悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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サン・ジェルマン

 

「くッ……うぐ……ぐッッ!!」

 

 

 カリオストロに引導を渡し、賢者の石を取り戻したユリウス。だがその姿はとても勝者とは思えぬほど憔悴し、苦痛に満ちていた。

 

 

「おれ……は……いっ……たい……」

 

 

 悪魔の様な敵を屠り、少年や村人の敵を討ったというのに、どうした事か一向に心が晴れない。いや、むしろその腹の底から湧きあがるような怒りの感情は、消えるどころかより一層燃え上がり、ユリウスの心を支配していく。

 

 

「まさ……か、コイツの……」

 

 

 おもむろに左手の賢者の石を見る。賢者の石は錬金棟の束縛から解放され、まるで本来の力を取り戻したかのようにより一層怪しく光り輝いている。

 

――こいつを持っているとまずい――!ユリウスの直感がそう警告している。だがどうした事か、いくら石を手放そうとしても、吸い付いたように賢者の石が手から離れない。いや、自らの左手が賢者の石を放す事を拒否している!?

 

 

「怒れ…………憎め…………この世の……全てを……破壊しろ……!」

 

 

 どこからか聞こえてくる地を這うようなおぞましい声……ユリウスは自身を取り込もうとする悪魔の囁きに必死の抵抗を試みるが、数度に渡る戦いに疲労していた肉体にはもはや抗う力は残されていなかった。逆らいようの無い深い絶望と怒りの感情がユリウスの心と体を蝕み、取り込んでいく…………

 

 

 

 

 

”パアァァンッ”

 

 

突如乾いた銃声がホールに響き、賢者の石が宙を舞った!

 

衝撃でその場に倒れこむユリウス。何とか両の腕で体を支え、見上げたホールの端……

銃口から硝煙を引く魔道銃(アガーテ)を構え、猛禽類の様な眼差しをこちらに向けるラングの姿があった……

 

 

 

 

 

 

「くッ……はぁ……ッ、はぁ……ッ」

 

 

 賢者の石の呪縛から開放されたと同時に、ユリウスは大きく息を吐いた。その額には大粒の汗がじっとりと滲んでいる。

 

 

「何なんだこの石は……!?怪我を治すだけじゃないのか……ッ!?」

 

 

 荒い呼吸を整えながら、ユリウスが足元に転がっている石に視線を落とす。賢者の石は輝きこそ失っていたものの、相変わらず怪しい揺らめきをその身に湛えている。

 

 石を手に持った瞬間、不自然なほどの怒りが湧き上がってきた。確かにゴーレムがカリオストロに倒され怒りの感情が湧いたのは事実だ。だがそれだけでは無い、明らかに自身の感情とは別の何かによって怒りが増幅された。後ほんの数秒石を手放すのが遅れていたらどうなっていたか解らない。想像しただけで背筋に強烈な悪寒が走る。

 

 

「ユリウス!俺が解るか!?」

 

 そのただならぬ雰囲気にラングが駆け寄って来る。ハルカに治療されたのか、傷は完全に回復しているようだ。

 

 

「ああ……助かったぜラング。いや、マジで……」

 

 

 心配そうに気遣う友人にユリウスが力なく笑う。だがその体越しに見えた光景に、ユリウスの顔色が再び青くなる。ハルカが落ちている賢者の石を拾おうとその手を伸ばしていたのだ。

 

 

 

「触るなッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

突然ユリウスの怒号が飛ぶ!ハルカが”ビクッ”と身体を揺らし、思わずその手を引っ込める。

 

 

「直接その石に触れるな!そいつは普通じゃない!」

 

 

 ユリウスの鬼気迫る忠告を受け、ハルカはケープを脱ぎ、それで包む様にして賢者の石を拾い上げた。とにかくこれで目的は達成した。やがてハルカもユリウスの下へやってくる。

 

 

「ちょっとユリウス……大丈夫?顔色悪いよ?治癒魔法かける?」

 

「俺の事はいい……それよりも……」

 

 

 ユリウスが母子のいる方へ視線を移す。ハルカ達が元通りに動ける様になったという事は、完全に魔力の吸収が止まったという事。それはつまり母子への生命の供給が断たれた事に他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 ユリウスは鏡の設置がてら、ホール中の隠し部屋をしらみつぶしに調べた。勿論生存者がいないかどうか探すためだ。だが遂に一人の生存者も発見する事は出来なかった。

 

……いや、きっとついさっきまでは生きていたのだろう。牢と思われる部屋で発見した亡骸は皆一様に、言葉にするのも躊躇われるほど惨たらしく体を弄繰り回された姿で、苦悶の表情を浮かべながら事切れていた。恐らく石の力が切れたと同時に苦しみながら死んでいったのだろう。

 ユリウスがどううまくやった所で、彼らを助ける事など出来なかっただろうが……それでも暗く冷たい何かがユリウスの背中に重く圧し掛かった。

 

 

 

 憔悴しきった顔でユリウスがホールに戻ると、ラングが少年に対し必死の救命活動を続けている。少年はハルカの治癒魔法によって外傷こそほぼ無くなっていたが、その顔は相変わらず青白く、血の気が引いたままだ。

 

 ユリウスや少年の母親が見守る中、ラングは必死に人工呼吸をし、心臓を鼓舞し続ける。だが……やがて5分もたった頃、ラングはユリウスの方を振り返り力無く首を振った……

 

 

「……………………」

 

 

 サンジェルマンの処置による物か、母親の方は石の力が断たれてもまだ命を繋ぎ止めていた。だがそれも時間の問題だろう。最後の時を母子一緒に過ごさせようというのか、女性を抱きかかえていたサンジェルマンが身をかがめ、その体を幼子へ寄り添わせる。

 

 

「クリ……ス」

 

 

 きっとそう呼びかけたのだろう。だが命尽きる寸前の母の声はもはや聞き取る事も出来無い程にか細く、我が子にも届かない。その光景に耐えきれず、ユリウスが母子に跪き、許しを請う。

 

 

「その子は…………爆発から俺をかばって……!すまない!!俺はあんたも……子供も……誰も救えなかった!旦那さんとの約束を守れなかったッッ!!」

 

 

 ユリウスが瞳を赤く腫らし、母親に向けて叫ぶ。だが女性はそんなユリウスに対し微かに首をふると、静かに口元を動かす。

 

 

「”夫は最後になんと言っていましたか?”と言っている……」

 

 ラングが女性の言葉をユリウスに伝える。

 

 

「……あんたと子供を助けてくれと……そして……あんた達二人を永遠に愛し見守っていると……そう……言っていた……」

 

 

 ユリウスの言葉を聞き、女性はゆっくりと……頷くように微笑を浮かべた。

 

 

「”あなたにも……つらい思いをさせてしまって……”」

 

「!! 俺なんか……俺なんかどうだっていいんだ!恨んでくれ!罵ってくれ!俺は何も……何もしてやれなかった……助けられなかった…………」

 

 

 掠れる様な声をあげながら、ユリウスはその場に崩れ落ちてしまう。そんなユリウスを見て、誰も、何も言葉を出せなかった……だがやがてサンジェルマンがおもむろに前へと進み出る。

件の紳士はまるで赤子に子守唄でも聴かせる様に、とても穏やかな口調で語らい始めた。

 

 

「さ……マダム、お疲れでしょう?もう貴方達親子を苦しめる者はいない。もう……何も考えずとも良いのです。力を抜いて…………しばし、眠りましょう…………」

 

 

 サンジェルマンの声は聞いているだけで不思議と心が安らぐ物だった。紳士は穏やかな笑顔を作りながら母と子の手を握り合わせ、自らの手をそっと女性の瞼にかざす。

……数秒ののち、サンジェルマンが女性から手を離すと………女性はとても重症を負った者とは思えぬ安らかな顔で、静かに……穏やかに天へと旅立っていた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちく……しょう……助けにきた奴が……逆に助けられてどうするんだ!俺は……俺は馬鹿だ!!どうしようもない役立たずだ!!」

 

「泣くなユリウス……お前のせいじゃない!」

 

 

 己を責め続けるユリウスを、ラングが叱咤する。幾多の戦場を経験したラングには、例え自らに非がなくとも責を感じるその感覚は痛いほどよく解った。

 

 

 

「おや……?」

 

 重く沈んだホールの空気……だが突然サンジェルマンが何かに気付いたように声をあげる。

 

 

「この少年……息があるようですが……」

 

『!?』

 

 

ラングが慌てて少年に駆け寄り、その容態を確認する。

「!」その顔を見てラングは驚愕した。肌に薄っすらと赤みが差している……先程まで一切反応が無かった心臓がその鼓動を再開している……!微かではあるが胸も上下に動き呼吸を始めている。間違いなく少年は生きている、息を吹き返している!

 

 

「……そんな!?さっき確認した時は確かに……!」

 

 予想外の事態にラングが思わず口元に手をやる。

 

「ふむ……状況が状況ですからな、どうやら診断違いをされたご様子。ですが今度ばかりはミスがあって良かったではないですか。年若い者が老人より先に逝く事ほどこの世で悲しいことはありませんからな……フフ」

 

 

「は……ハハ……何だよ生きてんじゃねえか!何やってんだよラング!しっかりしろよ!」

 

 悪態をつきながらもユリウスの声は嬉しさで上ずっていた。半分……半分だけだが……ワーウルフとの約束を果たせたのだ。漆黒の暗闇の中で、一筋の光が差し込んだ。そんな気持ちだった。

 

 

 

 

「馬鹿な…………」

 

 

 喜ぶユリウスをよそに、ラングは目の前で起きた事象が未だに信じられないでいた……

今までにも戦場で何人もの戦友や民間人の死を見てきた。救命活動の経験も一度や二度では無い。だからこそ断言できる。間違いなくその子は死んでいた。仮死状態などでも、診断ミスなどでも

断じて無い。確実に、確実に死んでいたのだ。

 

 

「…………あんた一体……」

 

 

思わず件の紳士を見やる。だが紳士はニコリと、その胡散臭い微笑みを投げ返すのみであった……

 

 

 

 

 

 

 

「さて!」

 

 突然サンジェルマンが”パチン”と大きくその手を叩く。

 

 

「若人の命が戻ったのは実に結構!が、それはそれ、これはこれ。そろそろ本題……()()()を返して頂きたいのですがね?」

 

 

 サンジェルマンの下世話な態度に、ユリウスはせっかくの良い気分に水を差された気がした。

だが逆にその水によって目が覚めたとも言える。なし崩し的に村人の救出をする事になったが、本来の目的は危機に瀕しているアルカードを救うための薬を手に入れる事なのだ。

 

 

「そう……だったな。石を返す代わりにアルカードを治療する薬を貰う。そういう約束だったな」

 

 サンジェルマンがうんうんと頷く。

 

「だが……こうも言ったはずだ。”次はお前だ”と……。お前の正体、そしてこの石の事!何もかも……全部洗いざらい吐いて貰うぞ」

 

 

 ユリウスの言葉に、サンジェルマンは口元に手をあてしばし何事か考えていたが、やがて観念したように口を開く。

 

 

「フゥむ……そんな事をしている時では無いような気もしますが……。ま、いいでしょう。遅ればせながら自己紹介といきますか」

 

 

 サンジェルマンはオホンと咳払いを1つすると、シャツの襟元を正し、胸を張りながら答えた。

 

 

「改めまして皆さん。我が名は ”サン・ジェルマン!” 生まれはハンガリア。爵位は伯爵。

職業は先のカリオストロと同じく錬金術師……と、言いたい所なのですが、御恥ずかしながら現在は無職です。まあ有体に申せば所轄 ”プータロー” という奴でしょうか」

 

 

「…………はあ?」

 

 サンジェルマンの突飛な自己紹介に三人とも怪訝な顔つきになる。

 

 

「元々はヨーロッパを拠点に錬金術の探求をしておりました。ですがまあ、先の知人や錬金術仲間、貴族達となんやかんやありまして……色々嫌になって錬金術師の職を辞した次第です」

 

「で、現在は風の向くまま気の向くまま……時の流れに身を任せあちこち放浪しております。さながら時の旅人……そう! ”時の旅人” が現在の私の職業ですな!」

 

 

「…………もういい」

 

 

……どうやらこの紳士は絶対に真面目に答える気は無いらしい。先のカリオストロの事もあり、いい加減この手合いをまともに相手をするのも疲れていたユリウスは、サンジェルマンの自己紹介を無理矢理制止した。

 

 

「…………嘘は言って無いんですけどねえ?」

 

サンジェルマンは口を尖らせ、何かブツブツ言いながら非難の眼差しをこちらに向けている。

…………無視して本題に入る。

 

 

「答えろ。賢者の石(こいつ)は一体何だ?コイツを取り返してどうする気だ!?お前の本当の目的は何だ!」

 

 

一気に捲くし立てて相手の出方を窺う。嘘をつくならついてみろ、今度こそただじゃおかないぞと構えるユリウス。だがサンジェルマンは突然人が変わったような冷徹な眼差しでユリウスら三人を見据える。その表情に今までのおちゃらけた態度や戯れは微塵も感じられない。

 

 

「そうですね……いい加減引っ張り過ぎもよろしくない……

ではお話ししましょう……私の目的……そして賢者の石の真実を…………」

 

 

 うって変わったサンジェルマンのシリアスな態度に、3人は思わず息を飲む。やがてサンジェルマンはおもむろに右手をかざすと、慣れた手つきで()()乾いた音をホールに響かせた。

 

 

”パチイィィィン…………”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、言いたい所ですが少々この話は長くなりそうなので……今回はひとまずこの辺でお開きにしたく思います。皆様年の瀬で何かとお忙しいでしょうし、この所重い話が続いていましたからね。たまにはあっさり終わるのも良いでしょう。まあ重くなった原因の9割は知人(カリオストロ)のせいなのですが」

 

 

「この一年は皆さんにとってどのような年でしたか?え、私?これといって特に何事も無い一年でしたよ?いや本当に、30周年とか、節目とか、全く感じないくらいに……同じ年に建立された竜の王が住む城は、やれ演劇だ、やれ新作だと随分盛り上がっていたようですがね……フフ……フ」

 

 

「まあ終わってみれば平穏無事なだけ良かったのかも知れません。良い事も、悪い事も、過ぎて見れば所詮歴史という大河の中のほんの一滴……大事なのは今!そしてこれから先の未来をどう生きるか!……です」

 

 

「来年はどんな年になるのでしょうか?まあ私の勝手な予想ですが、そう捨てたものでは無いと思いますよ。 え?知りもしないくせに無責任な事を言うな?いやはや全くごもっとも。来年の事を言うと鬼が笑うと申しますしね。ですがこれは何分私の()分でして。治したくても治せないのです。ハイ」

 

 

「……長々と話して参りましたがそろそろお時間となりました。また来年、二千じゅ……ではなかった、1999年にお会いしましょう。来たる年が皆様にとって幸多き年である事を心から願っております。それでは皆様、良いお年を……………bonne annee(ボナネ)………」

 

 

 

 

 

 

 

 




 
お気づきの方も多いと思いますが、今年は悪魔城ドラキュラ生誕30周年でした。(レコードとアーケード版の配信位しか話題無かったけど)

という事で、当初は年内に終わらせて、微力ながらドラキュラ30周年を盛り上げる予定だったのですが、早々に「あ……これ無理だ」と計画は頓挫してしまいました。

書いていて色々苦痛だった錬金棟(狂人キャラや鬱展開をさらりと書ける人は凄いと思う)がようやく終わりそうなので、今後はいくらか投稿ペースを上げられると思います。(でも予定は未定)

正直このSSがいつ頃終わるか自分でも全く解らないのですが、何とかエターだけはしないようにこれからも頑張るつもりです。なので2017年も末永くご愛顧、並びにご指導ご鞭撻のほど、
よろしくお願い申し上げます。

それでは皆様、良い年末年始をお過ごしください (・ω・)ノシ


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