悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999 作:41
音速を超える速さで突き進む弾丸を追いながら、既にユリウス達は時計塔のかなり上部まで到達していた。そのあまりのスピードにハルカは目を開けることも出来ず、ユリウスの背から振り落とされまいと必死にしがみつく事しかできない。……ただ意外に広いその背中に、こんな状況でありながらほんのちょっとだけ頼もしさも感じていた。
しかしハルカがそんなユリウスの意外な魅力にときめいていた頃、塔を駆け上がるスピードが少しずつ鈍り始める、それまで進行上に見え無かったメデューサヘッドの影が、ユリウスの視界にちらつき始めたのだ。どうやらラングの銃の射程距離外まで来てしまったらしい。
あともう少しだというのに……見れば微かにではあるが暗闇の先に天井を確認できる。
……できる事ならデス戦の為に温存しておきたかったが、ここまできたら出し惜しみしている場合ではない。ユリウスは自らの背にしがみつく”切り札”の少女に、今まで禁じていた魔法を使わせる事にした。
「ハルカ!!もう我慢しなくていい!!思いっきりブッ放せッ!!!」
突然ユリウスにそう告げられ、ハルカは本当に撃って良いのか少し躊躇する。が、ユリウスのニヤリとした悪い笑顔と、その顔が示した先にいる憎い奴らに、今までされた仕返しとばかり、溜まっていた鬱憤を魔力に込め全力で叫んだ!!
「サアァンダアァァ――ッ・クロオオオォォ―――スッ!!!」
頭上に掲げた杖の先から極太のイカズチが放出される!十字状に放たれた電撃は回転しながら周囲を飲み込み、哀れその途上にいたメデューサヘッドは1匹残らず消し墨と化した。
満ち足りた笑顔を浮かべ、ハルカは恍惚感に酔いしれる。一方ユリウスは少女の想像以上の魔力にほんのちょっとだけ恐怖を感じながらも、ラストスパートとばかりに足元の歯車を力強く踏み込み、塔を駆け登る速度を上げた。
ラングの脱落やメデューサヘッド等、思いのほか攻略に手間取ったものの、とうとうユリウス達はデスとアルカードが待つであろう、時計塔最上階まで辿り着いた……しかしそこに広がっていた光景に二人は眼を疑う。
「屋根が……無い!?」
時計塔に到着し、その威圧的な外観を見上げた時には確かにあった、巨大な鐘を吊るす屋根と柱が丸ごと消し飛んでいたのである。
残されていたのは微かに面影を残す四角の柱と、ドロドロに溶けた大鐘、それに大量の瓦礫だった。その荒涼とした舞台の中央、アルカードとデスが互いに矛を交えている。
◆
「まさかここまでとは……ッ!!」
デスの放った核の攻撃を受け、アルカードが肩膝をつきながら呻く様に言葉を吐き出す。父であるドラキュラの力が込められた肖像を使い、敢えて爆発させた核の威力を相殺する。それがアルカードの導き出した作戦であったが、死神の魔力が上乗せされた核の威力はアルカードの想像を絶するものだった。
万が一に備え、事前に幾重もの対魔法障壁を張っては置いたが、核の炎は易々と障壁を突破し、アルカードの身を焦がした。もし彼が普通の人間だったなら核の放つ熱線と放射線によってとうに絶命していただろう……今回ばかりは自身に流れる呪われた血に救われる形となった。だが核は今爆発した物だけでは無い。残り3つもの核が文字通りデスの手中に納められたままなのだ。
まだ体は動く……幸い父の肖像はあれほどの爆発を受けたにもかかわらずその力を留めていた。アルカードは核の炎に焼かれ、いまだ燻る体を引き摺りながら、再びデスに剣を向けた……!!
――ユリウスとハルカが最上階に到着したのは、まさにその直後だったのである。
◆
ユリウスが状況を確認する。最上階ほぼ中央でアルカードとデスが剣を交えているが、どうやらアルカードの方が大分劣勢のようだ。ユリウスはすぐにアルカードの加勢に向かおうとする!が、数歩進んだ所で、見えない力によって弾き飛ばされた! ……この感覚は身に覚えがある、闘技場の檻を攻撃した時と同じだ。
「……何これ凄い結界だよ。わたしでもここまではムリかも……」
ハルカが珍しく感嘆の声を上げる。彼女がここまで言うという事は、おそらくこの結界を
ユリウス達が侵入を防ぐ結界に手をこまねいていると、こちらの存在に気付いたデスが何事か話し始めた。
「被害を抑える為の結界が仇となりましたな。しかしベルモンドですら越えられないとは……さすがはアルカード様でございます」
頼みもしないのにデスが余裕ぶった態度で事の顛末を説明し始める。なるほど、足元を良く見ると結界が張られている場所を境に、向こう側だけ床のタイルが剥がれ、地のレンガが剥き出しになっている。 タダモリや自分達に被害が及ばないようにしたのだろうが、これでは助けに行く事も出来ない……そう、ユリウス”一人”だったならば……
「ハルカ!あの中に俺を飛ばせ!」
突然の発言に、ハルカが眼を見開きユリウスを振り返る。
「は!?ユリウス正気……? だってあの中は……ッ!」
ハルカの危惧している事は解っていた。あの狭い空間で小型とはいえ核が爆発したのだ。そういった科学知識に疎いユリウスにも、生身の人間があの中に入ったらどれだけ危険は解る……しかし!
「どうやらお仲間は結界のせいでここまで来れないようですな。ここは一つ私めが手を貸すと致しましょう……いかに強固な結界といえど、この爆弾を三つ同時に爆発させれば……」
初めて奴と出会ったダンスホールの時と同じ様に、核を持つデスの左手が青白く発光し始めた。今度はもうハッタリなどではないだろう。もはや一刻の猶予も無い!
「やれッ!ハルカ!!」ユリウスの檄が飛ぶ。ハルカは一瞬だけ躊躇したが、ユリウスの覚悟を決めた顔を見ると、目を閉じ静かに詠唱を始めた。
……ほどなくユリウスの体を暖かい息吹が包む……
「アルカードさん程じゃないけど防御結界を張ったから、あの中でもちょっとの間なら大丈夫……だと思う。でもそんなに長くはもたないからね!?」
それだけでも十分だ、とユリウスが頷く。再びハルカが詠唱を始めた……やがて魔力の充填と座標の計算が終わったのか、ユリウスに向け杖をかざす。
「じゃあいくよユリウス!用意はいい!?」
「おう!まかせておけ!!」
サムズアップで答えるユリウスを、杖からほとばしる魔力が包みこむ!
「アルカードさんをお願い!!」
ハルカの願いを背に受け、ユリウスの体が結界の中へと飛ぶ!
「デス!おちょくられた借り返しに来たぜ!!」
「――何ッッ!?」
さしものデスも突然目の前に現れた青年に言葉を失う。ユリウスは結界の中、それもデスの眼前数メートルの位置に飛ばされたのだ。
”ビシィッ!!”
間髪入れず放たれたヴァンパイアキラーの一撃がデスの左手を打ち据える!完全に虚を突く形となったユリウスの攻撃は、デスの手にある核爆弾のうち二つを弾き飛ばした。だが3つ全てを飛ばすまではいかず、残り一個は体勢を立て直したデスに押さえられてしまう。
「く……ッ!だが惜しかったなベルモンド!! もうこの際1つでもかまわん!」
デスの左手が輝きを増し、残された核が臨界を迎える……!
「いかにベルモンドとはいえ、この爆発に耐えられるかな……!?」
デスが勝ち誇った様な笑みを向ける。だがユリウスも諦めない!腰のホルダーから聖書を外すと、自分とデスとを遮る壁になるようにばら撒いた!宙を舞う数百のページは、まるで意思を持つかのように核の周囲にまとわりつく!
「無駄な足掻きを……ッ!!」
今更そんな事をしても遅いとばかりに、デスが最後の魔力を核に注入した。やがてデスの左手から溢れた光が次第に辺りを包み込み…………時計塔最上階は核の炎に包まれた…………
◆
◆
◆
焼け焦げた聖書がひらひらと舞い落ちる中……全壊し、所々床が抜け内部の機械が露出した時計塔には、誰一人として人間の姿は見えなかった。だがその荒涼とした瓦礫の中、次第に紫の瘴気が集まり、やがて巨大な人影を形作る。
「塵一つ残らず蒸発したか……他愛ない……」
大鎌を持った骸骨の魔物……あの爆発の中でもやはり死神は無事であった。
デスは瓦礫以外何も残っていない広間に降り立つと、辺りを無言で見回す。アルカードも、ベルモンドら仲間の姿も見えない、どうやら完全に消滅したようだ。少し先に目をやると、ユリウスに弾き飛ばされた核のうち一個が、外装が溶けながらも原型を留めたまま転がっていた。
正直な所このような下賎な武器に二度と触れたくないというのがデスの偽らざる本心であったが、下等な人間達を始末するにはお似合いの武器だ。
伯爵様に逆らう人間共がこの不浄の炎に焼かれ悶え苦しむ様を想像するだけで心が踊る。デスはその骨だけの口元を怪しく歪めながら足元の核に手を伸ばす……しかしその指先があと数センチで核に触れるという所で、デスは不意に殺気を感じ、瞬時にその手を引いた。
”ズガアァッ!!”
デスが手を引いた次の瞬間、風を切る音と供にやや小ぶりの斧が石畳に突き刺さる!デスが斧が飛んできた方向を振り向くと、時計塔の遥か上、夜空をバックにユリウスが、そしてそのユリウスを抱えながら飛ぶ、巨大な翼を持った二本角の魔物の姿が見えた。
「さすがに今のはやばかったな……でも礼は言わないぜアルカード?元々お前が勝手に突っ走ったんだからな」
ユリウスが自らを抱えて飛んでいる魔物を友の名で呼ぶ。その言葉にアルカード……とおぼしき魔物は若干の驚きを覚えた。だがすぐに普段の落ち着きを取り戻すと、いつもと変わらぬ淡々とした口調でユリウスに問いかける。
「……何故追ってきた……来るなと言っておいた筈だ……」
「今度から伝言頼むなら嘘のつける奴に頼むんだな、あの日本人は詐欺師には向いてないよ」
アルカードの問いに、冗談交じりにユリウスが答える。しかし話はそれだけでは終わらなかった。
「大体お前なあ……俺にはチームプレイだの何だの偉そうに言っといて、何で自分だけ好き勝手に一人で進んでんだよ! 何だ?俺達が信用できないってのか!?」
アルカードのこれまでの言動に対し、腹に据えかねる物があったのか、ユリウスの愚痴とも説教ともつかない独白が唐突に始まる。
「一緒にいた時間はそんなでもねえけど……俺はお前の事を仲間だと思ってる……ハルカだってそうだ!きっとラングも!お前は違うのか!?」
アルカードはただ黙って聞いている。
「言っとくが昔の俺たちと一緒だと思うなよ?お前らと違って人間はすぐ成長するんだよ!」
「俺もハルカもいつまでもガキじゃねえんだ……少しは頼れよ!……信用しろよ…………」
始めのうち荒ぶっていたユリウスの声は、いつの間にか静かに……搾り出すような物に変わっていた。
人間の機微に疎いユリウスにも、アルカードの行動が自分達を思っての事だというのは解っていた、普段は素っ気無い態度を取りながら常に自分達を見守ってくれている事も……
しかしだからこそこんな時でも仲間に頼ろうとしない……苦難の全てを自分一人で背負い込もうとするこの男に無性に腹が立った。
「……すまなかった……」
アルカードが静かに呟いた。それは普段通りの素っ気無い……アルカードらしい口調だったが……彼なりの精一杯の謝罪だった。
「もういい……細かい話は後だ、取り敢えず今は……」ユリウスが眼下の魔物を睨む。デスの方もその虚空しかない眼窩の奥を揺らめかせ、上空の二人をじっと見据えていた。
「ク ハ ハ ハ……まさか真の姿を晒してまで仲間を助けるとは……遊びではないとおっしゃったのは真実と見える……」
デスが苦笑しながら足元の斧に指を向ける。途端ユリウスの放った斧は砂の様に風化し、あっという間に消えてしまった。そして再びデスがゆっくりとその手を核へと伸ばす……が!突如オレンジ色の爆炎がデスを包んだ!
「そうはさせないよ死神さん?」
炎の中から現われたハルカが文字通りデスの行く手を遮る。核が爆発する直前に自身にも加護を与えたのか、ほとんどダメージは無いようだ。
「この魔力の感触……ヴェルナンデス?いや、それだけではない……小娘、まさか貴様!」
ハルカの魔力から何かを感じ取ったデスが、珍しく感情的な声を上げ怒鳴る。しかし当のハルカはくすくすと笑いながら人差し指を口元にやり、からかうように告げた。
「はい、おしゃべりはそこまで♡ それ以上知りたいなら力ずくでやったら?そういうの得意なんでしょ死神さん?」
死を司る神を前にしても全く物怖じしないハルカの態度に、一切変わらないはずのデスの顔色がみるみる憤怒に染まっていく……そして声を荒げながらデスは目の前の少女に死の宣告をした。
「小娘……この死神が女子供相手に手加減すると思ったら大間違いだぞ……?伯爵様の力をくすねたその罪、例え真実を吐いたとしても絶対に許さん!百万回の苦痛をもって後悔させてやる!!」
少女を見下ろしながら、デスの放つ禍々しいオーラが一層強くなる、だがハルカは死神の恫喝に一歩も引かず、再びデスに対し言葉を返した。
「……そっちこそ
「…………!!」
ハルカの天使のような微笑が、一転、魔王のような影を帯びる。
「死神のあなたが…………死ぬよ?」
……ここ時計塔最上階で、世界の命運を賭けた戦いの第二幕が始まろうとしていた……