悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999 作:41
突入!時計塔
暗く、陰鬱な棺の中……私は絶望に打ちひしがれながら深い眠りについていた……
母を失い狂気に乗っ取られた父を止めるため単身戦いを挑んだが、当時の私の力では叶うはずも無く、逆に返り討ちにあい城の地下へと逃げるしかなかった。
私は悔いていた……ふがいない己の力に……母を守れず、父を止める事さえ出来ない
自分自身の弱さに………
しかしそんな絶望の中で喘ぐ私に不意に三筋の光が降り注ぐ。
ラルフ・C・ベルモンド……
グラント・ダナスティ……
サイファ・ヴェルナンデス……
彼らはドラキュラを倒すべくこの悪魔城へと乗り込んできた勇敢な人間達だった。その力を確かめるため、敢えて私は彼らに戦いを挑んだ。
……結果は満足できる物だった。彼らは見事私を打ち倒し勝利を掴む。その強さに一縷の希望を見た私は、その場で彼らにドラキュラ討伐の協力を申し出た。
初めて出来た志を同じくする仲間…… 私達は襲い来る数多の魔物や狡猾な罠の数々に、何度も傷つき挫けそうになったが、その度にある時は私が彼らを支え、またある時は彼らが私を支えた。
◆
「アルカードの旦那!やっぱりこっちの道で当たりのようですぜ!」
先行して偵察に出ていたグラントが天井から音も無く着地し、私にそう伝える。
このひどく飄々とした猫背の男、”グラント・ダナスティ”は、何の退魔の力も持たぬ、正真正銘ただの人間だった。職業は”軽業師”との事だったが、果たしてその技がこの悪魔城に一体どれだけ通用するのかと半信半疑……いやむしろ何故かような人間がこのパーティーに加わっているのかと、当初私は疑いの眼で彼を見ていた。
…………だがそれは私の浅慮だった。彼は非力な人間の身でありながら、自分の持ちうる技術全てを活用し、身を粉にして仲間のために働いた。危険な偵察はもちろん、援護に撹乱、時には自らが囮となって我々のために道を開く。一体何が彼をここまで突き動かすのか……素性を聞いたわけでは無いから詳しい事は解らない。だがある種道化じみたその言動の裏に、何かしらの強い決意が秘められている事だけは確かだった。
「ラルフの兄貴やサイファはまだ帰ってきませんね……あっちはたぶん無駄骨でしょうが……」
複雑な構造のこの城はあちこちに行き止まりや罠への誘導路があり、私達は難渋していた。そのため私とグラント、ラルフとサイファの二組に別れ、城主の間への道筋を探っている所だったのだ。
「そういやサイファって……なんかこう、やけに神秘的に見える時があるっていうか……オレ、時々ドキッとする事があるんですよ……あ、いや、もちろんそっちの趣味はないんですけどね?」
自分で言うのもなんだが私はあまり会話が上手い方ではなく、多弁では決して無い。しかしそんな私にすらこの男はよく話しかけてきた。ろくに返事もせず、反応も薄いというのによく続くものだな、といつも思う。
……そんな取り止めの無いグラントの一方的な話を、いつものように軽く聞き流していた……その時だった――
「お迎えにあがりましたアルカード様………」
聞き覚えのある、エコーがかった不気味な低い声……私とグラントは反射的に声のした方向を向き、戦闘態勢をとる!!
それまで何も無かった石壁の前に、紫色の瘴気が次第次第に集まりだし…………1体の魔物を形作った。 ローブを羽織った骸骨のシルエット……ドラキュラの腹心「デス」だ!!
デスはわざとらしい慇懃な態度で私に話しかけてくる。
「ほうほう……そこな男が伯爵様……お父上に歯向かう身の程知らずの人間でございますか。敵方への間諜と誘導……お疲れ様でした…… さ、お父上がお待ちです。どうぞこちらへ……」
デスの発言にグラントの顔色が変わる。まさか我々を謀って仲間割れを起こさせる気か!小ずるい手を使う……ッ!!
「ふざけるな!!」と声を上げようとしたが何故か声が出ない!いや、声どころか金縛りにでもあったかのように指一本動かせなかった。デスめ!いつのまに呪縛の呪いをかけていたのか!?私はどうする事も出来ず、ただその場に立ち尽くすのみだった。
「旦那……!旦那が奴らの間者だなんて……!しかもドラキュラの息子だなんて!!冗談……冗談ですよね!?」
グラントが訴えるような顔で私の顔を覗き込む。だが私はその必死の呼びかけに、否定も肯定もすることができない。デスはその様子を見てニタニタと笑っている……
「フフフ……受け入れろ人間、アルカード様のその沈黙こそ真実という証。貴様らはまんまと謀られたのだ………」
「そんな……!旦那……嘘だと……嘘だと言ってくれッ!!」
グラントが泣きそうな顔になりながら後ずさる……そして懐からナイフを取り出すと、鋭い殺気を放ちながら私に向かって構えた。
「 ク ハ ハ ハ ハ ハ ハ ッ!」
デスの嘲笑が薄暗い城内に木霊していた……
◆
時計塔最上階……時を告げる為の大きな鐘が吊るされている事からまたの名を鐘楼の間という。
屋根と鐘を支える4本の大黒柱の他は、装飾的な意味合いが強いアーチ状の副柱が等間隔に置かれるのみで、部屋を遮る物は一切無い吹きさらしの空間である。そのためここからは悪魔城の全景と遠く広がる夜空、その全てを一望できた。遥か遠くにはドラキュラ伯爵の鎮座する城主の塔が、光り輝く満月を背景にそのシルエットを浮かべている。
そんな冷たい夜風が吹き抜ける広間の端に、この塔の主デスが一人、紫のローブをはためかせながら闇に浮かぶ城を静かに見つめていた。
ほどなく……どこから迷い込んだのか一匹のコウモリが鐘楼の間に現われた。やがてコウモリは白い霧を身に纏うと、凛々しい貴族の青年へとその姿を変える。
「これはこれはアルカード様……御久し振りでございます……」
デスがわざとらしい慇懃な態度で主君の息子に礼をとる。しかしその挑発的な行為にもアルカードは眉一つ動かさない。その反応を予想していたかのようにデスは変わらぬトーンで話を続けた。
「わざわざかような場所までお越し下さるとは、一体何の御用でしょうか……?」
デスがしらじらしく首をかしげる。
「……とぼけるな、人間達から奪った物を返して貰おう」
いつになく強い口調でそう言い放ち、アルカードがデスに一歩詰め寄る。
「奪った物……? ああ、この品の無い玩具の事ですかな?」
デスが左手を掲げると、くすんだ緑色をしたドラム缶の様な物体が4つ、デスの手の平に召喚される。アルカードの眉間に皺がよった。
「で、取り返したとしてその後コレをどうされるおつもりで?…………まさかこの城に向けて使う訳でもございますまい……」
ふわふわと浮かぶ核を弄びながら、デスがアルカードに問いかける。
「その武器をどうするかは人間が決める事だ……どちらにせよ貴様には関係ない……渡せ……」
アルカードがさらに一歩距離を詰めた。
「……あいも変わらず随分と人間どもを信頼されているようですな……しかしこれは奴らには過ぎた玩具です。取り戻した所で持て余すだけ……ならばいっそ有効に使うと致しましょう……
……このように……ッ!!」
デスが核を持つ手とは逆の手で、無理矢理空間をこじ開けた。宙に現われた空間には忠守や教会関係者の姿が見える。そして次の瞬間デスの左手が青く発光し始めた。核をダンスホールに向けて撃つ気だ!
「この城を封印しようなどという思い上がった連中には似合いの末路よ!不浄の業火に焼かれて死ぬがいいッ!!」
「させるかッ!!」
アルカードが懐から何者かの肖像を取り出し、天高く掲げた。時計塔最上階を七色の光が包み込み、その威光にデスが一瞬怯む!デスの集中が途切れたからか、核の光は消え、開いていた空間も閉じる。アルカードの突飛な行動にデスが慌てて問いただす。
「一体何を考えておられる!?この武器を取り返すのではなかったのですか!?」
まるで核の爆発を誘導するようなアルカードの振る舞いに、さしものデスも困惑の声を上げた。しかしアルカードは冷たい笑みを浮かべ言い放つ。
「……誰が取り返すなどと言った?私はそれを…………この世から消し去りに来たのだッ!!」
再びアルカードが天高く腕をかざす!その手から放たれた魔力は瞬く間に時計塔最上階を包み込み、デスとアルカードは強力な結界に閉じ込められた。
「これで被害は最小限に抑えられる……覚悟はいいかデスよ!!」
間髪入れずアルカードは四足の獣に姿を変え、デスとの距離を一気に詰めた。残像が見えるほどのスピードに、大鎌で捉えるのは無理と判断したのか、デスはアルカード目掛け無数の小鎌を召喚し、浴びせかけた!
「甘いッ!!」
デスの攻撃に対し、アルカードは瞬時に元の姿に戻ると、爺から貰い受けた例の長剣を鞘から引き抜く!刹那、怒涛の斬撃が放たれ、デスの放った百を超える鎌は一つ残らず叩き落された!
「ぬう……ッ!?その剣はヴァルマンウェ!! しかもお父上の威光まで……ッ あの守銭奴め、どこに隠し持っておったのか!!」
死神の眼でも捉えられない神速の剣さばきと図書館の主の裏切りに、今までの余裕ぶった態度が一変、今日始めてデスの顔が歪む。
「……今回ばかりは遊んでいる暇は無い……すぐに終わらせてやる……!」
アルカードとデス……因縁の対決の火蓋が切って落とされた!!
◆
アルカードが最上階に辿り着く少し前……3つの影が時計塔に到着していた。
「ラング!ハルカ!用意はいいか!行くぞ!!」
「おう!」
「うん!」
デスを倒すため……
奪われた核を取り返すため……
そしてアルカードを救うため……
塔が醸し出すドス黒い重圧に押し潰されそうになりながらも……3人は悪名高い時計塔の中へと1歩足を踏み入れた……