悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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(´・ω・`)<なんだかんだでPV5000突破!読んでくださった皆さんに心から感謝します!
      




 

 気が遠くなるほど長い螺旋階段を登った先…………円環の蛇(ウロボロス)が描かれた扉が三人を出迎える。

慎重に扉を開けると、中は直径30メートルほどの半球状の空間だった。

 

 

 ドーム型の天井にはグロテスクに脚色された天体図が描かれ、その下には実物とも模型ともつかぬ奇怪なオブジェの数々……三本足の山羊、単眼の猿、背中で結合された人間の赤子……それら複数の醜悪なオブジェが辿り着いた三人を見つめている。側面には錬金棟に来た時と同じ、得体の知れない機械やガラス球がこれも三人を取り囲むように置かれていた。

 

 

……だがそれ以上に不気味だったのはそれらの機械から伸びる無数のパイプだった。縦横無尽に張り巡らされたパイプが動物の血管のような蠕動運動をし、まるで部屋全体が1つの生物のように蠢いている。先のオブジェと相まって、その異様な光景は自分達が巨大な蛇の腹の中に呑み込まれたと錯覚してしまうほどだ。

 

 

 

「悪趣味な部屋……」

 

 

 ハルカが辺りを見回しながらぽつりと呟く。だがその侮蔑の言葉が主の癇に障ったのか、返答だと言わんばかりに前方から銀色に光る刃物が襲ってきた。だがユリウスが一閃のもと飛んできたメスを弾き返す。

 

 

 

「フン……戒律などという鎖に縛られ、自ら進歩する事を放棄した貴様ら神の下僕にはこの部屋の崇高さなど永遠に解るまいよ……!」

 

 

 

 自説を論じながら件の主が物陰からのっそりと姿を現す。……その風体はさらに人外化が進み、この城に住む他の住人達と何ら変わらない醜悪なクリーチャーへと成り果てていた。カリオストロはその小柄な体に不釣合いな程長く伸びた腕を広げると、ユリウス達に向かい大仰に宣誓する。

 

 

「ようこそ我が砦へ……この悪魔城が誇る英知の中枢へ……!」

「我が名は ”アレッサンドロ・ディ・カリオストロ!!”

 至高の大天才にして森羅万象全ての錬金術を極めた究極のアルケミストよ!!」

 

 

 カリオストロの自己陶酔めいた宣誓が始まった。だがそんな物ユリウス達にとってはうっとおしい雑音以外の何物でもない。カリオストロの演説を遮るようにユリウスが口を開いた。

 

 

「……てめえの自己主張なんざどうでもいいんだよ。だがお前を倒して賢者の石を取り返す前に幾つか聞いておく事がある。闘技場にいたワーウルフ……改造したのはお前だな?」

 

 

「ワーウルフ……?ああそういえば、確か少し前に犬が一匹檻から逃げ出した事があったが……そうか、さては貴様が奴を殺したのか!馬鹿な奴よ、一度迷い込んだが最後、この悪魔城から逃げ出す事など出来無いというのに……文字通りの”犬死に”か!ケハハ!!」

 

 

 カリオストロは顎に手を当てながら思い返すようにニタニタ笑っている。腹の底から湧いてくる不愉快な気分を押し殺し、ユリウスが再度尋ねた。

 

 

「……生き残りの村人達は何処にいる?今すぐ開放しろ」

 

 

「魔物の次は何の縁もない人間共の心配か……さすがは神の使途、虫唾が走る程の偽善者振りだな?……まあいい、何度も聞かれるのも面倒だ、今すぐ会わせてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………少々形が変わっているかもしれんがな?」

 

 

 

 そう言うとカリオストロは長い腕をさらに伸ばし、数メートル後方にあるレバーを倒す。途端、重苦しい鉄の扉が開き、中から無数の人影が現われた。

 

 

 その姿に3人は息を飲む。扉から出てきたのは体中にまだぬらぬらと光る血肉がこびりついた血濡れのスケルトンだった。この通路に入った時から感じていた腐臭はこの魔物達の発する体臭だったのだ。

 

 だが3人が驚いたのはそこではない、スケルトンの内何匹かはボロキレを身に纏っていた。注意深く観察してみれば所々にアルファベットの文字や、見知ったメーカーのロゴマークがある。それは間違いなく現代の人間が使う衣服……奴によって改造された哀れな村人達の変わり果てた姿だった。

 

 

「そら、貴様らが探しに来た人間共だぞ?連れ帰るなりなんなり好きにするがいい……言う事を聞けばの話だがな?けひひひッ!」

 

 

 怪鳥のような奇声をあげ、カリオストロが笑う。その不快なオーケストラをバックに、血濡れのスケルトン達はベチャリ、ヌチャリと湿った足音を響かせながら生者であるユリウス達の下へとにじり寄ってくる。

 

 

「……くそ……ッ!」

 

 

 カリオストロの言う通り、呼びかけてもスケルトン達からの返答は無く、ただうわ言のように「痛い……」「苦しい……」と呻くのみ。もはや意思の疎通は不可能だった。ユリウスは断腸の思いでヴァンパイアキラーを構えると、せめて少しでも苦しまぬよう、スケルトンめがけ一気に薙ぎ払う!

 

 

 閃光のような光の尾をひき、ヴァンパイアキラーは前列にいたスケルトン達を一瞬で殲滅した。拍子抜けする程歯ごたえが無かったが、そんな事を意に介している暇など無い、ユリウスは続けて二撃、三撃と鞭を振り払い、スケルトン達を屠っていく。……まるで彼らを救えなかった責任は全て自分にあり、こうする事が自分への罰だとでもいうように……

 

 

 ものの十秒……傍らのハルカとラングが一切手を出す間も無く、ユリウスはたった一人で二十体はいたスケルトンの全てを片付けてしまった。だが自身の手駒が全ていなくなったというのに、当のカリオストロはさっきまでのふざけた態度から一転、その一部始終をじっと観察している。

 

 

「この世ならざる者全てを払う鞭……か、なるほど、噂通りの武器だ。なんだかんだと死神達が負けたのも頷ける」

 

 

 顎に手を当て、呑気に状況を整理するカリオストロ。一方ユリウスは自らが手を下した犠牲者達の躯を踏み越えながら、「次はお前だ」と言わんばかりの形相で一歩一歩老人へと近づいていく。しかしここでカリオストロは不意に思考するのをやめると、そのギョロリと突き出た目を輝かせながらユリウスに向けニタリと笑みを返した。

 

 

「…………!?」

 

「ユ……ユリウス……!足元ッ!」

 

 

 異変に気付いたハルカが声をかけた時にはもう遅かった。粉々に粉砕した筈のスケルトンがいつの間にか再生し、ユリウスの足といわず体といわず、まるで蜜に群がる蟻のように纏わりついていたのである。

 

 

「……困るなベルモンド?私の作品をそこらをうろつく雑魚共と一緒にしてもらっては、

 賢者の石の力によって、そやつらは文字通り不死の怪物へと進化しておるわ!」

 

 

「ぐあぁッ!」

 

 

 纏わりつくスケルトン達に首筋を噛みつかれ、ユリウスが苦痛の呻き声を漏らす!

仲間の危機を救うべく、ラングが銃を構え、スケルトンの頭部目掛け引鉄を引く!見事に命中!が、砕け散ったスケルトンの頭蓋骨はカタカタと揺れたかと思うとふわりと浮き上がり、すぐに元通りに修復されてしまう。ならば二度と再生できないよう完全に消滅させてやると、今度はハルカが精霊魔法の詠唱を始めたが……

 

 

「大地の精霊よ……我が願いに応じ眼前の穢れた魂を天に………………天に!

何で!?精霊たち!我が呼びかけに応じよ!どうして!?精霊が……何処にもいない!?」

 

 

 今までに無い異常事態に今度はハルカが慌てふためく。その様子を眺めていたカリオストロが破顔一笑、カラカラとますますバケモノじみた声を上げ笑い出した。

 

 

「ヒャヒャヒャッ!如何に才に恵まれていようが所詮は子供、思いのほか勘が鈍いな小娘。言ったはずだぞ?お前たちを()()に堕とすとな?」

 

「……この部屋は大気中のマナの係数が ”ゼロ” なのだ。ここでは精霊などという非科学的な生物は一秒足りと存在できん!つまる所ご大層な精霊魔法は一切使えぬという事だ!ククク……さあどうする神の使途よ?」

 

 

「そんな……嘘……ッ!!」

 

 

 ハルカの顔が一気に青ざめる。だがここでラングがおもむろに声をあげた。

 

 

「壊しても戻るというなら……止める!!」

 

「…………何!?」

 

 

 ラングがアガーテの撃鉄部分にあるダイヤルを回す。数度回した後、青白い氷の図柄がグリップの横に空いた中抜き窓に現われた。

 

 

「FREEZE!!」

 

 

「凍れ!!」ラングの掛け声一閃、ダイアモンドダストのようなキラキラと光る粒子を巻きながら、青白い弾丸がスケルトン目掛け直進する。弾丸は着弾と同時に氷の結晶へと変化し、たちまちスケルトンを霜のおりた氷像へと変えてしまう。

 

 

「よし!うまくいった!」

 

 

 ジョーンズに教えてもらったアガーテの機能の一つ、敵を凍り漬けにする印術の氷弾が見事に決まった。一応レクチャーは受けていたものの実戦で使うのは初めてだったので、ラングは内心ホッと胸を撫で下ろす。

 

 

「印術の銃だと!?あの筋肉ダルマめ、何処であんな代物を!」

 

 

 間髪入れず、ラングが氷弾を連射する、不死のスケルトンといえど身動きを封じられてしまってはどうする事も出来ない。その隙にユリウスはからくも脱出に成功した。

 

 

「ユリウス!こいつらはまかせてそいつから賢者の石を!」

 

「すまない!」

 

 

 群がるレッドスケルトン達を二人に任せ、ユリウスは即座にカリオストロへと詰め寄る。だが当のカリオストロは何か思案するようにブツブツと呟いている。

 

 

「……やはりあの印術は厄介だな……だが、それも時間の問題か……」

 

 

 この期に及んで妙な余裕を見せるカリオストロに多少の不気味さを感じたが、それでも攻撃のチャンスである事に代わりは無い。ユリウスはすぐさまヴァンパイアキラーを振りかぶると渾身の一撃をカリオストロに叩き込んだ!……が、完璧な間合いで繰り出した鞭は、あっさりとカリオストロの手中に収まってしまう。

 

 

「随分とせっかちだなベルモンド……ふぅむ、やはり私の見立て通り錬金術によって作られた鞭のようだ……。主成分は…………七割が銀か……」

 

 

 カリオストロは握り締めたヴァンパイアキラーを目元までグイと引き寄せると、舐めるように観察し始めた。不気味な仕草もさることながら、その不可思議な行動がユリウスに言い知れぬ不安を与える。

 

 

 だが敵はそんなユリウスの隙を見逃してはくれない。鞭を握ったまま今度はカリオストロの方から襲い掛かってきた。かろうじて鞭を引き絞り、爪の攻撃をくい止めたが、本来なら邪悪な物は触れることさえ出来ないはずのヴァンパイアキラーを、カリオストロは平気で掴み、跳ね除けてくる。

 

 

「何故だ……ッ何故闇の眷属に絶対の力を持つヴァンパイアキラーがこうも簡単に……!?」

 

 

 目の前の敵は確かにクリーチャーと化し、人間離れした身体能力を持っているだろう……だがワーウルフやデスに比べ圧倒的な力を持つかといえばそんな事は無い。力量でいうなら明らかに格下の敵に、あらゆる闇の者を屠ってきたこの聖鞭が何故通用しない……!?

 

 

 

 そんなユリウスの心の内を見透かすように、カリオストロはユリウスの眼前数十センチまでその爬虫類めいた顔を近づけると、饐えた匂いのする息を吐きながら”ニタァ……”といやらしい笑みを浮かべた。

 

 

「貴様……この鞭を無敵の神器か何かと勘違いしとらんか……?

馬鹿め違うわッ!!見た所少しは名の知れた錬金術師の作の様だが、このカリオストロから見れば甘いッ!特別授業だベルモンド、今からその理由を貴様の体に教えてやる!」

 

 

 落ち着いた口調が一転、声を荒げ襲い掛かるカリオストロの攻勢に、間に入れた鞭がギリギリと軋む。だがその勝ち誇ったような面と言動がユリウスの癇に障った。

 

 

「ガタガタ抜かす前に…………その臭え口を磨いて来いッ!!」

 

 

 ユリウスが不意討ちの前蹴りをカリオストロに放つ!怒りに身を任せ半ばヤケクソ気味に放たれた攻撃だったが、それが逆に功を奏し、反動で互いの体が反対方向に吹っ飛んだ!

 

 ユリウスは吹っ飛び様バク転で態勢を立て直すと、すぐさま反撃の構えをとる。が、手元のヴァンパイアキラーを見て思わず”ギョっ”とした。銀色の光沢を放つヴァンパイアキラーが、所々くすんだように黒ずんでいたのだ。

 

 

「まず1つ……銀は酸化(正確には硫化)し易く錆び易い……私の吐く息は硫黄や砒素など様々な毒物を含んでいてな?特に銀はよく錆びる……これで貴様の武器の攻撃力は半減したわけだ」

 

「何……だと……ッ!」

 

 

 毒ガス並みの口臭だと思ったらまさか本当に毒だったとは。この状況で迂闊に近づくのは危険と判断し、ユリウスは武器をナイフに持ち替えカリオストロのぎょろついた目玉目掛け投擲する!が、これも軽く瞼を閉じただけで弾き返されてしまう。

 

 

「2つ……正真正銘()()の人間である私には銀が持つ退魔の力など何の意味も無い。聖なる加護を受けた武器も、私にとってはそこらのナマクラと変わらん……ッ」

 

 

”……そのナリで人間だと?悪い冗談だ……ッ”

爬虫類とも昆虫ともつかない老人の姿を見ながら心の中でユリウスが呟く。だが少なくとも銀製の武器が通用しないのは確かな様だ。と、何故かユリウスは再びヴァンパイアキラーを構えると、先ほどと同じようにカリオストロに向け鞭を振るった。

 

 

「馬鹿の1つ覚えか、だから私にはその鞭は通用しないと…………む!?」

 

 

 余裕ぶっていたカリオストロの体が宙を舞う。ユリウスはカリオストロの腕にヴァンパイアキラーをからませると、そのまま力任せに振り回し、ハンマー投げの要領で研究室の床に叩き付けた!硬いレンガ造りの床が陥没し、濛々と砂埃を巻き上げる。しかし……

 

 

「ぐあああああッ!!」

 

 

 どういうわけか悲鳴をあげたのは攻撃したユリウスの方だった。

一方立ち込める埃の中から、ヴァンパイアキラーを握ったカリオストロが悠然と姿を現す。

 

 

「そして3つ……銀は熱や電気の伝導率が高い。私の体には古今東西、使えそうな生物の遺伝子がインプラントしてある……どうだ、生物の発する電気ショックというのも中々乙な物だろう?」

 

 

「ぐ……がッ」

 

 

「……以上三つ、その鞭が無敵の武器などではない理由……理解して頂けたかな?」

 

 

 説明を終えるのと同時に、カリオストロが握っていたヴァンパイアキラーを放した。おかげで電撃は収まったが、ユリウスの体は弛緩して言う事を利かない。

 一方カリオストロは床に思い切り叩きつけられたにも関らず、賢者の石の効果かほとんど無傷だった。ただでさえ手持ちの武器が通用しない上、驚異的な回復力。正直な所ユリウスはこの敵を見くびっていた。こんな奴にいい様にあしらわれるとは…… 何とか、何とか打開策を見つけなければ……!

 

 

 焦るユリウスを嘲笑うかのように、カリオストロはユリウスの周囲をゆったりと回りながら、煽るような言葉を投げかける。

 

 

「今の貴様に考え込んでいる暇があるのか……?見て見ろ、後ろを」

 

「?? …………ッ!!」

 

 

 痺れの残る体をどうにか動かし、振り返った先に広がっていた光景。それはほとんど怪我もしていないにもかかわらず、その場にうずくまる二人の姿だった。

 

 

「ハァ……ハァ……何で……急に……」

 

「どういう事だ……力が……入らない……」

 

 

 自身の体に起きた異変に、ラングたちは困惑していた。別にトールハンマーのような上級魔法を使ったわけでも、魔力消費の大きいレライエの銃を乱射した訳でも無い。だというのにベヒモスやデスと闘った後のようにまるで体に力が入らない……!

 

 

「サンジェルマンから聞いていなかったのか?賢者の石は無限の生命力を生み出す代償として周囲の魔力を吸い続ける。言ったはずだ、この部屋は大気中のマナの係数が ”ゼロ” だとな。無計画に魔力を使い続ければものの5分とたたずあのザマよ。…………もっとも、はなから魔力など持たぬ私には何のデメリットも無いがな……?ゲャハハハハハハハハハハハッ!!」

 

「……………………ッ!!!」

 

 

 カリオストロの死の宣告に、青ざめた3人の顔がより一層青くなっていく…… 

錬金術研究棟最深部。ユリウス達神の信徒を足下に跪かせ、勝ち誇るカリオストロの嘲笑がいつまでもホールに木霊していた……

 

 

 

 

 

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