悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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ストーリーの都合により、34話冒頭のワーウルフに関する会話を少し書き直しました。
混乱を招いてしまい申し訳ありません。



奇跡

 

 カリオストロの不可解な提案に、ホールはまるで時間が止まったような静けさに包まれる……

しかしそれもほんの一瞬の事だった。

 

 

「……何を企んでやがる……ッ」

 

 

 直接カリオストロと対峙しているユリウスがまず口火を開く。

 

 

「何でお前の言う通りにしなきゃならないんだ?そんな話信じられる訳が無いだろう!

そんなくだらねえ事する暇があるならとっとと村人を解放しろ!」

 

 

 ユリウスがカリオストロに事の真意を問いただす。それは至極真っ当な意見ではあったが、

もちろんそんな正論を素直に受け入れる目の前の錬金術師ではない。

 

 

「……どう思うかは貴様の勝手よ。だが勘違いするな小僧?手札(カード)はあくまでこちら側にあるのだ。本来ならばお前達は私に跪き、願いを請う側だという事を忘れるな」

 

「く……ッ」

 

 

 ”人質”という名の絶対的なカードがある以上、ユリウスは敵の提案に乗るしかなかった。おまけに少なくとも舌戦では奴に勝てそうも無い。

 

 

「それに何も悪い事ばかりではないぞ?頼りの鞭が効かぬ私よりかは、このゴーレムの方がまだ勝ち目があるのではないかな?」

 

 

 カリオストロが件の肉人形に視線を送る。フレッシュゴーレムは優に3~4メートルはあろうかという巨体を微かに揺らしながら、鈍い緑色に発光する瞳……の様な物でユリウスをじっと見つめている。先のスケルトンとは違い碌に喋る事も出来ないのか「ア……ァ……」と呼吸とも呻きともつかない不明瞭な声を発している。

 

 

 ユリウスは思案した……ハルカもラングもまともに戦えないこの状況。カリオストロの話を鵜呑みにするわけではないが、二体同時にかかってこられないだけ幾分ましなのも事実。また奴の出した条件が真っ赤な嘘だったとしても、少なくとも敵の戦力を削ぐ事は出来る。

 

 

――右手をグッと握りこむ。体の痺れはどうにか取れた。だがその一方、徐々に不気味なだるさが襲って来ているのが感覚で解る。少しずつではあるがやはり自分も魔力を吸われているらしい。

……長期戦はまずい。

 

 

仲間達の様子を見る。ハルカは取り合えずは無事のようである。ラングもさすがは現役の海兵隊員。あれだけの攻撃を受けながらどうやら無事なようだ。だがやはり相当の重症と見える。

……こちらもあまり時間は無い。

 

 サンジェルマンに抱えられた女性の方を見た。女性は赤い燕尾服に包まれ、まるで雨に打たれて震える子犬の様な、すがりつくような視線をこちらに向けている。軽く頷き女性を安心させる。

 

 

 ユリウスはリズムを整えるようにその場で2、3回軽くステップを踏むと、鞭を構え一直線に

ゴーレムへ向かって走り出した!

 

 

「どうやらその気になったようだな……やれゴーレム!!」

 

「a……AHHHH…………!」

 

 

 カリオストロの号令一途、フレッシュゴーレムがその巨体を大きく揺らしながらユリウスに迫る!その大きな図体に違わず、ゴーレムの動きはすこぶる鈍い。

”擦れ違い様に一撃で仕留めてやる!”だがユリウスの脳がそう指令を下した次の瞬間、思考とは逆の”何か”がその命令に土壇場でストップをかけた。

 

 

”ヴォウッッ!!”

 

「うおッ!?」

 

 

 ユリウスの顔が思わず引きつる。ゴーレムは格闘技のセオリーも、人体の構造も全く無視した無茶苦茶な姿勢でユリウスに右アッパーを放ってきた。間一髪ユリウスの中の野生が事前にそれを察知し身をかわしたが、数十センチは離れているというのに拳が巻き起こした風圧でユリウスの髪がフワリと舞い上がる。

 

 

「こんなモンまともに喰らったら首ごともってかれちまう……!」

 

 

 ユリウスの背中を冷たい物が流れる。だがやはり無理のある動きだったせいか、ゴーレムは右手の勢いに体ごと持っていかれ、そのまま大きく前のめりによろけた。

 その隙を見逃すユリウスでは無い。無防備になったゴーレムの背中目掛けヴァンパイアキラーの一撃を見舞う!が……鞭がゴーレムに触れた瞬間、例えようもない嫌な感触が腕を通して伝わってきた。そして次の瞬間…………

 

 

 

 

 

「いだいいいいいイイィィ―――ッッ!!」

 

 

 耳を覆いたくなるほど大きな絶叫が錬金棟に鳴り響く!まともに話す事も出来なかったゴーレムが……いや、ゴーレムの()()が完全に人間のそれと解る声で、つんざく様な悲鳴をあげたのだ。その声は紛れも無く人間の……成人男性のそれだった。

 

……予想外の事態に狼狽えるユリウスに、カリオストロがポツリと呟く。

 

 

「……今はゴーレムでも元は人間。一流のヴァンパイアハンター様が振るう鞭はさぞ痛かろうて」

 

「この……野郎ッ!!」

 

 

 まるで他人事の様に振舞う老人の身勝手な態度に、ユリウスの蒼い瞳が見る見る怒気に染まっていく。ヴァンパイアキラーがゴーレムに触れた瞬間解った。この敵は形こそ異形だが間違いなく生きている。意識のある人間を無理矢理結合し、この老人が操っているのだ。

 

 

「……余所見をしている余裕があるのか?まだ勝負はついておらんぞ?」

 

「!!」

 

 

 カリオストロの発言に気を取られた瞬間、その巨体をそのまま押し込むようなゴーレムの前蹴りがユリウスを襲う!

 

「ぐあぅッ!!」

 

 咄嗟に腕を十字に組みガードしたものの、”ミシッ……”という不快な音が骨の髄から聞こえてきた。余りの苦痛に大きく顔をしかめる。

 

 

「馬鹿め!そいつは人間の”寄せ集め”と言ったろうが!背中を切られようが、首がもげようが、他の部分には何の支障も無いわ!!」

 

 

 床をバンバンと叩きながらカリオストロが笑い転げる。カリオストロの言う通り苦しんでいるのは鞭をあびせた背中だけで、他の部分を構成している肉塊に変化は見られない。

 

 ゴーレムは尚も攻撃の手を緩めず、今度は追撃の左ストレートをユリウス目掛け繰り出してくる。やむを得ず鞭でゴーレムの腕を払った!……が、やはり攻撃したゴーレムの部位が、今度は女性の声を上げ泣き叫んだ。攻撃した側のユリウスが逆に苦痛で顔を歪める。

 

 

「どうする……どうすりゃいいんだ……ッ!」

 

 

目の前のゴーレムはもはや人間では無い。この世にいてはいけない闇の眷属だ。しかし元は何の罪も無い善良な人間だったはず……それを……泣き叫ぶ被害者を痛めつけ、殺さなくてはならないというのか……!

 

人としての優しさと、ヴァンパイアハンターとしての掟……二つの相反する理がユリウスの中でせめぎ合い、その心を惑わせる。もはや腕の痛みなどどうでも良かった。ただどうしようもなく心が痛かった。

 

 

 

 

 一方サンジェルマンに抱きかかえられたエレナという名の女性もまた、その尋常ならざる光景に胸を締め付けられていた。何しろ目の前のクリーチャーは、元は同じ村に住んでいた隣人なのだ。見知った人間の聞き慣れた声がホールに響き渡るたび、彼女はじっと目を閉じ、まるで自分の事のように打ち震えていた。

 

 

「……ご婦人(マダム)には少々凄惨に過ぎますな……」

 

 

 エレナの苦痛をかんがみたサンジェルマンがホールから退出しようと踵を返す。だが目敏くそれを見つけたカリオストロが二人を呼び止める。

 

 

「おっと何処へ行く気だサンジェルマン?そこの女のためにあつらえたショーだぞ、最後まで見ていけ」

 

「…………」

 

 

 サンジェルマンはカリオストロの言葉に一瞬眉をひそめたものの、そのまま立ち止まらずにホールから出て行こうとした。だがカリオストロが発した次の言葉がサンジェルマンを強制的に立ち止まらせる。

 

 

「いいや、お前には無くともそこの女にはその理由がある……。女、お前の大切な ”子供” が ”父” の仇を討とうと必死に頑張っているのだぞ?見届けるのが母親としての義務だ!」

 

 

「!?」

 

 

 ホール中の全ての人間……ラングやハルカは勿論、戦っているユリウスにも聞こえる程の大きな声でカリオストロが告げた。女性は半ば混乱しながらも、震える声でカリオストロに問いただす。

 

 

「な……今……何て……」

 

 

「……そのままの意味だ女。目の前にいる出来損ないの一部はお前の子供。そしてその子供を倒そうと戦っている男こそ、お前の愛する夫に引導を渡した張本人よ!」

 

 

「…………ッ!!」

 

 

――声にならない悲鳴をエレナはあげた。

 

 

「悲しかろう……悔しかろう……夫は無事だとお前を慰めた男が、その夫を殺めた張本人だったとは。奴は自分が犯した罪から逃げるために、調子の良い嘘で貴様を騙そうとしたのだ!」

 

 

「違う!俺はッ!」

 

 よせばいいのにユリウスは女性の方を振り向いてしまう。が、女性と目が合った瞬間凍りついた様に動けなくなってしまった。自身を見る女性の瞳が怒りに満ち、睨みつけている様に見えたからだ。

 

 ユリウスは泣き出しそうな顔で女性を見続けた。……出来るならば闘技場での一部始終を話したかった。あの時ワーウルフとの間にどんなやり取りがあったか、彼に何を託されたかを……

 だがこの状況でそんな悠長な事が出来るはずも無い。いや、仮に説明したとしてどうなるというのか?どんな理由があったにせよ、自分が彼女の夫を殺し、それを黙っていた……生きていると嘘をついたのは事実なのだ。

 

 

 女性に対する罪悪感と、ゴーレムへの迷いのせいで、ユリウスの動きは完全に止まってしまう。しかしその時ゴーレムはユリウスのすぐ背後へと忍び寄っていた。

 

 

「うぐッ!」

 

 

 ユリウスは余りにもあっさりと……羽をもがれた蝶が捕まるようにゴーレムの手の内に捉えられてしまった。ゴーレムの豪腕に締め付けられ、瞬く間にユリウスの顔色が土気色に変わる。

 

 

「よくやったゴーレム!見ろサンジェルマン!私にかかれば何の取りえも無い有象無象が一騎当千の(つわもの)よ!!そら、よく見ていろ女!今からお前の子が父の仇を討つぞ!どうした小娘!もうお祈りはしないのか!?神の奇跡とやらを見せて見ろ!!」

 

 

 神の使途を散々に打ちのめした事で、カリオストロが嘲り、笑い、手を叩いて喜ぶ。その姿はシンバルを狂った様に打つ猿の玩具そのままだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あのサイコ野郎め……楽しんでやがる……!」

 

 ラングは確信した。目の前の老人はハナから石も村人も渡すつもりなど無い事を。いや、どうあがいても最初から勝つ見込みなど無かったのだ。賢者の石が向こうにある限り、ユリウスは攻める度にどんどん体力と魔力を奪われていく。それを重々解った上で、ユリウスが、自分達が微かな希望に必死にしがみつく様を見て心の底から笑っているのだ。

 

 しかしラングには目の前の仲間の危機をどうする事も出来ない。魔力を奪われた上、ハルカをかばった際のダメージは想像以上に重く、腕一本まともに動かせない。

……憎い仇がいるのに何も出来ない己の無力さ……つい今しがたカリオストロ自身が語った過去の話そのままの状況に追い込まれ、ラングは言葉に出来ないほどの屈辱にまみれていた。

 

 

 

――――だが、もう一人の少女は違った――――

 

 

 

「ふざ……けるな…………」

 

 

「!?」

 

 

 傍らから聞こえてきた地鳴りの様に響く声に、それまで笑っていたカリオストロの顔が冷や水をぶちまけられた様に急激に冷める。その背筋を這い回る様な悪寒にたじろぎ、思わず振り返った先には、魔力を奪いつくされながらも鋭い眼差しで老人を睨みつける少女がいた。

 

 

「いい……加減に……しろ……」

 

 

 ハルカがふらつく体を引き摺りながら、少しづつカリオストロの元へと近づいていく。だがやはり力が入らないのか、数歩も進まぬうちにその場に転んでしまう。だが転んでも尚、少女は老人を見据え、這いつくばりながら少しでも前に進もうとする。

 

 

 その言い知れぬ殺気のこもった瞳を見た瞬間、ほんの一瞬ではあるがカリオストロは蛇に睨まれた蛙の様に身動きが取れなくなった。先の研究室の時といい、今といい、まともに身動きひとつとれない筈のこの小娘から感じる()()に満ちた波動は何だ? これは……まるで………………

 

 

 

 

 

 

 

「クリス…………やめ……なさ……い」

 

 

 老人が少女の殺気に戦慄を覚えたまさにその時、消え入りそうな程微かな声がホールに響いた。ハルカのプレッシャーによってカリオストロが黙っていなかったら絶対に聞こえなかっただろう、それ程に小さな声だった。

 

…………声の主はサンジェルマンに抱きかかえられた女性だった。

 

 

 

「その……ひとを……ころ……しては……だめ……クリ……ス…………」

 

 

女性は人ならざる者へと身をやつした我が子に向かい、振り絞るように必死で呼びかける。

 

 

「ああ!?女、貴様何を言う!あの男は貴様の夫を殺した仇だぞ!?」

 

 

 女性の口から出た言葉が信じられなかったのか、カリオストロが激しく詰め寄る。

 

 

「ははあ……さては私の言う事だからと信じておらんな?断っておくがあの小僧が貴様の夫を殺したのは紛れもない事実、現実を受け入れろ女!そしてかような運命を課した神を恨め!」

 

 

 カリオストロが一気に捲くし立てる。だが女性は静かに首を振り、答えた。

 

 

「本当は……気付いて……いました…………ラウルが……もうこの世に居ない事は………

フフ………あなた……嘘が……ヘタ……ですね」

 

「……!」

 

 

 女性がユリウスを見ながら力なく笑う。だが次の瞬間、影を帯びた悲壮な物へとその表情が変わる。

 

 

「理由が……あるのでしょう……? ラウルも……きっと…………その子と……同じように……」

 

「そうなっては……その子も……もう……どうか……クリスを救って……楽に……してあげて…………ください…………おね……がい」

 

 

 子を想う母の、苦渋の決断だった。もはやろくに血液も残っていないのだろう、溢れるほど流れるべき涙はほんの一滴も出てはいない。だが……薄れ行く意識の中、ユリウスには確かにその頬を伝う大粒の涙が見えた気がした。

 

 

「母親の……涙?……何故だろう……少し前にも……見た……ような…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「MA……MA…………」

 

「…………!!」

 

 

 その時、物言えぬはずのゴーレムが自ら言葉を発した。それは紛れも無く母を呼ぶ幼子の声だった。ゴーレムはユリウスを掴んでいた両の手を緩め、その呪縛から解き放つ。ドサリと音を立て、ユリウスの体がその場に崩れ落ちる。

 

 

「ま……マ……」

「…………クリス!!」

 

 

 ゴーレムが……歩き始めたばかりの乳飲み子の様に拙い足どりで、だが確実に自らの意思で……

呼びかけた母の下へとゆっくりと歩き出す。その絶対に有り得ない行動に、ゴーレムを作り出した当の錬金術師が驚愕する。

 

 

「な……馬鹿な!?そんな事はありえん!痛覚や神経はともかく、思考は完全に奪ってあるはずだ……ッ」

 

 

 目の前で繰り広げられる光景にカリオストロが狼狽たえ取り乱す。だが同じように一部始終を見ていたもう一人の錬金術師が、古い知人に対し冷徹に言い放った。

 

 

「何を驚いているのですカリオストロ?たった今あなたが言っていたではありませんか。

”奇跡を見せろ”と、御覧なさい、あなたのお望みどおり母の愛が奇跡を起こしたのですよ」

 

 

「………………ッ!!」

 

 

 サンジェルマンの言葉にカリオストロが絶句する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………認めん

 

 

「何が愛だ……私の時には何の慈悲も示さず、こんな時ばかり……こんな……糞の役にもたたぬクズ共にばかり……!」

 

「どいつも……こいつも……役に立たん失敗作だ!私の邪魔をする裏切り者だ!!」

 

「……認めん、……認めんぞ……認めて…………たまるかアアアァァァ――――ッッ!!」

 

「私を否定する者は絶対に許さん……!全部、全部ブッ壊してやるウ

アァゥゥゥ――――ッ!!」

 

 

 

 腕の鉤爪をさらに巨大化させ、ゴーレムの背中へ突き立てようとカリオストロが親子へと迫る!だがその爪がゴーレムを切り裂く間際、赤い影が二者の間をよぎった。

 

 

 

「……邪魔するんじゃねえ!!」

 

「ベル……モンドォォォッッッ!!」

 

 

 ユリウスがカリオストロとゴーレムの間に割って入り、その攻撃を受け止めた!粛清を邪魔され、カリオストロが血管が千切れんばかりに激昂する。だがユリウスには目の前の老人の事などどうでも良かった。自分の後にいる親子、そっちの方が何万倍も重要だった。

 

 

「エレナ……さん、コイツの言った事は本当だ……嘘をついたのも……けど……俺は!」

 

 

 後方にいる女性を伏目がちに見る。蔑まれる事を覚悟していたが、その目は幾分微笑んでいる様にユリウスには見えた。いや、ただそんな気がしただけかも知れない……だが青年の心のしこりが幾分和らいだのは確かだった。

 

 

「私を無視して女とお喋りか?いいご身分だなベルモンド!だが忘れているなら思い出させてやる。貴様の鞭は私には効かんのだぞ!この追い詰められた状況……どうやって挽回する気だ!」

 

 

 カリオストロの鉤爪がユリウスの眼前に迫る!だがユリウスは逆にニヤリと笑みを返し、カリオストロに啖呵をきった。

 

 

「鞭が効かない……?だったら……それ以外の武器を全部くれてやる!!」

 

「なッ!?」

 

 

 ユリウスの胸元から大量の紙束が一気に噴出した。それを皮切りにあらゆる武器……ナイフ、聖水、クロス、斧。跳鉱石、手裏剣、くない、手榴弾。とにかく持っている退魔道具と暗器、その全てを繰り出す大盤振る舞いが始まった。せめてどれか1つでもカリオストロにダメージを与えてくれれば……という一か八かの賭けだったが、このやぶれかぶれのバーゲンセールは意外な結果をもたらした。

 

 

「……ッ、まずい!」

 

 

 狙いも碌につけずに放った武器だったが、明らかにカリオストロのそれらへの対応がおかしい。カリオストロはそれらの武器を一切避けようとはせず、むしろその身で受け止めるかのように、

まるで()()()()()()を守ろうとでもするかのように全ての武器を叩き落そうとしている。

 

 その様子を見てふと気付く……そう言えばさっき投げたナイフも奴は避けずに弾き返していた。鞭もわざわざその手で掴んでいた。自らの頑強さを誇示しているだけかとあの時は思ったが……

まさか!

 

 

 ユリウスは何事か閃いたのか、ホールの全景が見渡せる壁際まで一気に飛び退く。そして仲間達に向かい叫んだ。

 

 

「ハルカ!ラング!そこから絶対に動くな!!おいサンジェルマン!」

 

「ハイ、何でしょうか?」

 

「賢者の石……少しぐらい傷がついても……文句言うんじゃねえぞ!」

 

 

「…………は!?」

 

 

 ユリウスの両眼が瞬時に部屋の構造、障害物の場所を確認する。ものの数秒で計算を終えると、腰のサイドバッグから礼拝堂でレライエを屠った()()退魔道具を取り出す。

 

 

「おい爺さん……あんたの眼、まるでカメレオンみたいだが……きっと視力はメチャクチャ良いんだろうな……」

 

「何……?」

 

 

 ユリウスがカリオストロを睨みつけ”ニヤリ”と笑った。その不適な笑みと、不可解な台詞にカリオストロが訝しむ。

 

 

「そのでかい目玉で……こいつを全部追って見ろ!出来る物ならな!!」

 

 

 ユリウスが前に突き出した両の指先には、右手に4つ、左手に4つ、計8個の緑色の石……跳鉱石が握られていた。そして次の瞬間、それらをホールのあらゆる方向に向かって放り投げる!

 

 

「………………ッ!!」

 

 

 ユリウスの行動にカリオストロの顔からそのふてぶてしい余裕が一瞬で消え去る。ユリウスの手から離れた跳鉱石の群れは、ホールの至る所……壁、天井、床、オブジェ、機械……様々な障害物を壊しながら、縦横無尽にホールを駆け巡った。

 

 

「き……貴様何をするッ!やめろォッ!!」

 

「今ので終わりじゃねえぞ?ほら、次いくぜ!!」

 

 

 ユリウスがバッグの中にあるありったけの跳鉱石を投げつける。緑色に光る尾を引きながら乱反射を繰り返す跳鉱石は、さながら幻想的な蛍の大群の様にも見えた。だがユリウスはそれら石達の動きには目もくれず、ひたすらカリオストロの動きを注視している。

 

 

―――俺の予想が当たっていれば、奴は必ず動くはず―――

 

 

 カリオストロは舌を伸ばし腕を伸ばし、本物のカメレオンさながら飛びかう跳鉱石を叩き落そうと躍起になっている。だがいくら動物並みの動体視力を持っているとはいえ、高速で、しかもあらゆる方向に飛び回る石の群れは、そうそう叩き落せる物では無い。やがて全部を捉えるのは不可能と判断したのか、カリオストロが少しづつ壁よりに位置を移し始めた。

 

 

「見えたッ!」

 

 

 カリオストロが動いた場所。跳鉱石の軌道を防ごうと立った場所の奥に、その物体は絶対にある!ユリウスはカリオストロ目掛け一直線に駆け寄った!

 

 いきなり突っ込んできたユリウスにカリオストロは反射的に鉤爪を払う!が、捉えたはずの標的は何の手ごたえも無い。むきになって何度もその体を切り裂くが、青年は憎たらしい笑みをカリオストロにかけた後、霞の様にその姿を消してしまった。

 

 

「幻影!?」

 

 

 気付いた時には遅かった。カリオストロが幻影にかまっている間に背後に回ったユリウスは、目星をつけた場所に向けてヴァンパイアキラーの一撃を放っていたのだ。

 

 それはホールの天井に描かれた天体図の端……全くと言っていいほど目立たない、何の変哲もない黒い星が描かれた箇所だった。一目見ただけでは見過ごしてしまう程地味な絵だったがやはり重要な何かが隠してあると見え、レンガ造りの壁にしては異常に硬い。それでもユリウスは全力で鞭を振るい、数度目の攻撃でようやく亀裂が入った。

 

 

―――瞬間、ヴァンパイアキラーが作った裂け目から強烈な光と魔力の奔流が吹き出す!だがそれもほんの一瞬で終わり、崩れた壁の奥、透明なガラスに幾重にも守られながら、七色に輝くこぶし大の石が顔を覗かせた。

 

 

……それを一目見た瞬間、アクセサリーや貴金属にほとんど興味の無いユリウスですら目が釘付けになった。吸い込まれそうなほど神秘的な輝きを放つそれは、今まで見てきたどんな物よりも美しい……いや、この石の前では数十カラットのダイアモンドでさえその辺の石ころと変わらない――そう思えてしまう程に、その石が放つ輝きは現実離れしていた。

 

 

「これが……賢者の石……!」

 

 

――ユリウスの蒼色の瞳に、虹色の輝きを放つ神秘の石がその姿体を写していた――

 

 

 

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