悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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今回少し長いです。


決着!時計塔

 

 肉食動物は狩りを行う際、まず群れの中で弱っている者から狙う。

赤子、年寄り、怪我をしている者……そしてそれは目の前にいる闇の眷属も同じだった。

 

「まずは貴様だベルモンド……死ねィ!!

 

 

 デスはまずハルカを抱え思うように動きがとれないユリウスに狙いを定めた。

大蛇へと変化したデスの左腕がバネのように伸び、20mは離れていたユリウスとの距離を

瞬く間に詰める!

 デスの気迫に圧倒されていたユリウスは、この不意打ちともいえる攻撃に思考が一瞬止まってしまった。そしてそのコンマ数秒の遅れは、無防備な急所をデスの前に曝け出す結果となる。

……だが……!

 

「呆けるなユリウス!」

 

 大蛇の牙がユリウスに喰らいつく間際、アルカードの放った剣閃がデスの左手を弾き返す!アルカードの叱咤に我に返ったユリウスは、即座に太もものベルトから数本のナイフを取り出すとデスに向けて投擲した!

 

「小賢しいわッ!今の私にこの程度の武器が効くと思うか!」

 

デスの宣言通り、放たれたナイフはデスの骨格に到達する前に、デスを覆う紫色の炎によって跡形も無く蒸発してしまった。そして攻撃後の一瞬の隙を突き、アルカードに弾かれたデスの左手が再びユリウスの喉笛目掛け舞い戻って来る。

 

「ぐぅッ!!」

 

 ギリギリの所で斧を間に入れ大蛇の攻撃を防ぐ!だがかろうじて防いだとはいえその衝撃力は凄まじく、人間二人分の重量が軽々と浮き上がった。しかも蛇腹状になったデスの左手は、さながら本物の蛇の如き執念深さでユリウス達に追撃を加える。

 

「ユリウスッ!」

 

 苦戦しているユリウスを見てアルカードが思わず声を上げる。だがアルカードにも仲間の安否を気にする余裕は無かった。

 

 

”キイィィィンッ!!”

 

 

ヴァルマンウェと死神の鎌が重なり合い、耳を塞ぎたくなるほどの凄まじい金属音が時計塔に鳴り響く!

 

 

「不意打ちかデス!らしくないな……、いや、むしろ今の方がよほど死神らしいか……ッ」

 

「そちらと同様、こちらもなりふり構ってはいられませんのでな……しかし他人にあまり干渉されなかったアルカード様があの者達には随分と御執心のようで……この二百年の間に一体何があったのですかな……?」

 

「…………貴様に話す義理は無い!」

 

 

 目に見えないほど素早いアルカードの斬撃を、デスは鎌と一体化した右手の指で全て受けきる!これまで如何なる敵にも見切られなかったヴァルマンウェの太刀筋をことごとく見破られ、ハルカと同様アルカードにも内心焦りがつのっていた。

 

 

「くそ!起きてくれハルカ!」

 

 

 一方ユリウスはデスの左腕からただひたすら逃げまどっていた。まるで神話のヒュドラのようにデスから伸びた触手が、休む間もなくユリウスに襲い掛かり、時計塔に幾つもの風穴を開ける。

 

 ユリウスの必死の呼びかけにもハルカは何の反応も示さない。いっそハルカを何処かに隠そうかとも考えたが、更地に近いこの最上階にそんな都合の良い場所は無い。第一その間敵がハルカを放って置いてくれる保証などどこにも無いのだ。まして以前のデスならいざしらず、異形のバケモノと化した現在のデスにそんな紳士的な対応を求めるなど不可能極まりない。

 

 せめてラングがいればハルカを預ける事も出来たのだろうが、生憎今ここにはいない。恐らくこちらに向かっているとは思うが、ラングの足ではそう簡単にここまで辿り着けはしないだろう。やむなくハルカを抱きかかえたまま再びデスに向かい走り出す。

 

 

同士討ちを避けるためか、大蛇の追撃が緩んだ。代わりにユリウスの視線の先には、デスと鍔迫り合いを繰り広げるアルカードの姿があった。

 

 

「飛べ!アルカード!!」

 

 

いきなり後方から飛び込んできたユリウスの絶叫に、考える暇も無くアルカードは瞬時に蝙蝠へと姿を変え上空に飛ぶ!突如開けた視界に現われたユリウスに多少意表をつかれたものの、デスは瞬時にターゲットを切り替えると鎌と一体化した右腕を大きく振りかぶる。

 

死神の右腕が凄まじい風切音と供に振り下ろされたッ!!……しかしその攻撃は空しく空を切る。

ユリウスはスライディングでデスの攻撃をかわしつつ、股の間をすり抜け背後に回った。そうはさせまいとデスがユリウスの方へ向き直った次の瞬間、乾いた破裂音と供にデスの足元で幾つもの爆炎が巻き起こる!

 

 

「ラングからくすねといた手榴弾の味はどうだ!? サービスで聖水も付けといたぞ!!」

 

 

 指をさしながらユリウスが高らかに宣言する。スライディングですれ違う際、地雷のように手榴弾と聖水をデスの足元に落としてきたのだ。手榴弾の放つ白煙と聖水の青白い炎がデスの巨体を包む。……だが爆発の煙が引き、徐々にデスの姿が現われるにつれユリウスの顔は青ざめていった。

 

 

「……マジかよ……」

 

 

青白い炎とくすんだ煙の中から現われたデスはダメージを負っている所か全くの無傷、いやむしろデスを包むその炎はより一層勢いを増していた。

 

 

「どうしたベルモンド……もう手品のタネが尽きたか……?」

 

 

 デスがこちらを向きながらニタリと笑みを浮かべる。やがて変身を解いたアルカードがユリウスの前に現われた。

 

 

 

「どうするアルカード……退魔道具がまるで効かないぞ?ヴァンパイアキラーも通じるか

どうか……」

 

「……恐らく無理だろうな……見ろ」 

「!?」

 

 アルカードが手に持つヴァルマンウェをユリウスに見せた。その状態を見てユリウスの背筋に冷たい物が走る。今まで気付かなかったが、アルカードの持つ剣は刀身の至る所が溶けて曲がっており、美しかった淡い紫の輝きも失われていた。デスの胴体を覆う不浄の炎はユリウスのナイフどころか、伝説の剣までも腐らせていたのである。

 

「…………打つ手無しか……」

 

吐き捨てるようにユリウスが呟く。だがアルカードの瞳からはまだ希望の色は消えていなかった。

 

 

「……打つ手は……ある。 お前も師から聞いているはずだ。高位の術者2人がかりで発動する”禁呪”の事を……」

 

 

「…………共鳴魔法(デュアルクラッシュ)か……!」

 

 

 アルカードの言葉を聞き、かつて師から教えられた記憶が鮮明に蘇る。

 

 

”デュアルクラッシュ”

 

 ”受け手”と”かけ手”、2人分の魔力を練り合わせ発動する禁じられた魔法術…… 

50年前の戦いにおいて、ユリウスの師は供に悪魔城に乗り込んだパートナーとこの禁呪を使用し数多くの戦果を挙げたという。

 だが凄まじい威力を誇る反面、互いの性質や性格、相性や属性に大きく左右されるため制御が難しく、術者の負担も桁違いに大きい。未熟な人間が無理に発動させれば命にすらかかわってくる。

 

 

「俺も実際に使った事は無い……だが奴を倒せるとしたらこれしかあるまい」

 

 アルカードが真剣な面持ちでユリウスに考えを伝える。だがユリウスにはある懸念があった。

 

 

「………………本当に出来るのか?俺たちで……」

 

 

 ユリウスが師との会話を思い出す。師の話しによれば彼のパートナーは子供の頃からの幼馴染で、気心の知れた気の置けない友人だったらしい。だからこそパートナーの話をする時だけは普段の厳しい眼差しが和らぎ、穏やかな物になったのだろう。

 

……しかし裏を返せばそれだけ信頼しあえる相手でなければこの術は成功しないという事だ。返すようにアルカードの顔を見る。

 

 

「……どうだろうな……だが成功させなければ全てが終わる……。忠守達は死に、世界は混沌で包まれ……、俺も”ヒト”では無くなる……」

 

「責任重大だな」

 

「ああ……だが…………信じているぞ?」

 

「うるせー、勝手に突っ走っといて今更そんな事言うな」

 

 生死にかかわる緊急事態だというのにくだらない軽口が飛び出す。あまりに切羽詰ると人間かえって開き直り、笑ってしまう物なのだろうか。

 

 

 

 

「…………作戦会議は終わりましたかな……?」

 

 

 手榴弾の煙が完全に引き、デスがその異形を再びユリウス達の前に表わした。談笑めいた会話はデスの凍りつくような低い声によって中断させられる。

 

「どちらにせよ……まずはあの小うるさい左手をどうにかしなくてはな………」

 

 この秘術は使用している間全く身動きがとれない。護衛もいないこの状況では、デスとは独立した動きを見せるあの左腕を何としても潰しておく必要があった。

 アルカードは右手にヴァルマンウェ、左手に使い慣れた長剣を携えると、ユリウスの目でも追えないほどのスピードでデスの懐目掛け一足飛びに飛び込む!!

 

「ヌウッ!?」

 

アルカードの予想外のスピードに、さすがのデスも先手を許す。しかしアルカードの攻撃はこれで終わりではなかった。

 

「うおおおおおッ!!」

 

凄まじい雄叫びと供に、二刀流による荒々しい乱打がデスを襲う!全身全霊をかけたアルカードの連撃はデスに反撃する暇さえ与えず、デスは防戦一方となった。だがその攻勢がいつまでも続く保障は無い。アルカードの剣がデスの穢れた炎に触れるたび、一段、二段とその切れ味は鈍っていくのだ。

 

「行くぞアルカードッ!」

 

頃合を見計らうようにユリウスもデス目掛け吶喊した。だがその軌道は先程と全く同じ、

アルカードが空中へ身をかわす所まで一緒だった。

 

「この死神を侮りおって! 性懲りも無くまた同じ手かッ!!」

 

 また地面をすり抜けられないよう、デスは大きく息を吸い込むと、前方の視界全てを覆うほどの火炎を吐き出した!!デスの放った炎は最上階の床を瞬時に蒸発させ、デスの前方にポッカリと放射状の大穴が開く。

 

「!!!?」

 

目の前の光景にデスは驚愕する。あれだけの炎をまともに喰らいながら、ユリウスが無傷で立っていたからだ。しかも大穴の開いた地面の上に……!

 

想像を超える事態に、デスの頭脳が一瞬混乱する。だが歴戦の戦士でもあるデスはすぐに目の前の事態を理解した。 ”残像” だ。となれば本体は当然…………

 

「後ろォッ!!」

 

「ッ!!」

 

 デスの頭部が180度グルンと回転し、今まさに攻撃をしようとしていたユリウスを睨む!だがいまさら攻撃は止められない、ユリウスは躊躇する事無くヴァンパイアキラーをデスの左腕目掛け振り下ろす!……が!

 

 

「ヴハハハハハハハ!!」

 

……デスの体に浮き出た幾つもの顔が一斉に不気味な笑い声を上げた。

 

 

 ユリウスの鞭がデスに届く事は無かった。攻撃が当たる直前、デスが自ら切り落としたあの両手がユリウスの腕と足を掴み、攻撃を妨害したのである。しかもデスの腹から伸びた肋骨がユリウスの体を針のように突き刺し、逆に多大なダメージを与えていた。

 

 

「甘いなベルモンド……このデスの腕が千切れた程度で動かなくなるとでも思ったか?」

 

 

 急所こそギリギリで避けたもののデスの凶悪なカウンターを受け、ユリウスの体の至る所から赤い染みが広がっていく。やがて支えきれなくなったユリウスの腕からハルカがドサリと落ちた。

 

 

 さらにデスの両手は攻撃を止めるだけでは飽き足らず、満身の力を込めてユリウスの首を絞めにかかった。見る見るうちにユリウスの顔色がチアノーゼへと変わっていく。しかしデスの両手は窒息を狙ってはいない。このまま首をへし折る気だ。

 

「……ッ!ユリウスッ!」

 

 背後からの奇襲が失敗したのを受け、アルカードはユリウスを救うため無理な体勢からデスに斬りかかった。……だが衆寡黙せず、空中の不安定な所をデスの左手に横薙ぎに捉えられ、プレス機のような大蛇の顎に締め付けられた。吸血鬼の血を引くアルカードでさえ抵抗できないほどの凄まじい圧力で、体がギリギリと軋みながら悲鳴をあげる。

 

「ぐ……が……ぁッ」

「…………ごふッ!」

 

 ユリウスの口から泡が、アルカードの口から鮮血が漏れる。少しずつ……だが確実にユリウスとアルカードに死が近づいていた。

 

 

「クハハハ…………さぁてあと何分……いや何秒持つかな?」

 

 

 デスがニヤついた笑みを浮かべながら最後の時へのカウントダウンを始める。一秒……二秒……時間が経過するごとに圧力が強まり、骨と内臓が潰されていく……そしてとうとう後ほんの数ミリで脊髄が砕ける……その時だった。

 

 

”タアァァァァンッ!”

 

 

 聞き慣れた銃声が時計塔に響き渡る!レライエの銃から発射された跳弾は、デスの眉間を真正面から貫いていた。

 

 

「ヌウアァァッ!?」

 

 

 予想外の不意打ちを頭部に喰らい、最上階にデスの呻きが響く!それに呼応するかのようにユリウスの首を締め付けていたデスの両手から力が抜けた。ユリウスは即座に手を払いのけると、荒い呼吸を整えながら辺りを見回す。

 

「ラングの銃!?……来てるのか近くまでッ?」

 

 辺りにラングの姿は見えないが、少なくとも弾丸の届く範囲……スコープでこちらの状況が見える位置までは来ているようだ。そして続けざまに放たれた弾丸があらゆる方向から2発、3発とデス目掛け襲い掛かる!

 

 デス自身が無計画に開けた穴が逆に命取りとなった。どこから自分を狙ってくるか解らない、まるでもぐら叩きのような状況がデスの思考を再び煮えつかせる。

 

「この跳弾はレライエか!?何故奴らの味方をする!?ええい、うっとおしい!!何処から狙っているのだ!」

 

 ラングの放った弾丸は威力こそ大した物ではなかったが、夏の夜のやぶ蚊の如く、デスの精神をいらつかせ、集中力をこそぎとっていった。そしてここがチャンスと、素早くデスの下に忍び寄ったユリウスが痛烈な一撃をデスに見舞う。

 

「グウアアアァァッ!!」

 

 デスの悲鳴が最上階に轟いた!レーザーのような光の尾をひいたヴァンパイアキラーの連撃は、鮮やかにデスの左腕を粉砕し、大蛇の顎に捕らえられていたアルカードの救出に成功する!そしてユリウスはその勢いのまま鮮血が流れるのもいとわずアルカードの傍まで駆け寄った。

 

 

「今だ!合わせろアルカード!!」

 

「ユリウス!!」

 

 

 引き絞ったヴァンパイアキラーにアルカードの剣が重なり合った……その瞬間!!

 

 

 

『ブラッディ・クロスッッ!!』

 

 

 

「――――ッ!!??」

 

 

 

突如地面から血のように赤い巨大な十字架が立ち上る!!

鋭い槍と化した真紅の十字架はデスの胴体を貫き、その体を天高く押し上げた!

 

 

「ウアアアァァァッ!!? な……何だこれはァァァ……ッ!?」

 

 

 地面から突如として突き出た巨大な十字架に串刺しにされ、デスの体が宙吊りになる。

……その姿は皮肉にも、かつてドラキュラ伯爵が見せしめの為、串刺しにして処刑した

人間達と全く同じ姿であった。

 

 

「この……程度の……楔など…………今すぐ解いてやる……!」

 

 

 体を巨大な槍で貫かれながらも、どうにか脱出しようとデスは必死にもがく。だがまるで百舌の早贄にかかった虫のように、もがけばもがく程、足掻けば足掻くほど、自らを貫く十字架にデスは体力を奪われていった。

 

 

「どういう……事だ……何……故……抜け出せぬ……!? 何故……体が……動かぬ……!?まさか……ここ……で終わるのか? このデスが……!?このような所で……ッ!!?」

 

「ま……だ……やらねばならぬ事……が……、……伯爵……様を……お守り……せね……ば……!」

 

 

 デスの体を包んでいた炎が徐々にその勢いを弱め、それと同時に眼窩の奥に怪しく揺らめく光もその輝きを失っていく……アルカードとユリウスは構えを保ちながらも、その哀れささえ漂う姿をただ無言で見つめていた。……だが千年以上の永きに渡り、人間達と死闘を繰り広げて来た死神がこのままおとなしく潰える訳がなかった。消える寸前の蝋燭の最後の灯火か、デスは文字通り死力を振り絞り、ヴァンパイア・ハンター達へ最後の抵抗を試みる。

 

 

「ク……ハ……ハ……。油断したわ……ッ、まさか……この程度の技にやられるとは……

だが、伯爵様の腹心この死神デス……ただでは滅びぬぞ……?せめて貴様らに一矢報いてから死んでくれるッ!!……そう……この不浄の武器でなァッ!!」

 

 

「!!……いつの間に!?」

 

 

 アルカードとユリウスの顔からデスへの哀れみが一気に消え失せる!闘いのドサクサに紛れて回収していたのか、デスの腕には溶けかけた例の核が握られていた。

 

 

「何人たりとも……この悪魔城を封印などさせるものか……ッ!!我に残された魔力全てこの爆弾に注ぎ込み……時計塔ごと消し去ってくれるッ!!逃げるというなら逃げてみろ!結界を張れるなら張ってみろッ!!そのボロボロの体で出来るというならなッ!!」

 

 

 デスの自棄めいた挑発は的を得ていた。二人とも先の十字架を出現させるためになけなしの魔力を使い切っており、しかもこの技を発動している間は身動きがとれない。もし爆発を止めるために型を解けば、拘束から開放されたデスはたちまち息を吹き返し二人に襲い掛かってくるだろう。だがもしそうなった場合、重大なダメージを負っている二人に抗う術は残されていない。

 

 青白いチェレンコフ光がデスの体全体から放射される。死神の言葉は偽りではない、本当に自身の命を代償に自爆するつもりだ。

 

 

「ククク……アルカード様……後は頼みましたぞ……?どうか下賎な人間の血を捨て……お父上のちかra……ち……ちか……りゃ……???」

 

 

 不意にデスの口調がどもり、まともに声を発する事が出来なくなる。おぼつかない自身の体を改めてみれば、いつの間にか腕には氷柱が滴り、体全体が青白い氷に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

「……ふふ……ふ……うるさいなぁ……ゆっくり……寝てもいられないじゃない…………」

 

 

 眼下を見下ろせば、今まで一向に目覚める気配の無かったハルカが、震える手で必死に杖をかざしていた。

 

 

「……ッッッ!! こ……むすメェ!!さいごの……さい……gまでッ!」

 

 

まともに動かない口で苛立ちの声を上げる死神に、ハルカがニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。だがやはり相当な無理をしていたのか、少女は再び眠るように意識を失ってしまった。

 

 

「オ……ノ……れェ……だ……ガ……この……てぃ……どで……ッ」

 

 

 

 

”タアァァァンッ!”

 

 

 デスがそう言いかけた次の瞬間、乾いた銃声が最上階に鳴り響き、核を手にしたデスの腕が粉々に砕け散った。

 

「…………ッ!!?」

 

 不意の攻撃に振り向いたデスの視界に飛び込んできたのは、まだ煙を引いている銃口をこちらに向けたラングの姿だった。

 

 

「それは俺たち海兵隊の物だ……返してもらうぞ……ッ!」

 

 

 静かにそう言い放ち、ラングが再び引き金に指をかける。

 

 

「ダレ……だ……きサま……!? …………まさか……ッ!」

 

 

 ダンスホールで出会ったラングの顔をデスは憶えていなかった。最後の瞬間デスの脳裏に

よぎった顔……それは遥か五百年前の戦いで最後まで自分達に歯向かったある人間の姿だった。

 

 

 

 

…………ほどなく……乾いた銃声が時計塔の夜空に鳴り響き…… 

デスの躯は時計塔を吹き抜ける風に吹かれながら……やがて塵となって消えていった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「デスめ……やられたか……」

 

 悪魔城内のとある一室……闇に覆われた荘厳な空間の中、玉座に腰掛けた壮年の男性が静かに呟いた。男性は右手に持った大きめのワイングラスをゆったりとくゆらせると、鮮血と見紛う程赤いグラスの中の液体を一気に飲み干す。

 

「アルカードも……少しは成長したと見える……それにベルモンドの末裔と相見えるのも何百年ぶりか……」

 

男性の声は威厳と気品に満ちている。だがその言葉の端々から有無を言わさぬ氷のような冷酷さも感じ取れた。

 

「急ぐ事だ息子よ……日食までの時間は……それほど残されてはおらぬぞ?……フフフ…………」

 

 煌びやかなステンドグラス越しに降り注ぐ、淡い月明かりに照らされながら、男性の低い笑い声が城主の間に静かに染み込んでいった……

 

 

 

 

 

 

「いッ…ぐうぅぅぅッ!!」

 

ユリウスが言葉にならない呻き声をもらす。応急処置のためラングに傷口を縫ってもらっているのだ。もちろんポーションも飲んでいたが、手当てが出来る状況ならした方が回復は早い。隣ではハルカが泥のように眠っており、瓦礫だらけの風景も相まって時計塔最上階はさながら野戦病院の様相を呈していた。

 

 

一方アルカードはポーションを一瓶だけ手に取ると、1人仲間から離れた場所に立ち、じっと遠方を見つめている。視線の先には父、ドラキュラ伯爵がいるであろう城主の間……

 

 

 そうこうしている内に縫合は終わったようだ。ラングは一人立ち上がるとアルカードのいる方へ歩いていく。きっとアルカードの傷も見るのだろうとユリウスは血の足りない頭でボーッと眺めていた……が、ラングが取った意外な行動に一気に目が覚める。アルカードと向き合うや否や、ラングがいきなりその顔を殴りつけたのだ。

 

 

「……個人の独断が部隊の存亡を分ける……憶えておけ」

 

 

そう言い放ったラングの表情は普段の朴訥とした顔からは想像できない、鬼気迫る物だった。

 

口元の血を拭い、アルカードが自分を殴りつけた男と改めて向き合う。男は顔を真っ赤にさせ鬼のような表情でアルカードを睨んでいた。……だが逆にそれは感極まり、今にも泣き出しそうな子供の表情にも見えた。殴りつけた拳は振るえ、眼は赤く潤んでいる。

 

……不意にその顔がバンダナをまいた痩せ身の男とダブった。偉丈夫のラングとは似ても似つかぬ懐かしい男の顔が突然現れ、アルカードは激しく動揺する。

 

 

「グラント……!私は…………」

 

 

アルカードの口から唐突に出た名前にラングがいぶかしむ。

 

 

「グラント……? 誰だそれは?」

 

 

ラングの呼びかけに”ハッ”とアルカードが我に返る。

 

 

「……………………何でもない…………忘れてくれ……」

 

 

アルカードは取り繕うようにラングから視線を外すと、そのまま何か考え込むようにうつむいてしまった。同様にラングもどう取り繕えばよいのか解らず、何ともいえない弛緩した空気が二人の間を流れる。しかしここで仲裁の頃合を見計らっていたのか、作ったように明るい声をあげながらユリウスが二人の間に割って入った。

 

 

「何だよ、オレがぶん殴ってやるつもりだったのに先越しやがって……らしくないぞラング!」

 

 

ユリウスの邪気の無い呼びかけに、鬼のようだったラングの顔が幾分ほぐれ、場に張り詰めていた空気も緩和される。…………しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはラングだった。

 

 

「……お前の考えも解る……だが相談くらいしてくれ。 ……頼りないかもしれないが手助けぐらいは出来るはず……だ。仲間だろう?俺達は」

 

 

ぽつぽつと……少しどもるような口調でラングが思いのたけを伝える。さらにしばしの沈黙の後、アルカードも静かに口を開いた。

 

 

「…………解った……ありがとう、ラング……」

 

 

それはユリウスに答えた時と同じ、素っ気無い無骨な言葉だった。だがそれだけで十分だった。元々不器用な男三人、飾り立てられたおべんちゃらや、歯の浮く言葉は柄ではない。

 

 

「アルカード……大丈夫か?それほど強く殴ったつもりはないが……その……なんだ、すまん」

 

「……謝るのか?軍人らしくない奴だな……」

 

「あー、それは俺もずっと思ってた。すぐ泣くしな」

 

「何だと!? ………………やっぱりそう思うか?実は自分でも薄々……」

 

 

 そこまで言った所でユリウスが思わず吹いた。ユリウスを見てラングも笑った。二人につられるように、アルカードのポーカーフェイスも心なしかほころんでいた。

 

 

 

 つい先ほどまで死闘が繰り広げられていた時計塔の最上階は、無骨でぎこちない……だがとても暖かい空気に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グうおおァァッ!?」

 

石畳の暗い城内にデスの悲鳴が木霊する!デスの眉間にはグラントの放ったナイフが深々と

突き刺さっていた。

 

「貴様ァ……!謀りおったか!!」

 

ナイフの刺さった頭部を押さえながらデスがグラントを睨みつけた。

 

「気付くのが遅えぜデスさんよ!アンタ何年生きてるのか知らねぇが演技も嘘も下ッ手糞だなァ、見ろよ、おかげでこっちまでアンタの三文芝居がうつっちまったじゃねえか!」

 

デスの絶叫が轟くと同時に、アルカードは大きく息を吐きその場に突っ伏した。

グラントの攻撃によってデスの呪縛が解けたようだ。玉の様な汗がじっとりと体中を覆う。

そんなアルカードをよそに、グラントの演説は尚も続く。

 

 

「俺はな……軽業師よ、昔は一座の連中と一緒に国中を回ったもんさ、芝居だって腐るほど見てきた。アンタの言ってる事が嘘か本当かぐらい、一座の子供でもすぐ見抜けるぜ!アンタも人殺しだけじゃなく他の勉強もちっとはするこったな!」

 

グラントの忠告にデスがぐぬぬと歯噛みする。

 

「あいつらは……みんな良い奴だったよ。あいつらがいたから俺は真っ当な道に戻れたんだ……それを……てめえらが全部台無しにしやがった!殺された仲間達の仇……今ここで晴らすッ!!」

 

 グラントが再び懐からナイフを取り出し戦闘態勢を取る。その目は普段の彼とは似ても似つかぬ滾るような闘志に溢れていた。

 

「下等なサルがこの死神に教えを説くか……その薄汚い口掻っ切って二度と喋れなくしてくれる!」

 

 グラントの妙に長い説教がよほど気に障ったのか、デスは眉間に刺さったナイフを引き抜くと、決闘の合図よろしくグラントの足元へとナイフを投げ飛ばした。

 

 

「安心しろ…仲間達の元へ送ってやるなどとは言わん、口を裂いた後は目を潰し……耳を焼き……鼻を削ぎ……四肢を砕き……不具の体にして永遠の苦痛を味あわせてくれるわ!!」

 

 デスがその手に持つ大鎌を振りかぶり、グラント目掛けて突進する!

 

 

 

 

「――――ライトニング!!」

 

 

 しかしデスの進撃は突如現われた無数の光弾によって阻まれた!

 

「ぬうウウゥッ!!?」

 

「サイファ!」

 

グラントが声を上げ魔法の出元を振り返る。光弾を放ったのは白いフードを深くかぶった細身の青年だった。

 

 

「遅くなってすみません、私は早く引き返そうと言ったのですが……、ラルフが……」

 

「俺のせいだと言うのか!?」

 

 

遅れて鎧を着た筋骨隆々の戦士が部屋に入ってきた。その手には銀色の鞭が握られている。

 

「ラルフ兄ィ!遅いですぜ!」グラントが歓喜の声で戦士を迎える。

 

「遅くなってすまん……なるほど、奴がデスか、確かに強大な邪気を感じる……だが!!」

 

 

 ラルフは呼吸を整えると、手に持つ鞭を”ビシィッ”としならせ、デスに向かって突き出すように構えた。その一歩も引かぬ堂々たる様相に、デスの神経は一層逆撫でされる。

 

「グヌヌウウウウッ!?伯爵様に楯突く雑魚共が……ッ揃いもそろってこの死神にそんなに殺されたいかッ!!」

 

 デスの放つ邪気が一気に濃くなる、今度こそ本気で襲い掛かってくる気だ。

 

「アルカード!大丈夫か!」ラルフがアルカードに呼びかける。

 

「すまん……不覚を取った……」 「戦えるか!?」 「……無論だ……」

 

 アルカードはラルフの激励に応じ、まだ汗が滲む体を奮い立たせ何とか立ち上がった。

 

 

「フゥィ―――ッ、危ねえ、危ねえ、……じゃ、前線は兄貴達に任せますんで俺は援護に

回りますね、いや――っ、疲れた、疲れた♪」

 

グラントはいつもの飄々とした態度に戻ると、さっさとアルカード達の後ろに飛び退いた。

 

「全く調子いいですね……本当は強いくせに」サイファが苦笑しながらこぼす。

 

 

 後方に下がったグラントは音も無くアルカードの傍に寄ると、そっと告げた。

 

「旦那……さっきの話は……皆には黙っときます。けど俺たちゃ仲間ですぜ?自分が言うのもなんですが隠し事はいけませんや…… 大丈夫、ラルフの兄貴も、サイファも良い人です、旦那から話せばきっと受け止めてくれますって!」

 

 その小悪党めいた顔からは想像できない、グラントの真心のこもった励ましだった。本当に……本当に私はこの男を誤解していたのだと……申し訳ない気持ちで胸が一杯になる。

 

「ありがとう……グラント」

 

 アルカードから初めてかけられた感謝の言葉に、へへへ……と、グラントが鼻をこすりながら照れ笑いを浮かべる。

 

「何だ内緒話か?だが今は目の前の敵に集中しろ。行くぞ!皆!!」

 

 ラルフの呼びかけに全員の目に闘志が宿った。

 

『おうッ!!!』

 

 

 

ラルフ・C・ベルモンド……

グラント・ダナスティ……

サイファ・ヴェルナンデス……

アドリアン・ファーレンハイツ・ツェペシュ……

 

 

やがて四人は数々の苦難の末に見事ドラキュラを打ち倒し、ワラキアの大地に平和を取り戻した。

 

……今から五百年前に起きた

とある ”伝説” である……

 

 

 

 

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