悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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(´・ω・`)<クリスマス?”Natale(ナターレ)”の事デスか?

(´・ω・`)<………………

(´・ω・`)<そんなもの……悪魔城(ウチ)にはないよ……


続き投稿します。
 


憤怒

 

「待て」

 

 丸腰で部屋から出て行こうとする騎士を、年老いた錬金術師が呼び止める。

 

「これを持っていけ」

 

 錬金術師はそう言うと奥の戸棚から何か縄状の物体を取り出しテーブルに置いた。

騎士が怪訝な表情で尋ねる。

 

「これは……?」

 

「私が錬金術を応用して作った鞭だ。多少だが闇を払う力がある。丸腰よりはマシだろう、持って行くといい」

 

「恩に着る」

 

 騎士は差し出された鞭を手に取ると、再び扉に向かって歩き出す。だが再び錬金術師に「待て」と呼び止められた。

 

 今すぐにでも愛する女性を助け出したい騎士は「まだ何かあるのか」と幾らか鬱陶しげな表情で錬金術師の方を振り返る。が……錬金術師と目が合った瞬間、先程とはまるで違うその鬼気迫る眼光に言葉を失ってしまった。

 

 

「その鞭は周りの環境に非常に影響を受けやすい……大気中の魔力(マナ)元素(エレメント)、お前自身の感情……扱いを誤れば諸刃の剣にもなろう……くれぐれも取り扱いには注意しろ、……いいな?」

 

 

錬金術師の真に迫る忠告に、騎士は無意識の内にごくりと唾を飲み込んでいた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが賢者の石……こんな所に隠してやがったのか!」

 

 崩れ落ちた壁画の裂け目、隠し部屋の中央に虹色に輝く石がその姿を覗かせる。

間違いない……これが ”賢者の石” だ!

 

 賢者の石は手に収まるサイズの正八面体で、やや大きい事を除けば形は普通の宝石とあまり変わらなかった。だがその内側はまるで生きているかの様に揺らめき、胎動している。例えるなら石の形をした心臓その物……

 

 このホールに入った時に感じた、何かに飲み込まれた様な”錯覚”はやはり間違いではなかった。このホール自体が、賢者の石という核を中心とした一個の生命体なのだ。

 

 

「くそ……!体が……!」

 

 ユリウスはすぐさま部屋の中に入ろうと裂け目に腕を突っ込む。だが壁に開けた穴は人が入るには小さすぎ、とても通る事は出来無い。やむなく周囲の壁を壊そうとした……その瞬間――

 

 

「貴様!何をしている!!」

 

 

 幻影に惑わされていたカリオストロがここでようやく事態に気付く。老人は愛する女性から間男を引き離すかの如く、体毛をハリネズミの様に硬化させユリウス目掛け発射した。

 

「うおッ!!」

 

 ユリウスが慌てて腕を引っ込める。カリオストロが発射した毛針はまるで五寸釘の様に深く、ヴァンパイアキラーの攻撃すら防いだ防護壁に深々と突き刺ささる。だが……

 

 

「…………!」

 

 賢者の石の在り処を嗅ぎつけられ、カリオストロは冷静さを欠いていた。ユリウスを狙った針は標的を始末するどころか壁の亀裂を広げ、逆に人が通れる程に穴を広げてしまう。

 

壁に開いた大穴からは中の様子が大まかに確認できた。青白い明かりに照らされた小部屋の中央、不可思議な形の台座の上に、ガラスケースに収まった虹色の石が見える。

 

 

ユリウスはこれ幸いとすぐさま部屋の中へ足を踏み入れる。……が、目当ての獲物を前にして、ユリウスも知らず知らずの内に焦っていた。いや、賢者の石の持つ”魔性”に魅入られていた。

――――屋内戦の鉄則……()()の二文字が頭の中からすっぱり抜け落ちていたのである。

 

 

 

「!?!?」

 

 

 隠し部屋の中に一歩足を踏み入れた瞬間、目の前に捉えた賢者の石が”ぐにゃり”と歪む。それに続いて今度は足から力が抜け、ユリウスは前のめりに転倒してしまった。

 

「しまっ……!」

 

 ユリウスは自らの浅はかさに歯噛みした。よくよく見れば石が置かれた台座……いや壁や天井のいたる所からパイプオルガンの様な管が伸び、大気を……魔力(マナ)を吸っている。賢者の石が安置されている部屋なのだ。ホールの数倍、数十倍のスピードでユリウスの魔力は吸い尽くされていく。

 

 不甲斐ない自分の頬を殴りつけてやりたかったがもう後の祭りだ。体中が鉛の様に重く、ユリウスはまるでネズミ捕りにかかった鼠の様に地べたに這いつくばる事しか出来ない。あと……後ほんの数メートル先に賢者の石があるのに……!!

 

 

「フフフフ……どぉーしたァ……?ベルモンドォ……」

 

「!」

 

 

 人を小馬鹿にした、心底嫌らしい笑い声を上げながらカリオストロも部屋に入って来る。カリオストロはゆっくりユリウスの回りを一周するとおもむろに足を上げ、ユリウスの顔を思い切り踏みつけた!

 

「ぐぅッッ!!」

 

「ケヒャヒャ!……惜しかったなあベルモンド?後ほんのちょっとだったのになあ?」

 

 

 ユリウスの顔をぐりぐりと踏みつけながら、カリオストロが煽る様に続ける。

 

 

「ほォらあと少しだ、後ほんの数メートル進めば石に手が届くぞ?諦めるな、頑張れ、もう一度私に奇跡とやらを見せてみろ。きひひ……」

 

 

 ユリウスは魔力を吸われ、力の入らない体を奮い立たせ必死にもがく。しかし魔力が尽き、頭を押さえつけられた状態ではせいぜい呻き声をあげる位しか出来ない。

 

 

「ここまでだなベルモンド?本来ならば貴様の様な神の使徒にはもっと惨たらしい死を与える所だが……賢者の石の在り処まで嗅ぎつけられてはもはや遊んでいる暇は無い…………死ね!!」

 

 

カリオストロがその鋭く尖った爪を引き絞る……!だがユリウスに爪が突きたてられるその瞬間、轟音と供にもう一人の侵入者が部屋の中に雪崩れ込んできた。

 

 

”ヴオゥッッ”

 

「おごぅはォッ!!?」

 

 

 言葉では形容できない音をたてながら、カリオストロの体が反対側の壁に吹っ飛ばされる!かろうじて動く首を動かし見上げた頭上には、雄雄しく胸を張り直立するゴーレムの姿があった。

 

 

「お……前……」

 

 ゴーレムは相変わらず言葉は発さなかったが、心なしかユリウスに感謝の念を示しているようであった。そしてそれを証明するかのように、ゴーレムは倒れているユリウスの横をすり抜け、石が置かれた中央の台座へゆっくりと進みだす。だが……

 

 

「……それを取ったらお前は死ぬぞ!」

 

「…………!?」

 

 

 ボロボロの白衣を纏ったカリオストロが瓦礫の中からその姿を現す。その言葉にゴーレムの動きが止まる。

 

 

「お前だけでは無い……大事な大事なお前のママも死ぬのだ!よく考えろゴーレム。一人しかいない母親と、何の関係も無いそこの男と、どちらがお前にとって大事か……考えるまでもないではないか……」

 

 

「u……a……」

 

 

 ゴーレムがユリウスとカリオストロの顔を見比べ、混乱した様子でうろたえる。ゴーレムは図体こそデカいが頭脳は幼い子供なのだ。カリオストロの見え透いた甘言も、その行動を躊躇させるには十分だった。

 

 

「奴の言う事を信じるな!」ユリウスはゴーレムにそう伝えたかったが、今の状態では声を上げる事も叶わない。いや、言おうと思えば言えたはずだ。なのにそれをしないのはカリオストロの言葉が半分は真実だからだった。

 

 ゴーレムはもはやこの世に生きていてはいけない存在に変わってしまっている。だからといってゴーレムに石を取らせるという事は少年に”死ね”と言うのと同義であった。……だがそのユリウスの人としての優しさ……いや()()からくるこの一時のためらいが、ゴーレムに最悪の結果をもたらす事になる……

 

 

 

 

「……さっき私にした事は許してやる。いや、それだけでは無い、お前も、母も、元通りの体に戻してやろう。さ……いい子だからその石から離れるのだ…………いいな?ゴーレムよ……」

 

 

 カリオストロの子供をあやすような優しい語らい……その説得にゴーレムはとうとうその両の手を賢者の石からおろしてしまった……しかし…………

 

 

”ドスッ”

 

 

 部屋の中に鈍い音が響く。ゴーレムはキョトンとしていた。

 

 

「――――とでもいうと思ったかァ!!」

 

 

ゴーレムが躊躇した一瞬の隙をついて、カリオストロの伸縮した腕がゴーレムの胸を貫いていた。

 

 

「失敗作は……きっちり処分しなければなァッ!!」

 

 カリオストロが突き刺した鉤爪を一気に引き抜く!その手には賢者の石とほぼ同じ形の石が握られていた。カリオストロは天高く石をかざすと、その指先に満身の力をこめる。

 

”パシャアァァァン”

 

 石は美しい残響を響かせながら、粉々に砕かれる。するとどうした事だろう、石の破壊と呼応するように、ゴーレムが突如呻き声を上げ、苦しみ始めた。

 

 

「この石はな、賢者の石を模して私が作ったイミテーション、さしずめ”愚者の石”よ!そいつが体を繋ぎとめていられたのはこの石が賢者の石から力を奪っていたおかげ!力の供給を断たれれば体を保つ事はできず、あっという間に土くれよ!!」

 

「………………ッッ」

 

 

 カリオストロの言う通り、力の供給を断たれたゴーレムから腕が落ち、脚がもげ、見る見る内に肉塊へと成り果てていく。その哀れな光景を見て、ユリウスは行動をおこさなかった自分を心底恨み、侮蔑した。

 

…………だがここでカリオストロに1つの誤算が生じる。

 

 

「WO…………WOOOOOOOO――!!!」

 

「何ッ!?」

 

 

 突如ゴーレムが辺りを揺り動かすほどの咆哮をあげた!ゴーレムは最後の力を振り絞り立ち上がると、賢者の石へ向かって猛然と走り出す!

 

 

「や、やめろおおおおおッ!!」

 

 

 カリオストロが絶叫し、ゴーレムを止めに入る!……だが既に遅きに失した。ゴーレムの文字通り身を賭した、捨て身の体当たりが賢者の石に見舞われる!

 

 賢者の石はゴーレムの体に飲み込まれ、瞬く間に台座ごと崩壊した。刹那、潰れた機械から行き場を失った大量の蒸気が噴出し、あっという間に部屋の中を真っ白に覆い尽くしてしまう。

 

 

 

 

 

「く……そ……」

 

 

 蒸気が視界を白く染め上げる中、後悔と自責の念がユリウスを襲っていた。だが今のユリウスにいつまでも悔やんでいる時間は無い。ゴーレムによって壊された機械は魔力の行き場を失くし、狂ったようにピストン運動を繰り返している。いずれ飽和状態になった魔力は臨界を起こし、周囲を巻き込む大爆発を起こすだろう。

 

 

一刻も早くこの場から逃げなければならない。だがいくら前に進もうと思っても、魔力の枯渇した体は一向に前進しない。焦れば焦るほど床を掴む手は空回りし、ユリウスを追い詰めていく。

 

 

 だがユリウスが半ば諦め掛けたその時……ふと白いもやの中に小さな影が見えた。

その影はユリウスに向かい何事か呟くと、その手に何か硬い物を握らせる。

 

 

「――――お前――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”ドオオオォォォォンッッ!!!”

 

 

 穴から白い蒸気が漏れだしてしばらくした後、巨大な爆発が部屋の中で起こった。かろうじて魔力が回復していたハルカは、ラングの傍へ寄り添い治療を行なっていたが、突然の衝撃音に思わずその手を止める。

 

 

 ハルカが煙が吹き出る穴を注視していると、突然1つの黒い影が飛び出した。影はホールの中央まで飛び退くと、煤だらけになった外皮を脱皮するように脱ぎ捨てる。それは体を瞬間的に耐熱性の殻に変えたカリオストロだった。

 

 

「くそ……ッ死にぞこないのゴーレム風情が嘗めた真似を……!」

 

 

 いまだに所々燻る体を見回しながら、苛立ちの声を上げるカリオストロ。だがすぐに頭を切り替えると、そのギョロリとした眼を輝かせ、ラング達の方へ向き直る。

 

 

「装置が壊れた今もはや猶予は無い……力を取り戻す前に……死んでもらう!」

 

「く……ッ!」

 

 

 カリオストロがその矛先を二人に定めなおし飛びかかってきた!まだ二人の魔力は完全に回復していない。ラングにいたってはまともに動くことすら出来ない。――万事休す――

そんな言葉が二人の脳裏を過ぎったその時だった。

 

 

 

”キイィィィンッ”

 

 カリオストロの行く手を銀のナイフが遮る!

 

 

「また貴様かァ……!ベルモンドォッッ!!」

 

 

 白い蒸気が立ち込める部屋の中から、その手に少年と賢者の石を抱きかかえたユリウスが現われる。あれだけの爆発に遭いながらユリウスの体に目立った傷は無かった。しかし……

 

 

「……!」

 

 

 その姿を見た瞬間、女性が声にならない叫びを上げた。ユリウスの腕に抱えられた少年は、体の至る所が見るも無残に焼け爛れ、肉が露出している。

 

 

「ほう……さすが利己的な神の使途。バケモノを盾にして自分だけ助かったか!見上げた根性だ!ヒャヒャヒャ……」

 

「――――ッッ」

 

 

 息絶えた少年を安置していたユリウスに向かって、カリオストロが見え透いた挑発をする。しかし振り返ったユリウスの顔を見た瞬間、その背中に”ざらリ”とした悪寒が走る。

 

 

 ……カリオストロを睨みつけるユリウスの顔は、まるで魔王と見紛う程の怒りに満ちていた……血管が浮き、髪の毛は総毛立ち、肌は真っ赤に上気している。やがてこちらまで聞こえる程の荒い息遣いを押さえ、ユリウスが怨嗟のこもった声で言い放つ。

 

 

「やってくれたなァ…………カリオストロォッ!!」

 

 

 ユリウスのエコーがかった、地を這うような怒声にカリオストロは気圧され、圧倒される。

一方ラングとハルカもカリオストロと同様、ユリウスの変化に唖然としていた。だがそれはユリウスの表情では無い、それ以上にユリウスが発した”声”の変化に二人は驚いていた。

 

 その女性的な顔立ちに似つかわしくなく、ユリウスの声は低めの声質である。だが今ユリウスから出た声は、怒りに燃え、脅しも含んでいるとしても異常な程低く、不気味な低音だ。それはまるで地の底から這いずる悪魔その者……

 

 

 

 

「フン!この私を恫喝か!さっきの小娘といい、どうしてこう神の使徒という奴は思い上がりが強いのか!」

 

 

 しかし件の錬金術師がそんな違いに気付くはずも無い。カリオストロは怖気づいた事を取り繕うかの様に、一層高圧的な物言いでユリウスに詰め寄った。

 

 

「石を取り返した位で調子に乗るなよ小僧……!例え賢者の石を持とうが受力の石を持たぬ貴様に石の恩恵は与えられん!それどころかその石の持つ闇の力は持っているだけでお前を蝕んでいくぞ!」

 

 

 カリオストロがユリウスに対し逆に脅しをかける。だがユリウスはその恫喝を一切意に介さず、逆に吐き捨てるように言い放った。

 

 

「…………御託はいいんだよ……神も……ドラキュラも……もうどうでもいい………………たださっきからよ……誰かの声が頭に響くんだ……」

 

「――憎め!――怒れ!――目の前の敵をぶち殺せッ!!…………ってなァッ!!」

 

 

 ユリウスが叫んだ瞬間、その手に持つ銀色の鞭が突如として燃え上がり、赤黒く燃えさかる炎の鞭へとその姿を変えた!

 

 

「――――何ッ!?」

 

「――――なんと!」

 

 

 ヴァンパイアキラーの変化にカリオストロは勿論、傍観していたサンジェルマンまでが驚嘆の声を上げる。紅蓮に逆巻く炎の鞭をしならせながら、ユリウスは標的目掛け猛然と走り出した!

 

 

「く……少しばかり武器が変わった程度で図にのりおって!そんなチンケな炎で私が倒せると思ったかァッ!!」

 

 

 カリオストロはヴァンパイアキラーの炎に耐えられるよう、先程と同じ様に肌を高温に耐える深海生物の甲殻へと変える。そのままでも数百度の高温に耐える材質だ。しかし――

 

 

”ブジュワアアアアァァァッ!!”

 

「ぐうぅおあぁぁあッ!!?」

 

 

 カリオストロの腕は、炎の鞭を防ぐどころか鞭が放つ熱気に触れただけで、溶解、蒸発してしまった。賢者の石が無い今、もはやその腕が再生する事は無い。

 

 

「ば、馬鹿な……!炎だろうが氷だろうが、退魔の力は……神の加護は私に一切効かない筈……!」

 

 

 失った腕を押さえながら狼狽するカリオストロ。だがユリウスはそんな老人を嘲笑うかのように不適な笑みを浮かべ、非情の宣告をする。

 

 

「神の加護……?ハハハハ!さっきお前が言ったじゃねえか。この鞭はな、そんな高尚なもんじゃねえんだよ!」

 

「――――ッ」

 

「俺もな……神の使徒なんて御大層なもんじゃねえ……ただ……目の前の屑をぶち殺したいと思ってる……正真正銘……ただの人間だアァァ――ッ!!」

 

「ヒィィィィィ――――ッ!!」

 

 再び追撃を開始したユリウスが、炎の渦と化したヴァンパイアキラーを手にカリオストロに襲い掛かる!その姿は見るからに戦闘を楽しんでいる……悪鬼羅刹と何ら変わらない様相だった。

 

 

 

 

「どうしちまったんだユリウスは!?それにあのドス黒い波動は何だ……!?」

 

 

 ハルカの治癒魔法によってどうにか体を起こせるようになったラングが思わず呟く。

ユリウスから発せられる波動は、明らかに今までのユリウスとは違う悪意に満ちた物だった。

 

 ラングには闇の力の何たるかなどさっぱり解らない。だがさすがにこの悪魔城に入って数度に渡り戦いを見、実際に体験したおかげか、人にとって有害か無害かの判別はつくようになっていた。そして今、目の前の青年から感じる力の波動……それは間違いなく前者……

 

 

「……石に……心を支配されてる……ッ」

 

「何!?」

 

 ハルカの言葉に思わずラングの声が裏返る。

 

 サンジェルマンの台詞を思い出す。「賢者の石はドラキュラの魔力を封じ込めた物」

……という事は今のユリウスは……!

 

 ラングは傷が治り次第ユリウスの援護に回るつもりだった。だが青年の放つ尋常ならざる怒りの波動がそれを躊躇させた。下手に近づいたらこちらまで巻き込まれる……ラングの長年の従軍体験から来る兵士としての勘がそう告げている。

 

 

――二人は目の前の仲間の変化にどうする事も出来ず、ただじっと見守る事しか出来なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方ユリウスとカリオストロの戦いは最終局面を迎えようとしていた。石の力か、あれ程苦戦していた錬金術師を一方的に追い詰めるユリウス。だがここで老人が死に物狂いの賭けに出る。

 

 

「ま……待て!」

 

「――――!」

 

 

 ユリウスの猛攻からなりふり構わず逃げ惑っていたカリオストロだったが、もはや正攻法では勝てないと判断したのか、残された左手をユリウスにかざし、その攻撃に待ったをかけた。

 

 

「や……やめろ!いいのか!?私を殺せば女は……拉致した人間共は助からんぞ!?」

 

 カリオストロが命乞いとも脅迫ともつかない言葉をユリウスにかける。幸か不幸かユリウスにまだ理性は残っていたらしく、攻撃の手が一瞬やんだ。……そしてカリオストロにとってはそれで十分だった。

 

「馬鹿がッ!死ねィ!」

 

 カリオストロがかざした手の爪を、ミサイルの様に発射する!が……

 

 

「姿が……消え……!?」

 

 

 さっきまで目の前にいたはずのユリウスの姿がそこに無い。だがその直後、呆然とするカリオストロの背後から冷水を浴びせるように暗く、冷たい声が聞こえてきた。

 

 

「今更……お前の妄言を信じるとでも思ったか……?」

 

 開口一閃!紅蓮の炎と化したヴァンパイアキラーがカリオストロの身を引き裂いた!広いホールに不快な肉の焼ける匂いが漂う。

 

 

「ひぃぃぃぃっ!!そ……そんな!馬鹿な!私の計算は……完璧な筈だ!何故……こんな奴らに!た、助けて!お助けを……伯爵様ァ!!あなたの忠実な下僕が危急なのです!どうか……どうか御慈悲を!伯爵様アァァ――――ッ」

 

 

 天を仰ぎ慈悲を請うカリオストロ…………だが主からの返答は無い。

 

 

「そんなにドラキュラが恋しいのか……?ならその力……思う存分くれてやるッ!!」

 

 

 ヴァンパイアキラーの炎がより一層大きくなり、ユリウスの体を焦がさんばかりに燃え上がる!太陽が放つプロミネンスの如き炎の鞭は、背を向け逃げるカリオストロを容赦なく捕らえ、飲み込んでいく!!

 

ギイィヤアアァアァ―――ッ!!伯爵様!伯爵様アアあぁァぁ――…… …  …  」

 

 

 ユリウスの振るった憤怒の一撃は、カリオストロの肉体も、魂も、断末魔の悲鳴すら巻き込み、一片の欠片すら残さずその存在を燃やし尽くした。

 

……渦巻く炎がようやく静まった後、カリオストロが存在していた場所には、輝きを失った愚者の石(イミテーション)がひとつ、空しく転がっているのみだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ……!忌々しいベルモンドめ!!」

 

 

 錬金棟の迷路の様な通路をひた走る1つの影……それは今しがた消滅したはずのカリオストロだった。

 

老人は炎が全身を焼き尽くす直前、逆にその燃えさかる火柱を隠れ蓑にして脱出に成功していた。最もその姿はもはや人型ですらない、かろうじて守った頭部から蜘蛛の様な脚が飛び出た、酷くグロテスク、かつみすぼらしい姿だった。だが野心までは失っていないのか、その目は怒りに燃え、爛々と光り輝いている。

 

 

「伯爵も伯爵だ!これまで尽くしてきた恩を忘れおって!!許さん……ッ神の使徒も……闇の眷属も……!憶えていろ!いずれ皆まとめて滅ぼしてくれる!!」

 

 

カリオストロが実に独善的な決意を呟く。だがいくら威勢のいい事を言ってもこの体ではどうする事も出来ない。今はとにかく何処かに隠れ力を蓄えよう……そんな事を思案していた時であった。

 

”ドカッ!”

 

「ぐぅえッ!?」

 

 突如何者かによって、カリオストロは思い切り蹴り飛ばされる!硬いレンガに勢い良く叩きつけられ、おびただしい量の血がベットリと壁につく。

 

「な……ッ?な……!?」

 

 カリオストロは自身に起きた事態がのみこめず、ふらつきながら辺りを見回す。

すると男が一人、無言で自分を見下ろしているのに気付いた。

 

 

「き……貴様何者だ!このカリオストロにこんなことヴォオッ!!」

 

 

 カリオストロが口上を言い終わる前に、再び強烈な蹴りが見舞われる。

 

 何度も、何度も、カリオストロが立ち上がるたびに男は無言で攻撃を見舞う。カリオストロは何の抵抗も出来ないまま、只一方的に蹴られ、倒され、叩きつけられた。

 

 

「も……もう、やめ……」

 

 

”ベチャリッ”という粘着質な音をたて、血の跡をひきながらカリオストロはズルズルと地面を這う。その顔はグチャグチャに潰れ顔中血みどろ。もはや至高の錬金術師としての威厳など微塵も無かった。

 

 

「うそ……だ……ッ。この……カリオストロが……ッこの天才が……ッこんな……こんな事……あるはずが……無い……んだ」

 

 

 カリオストロはボロボロの体を奮い立たせ、ふらつきながらも何とかこの場から逃走を試みる。しかし……彼に神はいなかった。

 

 

Αμήν(アーメン) ……」

 

「――――!」

 

 

”グチャ!”

 

 

――自称最高の錬金術師、アレッサンドロ・ディ・カリオストロ――

 

この稀代の錬金術師の生涯は、こうしてあっけなく幕を閉じたのだった……

 

 

 

 

 

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