悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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ドミナス

 ハルカ達が去った後の錬金棟のホール……だがもはやそこはとてもホールとは呼べない、廃墟同然の状態だった。

 

 天井は崩れ落ち、床も壁もチーズの様に無数の大穴が空いている。だが偶然か、はたまた必然か、あれだけの魔力の流星をくらいながらもユリウス達は全くの無傷だった。

 

 

「くそ!どういう事だ!?アイツら一体何考えてんだよ!」

 

 

ユリウスがホールの床を力任せに殴りつける。途端石で出来たタイルがウエハースの様に砕けた。

 

 

「ジョーンズの野郎……アルカードを見殺しにしろだと?ふざけるな!ハルカも何であんな奴の言う事ホイホイ聞いてやがるんだ!」

 

「解らん……だが何か理由があるはずだ……何か……」

 

 

 ラングもユリウスと同様、全く事態が掴めていなかった。仲間の突然の裏切りに、不可思議な魔術。おまけにアルカードを救う為の石まで盗まれた。混乱するなという方が無理だろう。

 

 

「大体ハルカが使った()()は一体何だ?あれは間違いなく闇の力……それも生半可じゃない、とんでもなくやばい奴だ……」

 

 

 ハルカが放った術を思い返す。闘技場で感じた微かな闇の波動の正体はあれだったのか……だが何故ハルカが暗黒の力を使える?アルカードの様なダンピールならともかく、普通の人間が闇の力を使う事など絶対に不可能なはずだ……!

 

 

「あれは”ドミナス”と呼ばれる印術の一種です」

 

「ドミ……ナス!?」

 

 

 沈黙を貫いていたサンジェルマンが唐突に口を開く。

 

 

dominus(ドミナス)……古いラテン語で”支配者”。伯爵の魂を術式変換し、人間が使う事のできる武器へと変えた物です」

 

「二百年ほど前、あなた方の様な飛びぬけた力を持たぬ一般民衆が、ドラキュラを倒すために編み出した苦肉の策……それは”毒を持って毒を制す”、ドラキュラの力を利用してドラキュラ本人を撃ち滅ぼすという物でした。そちらの方にも解る様に説明するならば敵の最も強力な兵器を鹵獲し、その兵器で敵を倒すといった所でしょうか」

 

 

「ドラキュラの力を利用するだと……?そんな事が出来るのか!?」

 

「理論上は可能です、しかしやはり強大なドラキュラの力を人間が使役するのはリスクが高かったのか、あの技術は一代限りで失われた筈なのですが……あの御仁、どうやったかは知りませんがドミナスを現代に復活させたようですね。凄まじい執念です」

 

 

 それまでいまいち状況が呑み込めなかったラングもサンジェルマンの重い口ぶりに、次第に事の重大さが解ってきた。だがサンジェルマンの口から出た1つの単語がひっかかった。

 

 

「リスク……?何かデメリットがあるのか?」

 

 

「……はい、元々暗黒の力と人の命は相容れぬ物。使えば使っただけ術者の心と体は蝕まれる。もし三つ全ての欠片を集め、完全なドミナスを放てば……間違いなく術者は命を落とす事となるでしょうな」

 

 

『何ッ!?』

 

 

 サンジェルマンの言葉に、思わず二人が口を揃える。だが青ざめる二人を余所に、サンジェルマンは事も無げに言い放った。

 

 

「まあ物は考えようです。あなた方が正攻法で戦っても伯爵に勝てる保障は無い。その点ドミナスの力は今体験されたように凄まじいものです。少女の命1つで世界が救われるというならば……それも結構な事ではないですか」

 

「!」

 

――刹那ユリウスがサンジェルマン目掛けヴァンパイアキラーを抜き放つ!……だがユリウスが鞭を振り切るよりも早く、サンジェルマンのサーベルがユリウスの眉間に突きつけられていた。

 

「ほっほっほ……お若いですな。いや、どちらかといえば幼い……といった方が適切ですかな?」

 

 

 ユリウスの電光石火の一撃を軽くいなし、煽るように挑発をするサンジェルマン。だが眉間に突きたてられた剣先にも一切怯む事無く、ユリウスはその修羅の如き眼差しでサンジェルマンを睨み続ける。

 

 

「……その若さで大した眼光です、だがもう少し冷静さも身に着けると尚良い。その鞭では仮に私は倒せても、伯爵の力に抗する事など到底できませんよ?」

 

 

 サンジェルマンの意味深な発言に、一体何の事かとラングがユリウスの手元を覗き込む。

「!」ユリウスの持つ鞭を見てラングに衝撃が走った。美しい銀色の光沢を宿していたヴァンパイアキラーが、海辺で何年も放置された鉄クズの様な、くすんだ錆色に変色していたのだ。

 

 

「カリオストロの酸を喰らい、一時的とはいえ伯爵の力を宿したのです。いかに聖鞭ヴァンパイアキラーとて耐えられる物ではありません」

 

 

 サンジェルマンがサーベルを鞘に納めながら話を続ける。

 

 

「先の戦いで退魔道具を使い果たし、頼みの綱のヴァンパイアキラーも本来の力を失った……そんな状態のあなたに一体何ができるというのです?」

 

 

 紳士の指摘は紛れもない事実だった。女悪魔とカリオストロを退けるため退魔道具を大量に消費したせいで、今ユリウスが持っている残りの退魔道具はナイフ数本しかない。

だが……青年の返答はサンジェルマンの予想の斜め上を行く物だった。

 

 

「そんな事……俺が知るか!」

 

「…………は?」

 

 

 ユリウスの予想外の発言に、サンジェルマンはあっけにとられ、思わずポカンと口を開けてしまう。だがユリウスの表情に一切ふざけている様子は無い。

 

 

「あの石の力を味わった俺には解る……………あれは人間が使って良い力なんかじゃ絶対に無い!あいつがむざむざドラキュラの生贄にされるのを黙って見てられるか!武器が無い?それがどうした!ハルカも、石も、絶対取り返す!取り返してきっちり落とし前つけさせる!!」

 

 

「…………」

 

 

 サンジェルマンはユリウスの話に茶々を入れる事無く、静かに目を閉じ、終始無言で聞いていたが……やがてゆっくり目を開くと、ユリウスに語りかけた。

 

 

「色々理屈を並べられていますが……要約すると”可愛い妹がほっとけない”という事でよろしいでしょうか?」

 

「な…………ッ!?」

 

 

 サンジェルマンの予想外の指摘に、今度はユリウスの方が顔を赤くして狼狽える。ユリウスは何事か喚きながら必死に否定しているようだが、件の紳士はそんな青年を意に介する事無くもう一人の戦士に視線を向ける。

 

 

「……あなたのお考えは?」

 

 

 サンジェルマンの突然の問いに、ラングは少し戸惑った様子だったが……やがて自身の気持ちを切々と語り始めた。

 

 

「俺は……正直あんた達の言ってる事の半分も解らない……ドミナスとか……、遺骸とか……大体今目の前で起きている事さえ未だに信じられない位なんだ」

 

 

ラングが自身の心情を包み隠さず答える。だがそこまで言い終えた所で、ラングはちらりとユリウスの方を見た。

 

「けど……安っぽい台詞だがこいつらの事は信頼している。だから解る、あの子は何の意味も無くあんな事をする子じゃない、…………俺はハルカの口から直接理由を聞きたい」

 

 

 ラングの答えを聞き、サンジェルマンは再び瞑目する。紳士はしばらく黙って俯いていたが……やがておもむろに目を開くとあっけらかんとした口調で答えた。

 

 

「それほどの覚悟があるならもうお止めはしません。思うまま、あなた方のやりたい様にやればよろしい。そちらの少年の事はおまかせを、私が責任を持って御仲間の所までお送りしましょう?母親(マダム)の御魂の安らぎのためにも、ね」

 

 

 サンジェルマンの意外に協力的な行動に、二人は信じられないといった感じで目を丸くした。しかしこれでハルカ達を直接追う事が出来る。ユリウスはすぐさま踵を返し、ホールから出ようとした…………が、ここで深刻な問題に気付く。

 

 

 

「あいつらを追う方法が……無い」

 

 

 走って移動しているなら魔力の跡を追う事も出来るが、あの瞬間移動を使われたらそれも出来ない。そもそもハルカ達が何処へ向かったのか、その見当もつかないのだ。

 

……悲壮な面持ちで頭を抱えるユリウス。だがその時、そんなユリウスとは対照的に、自信に満ち溢れた表情でラングが答えた。

 

 

「方法なら……ある!」

 

「何!?」

 

 

 ラングが腰のポーチから、くすんだ緑色をした無骨な機械を取り出した。それはハルカがティード将軍から渡された追跡用のレーダーだった。

 

 

「またはぐれても大丈夫なようにハルカに発信機をつけておいたんだ。ユリウス、もちろんお前にもな」

 

「何!?お前いつの間に……」

 

 

「ハルカから返してもらっておいて良かった。これでおおまかな位置ぐらいは解るはず………

……………!?」

 

 

 レーダーの電源を入れた瞬間、ラングの顔が明らかに怪訝な物へと変わる。そのあからさまに不安な表情の変化にユリウスがせっつくように尋ねた。

 

 

「どうした?……まさか使えなくなったのか!?」

 

「いや使える……、使えるんだがポイントの位置が……上空……500メートル!?

いや、まだどんどん上がってる!」

 

「はぁ!?やっぱり壊れてんじゃねえのかそれ!」

 

 

 機械が示したハルカの現在地に二人は顔をつきあわせ口論する。と、そこにサンジェルマンが「ちょっと失礼」とばかりにひょっこりと顔を出し、機械を覗き込んだ。

 

 

「ほう、これは中々……文明の発達という物は素晴らしいですな。で、どれどれ……ああ、この位置と高さから察するに、お二方が向かわれたのは ”空中庭園” かと」

 

 

『空中庭園!?』聞き慣れないフレーズに、二人は挟み込むようにして紳士の顔を振り返った。

 

 

「……あれを御覧なさい」

 

 

 サンジェルマンが指差した方向……ハルカの放ったドミナスによって空いた青天井からは、漆黒の闇夜が悪魔城を覆っている。が、よくよく目を凝らすと錬金棟の遥か上空、月明かりに照らされた雲をバックに、豆粒のように小さな黒い点が幾つか見える。

 

 

「あそこに見える影の群れが空中庭園です。あそこはこの城の混沌(どうりょく)を担う場所。恐らく彼らはあそこで、ドミナスの為の儀式を行なうつもりでしょうな」

 

 

 瞬間移動を繰り返しているのか、レーダーの光点はかなりのスピードで悪魔城の上空を登っている。もちろんユリウス達にそんな技は使えない。だがこのまま立ち止まってもいられない。……もう時計塔を出てから大分時間が過ぎている。いくらアルカードでもそう長くは持つまい。

 

 

「考えてる時間が惜しい……とにかく追うぞラング!」

 

 

 ユリウスは声をあげるやいなや、ホールの出口へと走った。ラングも後を追うように走り出す。が、ホールからでる間際、ふとラングが立ち止まり件の紳士を振り返った。

 

 

「あんた……あいつを試したのか?」

 

「さて?何の事やら……私は思った事を口にしているだけでして」

 

 

「……フッ……」

 

 

 ラングは含み笑いを一つ残すと、すぐにユリウスの後を追い、ホールから姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「若いですねえ……私にはとうに失った感情です」

 

 

 だだっ広いホールに一人残ったサンジェルマンが、少年を抱き起こしながらひとりごちる。その顔は普段の彼からは想像できないほど ”らしくない” 真剣な面持ちだった。

 

 

「とはいえ……」

 

 

「力ずくで私から薬を奪うという発想に至らないのは……底抜けのお人好しか、それともただの馬鹿か…………いや、だからこそ千年もの永きに渡り伯爵への切り札足りえたのか……」

 

 

 ホールを後にした若者達を思い返し、サンジェルマンは一人苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

「オイ!また行き止まりじゃねえか!」

 

「無茶言うな!こいつはおおまかな位置が解るだけで城の構造まで解る訳じゃないんだよ!」

 

 

 ユリウスとラングは消えたジョーンズ達を追うべく、ハルカにつけられた発信機の記録を辿っていた。だが絶えず変化を続ける城の構造が機械のデータに入っているわけも無く、二人は大まかな位置を目安に突き進むしかない。

 

 

「急げ……急がないと……このままじゃアルカードもハルカも……!」

 

 

はやる気持ちを必死に抑えながら、二人はハルカ達が向かった悪魔城の中枢、天高く浮かぶ支配者の園を目指した……

 

 

 

 

 

 




 
















(#゚Д゚)<うおおおお!やっと錬金棟終わったああァ―――ッ!!

(#゚Д゚)<狂人キャラ書くとこっちまで精神持ってかれそうになるよォ―――ッ!!

(#゚Д゚)<つーか当初4話位でサクッと終わらせる予定がどうしてこうなったあァ―――ッ!!

(#゚Д゚)<次回からも頑張りま―――すッ!!
 
 
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