悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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修練”心”

 

ラングの碧眼が再度確認する。

 

 山羊のような節くれだった角、ライオンのような鬣、醜悪な顔、そして何よりあのデカさ……間違いない!”奴”、ベヒモスだ!!

 

 そんな馬鹿な……奴は確かにユリウスに倒されたはず! 死んでいるのは自分も確認した、それとも奴のほかに仲間が存在していたのか?

 

 

 驚いていたのはユリウスも同じであった。まさか倒しきれてなかったのか? いや、そんな事は絶対に無い!オレは確実に奴を仕留めたはずだ!

 しかしベヒモスが闘技場の光の下へその体をさらすにつれ、上空から闘技場を見下ろしていたユリウスはすぐにその理由を理解する。ベヒモスは腰から後ろ……後半身がまるごと無く、剥き出しになった背骨と内臓を引きずりながら前進していた。―――ゾンビ化していたのだ。

 

 

 この城は自らのしもべまで死後、奴隷として使うのか……自らが奪った命とはいえやりきれない思いが芽生える。しかし当のラングはそんな余裕があろうはずもない。足が小刻みに震え立っているのが不思議なくらいだ。この歓声の中でも聞こえるくらい奥歯がカチカチと鳴っている。

 

「コイツが……コイツに皆が……スミスがッ!!」

 

 数時間前の惨劇が蘇る。グシャグシャに潰される味方、逃げ惑う仲間の悲鳴、スミスの腕……

もしユリウスと出会わなかったら自分もどうなっていたか解らない。殺したい!こいつを殺して皆の仇を討ちたい……ッ!!

 

だがすぐにもう一方の感情がその怒りを打ち消す。

 

「今の俺の力で奴に勝てるのか……?」

 

 奴から受けた痛みの記憶がフラッシュバックする。太い角で軽々と吹き飛ばされ、何も出来ずに這いつくばり、赤黒い血ヘドを吐いた苦々しい記憶……。

 

 

 

 理想と現実……この憎き仇に湧き起こる怒りが”理想”なら、今すぐ逃げたい……俺のような凡人にどうにかできる相手ではない……と考える絶望が”現実”であった。そして現実は常に理想を駆逐する。

 

 だがここ煉獄闘技場で逃げる事など実質不可能であった。それに自分一人ではない、仲間の命もかかっているのだ。

やるしかない……例え勝ち目がほとんど無くても……!やらなければやられるだけだ!!

 

 

ラングは強制的に選択せざるおえなかった”理想”を胸に、シルバーガンの引き金を引いた。

 

 

 幸いゾンビ化のセオリーは化け物にも適用されるらしく、以前と比べ奴の動きは格段に鈍かった。

銀の弾丸がベヒモスの腐った肉塊を吹き飛ばす!……が、ここでゾンビ化のもう一つのセオリーがラングの前に立ちはだかる。

 

 シルバーガンから発射された弾丸は、確かにベヒモスに幾ばくかのダメージは与えているようだった……。だがゾンビ化におけるプラスの面、痛覚の欠如からくる圧倒的なタフさの前では、さしものシルバーガンの威力もあって無い様な物だった。そしてこの中途半端な攻撃は、再び”奴”の怒りを呼び覚ます結果となる。

 

 

……例え痛みは無くとも自らに向けられた”敵意”は解る。ベヒモスは離れた位置からいきなり口を大きく開くと、不快な音と供に自らの内容物をラング目掛けぶちまけてきた!!

間一髪横っ飛びで避ける!瞬間雪崩のような奴の血反吐が地面を削り取ってしまった。

 

「アレを喰らったら終わりだ……!」ラングの顔が一気に青ざめる。

 

 尚もベヒモスは自らの血反吐交じりの吐瀉物をラングに向かって吐き続ける! 必死に逃げ惑うラング。観客席のスケルトンからはその消極的な戦いに一斉にブーイングが巻き起こる。

……だがラングもただ闇雲に逃げている訳では無かった。正面が無理なら剥き出しの内臓を狙おうとベヒモスの背後に必死で回り込もうとしていたのだ。

 

 銀色のスライドがアクションし、薬きょうが勢い良く跳ねる!

だが起死回生を狙ったこの一撃も、芳しい効果は得られていないようだった。一体何処を狙えばいいんだ!?ラングの心に焦りが募る。

 

 

 ふと足元の影がやけに揺れている事に気付いた。見れば脱出でもしようというのか、天井から吊るされた檻をユリウスが必死に揺らしている。ユリウスはラングがこちら見ている事に気づくと檻を揺さぶるのをやめ、自分を指差しながら何かを必死で伝えようとしている。だが歓声にかき消されてやはり聞こえない。

 

ラングはユリウスのメッセージを読み解こうと海兵隊で覚えた読唇術を試みた。

 

「オ、レ、ノ、ヤ、ッ、タ、バ、ショ……」

 

 しかしそちらに気をとられていた隙にベヒモスの接近を許してしまう!奴の丸太の様に太い前足がラングに襲いかかった!……だが後ろ足がない分踏ん張りが利かないのか前ほどの威力ではない、ギリギリの所でレライエの銃を盾にし、致命傷を避ける。しかし体をえぐり取られる事こそ無かったものの、ラングは数十メートル吹っ飛ばされアリーナの壁に激突する。

 

『ワアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 その光景にスケルトンたちが一斉に喝采をあげる!壁際のスケルトンなど苦痛でのた打ち回るラングを指差し、身を乗り出してケタケタと笑っている。今すぐにでも眉間に一発お見舞いしてやりたい所だがそんな余裕は無い。痛みをこらえ顔を上げると、奴が再び吐瀉物を吐こうと構えている!

 

 間一髪飛んでよける!!あわれ先ほどまでラングをあざ笑っていたガイコツは奴の血反吐に巻き込まれ、原型をとどめないほど粉々になっていた。しかしそれを笑っている余裕など無い。数秒後には自分がああなるかも知れないのだ。

 

 

 ホールを出る時に貰ったポーションを飲む。痛みは無くなったがこのままではジリ貧だ、必死に走りながらユリウスのメッセージの意味を考える。

 

「オ、レ、ノ、ヤ、ッ、タ、バ、ショ……俺のやった場所?」

 

ラングはユリウスと初めて会った時の事を思い出した。あの時、ユリウスの攻撃はまるでベヒモスの急所を的確に狙っているかと思うほどの威力だった…… いや、もしや本当に急所を狙っていたのか?試してみる価値はある!!

 

 ラングは敢えてベヒモスの正面に回ると、おぼろげな記憶を必死に思い返し、ユリウスが攻撃していた箇所へ銃撃をくわえた。眉間、鼻先、角の付け根……すがる思いで引鉄をひく!

 

 

「グワァオアアオォォ――ッ!!」

 

 

 当たりだ!!いままでビクともしなかった奴が始めて苦痛の声をあげた!やはりあれは気のせいなどではなく、ピンポイントで急所を狙っていたのだ!

 

 痛覚がそこだけ残っているのか……それとも生前の記憶なのか……目に見えてベヒモスの動きが鈍る。可哀相だとは思わない。仲間達の恨みを晴らす絶好の機会、今ここで百倍にして返す!!

 

ラングはここぞとばかり途切れ無い射撃を繰り出した!!あと一歩で倒せる……そう直感したその時!

 

「ぐぅッ!?」

 

 ラングの連続射撃に耐えられなかったのか、シルバーガンのスライド部分に亀裂が入り吹っ飛んだ!破片がラングのまぶたをかすめる!

「くそ!あともう少しの所で!」ラングは壊れたシルバーガンを即座に捨てると、肩に担いでいたレライエの魔銃をすぐに装備しなおした!

 

 この広い空間では跳弾にあまり期待はできない、ラングは直接照準でベヒモスを狙う。

スコープから覗くベヒモスはかなりのダメージは受けているものの、瀕死という訳でもない。

突然攻撃がやんだのを不信に思っているのかこちらを警戒しているが、放っておけばすぐにまた例の吐瀉物を吐いてくるだろう。

 

 こんな緊迫した状況だというのにラングは嫌に冷静だった。きっとそれは彼の兵種が狙撃手(スナイパー)だからだろう。いままで何度も経験した狙撃というこの行為が、彼を本来の自分……冷徹で非情な狩人へと戻していた。

 

 いつまでたっても攻撃を再開しないラングに、ベヒモスは相手が攻撃手段を失ったと見たのか例の攻撃をしようと大口を開ける……が、

 

”タアァァァァンッ!!”

 

 その行動を待っていたかのようにラングの乾いた銃声が闘技場に響いた。レライエの弾丸はベヒモスの喉から脳幹、延髄を串刺しにする。

 

「……………………ッッッ!!?」

 

ベヒモスは自らに起きた事態を飲み込めないのかその場でのた打ち回る!

 

”タアァァァァンッ!!”

 

 非情の弾丸がまたも放たれた。ベヒモスが呻き声をあげながらさらに悶え苦しむ……!

とどめの三発目……!!とここでラングにも限界が来ていた。視界が歪んで照準が定まらないのだ。練習の時は軽く魔力を込めただけでも三発撃つのがやっとだった。ここでは既に全力で二発撃ってしまっている、どう頑張っても後一発撃てるかどうかだろう……。しかも厄介な事に目元の出血が急に激しくなり、右目の視界が赤く染まり始めた。

 

 ベヒモスはもはや勝機なしと見たのかその場でうずくまりじっとしている。ラングはふらつく両足でなんとか踏ん張り、次弾を撃とうと気を集中させていた……そして何とか魔力の装填が終わった――その時!

 

「グヴォヴァアァアアァァッッッ!!」

 

 ベヒモスが吐瀉物ではなく自らの腸や内臓をラング目掛けて飛ばしてきた!!ぶちまけられた内臓はまるで意思を持つ触手のようにラングめざし襲い掛かる!!しかも内臓が陰になってベヒモスの急所が見えない!

 

 ラングは目を閉じ指の感覚に全てをゆだねた。どうせ傷口から入った血のせいで目はほとんど見えないのだ。記憶と経験を信じ引きがねを引く……!

 

”タアァァァァンッ!!”

 

三度目の乾いた銃声が場内にこだました……静まりかえる闘技場……

 

 

 

 

 ラングがゆっくりと眼を開ける……、ベヒモスの放った内臓は銃を取り込みながらもラングの顔前で止まっており、その先には背骨を粉々に破壊され動きを静止したベヒモスの亡骸が横たわっていた…………

 

 

「くはぁッ!!」

 

 気力の限界だったラングがその場に膝を着く。まるでフルマラソンでも走ったかのように疲れが押し寄せてきた。とても歓喜の雄叫びをあげられる状態ではない。……だが銃に寄りかかりながら荒い息をするその顔は、何かをやり遂げた男の充足感に溢れていた。

 

「スミス……!みんな……!仇は討ったぞ!!」

 

声ひとつ出せないほど疲れ切っていたラングは、涙を流しながらそう心の中で呼びかけるのだった……

 

 

 

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