悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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激闘!時計塔

 

 ハルカは腰のポーチから赤い液体の入ったガラス瓶を取り出し、一息に飲み干した。喉が焼けるような辛味のある液体が体に染み渡ると、それまでハルカを覆っていた脱力感が幾分楽になる。

 

「大地の精霊よ……我が願いに応じ光の鎚となって目の前の敵を砕け……」

 

 目を閉じ、静かに瞑想を始める……やがて膨大な量の魔力が雷となって時計塔を覆い始める。あまりに強大過ぎるハルカの魔力に上空にいるユリウス達は迂闊に近づく事も出来ない。

 

 やがて詠唱を終えたハルカは目を大きく見開き断罪の言霊を告げた。

 

 

「トオォォ――ル・ハンマアアァァ―――ッ!!!」

 

 

 巨人をも一瞬で消し炭に変えた、ハルカの最大魔法がデス目掛けて荒れ狂う大蛇のように雪崩れ込む!!だがデスは目の前に迫る電撃に対し、一切逃げる素振りを見せない。

 

 

「……盗人風情がなめるなよ?この程度の魔力でドラキュラ様の腹心、死神デスを倒せると思うなアァァァ―――ッ!!」

 

 

 デスは逃げるどころか真正面からハルカの電撃を受け止めた!さらにお返しとばかり自らの魔力を上乗せし、ハルカに向け叩き返す!大蛇のようだった雷が、今度は逆に全てを飲み込む暴竜となってハルカに牙を剥く!

 

「嘘!?トールハンマーが……ッ!」

 

 ハルカ目掛けて大口を開けた雷竜が迫り来る!万全の状態では無かったとはいえ、これまで如何なる敵も必ず葬ってきた文字通りの必殺技があっさりと跳ね返された……その驚きとショックでハルカは防御結界を張るのが一瞬遅れた!

 

「あぁうっ!!」

 

 電撃に身を焼かれる事こそ無かったものの、受け止めた魔法の衝撃に耐え切れず、ハルカの華奢な体が空高く舞い上がる!このままではこの高い時計塔から真っ逆さまに転落……仮に落ちなかったとしても鋭く尖った瓦礫に叩きつけられ重症は免れないだろう。

 

「アルカードッ!」

 

 ユリウスが叫ぶや否や、阿吽の呼吸でアルカードがハルカ目掛けてユリウスを投げ飛ばした!弾丸のようなスピードで射出されたユリウスがハルカを追う!

 

「させるか!死ねベルモンドッ!!」

 

 ユリウスの救援を妨害しようとデスが空にむけ魔力の矢を放つ! しかしデスの攻撃はユリウスに当たる直前、アルカードの放った火炎弾によって相殺された。そしてハルカの体が地面に叩きつけられるまさにその瞬間、ギリギリの所でユリウスの手が少女に届く。ユリウスは瞬時にハルカを胸に抱き抱えると、そのまま身をひるがえし落下の衝撃に備える!

 

「ぐううあッ!!」

 

 節くれだった硬い地面がユリウスの背中を切り裂き、思わず苦痛の呻き声が漏れた。しかし不幸中の幸いかその衝撃による摩擦によってブレーキがかかり、ギリギリ最上階からの転落は免れる。……だが落下の際突き出た瓦礫に頭を打ちつけでもしたのか、倒れこんだままユリウスはピクリとも動かない。ハルカもトールハンマーの衝撃のせいか、同じように気を失っているようだ。

 

 この機会を逃す死神ではない、何処からともなく現われた大鎌を握ると、その首を掻き切ってやろうとすぐさまユリウス達へ追撃の手をのばす!……しかし……

 

 

 「……どこを見ている……貴様の相手は俺だ!」

 

 

 巨大な魔物となったアルカードがユリウス達とデスとの間に割って入り、デスの持つ大鎌を叩き落した! 不意の横槍に若干気が削がれたが、鎌がダメなら魔法でと、デスはすぐさまユリウスに向かい諸手をかざす!が、それもアルカードによって掴みとられてしまう。表情の無い筈のデスの顔が苛立ちで歪んだ。 

 

 

「どうあっても邪魔をされるのか!なぜ御父上の気持ちが解らない!!」

 

「貴様こそ父の何が解ると言うのだ!!」

 

 

 俗に言う力比べの格好になった二体の魔物が、雁首をつき合わせ睨み合う。

 

 双方体格は優に3メートルを超え、大きさだけならほぼ互角であった。しかし骨だけの体でありながらデスの腕力は凄まじく、見るからに剛力無双といったアルカードにも一歩も引かない、いやむしろ徐々にアルカードを押し始めていた。しかもデスの攻撃はこれだけでは終わらない。

 

「…………ぐぅあッ!!?」

 

 突如背中を襲った痛みに、アルカードが魔物の姿でもそれと解る苦悶の表情を浮かべる。即座に何が起きたのか背後を確認する――その光景を見てアルカードは戦慄した。いつの間に召喚したのか、無数の小鎌がアルカードの背後を縦横無尽に飛び回っていたのだ。

 

「最後の忠告です……お父上の下に還られよ……!!」

 

 デスの眼窩が怪しく揺らめくと、宙を漂っていた小鎌達が一斉にアルカードへと襲い掛かった!小振りながらも鋭利な鎌の群れはアルカードが動けない事をいいことに、その翼や背中に対して好き勝手に容赦ない斬撃を浴びせ続ける。

 

 ……肉が裂かれ、血が滴る、見る見るうちにアルカードの背と翼は、まるで何年も放置された廃屋のカーテンのようにボロボロに引き裂かれていった。しかしアルカードはその間もただひたすら無言で耐え続ける……まるで”何か”を待っているかのように……

 

 

 その”何か”は皮肉にもアルカードのあげた悲鳴で目を覚ましていた。瞬時に状況を整理したユリウスはすぐさまアルカードを援護しようと太もものナイフに手を伸ばす!だがナイフを放つ寸前、デスの持っていた大鎌がまるで自らの意思を持つかのようにユリウスの喉元目掛けて飛んできた!

 

「くッ!!」

 

ギリギリでしゃがんで避ける!が、ユリウスを通り過ぎた大鎌は空中で向きを変えると、またすぐにユリウスの方へ戻って来る。これはまずいと傍らで倒れているハルカを抱え、なりふりかまわず遁走を試みた。その醜態にデスが嘲笑の声を上げる。

 

 

「クハハ……!ベルモンド、貴様はその大鎌とでも遊んでい……グォハッッ!?」

 

 

 デスがユリウスに気を取られたほんの一瞬の隙を突いて、アルカードの強烈なヘッドバットがデスの横っ面にめり込んだ! 貴公子らしからぬその野生的な攻撃は完全に死神の真を捉え、衝撃が文字通り骨の髄まで響く。さらに直接アルカードの角が触れた右頬から顎骨にかけて大きな亀裂が走り、幾本もの歯が宙を舞った。

 

 畳み掛けるようなアルカードの攻撃がデスを襲う!実はその間も小鎌による攻撃は続いていたのだが、アルカードはその痛みを一切意に介さず追撃の手を止めない。

 普段の冷静なアルカードとは真逆の荒々しい攻撃に、さしものデスもこれは堪らないと組み合った手を必死に振りほどこうとする! が、何故か手に力が入らない。良く見ればデスの両手に細かいヒビが走っていた。そこでデスが”ハッ”と気付く。

 

「ヴェルナンデスの雷か……!」

 

 先のトールハンマーは跳ね返されてしまったが、そこはヴェルナンデスの末裔、ただではやられなかった。命中こそしなかったものの、ハルカの放った電撃は死神に一矢報いていたのである。

 

 

「止むを得ん……来い!鎌よ!!」

 

 

 何かを決したデスがユリウスを追い回していた大鎌を手元に引き寄せた。自らを狙ってくるのかとアルカードは警戒したが……

 

 

「ッ!!?」

 

 

 獣化したアルカードの巨大な目がさらに大きく見開く!自分を狙うと思っていたデスの鎌は、あろうことか主人の……デスの両腕を切り落としたのだった。

 

 頚木から解き放たれたデスはすぐに後方へ飛び退きアルカードから距離をとった。デスのまさかの行動にあっけにとられたアルカードの両の手には、力無くうなだれたデスの手首だけが残されている……

 

 

 

 手首から先を失ったデスは、だらんと両の腕を下げたまま無言で立ち尽くしている。形勢はアルカード達に有利になった筈だが、その静けさが逆に不気味だった。なぜならデスの表情には一切の不利さが無い。さらにデスから感じる瘴気と魔力はより一層高まり、ドス黒いプレッシャーをユリウスとアルカードに与えていた。

 

 

 

 …………やがて無言を貫いていた死神が静かに語り始めた。

 

 

 

「……さすがにお強い……それに仲間の前で正体を晒してまで戦う覚悟……こちらも……なりふりかまってはおれぬという事か……!!」

 

 周囲に立ち込めていた不浄な空気……核の毒やアルカードの放ったドラキュラの魔力がデスの元へと集まり出す。ただ事ではない場の雰囲気に、アルカードは変身を解き、元の姿へと戻った。ユリウスもアルカードの傍へと近づき警戒を強める。

 

 二人とも背中にかなりの深手を負っていたが、その痛みが全く気にならないほどに緊迫していた。それほどに目の前の敵が醸し出す邪悪なオーラは強大だったのである。

 

 見る見るうちにデスの体が変態していく……いつの間に摂りこんだのか、あの得体の知れない動物の骨で出来た大鎌がデスの体と融合し、失われた手首を形成し始めた。さらに最上階に充満していた瘴気はデスの纏っていたローブと一体化、骨格を保護する穢れた炎となった。

 

 

 

 初めて舞踏館で邂逅した時と同じように、ユリウスは金縛りにでも遭ったかのように指一本動かせなかった。今のうちに倒さなくてはいけない、もし奴をこのままにしておいたら取り返しのつかない事になる…… そう頭では考えているのだが、デスの放つ圧倒的な重圧に、肝心の体が動く事を拒否していた。

 

 アルカードも同じだった。デスと戦うのはこれが初めてではない。過去には一対一で闘い勝った事もある。しかしそのアルカードをして今度ばかりは身がすくんだ。自分が不退転の決意で挑んでいるのを感じ取ったのか、デスも今までに無いほどの覚悟を決めたらしい。善悪は抜きにして一歩も引けない、譲れない想いは目の前の敵も同じなのだ。

 

 

 

…………やがて変態を終えたデスがその姿を現す……その姿を見て、ユリウスとアルカードの背筋は寒気立った。

 

 

 

 ……その姿はお世辞にも美しいとは言えなかった。――以前のデスは言い知れぬ不気味さと邪悪さを兼ね備えていたが、それと同時に何処か気高さというか、品格めいた物も持っていた。

 

 しかし今目の前にいる魔物はそういった物とは真逆……まるでエイリアンの様に肥大化した頭部に左右で大きさの違うアシンメトリーな体。右腕は腕の太さに不釣合いな程大きい鎌で、左腕は気味の悪い白骨化した蛇。さらに体中の関節に奇妙な顔が蠢き、それらを紫の炎が包み込んでいるという非常にアンバランスな……まるで子供が描いた絵を継ぎ接ぎしたような薄気味悪い、見る者を不安にさせる歪な造形だった。

 

 以前の体とはあまりに違うその異形の姿に、二人は思わず息を飲む。しかしそんな二人を尻目に以前よりもさらに低く、エコーがかった声でデスは告げた。

 

 

「もう……説得はいたしませぬ…………その下賎な血を力づくで消し去り……我らの同胞へと迎えいれましょう…………ッ」

 

 

 時計塔の戦いは……終局へと向かっていた。

 

 

 

 

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