び、俺の左肩をかすめた!

 

――そんな!完全によけたはずなのに!

 

 予想外の一撃を喰らった事で動揺し、心拍数が早くなる。とにかくこのままではまずいと、俺は受けた衝撃を利用してそのまま後方に飛び、ユリウスから距離をとった。

 

 だが……ベルモンドの鞭の真の恐ろしさはここからだった。

 

 

「あ、熱い!?う、うぐぁぁぁッッ……!」

 

 ほんの薄皮一枚斬られただけだというのに、焼け火箸をあてられたような強烈な痛みが俺を襲う。しかもどういう訳か痛みが一向にひかない。余りの苦痛に、俺は肩を押さえたままのたうちまわる。

 

「く……ッ、エンチャントソウル”巨蟲魂”(ジャイアントワーム)!!

 

 俺は強力な再生力を持つジャイアントワームの魂を憑依させる事で、受けた傷を癒そうとしたが……

 

 

「ど、どうなってんだ!?傷が治らない……!」

 

 ジャイアントワームのソウルを使用したにもかかわらず、傷が塞がるどころか逆に開き始め、着ていた白いコートに赤い染みが広がり始めた。

 

 

「……それが聖鞭ヴァンパイアキラーの力だ」

 

「!?」

 

 ユリウスはいつの間にか俺の行く手を阻むように門の前に陣取っていた。激痛に悶える俺に、冷徹な視線を浴びせながらユリウスは言った。

 

「お前たち闇の眷属にヴァンパイアキラーが与えた傷は永久に癒える事は無い。苦痛から逃れる術はただひとつ……」

 

 

 

 

「” 死 ”あるのみッ!!」

 

「!!」

 

 断罪の叫びと共に放たれた非情の鞭が、再び俺を襲う!しかし今の説明で危機感が高まったせいか、二度目の攻撃は間一髪で避ける事が出来た!

 

 

”――何が聖鞭だ!サディズム全開の拷問鞭じゃないか!”

 

 

 身を抉るような痛みに耐えながら、心の中で悪態をつく。こんな痛みを何度も受けていたら生命力が尽きる前にショック死してしまう。

 

「くっそぉぉぉ!やられっぱなしだと思うなよ!!」

 

 まとわりつく痛みを振り払う様に、俺は虚空から巨大な両手剣を取り出した。刃渡りだけで俺の身長ほどもあるその大剣は刀身自体が青色に発光し、永久氷河のように透き通っていた。

 

「クラウ・ソラスだと!?聖剣が使えるというのか!」

 

 暗黒の力を持ちながら光の聖剣を振るう俺を見て、ユリウスはひどく驚いた様だ。だが同時に俺を油断ならない相手と再認識したのか、その瞳がより一層鋭くなった様に感じられた。

 

「もはや手加減は出来ん、ここで仕留めるッ!」

 

”ヒュンヒュンヒュンッ!!”

 

 ユリウスは俺の進撃を遮る様に、鞭の乱打を繰り出してきた。一本しかないはずの鞭が、まるで神話のヒュドラの様に幾条にも分裂して見える。

 

「付き合ってられるかよ!アビリティソウル ”ヒポグリフ”!!

 

 瞬間、鷲の頭を持つ幻獣が俺の体に重なる!わざわざ針のむしろに突っ込む理由は無い。天を自在に飛ぶ獣の力を得た俺は、ユリウスを飛び超える様に天高く飛び跳ねた!

 

「その程度の高さ、ヴァンパイアキラーが届かないとでも思ったか!」

 

「!」

 

 残像が残る程のスピードで上空へ跳躍する俺を、ユリウスの鞭が追尾する!……しかしそれは俺の作戦だった。

 

 

バレットソウル、”レッドミノタウロス”!!

 

「!?」

 

 上空に意識が向いたユリウス目掛け、地をえぐるように巨大な双斧が襲い掛かる!赤牛獣人(レッドミノタウロス)の放つ斧の威力は、ドラキュラが支配する魂の中でも1、2を争う程の破壊力を持つ。まともに喰らえばベルモンドでもただでは済まない。

 

「くッ!!」

 

”ガアアアンッッ!!”

 

 ユリウスは咄嗟に鞭を引き寄せ、せり上がって来る斧をギリギリで防いだ。だがさすがのベルモンドでもこの状態から反撃は出来ない!

 

「隙だらけだぜッ!クラウ・ソラスを喰らええええッ!!」

 

「!!」

 

 俺は大上段から全力で聖剣を振り下ろした!

 

”バジィィィィッ!!”

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 俺は目の前の光景に目を疑った。仮にもドラキュラを真っ二つにしたクラウソラスの一撃を、ユリウスは左手一本で受け止めているのだ……!

 

「惜しかったな。ヴァンパイアハンターの俺に聖なる武器は意味をなさん……!」

 

「………なッッ!?」

 

 ”――そんなのありかよ!?” 不条理過ぎる現実に俺は絶句する。

 

”ズムッ!!”

 

「うごッ!?」

 

 次の瞬間、腹部に想像を絶する痛みが走り全身が虚脱する。ユリウスの強烈なボディブローが俺の鳩尾に突き刺さっていた。

 

「さらばだ蒼真!!」

 

”ヴァジィィィンッ!!”

 

 残悔の言葉と共に、ユリウス渾身の鞭が放たれる!!俺は悲鳴をあげる事すら許されず、体を”く”の字に曲げたまま、庭園の彫像にむかって吹っ飛ばされた!

 

 

”ドゴオオオオンッ!!”

 

 

「が……は…ッ」

 

 衝撃で破壊された石像にもたれかかるようにして、俺はその場に崩れ落ちた。

 

「ごほッ!!」

 

 口から赤黒い血反吐が吐き出される。痛みの許容量を遥かに超えるダメージを受けたのだろう。俺は蹲ったまま指一本動かせなかった。

 

”コツ、コツ……、”

 

 視線は下を向き、ほとんど前は見えない。だが動かぬ視界に、ゆっくりと近づくブーツの靴音が聞こえる。

 

――ま……ずい……

 

 俺の命を狙うヴァンパイアハンターが一歩ずつ近づいている。だがそれ以上に俺が恐れたのは、視界がどんどん狭く……意識が薄れていく事だった。

 

――このままじゃ……また……

 

 今意識を失ったら、グラハムと戦った時の様にまた混沌に支配されてしまう。そしてそうなったが最後、もう俺は人間には戻れない―――

 

 

――弥……那――

 

 

―――

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 したたかに頭を打ち付けたためか、それとも痛みのあまり虚脱したのか……蒼真は半壊した石像に埋もれたままピクリとも動かない。物言わぬ人形となった宿敵に、ユリウスは一歩ずつ近寄っていく。

 

「!」

 

 だがあと一歩で鞭の射程に入るという時、ユリウスは不意に立ち止まった。遠目からは気絶している様に見えた少年が、不意に腕を動かし、体を起こそうとしている。

 

「w……oooo…………」

 

「――!!」

 

 立ち上がろうとする蒼真を見てユリウスは思わず息を飲んだ。姿こそ少年のままだが、その背に立ち昇るどす黒い瘴気は間違いなく30年前に戦ったドラキュラそのものだったからだ。

 

 鞭を握る手に無意識に力が入る。怒りか、恐怖か、哀しみか、30年前の記憶が走馬灯の様に蘇り、ユリウスの赤い髪の毛が逆立った。

 

「!」

 

 だが……目の前で起きた事態に、ユリウスは再び息を飲んだ。

 

 

「く……ッ、おさ……まれ、出てくるなァ!!」

 

「………!?」

 

 目の前の少年は圧倒的な暴の力をユリウスに向けるどころか、逆に必死に押さえ込んでいたのだ。いつ飲まれてもおかしくない混沌に、少年はその小さな体を奮い立たせ必死に抗っていたのだ。

 

「絶対に……弥那の所に……帰るんだ……!」

 

「…………」

 

 かろうじて残った人間としての本能……幼なじみへの想いが、蒼真を闇の宿命から現世へと踏みとどまらせていた…………

 

 

 

 

 

 

「はぁ……、はぁ……、」

 

 ギリギリの所で踏みとどまったが、状況は変わらず最悪だった。

 肩と胸に受けた傷は塞がらないし、死んだほうがマシなくらいに痛い。石像に突っ込んだ衝撃で骨も何本か折れているだろう。

 ダメ押しとばかりに頼みの聖剣は効かないときている。打開策がさっぱり見つからなかった。

 

 ただ不思議な事に、目の前のユリウスは攻撃もせず立ったまま微動だにしない。もう一回鞭を振るえばそれでカタがつきそうなものなのに、目を閉じたままじっとしている。

 反撃のチャンスではあったが、俯いていて表情がよく見えないのが不気味で、俺も同様にその場から動く事が出来ずにいた……

 

「……」

「……」

 

 しばらくの間、俺たちは何も言わず無言で立ち尽くしていた。だが不意にユリウスが顔をあげる。ユリウスは何か決心がついたような面持ちで、真っすぐに俺を見ながら語り掛けてきた。

 

 

「蒼真……お前を試させてもらう」

 

「!?」

 

 ユリウスが口を開いた瞬間、場の空気が一変した。いままではあくまでユリウス本人だけから感じ取れていた”闘気”が、ソニックブームの衝撃波の様に瞬時に辺りに広がり、庭園の空気をビリビリと震わせた。

 

「なッ!!?」

 

 俺は驚愕した。ユリウスの放つ闘気がそうさせたのか、遥か遠くに見える悪魔城の中央塔が見る間に崩れていくのだ……!

 

 

「……よそ見をしている暇があるのか?」

 

「はッ!」

 

 俺が遠景に気を取られていた隙に、ユリウスの魔力充填は完了してしまっていた。ユリウスのため込んだ闘気によるものか、その周囲が陽炎の様に歪んで見える。猛烈に嫌な予感がした俺は、思わずその場から後ずさるが――

 

 

「もう遅い……行くぞ! グランド・クロスッッ!!」

 

 

 直後、押さえつけられたバネが一気に反発するように、ユリウスから黄金色に輝く十字型の闘気が噴出された!!

 

「う……うおおおおおおッ!!?」

 

 強力な技を警戒してとっていた距離が、瞬く間に縮まる!流砂か渦潮か、はたまた全てを飲み込むブラックホールか。十字状の光は凄まじい吸引力で俺を飲み込もうとする!

 

「ブ、ブラックパンサァ――ッ!」

 

 黒色の守護獣の名を叫んだ瞬間、しなやかな黒豹の魂が俺に重なる!途端青白い波動が身体を包み込み、俺を光の弾丸に変えた……が、

 

「嘘だろ!?、ブラックパンサーでも引き離せない!?」

 

 音速を超えるスピードが出せるブラックパンサーのソウルを以てしても、ベルモンドの最終奥義から逃げる事は出来なかった。一旦は引き離したと思われたお互いの距離は、再びじわじわと引き寄せられる。

 

「だめだ……このままじゃ!!」

 

 全力でソウルを使っているのだが、ベルモンドの退魔の力はそれを遥かに上回っていた。事実、ユリウスに近い足先が浄化の光に焼かれ始めている。このままでは遅かれ早かれやられてしまう!

 

「……こうなりゃ、一か八かだ!!」

 

「!?」

 

 俺はユリウスから背を向けていた態勢を反転。さらに命綱のブラックパンサーのソウルを解除すると、全力で叫んだ。

 

 

「来い! ”破壊の女神”(カーリィィィ)―――ッ!!」

 

 

 俺にインドの破壊神の魂が重なる!同時に俺の体はみるみる巨大化し、瞬く間に四本の腕に曲剣を携えた魔神の姿へと変わった。

 俺はグランドクロスから逃げるのではなく、逆に荒ぶる戦女神と化して光の十字架に突っ込んだ!

 

「何ッ!?」

 

 グランドクロスの吸引力が逆に仇となった。俺は自らの突進力にグランドクロスの力を上乗せし、ユリウス目掛け捨て身の特攻を仕掛ける!

 だが敵もさるもの、望むところと言わんばかりにユリウスはさらに魔力を高め、巨大な光の十字架は一層その眩さを強めた!

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

「ぬああああああッ!!」

 

 

”ドォォォォォンッッ!!”

 

 

「ぐあああッ!」

「ぐうううッ!!」

 

 光の十字架と、戦女神の正面衝突!!俺の捨て身の体当たりにより、ユリウスは思い切り吹っ飛ばされ、同時にグランドクロスの光もかき消えた。

 しかし俺の方も、グランドクロスに猛スピードで突っ込んだ事で全身が浄化の炎につつまれ、魔神変化も解けてしまう。

 

「――ッ!」

 

 だがかろうじて俺は意識までは失っていなかった。闇の眷属では無い女神の魂を宿したおかげで、退魔の光によるダメージを最小限にとどめていたのだ。

 

「エンチャントソウル、”ルビカンテ”!」

 

 俺はほとんど体力が残っていないのを逆手に取り、逆上の悪魔(ルビカンテ)の魂を召喚した。この悪魔は受けた傷が深ければ深いほど、それを怒りに変えてパワーが増す!

 しかし……最強のヴァンパイアハンターを倒すにはこれだけでは足りない。俺はダメ押しとばかりに、悪魔城最強の魔物を召喚する!

 

 

「死神よ!、我が下に来たれ!!

 

 

 禍々しい髑髏の顔をした死神が、俺を守る様に背後に現れた!同時に時計塔で俺たちを襲った無数の鎌が召喚される!

 神の信徒であるベルモンドにとって闇の力を持つ死神の鎌はこれ以上ない弱点。暗黒の刃の群れが、吹き飛ばされたユリウスを追い打つ!

 

「はッ!!」

 

 自身を狙う殺気に、ユリウスが即座に覚醒する。反射的に鞭を振り払い、周囲に展開された小鎌を一つ残らず弾き飛ばすが……

 

「――!」

 

 その時すでに、俺は巨大な死神の鎌(デスサイズ)を振り被り、ユリウスの直上に陣取っていた―――

 

 

 

 

 

 

「うおおおお―――ッ!!」

 

 型も技も関係ない、ただ無我夢中、全力で振るった渾身の一撃……!空中で、しかも無理な体勢のユリウスに、その一撃を躱す余力は無かった。デスサイズに斬り飛ばされたユリウスは、はるか上空から庭園の固い石畳に思い切り打ちつけられる!

 

「がはッ!!」

 

 受け身はかろうじて間に合ったが、ダメージは思いのほか大きかった。ユリウスは何とか態勢を立て直そうと、震える腕で身を起こすが……

 

 

”ギラッ”

 

「!」

 

 這いつくばるユリウスの首元に、死神の鎌が突き立てられる。

 

「………はぁ、はぁ……、」

 

 全身を焦げ付かせ、肩で息をきる少年がユリウスを見下ろしていた。ダメージ量だけなら蒼真の方が大きいかもしれない。だがこの位置取りではもはや余力関係無く雌雄は決している。

 

 「もはやこれまで」ユリウスは全てを受け入れる様に瞑目すると、静かに(こうべ)をたれた。

 ……が、いくら待っても一向に蒼真が攻撃を加える気配が無い。訝しみながら目の前の少年を見上げる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もういい……もうたくさんだ!」

 

 少年は手に持っていたデスサイズをはるか後方へ放り投げた。

 

 

「何故……何故、とどめを刺さん……」

 

 ユリウスが片膝をつきながら少年を見上げ、尋ねる。

 

「俺には分かる……あんた手加減してただろう?その鞭の力はそんなもんじゃない筈だ」

 

 蒼真の発した言葉に、ユリウスが”ハッ”と目を見開いた。蒼真の指摘は事実だったのか、ユリウスはしばし瞑目するように目を閉じると、静かに語り始めた。

 

 

「……手を合わせて分かった。巨大な邪悪は感じるがそれだけではない。俺の知っているお前自身の力を感じた」

 

 ユリウスが蒼真の肩口を指さす。決して癒えぬはずのヴァンパイアキラーによる傷口が、いつのまにか出血が止まり、元通りに回復していた。

 

 

「蒼真、お前はドラキュラであってドラキュラではない。理由はそれで十分だ」

 

 

 ユリウスは少年の瞳を真っ直ぐ見つめながら心の内を明かした。ユリウスの真意を知り少年の厳しかった顔も若干和らぐ。だがそれもつかの間、蒼真は前以上に険しい顔つきになると男性に1つの願いを打ち明けた。

 

 

「……あんたに頼みたいことがある。俺はこれから、自分の運命と戦いに行く……」

「もし、もし俺が負けて、魔王になっちまったら……その時は……俺を殺してほしい」

 

「……!」

 

 

 少年の悲しい覚悟……悲壮な願いだった。

 

 

「いいだろう……承知した」

 

「ありがとう……これで安心して戦いに行ける」

 

 

 蒼真が初めてユリウスに笑顔を見せる。だがやがて少年はボロボロのコートを翻すと、男性に背を向け扉の奥へと走り出した。

 

 

「俺に……、俺に二度と鞭を使わせるなよ!!」

 

 

 自らの運命と決着をつけるため、混沌の中へと消えていく少年……、その背に向かってユリウスは激励とも、願望ともつかない言葉を投げかけていた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年の姿が闇の中へと消えた後、庭園にはユリウスが一人残された。だがユリウスは不意に誰も居ないはずの場所に向かって呼びかける。

 

 

「いるんだろう?アルカード……」

 

 

 男性の呼びかけから若干間をおいて、柱の影から全身を黒のスーツで固めた長身の男性が姿を現した。年は……二十代半ばくらいだろうか。赤毛の男性よりかなり若く見える。

 

 

「…………久しぶりだな、ユリウス……」

 

「ああ、久しぶりだな……」

 

 ユリウスの方も、顔見知りなのかゆっくりと青年に歩み寄る。互いの会話から察するに、両者は長い間会っていなかったと見える。久方ぶりの再会なのだろう。両者はどちらともなくその手を前に差し出す…………が、

 

 

”バキィッ!!”

 

「うぐっ!」

 

 互いの手が触れ合う瞬間、ユリウスが突然青年の顔を殴りつけた!

 

 

「36年前の約束、今果たしたぞ!!」

 

 

 不意に殴られその場に倒れこんだ青年に向かって、ユリウスが威勢のいい啖呵を切る

 その口調は少年と対した時とは打って変わり、まるで血気盛んな二十代の若者のようだった。

 

「言いたい事は山ほどあるが……、よくも三十年も放っといてくれたな!ええ?アルカード!」

 

「フッ……」

 

「何がおかしい!」

 

 殴られているのに微笑を浮かべる青年に、ユリウスは増々ヒートアップする。

 

 

「変わっていないな……ユリウス」

 

「当たり前だ!こっちは1999年からタイムスリップしてる様なもんなんだぞ!19の時の記憶と、55歳の記憶が混ざり合って……もう自分でも何が何だか訳わかんねえんだよ!」

 

 ユリウスが大げさに頭を掻き毟る。見た目は50過ぎの中年だが、その言動は何処からどう見ても36年前、19歳当時のユリウスそのままだった。

 

「ユリウス……俺は……」

 

「言うな!36年前の()は怒っているが、今の()は解っている。何でお前が俺を放っておいたか……放っておいてくれたかを……」

 

 ユリウスは一旦深呼吸して気持ちを落ち着けると、ゆっくりと話し始めた。

 

「もし……あの後すぐに記憶が戻っていたら、きっと俺は頭がおかしくなって自殺……とまではいかなくてもそれに近い道を選んでいただろう」

 

「俺に生きるチャンスを、人生をやり直させようとしてくれたんだろう?()()()()()()()()ながらな」

 

「……気付いていたか」

 

 ユリウスの指摘に、アルカードが珍しく驚いた顔を見せた。

 

 

「記憶を無くしている間、時折感じた闇の気配……何で敵意が無いのか不思議だったが、お前だとすりゃ合点がいく。あれから30年以上経つってのに、相変わらず不器用な奴だよ、お前は……」

 

「……」

 

「けど……結局全部無駄だったみたいだぜ?せっかく記憶を無くしたってのに選んだ職業は退魔師。なんて事は無い、記憶を失くす前とやってるこたぁ一緒、”三つ子の魂百までも”か。本当に……本当に「(ごう)」って奴からは逃げられないよなあ……」

 

 

 ひとしきり思いのたけをぶちまけると、ユリウスは倒れたままのアルカードに無言で手を差し出した。アルカードも無言でその手を握り返す。

 

 

「それに……ちゃんと約束も守ってくれたみたいだしな」

 

「……約束?」

 

「ハルカと……、ラングの形見、ちゃんと届けてくれたんだろ?」

 

 ”……その事か”とアルカードが頷く。

 

 

「あの二人……ヨーコとハマーか?記憶が無くても…不思議と懐かしい感じがしたんだ」

 

 ユリウスがベストのポケットから何か取り出して見せる。それは乾燥し、幾分古びた栗色と金色の髪の毛だった。

 

「治療してくれた医者が渡してくれたんだ。身分証明できるものが何も無かった俺が、唯一持ってたのがこれだって……。大事に、何重にも包んであったって」

 

「正直誰の物か解らない髪なんて薄気味悪かったが……どうしても捨てられなかった。これを捨てたら俺は俺じゃなくなる。大切な何かを裏切る事になる。そんな気がしてな」

 

「…………」

 

 ユリウスがじっと手の中の遺髪を見つめる。遺品はアルカードが届けてくれたが、残された家族にはそれ以外の物は何も無いだろう。

 もう遅すぎるかもしれない。しかし生き残った者として、いつかは遺族に返さなければとユリウスは思った。

 

 

「まあ……もういいさ。殴って少しは気も収まった。さてと、殴られてばかりじゃお前も納得いかないだろ?来いよ、それでチャラにしようぜ」

 

 今度はユリウスがアルカードに自分の頬を差し出す。アルカードは一瞬躊躇したが、やがて微笑を浮かべると、友の行動に報いるべくその拳を握った。

 

―――神殿に、さっきよりも一回り大きな音が響いた……

 

 

 

 

 

 

「お――いってえ…………。相変わらずの馬鹿力だな……()()()()()()ようで安心したよア・ル・カ・ー・ド!」

 

 頬を腫らしたユリウスが、「少しは手加減しろ」とでもいいたげな恨みのこもった目線でアルカードを見上げる。倒れたままのユリウスに、アルカードも無言で手を差し出した。ユリウスも先程のアルカードと同じ様に、固くその手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 36年ぶりの再会を喜び合う二人だったが、それも束の間の事だった。二人ともすぐに元の真剣な顔に戻り、ユリウスは改めてアルカードに尋ねた。

 

 

「さてと、色々聞きたい事はあるが……、あの少年、来栖蒼真といったか。彼は……」

 

「……察しはついているだろう。父の……ドラキュラの生まれ変わりだ」

 

「何故よりによって今この場所で?」

 

「解らん……だが城と魂を切り離したとはいえ互いに惹かれ合っているのやもしれん」

 

「36年ぶりの日食に合わせるためわざわざこの極東に転生したというのか……」

 

 

 ユリウスがドラキュラの持つ運命力の強さに驚愕する。

 

 

「あくまで推測だがな……どちらにせよ俺は蒼真が生まれてから18年間、傍でずっと監視していた。今の今まで魔王らしい兆候は微塵も無かったから別人の可能性を期待していたのだが……やはり駄目だった様だ。ここに来た事で覚醒してしまった」

 

 

 アルカードが半ば諦めの表情を見せた。

 

 

「ユリウス……お前から蒼真はどう見えた?」

 

 アルカードが単刀直入に切り出す。直接矛を交えた者の感想を知りたかったのだ。

ユリウスはしばし考えたのち、答える。

 

 

「……そうだな、()()()()奴だな」

 

「たいした……奴?」

 

 

 予想していたのとは違う答えに、アルカードが思わず聞き返す。

 

 

「ああそうだ。あいつは宿命に抗いやがった。しかも間違いなく自分の意思で」

 

「お前も見てただろう?混沌の誘惑をあいつは跳ねのけやがったんだぜ?」

 

「そんなあいつを見て……俺はもう鞭を打つことが出来なかった」

 

 

 ユリウスが腰のホルダーに納められたヴァンパイアキラーをじっと見る。

 

 

「ドラキュラを討ち果たすのがベルモンド、それが俺の一族の宿命。そう信じていた」

 

「でもそれは本当に俺の意思だったんだろうか?他に道は無かったんだろうか?」

 

「宿命なんてかっこつけて、俺は考える事を放棄してただけじゃないのか……蒼真を見ていて心底考えさせられた。だから思ったんだ。あいつは()()()()奴だってな」

 

「…………」

 

 ユリウスの言葉を聞いて、アルカードの脳裏に少年の頃の思い出が蘇った。

 

 

「きっと……、大切な人がいるのだろう。だからこそ父も強かった」

 

「……!」

 

 

「確かに……、嫁さんを想っている時のドラキュラは本当に強かったな……」

 

 ユリウスの瞳に、36年前の情景が映る。

 

 

 

 

「蒼真は……運命に勝てるだろうか?」

 

 アルカードが蒼真が消えた混沌の入り口を見ながら呟く。

 

「さあな……だが可能性はゼロじゃない」

 

 ユリウスが蒼真に受けた攻撃の跡を見せる。ブランクはあったとはいえ、少年は伝説のヴァンパイアハンターに相当な深手を負わせていた。

 

 

「万が一……負けたとしたら?」

 

「その時は…………」

 

 

 

 

 

 

()()を果たすだけだ」

 

 

 ユリウスはそこまで言うと口を噤んだ。その顔つきは若かりし頃のユリウスでは無く、すでに壮年のものへ戻っていた。

 

 ユリウスは腰のヴァンパイアキラーを握りしめながら、アルカードと同じく少年が消えていった混沌の門をじっと見据え続けていた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――悪魔城エントランス――

 

 ユリウスと有角は庭園から仲間たちのいる城の入り口まで戻っていた。蒼真と混沌の決戦が始まってから、優に一時間は経つ。ミナ、アルカード、ヨーコ、ハマー、そしてユリウス。皆一様に思いつめた様子でじっと黙している。

 

 

「―――!」

 

 その時――ユリウスは腰に納めていたヴァンパイアキラーの変化を感じ取った。軽くなったというか……それまでつかえていたしこりが取れたような感じがした。

 

 

――ユリウス……あの子……勝ったみたいよ?――

 

 

「ッ!」

 

 

 微かに……耳元で懐かしい少女の声が聞こえた。咄嗟に周囲を見回すが、姿は見えない。

 

「どうしたユリウス?何かあったのか?」

 

 ユリウスの行動を訝しむアルカード。だがユリウスは少年に何が起きたのかを瞬時に理解した。

 

 

「…………」

 

 

心配いらない(ノープロブレム)。蒼真は……あいつは自身の運命(ドラキュラ)に勝ったようだ」

 

「……!」

 

 

――もうヴァンパイアキラーが城を封印する必要は無い……つまり、蒼真は自身の運命に勝った。

……………だよな?ハルカ…………

 

 

 力を失ったヴァンパイアキラーを手に、ユリウスはこの城で闘い、死んでいった者達の事、そしてこれから新たな戦いに赴くであろう若人たちの事を想った。

 

 ……しばらくの後、巨大な鐘を鳴らした様な轟音が城中に鳴り響いた。そして主を失った城は、再び日食の中へと還っていった。

 

 

 西暦2035年。ユリウスの1999年から続いていた長い闘いは……今ようやく本当の終わりを迎えたのである。

 

 

 

 

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