悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999 作:41
「試験を受けて貰うぜ?ヴァンパイアキラーを振るうに相応しいかどうかの、な……」
青年は余裕たっぷりにユリウスに言い放つ。何とも上から目線の鼻につく物言いだ。
先生の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい……ユリウスは内心そう思った。
「今更お前1人で何をするっていうんだ?お前はもちろん、他の奴らもまるで相手にならなかったじゃないか!」
半年前の幻影との戦いを例に出し、青年の鼻っ柱をへし折ってやろうとユリウスが食って掛かる。しかし青年はユリウスの反論に一切耳を貸す事無く、「フッ」と鼻で笑いながら子供でもあしらうように話を続けた。
「口の利き方がなってないな……いいか、七十過ぎの爺さんいたぶった位で調子に乗るなよ?あんなもん自動車で言えば仮免みたいな物だ。
いきなり青年に呼びかけられ、リリスの体がビクッと跳ねる。
「命だけは助けてやる……そのかわり俺たちが試練を終えるまでこの空間を維持し続けろ。夢魔ならたやすい筈だ……出来るな?」
リリスは青年の申し出に渡りに船とばかり、もげるかという位ブンブンと首を縦に振る。しかし何もかも勝手に進められてユリウスが面白いわけが無い。
「何勝手に決めてやがる!俺はまだこいつを許した訳じゃ……」
そこまで言いかけた所でユリウスの口が止まった。
青年が凄まじいプレッシャーをかけながらこっちを睨んでいたからだ。
「ではこれから試練を始める………………い・い・な・?」
青年の「余計な事を言うな、黙ってろ」と言わんばかりの無言の重圧……
さっきまでのふざけた態度とはまるで違う圧倒的な威圧感に、ユリウスも思わず首を縦に振る。数多の戦いを経験し、ちっとやそっとのプレッシャーには動じない筈のユリウスだったが、何故か目の前にいる青年には一切抵抗しようという気が起きなかった。
「……まあそう仏頂面すんな。夢の世界ってのは凄いんだぜ?現実世界の1秒が1時間に、1分が1年になる。戦うにはうってつけさ♪…………なあアンタもそう思うだろ?」
青年が何かを促すような視線を夢魔に送る。夢魔はその意味に気付くと慌ててユリウスに向け手をかざした。みるみるうちにユリウスの怪我が治っていき、それどころかボロボロだったブーツも元通りになる。炎につつまれていた周りの景色も、元の自然溢れる情景に戻っていた。
「余計な事しやがって……」ユリウスは青年のおせっかいに対し内心複雑な思いだったが、そんなユリウスを相変わらず無視するように、当の青年は鼻歌交じりに何かごそごそと準備を始めている。
「さて……まずはあれからどのくらい成長したか見てやる。かかってこいユリウス」
そう言って青年が取り出したのは。日本の剣道で練習に使う竹製の刀……早い話が竹刀だった。
「な……ふざけてんのかお前!!」
その人を舐め腐ったような態度に再びユリウスが激高する。だが青年は全く意に介さない。
「そういう台詞は俺に一発でも当ててから言え。ホラ、さっさと来い」
青年が挑発するように竹刀をクルクルと回す。
「なめやがって……吠え面かくなよ!?」
ユリウスは青年の態度に憤慨しつつも、念入りに相手との間合いを計った。じりじりとした空気が流れる中、一瞬の間隙をぬってユリウスが青年に襲い掛かる!その攻撃は離れた場所から傍観していたリリスの眼から見ても完璧な奇襲に見えた。
「もらった!」 間合いも、踏み込みも、力の加減も、ほぼ全てが完璧だ。相手がどんな手練であろうとこの一撃はかわせない!ユリウスはそう確信したが……
”パアァンッ!”
「……な……にィッ!?」
しかしユリウスの放った渾身の一撃は、青年の竹刀によって苦も無く弾かれてしまった。何故今の攻撃が弾かれるんだ……ッ?しかもあんなオモチャみたいな刀に……ッ!
ユリウスは心の底から困惑した。
「ん――……、まあ思ったよりはマシかな?だがビックリする程でもないかな……」
青年の変に気を使ったような言い回しに、とうとうユリウスが切れた。青年の御高くとまった鼻っ柱めがけガムシャラに鞭を振るう!が、突如青年の目が野生の獣のように光った。
――次の瞬間、どうしたことかユリウスの動きがピタリと止まる。
「………………ッ!」
一体どうやって間合いを詰めたのか……青年はいつの間にかユリウスの懐へもぐりこみ、しかもユリウスからかすめとったと思われるナイフを逆にその喉元へと突きつけていた。
――ナイフの先端から滲み出た赤い点が徐々に大きくなる。
眼前の青年がユリウスの目を見ながらにこりと笑う。だが次の瞬間、ユリウスの横っ面目掛け青年の鉄拳が飛んだ!
「いちいち安い挑発に乗るな!ガキかお前は!」
浴びせかけるような青年の厳しい檄に、ユリウスが”キッ”と青年を睨み返す。
だが青年はユリウスの無言の抗議を意図的に無視すると、逆にユリウスの欠点を指摘する。
「お前はフィジカルも、テクニックも一流だ。俺を超えていると言ってもいい、
なのに何故こうも一方的にあしらわれると思う?メンタルだ。お前は精神が未熟なんだよ!」
「お前の中には修羅がいる。しかも一歩間違えればお前自身が喰われてしまう程でかい奴だ。だが今のお前にはその修羅を御しきれるだけの心の強さが無い。このままではドラキュラはおろかその手下……いやその前に自分自身によって殺されてしまうだろう」
「おまえの前に鞭を所有していたベルモンドも、己の修羅を抑える事が出来ずそこを敵に利用され、挙句鞭に見放された。感情を……お前の中にある修羅をコントロール出来るようになれ!でなければヴァンパイアキラーはお前を真の所有者と認めてはくれない!」
青年が一気にまくしたてる。実力差をまざまざと見せ付けられた上に一方的に説教をされ、ユリウスの腸は煮えくり返った。
……そこまで言われて男として黙ってはいられない。
歯を食い縛り立ち上がると、ユリウスの瞳に燃え滾るような闘志が宿った。
「少しはマシな面構えになったな……だが!」
青年が左手に持っていた竹刀を右手に持ち替えた。
「くそったれェェェ―――ッ!!」
絶叫と供にユリウスが再び青年に立ち向かう。だが案の定軽く青年にいなされ、何度も何度も大地に叩き伏せられる。だがその度にユリウスは立ち上がり、また同じように青年に向かっていった。
「お前人の話聞いてんのか!?感情にまかせていくら撃っても俺には一撃も浴びせられないぞ!」
「くそ!くそッ!くそッ!くそォッ!」
”パパパパパパパパパパァンッ!!”
「ひいいいいいいいいッ!!」
鞭が音速を超える破裂音と、互いの攻撃が相殺し合う炸裂音、その二つが重なり合った凄まじい衝撃波に耐え切れず夢の世界に亀裂が入る!ナイフに束縛されたままの夢魔は逃げる事も出来ず、耳を塞ぎただひたすら嵐が過ぎるのを待つ他ない。
だがそんな夢魔の気持ちを裏切るように、嵐は過ぎ去るどころか逆にすぐ隣へとやってきた。青年の攻撃に吹っ飛ばされたユリウスが、リリスが貼り付けられている家の壁に突っ込んできたのだ。
家のレンガが崩れ、土煙がもうもうと立ち上る。瓦礫にうずもれているユリウスの体は青年に散々に打ちのめされたせいかボロボロだった。
その惨状を見かねたのか青年が無言でリリスに指示を出す。リリスは青年に促され、ユリウスの傷を治そうと恐る恐る手を伸ばしたが……
「余計な真似するんじゃねえ!」
突如目を覚ましたユリウスがリリスの手を払いのける!突然の怒号に夢魔は叱られた子犬のように怯え、小さく身をかがめた。しかしその言葉とは裏腹に、ユリウスはリリスを縛り付けていたナイフを引き抜くとリリスに語りかけた。
「あいつを倒す前にとばっちりで死なれても困るからな……ホラ!さっさとここから離れろ!」
ついさっきまで悪鬼の如く自分を追い回していた男の突然の心変わりに、夢魔は半信半疑、ユリウスを訝しむような目で見つめている。だがユリウスはすぐに夢魔に背を向けると、再び青年の下へ歩き出した。
「てっきり襲い掛かるかと思ったが……随分優しくなったじゃないか。ま、女には優しくしとかないと後が怖いもんな」
青年が何か思いだしたように苦笑する。だがユリウスは青年の言葉を遮るように、
”ペッ”と口に溜まった血を吐き出すと、猛禽類のように鋭く尖った眼差しで青年を睨みつけた。
「ニヤついていられるのもそこまでだ……きっちり落とし前は付けさせてもらう……」
今までとはまるで違う、ユリウスのただならぬ雰囲気に、「何か思いつきやがったな」と、青年の顔が少しだけ緊迫した物に変わる。
青年が身構えるや否や、ユリウスが青年目掛け一直線に走り出した。ユリウスの出鼻を挫こうと青年は咄嗟にナイフを放つ!だがユリウスは持ち前の運動神経でそれをかわすと、太陽を背にそのまま高く飛び上がり、先程リリスから引き抜いた数本のナイフを青年に向け抜き払った!
はるか頭上にいるユリウスを見ながら青年がニヤリと笑う。
そうだ少しは冷静になったじゃないか……鞭の試練だからといって鞭以外の武器が禁止されている訳じゃない。使える物は何でも使う、それが正しい。おまけに太陽を背にして少しでも回避、反撃をされにくくする。ありきたりだがこれもいい作戦だ……だが!
「詰めが甘いな!せっかくの太陽がお前の体で影になってるぞ!」
太陽の光はユリウスの体に遮られ、目くらましの意味をなしていなかった。その隙に青年は目を大きく見開きナイフを追う!……が!
「ナイフが……無い!?」
確かに自分に向け投げられたと思ったナイフが何処にも見当たらない。奴の腕なら見当違いの方向へ外す筈が無いのだ。青年の頭脳がフル回転する。
「フェイントか!」 即座に判断した青年はユリウスが狙っているであろう落下攻撃に備えた。……だがその予想は大きく外れていた。ユリウスは青年に向けしっかりと”ある”物を放っていたのである。
「!……目がッ!」
ユリウスが飛ばした ”モノ”。 それはナイフに付着した夢魔の血液だった。
高速で放たれた極小の血粒は青年の眼をもってしても捉える事は出来ず、目潰しの役目を見事に果たした。おまけに夢魔の体液には強力な催淫作用があり、一瞬ではあるが青年の思考を完全に奪う事に成功する。
「……………………ッ!!」
正気に戻った青年が目を開いた時、眼前には喉元にナイフを突きつけたユリウスの姿があった。やがてユリウスは静かにナイフを引くと青年に向かい”ニコリ”と笑いかける。
「ぐぅッ!!」
さっきのお返しとばかりにユリウスの鉄拳が青年に振り下ろされる!拳を通して生の波動がユリウスに伝わってきた。
「ハァ……ハァ……どうだ、思い知ったかこの野郎ッ!」
青年を見下ろし、息を切らしながらユリウスが勝利宣言をした。……だがその安堵の顔はすぐに驚きの色へと変わる。青年はユリウスに本気で殴られたにもかかわらず、何事もなかったかのようにムクリと立ち上がると、落ち着き払った様子で服についた泥を落とし始めた。
……やがて青年はユリウスの方を向くと、大きな声で笑い出す。
「ハハハハハ!やられた!まさかこんな小ずるい手を仕掛けてくるとはな!いや褒めてるんだぜ?わざわざ太陽の光を体で隠したのも俺の眼をしっかり開かせるためか!”戦いではありとあらゆる物を生かせ”……ちゃんと教えを守ってるようで何よりだ!はははは!」
口元の血を拭いながら青年がユリウスに賞賛を送る。ユリウスと同じくらい動き回っていたというのにその顔は涼しげだった。一方のユリウスはヘトヘトでとても喜ぶ気にはなれず
「そりゃどうも」と心の中で社交辞令を返すのがやっとだった。
しばし青年の高笑いが続く。しかしひとしきり笑って気がすんだのか、
青年は急に真面目な顔に戻ると、手に持っていた竹刀を天高く投げ捨てた。
「それじゃあ俺も……そろそろ本気出すかな……?」
ユリウスの顔がおもわず引きつる。そうだった……青年の持っている獲物はとても武器とは呼べない代物。一本取ったからといって別に青年に勝ったわけでも何でもなかったのだ。
青年はジャケットを翻すと腰のベルトに手を伸ばす。そこに吊るされていたのはユリウスの持つ武器と全く同じ物……銀色に輝く聖鞭 ”ヴァンパイアキラー” だった。
青年は鞭を取るとユリウスに向かい静かに構えを取る……それはおちゃらけた青年には似つかわしくない、無駄の無い、実に洗練された優美な構えだった。
「………………ッ!」
青年のとった構えにユリウスは息を飲んだ。構えの優雅さに驚いたのではない。
鞭を持った青年の構えが、自分のよく知る ”とある人物” の物と全く一緒だったからだ。
「アンタまさか……ッ」
思わぬ事態に動揺し、狼狽するユリウス……だがそんなユリウスとは対照的に、青年は即座に戦闘態勢を整えると、迅雷の如き速さでユリウスの目前へと迫っていた……!!