悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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空中庭園
ベルモンドの因子


――バビロンの空中庭園という伝説がある――

 

 遥か昔、古代バビロニアの王が遠方から嫁いで来た妃を慰めるため、高さ20メートルにものぼる巨大な建造物の上に緑豊かな庭園を作った。世界七不思議の1つであり、今は伝聞でしかその姿を知る事が出来ない幻の建造物だ。

 

 もちろん”空中”とはいってもそれはあくまで比喩で、当時としては非常に大きな建物だった為、遠くから見るとまるで庭園が空中に浮かんでいるように見えた……という一種の誇張表現である。しかし…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に空中に庭園を作ってどうするッ!」

 

 

 遥か下方、豆粒の様に小さくなった悪魔城を見下ろしながら、ラングが心の中で叫ぶ。ユリウスとラングの二人は、頼りない追跡装置の光に導かれながらやっとの事でハルカ達が向かったという空中庭園の入り口に到達していた。

 

 空中庭園は正確には”庭園郡”と称した方が正しく、大小様々な形の庭園がまるで南方の島々の様に上空に散らばっている。それぞれの島には例のワープ扉や石段が設置されており、庭園どうしの行き来を可能にしていたが……

 

 

”ビュオオオオオオオオオ”

 

 

 突如突風がラングの足元をさらった。まだ入り口に辿り着いたばかりとはいえ、既にそこは上空

500メートル。パリのエッフェル塔やエンパイアステートビルの高さよりも高い。そこまで高くなれば吹きつける風は時には風速数十メートルを超え、おまけに凍える位冷たいときている。

 

 

 しかも庭園と庭園を結ぶ階段は、幅1メートル、奥行き40~50センチ程の薄い石板が等間隔に浮かんでいるのみ、もちろん落下防止のネットなど無ければ、ガードレールすら無い。石と石の隙間からは先述の通り、悪魔城や周辺の山々が不気味な程小さくその姿を覗かせる。

 

 

 ラングは高所恐怖症という訳では無かったが、さすがにこの状況では脚が震え、満足に走る事も出来なかった。だというのに目の前の青年ときたら恐怖の感覚が麻痺しているのか、それとも仲間の危機に我を忘れているのか、平気で石段を三段、五段飛ばしであっという間に駆け上がり、遅れるラングをせかす。

 

 

 それなりに長い間戦いを供にして多少の親近感も感じていたラングだったが、こんな危険な場所を平気で全力疾走するユリウスを見て、やはりこいつは自分とは違う、何か別の生物ではないかと心底思うのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

”ドガァッ!!”

 

『!!』

 

 

 突如何者かの襲撃を受け、ユリウスとラングは反射的に飛び退いた!途端、地面が爆発したかのようにはじけ飛ぶ!……二人を襲撃した魔物は地面を蹴った反動を利用し、鮮やかな宙返りを決めると庭園の奥に着地した。

 

 

――二人の眼前20メートル、自信満々に腕を組み、こちらを見据える1つの影。二人を襲った魔物の正体、それは赤いマフラーをたなびかせ、黒いブーツを履いたスケルトン。

悪魔城が誇るキックの鬼 ”スケルトンキッカー” であった。

 

 

 スケルトンは奥にあるワープ扉の前に陣取り、

 

「ここを通りたければこの俺を倒してから行くんだな」

 

と言わんばかりに二人の前に仁王立つ。スケルトンの蹴りが放たれた地面は石畳が粉々に吹っ飛び、茶色い地面が露出している……体躯こそそれほどでもないがその蹴りの威力はワーウルフ並みの様だ。

 

 

……だが、ユリウスは目の前のクリーチャーを気にも留めず、扉に向かって一直線に走り始める。まるで自分の存在を無視するかのような青年の行動に、スケルトンの雰囲気があからさまに怒気を含んだ色へと変わった。

 

 

”シュバッ”

 

 

スケルトンは再び天高く跳躍すると、ユリウス目掛け迅雷の如き速さの急降下キックを見舞う!が……!

 

 

「すっこんでろッ!!」

 

「グギャアァッ!?」

 

 

 空中で二つの影が絡み合った瞬間、ユリウスの放った強烈なジャンピングアッパーがスケルトンの顎にクリーンヒットしていた。

 

”ドシャァッ!!”

 

 翼をもがれた鳥のように、そのまま地面に叩き落されるスケルトン!だがユリウスは一切後方を振り返る事無く、その勢いのままワープ扉の中へと消えていく。

 

 

「……やっぱり人間じゃないな……アイツは……」

 

 

 顎骨を粉々に砕かれピクピクと痙攣するスケルトン。その姿に多少の哀れみを感じつつ、ラングは先行するユリウスの後を急いで追いかけた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが……ゴールみたいだな…………」

 

 

 ……無骨なレーダーに導かれ辿り着いた空中庭園の最奥、そこは美しかった庭園郡の中でも一際麗しく、かつ整然と整備された空間だった。

 

 広大な敷地には薔薇の生垣が幾何学模様に整備され、通路は一ミリの隙も無い石畳。多種多様な動物の形にカットされた樹木と、大理石で作られた大小様々な石像がそれに彩を添える。

 ……ただ1つ気になる事があるとすれば、庭園の中央やや奥、ユリウスたちと正対する位置に嫌に巨大で無骨な門がそびえている事だった。

 

 

「……ハルカ!」

 

 その扉の少し手前……庭園の中心部にいるハルカをユリウスが見つけた。本来ならば噴水でも置かれるべきその場所には禍々しい文字が記された魔法陣が描かれ、中央に賢者の石が置かれている。ハルカは何故か背中を大きく曝け出し、祈るような格好で石の前に跪いていた。

 

「何だあの背中の文字は……!?」

 

 その背中には赤い色で図形とも、文字ともつかない模様が描かれている。だがラングは一目見た瞬間それが何かすぐ解った。大きさや形こそ違うがジョーンズの左手の物と同じだ。ユリウスが時計塔で見たハルカの首筋の痣は、ドラキュラの力を吸収するための刻印だったのである。幸い辺りの雰囲気から察するに、ドミナスとやらが完成する前に二人はどうにか間に合ったようだ。

 

 

「ハルカ――――ッ!!」

 

 

 突如ユリウスが大きな声で叫んだ。途端、それまで背を向けていた少女がユリウスの声に気付き振り返る。ユリウス達は今すぐ儀式をやめさせるべく、中央広間へと階段を降り始めた。が……二人とハルカの間を遮るように、樹の影から白い人影が突然姿を現す。

 

 

「……よくここが解りましたね、悪魔城の中でも大分入り組んだ場所だというのに」

 

……木陰から現われたのはもちろん件の宗教家、ジョージ・ジョーンズその人だった。

 

 

「もうはぐれるのは御免だからな」

 

ラングが手に持った軍のレーダーを見せ付けるようにかざす。

 

「……ははあ、よくもまあそんなガラクタがこの城で使えたもので……」

 

幻想的な庭園に似つかわしくないその無骨な機械を見て、ジョーンズが思わずせせら笑った。

 

 

「そんな事はどうでもいいんだよ!お前……ハルカに何しやがった!!」

 

「別に何も……というよりこれからするのです。ドミナスを完成させる為の儀式を」

 

「儀式……だと!?」

 

「ハイ、三つの力の内、十字架肖像画については既に魂の吸引を済ませていますが、石に関しては今手に入れたばかりなのでね。今からそれを取り込み、ついでにドミナス完成の儀式も終わらせてしまおうかと」

 

「ふざけるな!そんな事させると思うか!!」

 

 

ジョーンズの人を小馬鹿にした様な態度に嫌気がさしたのか、ユリウスが凄まじい剣幕でがなりたてる。だが当の宗教家は不思議そうな顔で首をかしげると、子でも諭すかのように説明を始めた。

 

 

「……どうも誤解があるようだ。別に私はあなた方と敵対するつもりは無いのですが……」

 

 

 ジョーンズは顎に手をあて、話し始める。

 

 

「別にこの力を使って世界を征服しようとか、気に入らない人間を殺そうとか、そんな事は微塵も考えてはいません。あくまでドミナスはドラキュラを倒すために復活させた物。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

「敵の力を利用し敵を倒す。”ジュードー”にも通じる合理的な事ではありませんか。むしろあなた方の方こそ友人の命を救いたいが為に、ドミナスを悪と決め付けているのではありませんか?」

 

 

「悪にきまってんだろうが!サンジェルマンに聞いたぞ!その力を使ったらハルカは死ぬんだぞ!?」

 

 

ユリウスが声を荒げて反論する。だがそんなユリウスの指摘を、ジョーンズは「ハハハハ」と一笑にふす。

 

 

「あの錬金術師の入れ知恵ですね?全く何百年前の話をしているのか……いいですか?技術というのは日々進歩しているのです。この”ドミナス”が初めて編み出された近世ならばいざ知らず、現代の科学はドラキュラの力すらたやすく制御できるほどに進化しているのですよ」

 

 

「……私はこの10年世界中のあらゆる文献、古文書を紐解き、研究に研究を重ねました。そして遂に!ドミナスの”使役”に必要な二つの要素を発見したのです!!

 

 

1つ!ドラキュラの力を使いこなせるだけの膨大な魔力を秘めている事!

 

2つ!ドラキュラの”悪”の力に対する”善”の存在、ベルモンドの因子を持つ事!

 

 

以上二つの項目を満たしている者ならば、ドミナスの狂気に飲まれる事無く力を制御、行使出来るのです!」

 

 

 ジョーンズが自らの発見を高らかに宣言する。だがその発言を聞いた瞬間、ユリウスとラングは共通の疑問を持った。

 

 

「ベルモンドの因子……だと?ベルモンドの生き残りは俺一人の筈……何でハルカを巻き込む!」

 

 

 訝しむユリウスにジョーンズはさも落胆した様子で答える。

 

 

「やれやれ何もご存知無いようだ……。まあベルモンドは長い間隠遁していましたからね。その間に家系にまつわる情報が途絶えたとしても無理は無い。私も教会の古い歴史書を読んで初めて知った位ですから…… よろしい、説明して差し上げましょう」

 

 

「あなたのおっしゃる通り元々ヴェルナンデスはベルモンドとは縁もゆかりもありませんでした。ですが今からおよそ500年前、一人の女性がベルモンド家に輿入れします。

名は” サイファ・ヴェルナンデス ” 彼女はドラキュラが始めて人間に牙を向いた際、その野望を打ち破った3人の人間の一人でした」

 

 

「彼女がベルモンドの伴侶となった事でヴェルナンデス家は一旦歴史の表舞台から消え去ります。ですが後年、子孫の中でも特に魔力の強かった者がベルモンドから独立し、ヴェルナンデス家を再興したのです。つまり貴方とハルカは遠縁の間柄という訳ですよ、大分血は薄まっていますがね」

 

 

 ジョーンズから知らされた意外な事実……だがラングは妙に納得していた。二人のやり取りを見ながら本当の兄妹みたいだなと感じていたのは気のせいなどでは無かったのだ。 

 

 

「話は逸れましたが以上二つの項目を満たしているのは現状ハルカだけだったのです。

一応候補の中には貴方も入っていたのですよユリウス・ベルモンド?ですが如何せん貴方の師、ジョナサン・モリスのガードが固かったのと、ハルカに比して貴方には魔術の才能が露程も無い。よって類まれなる力を持つハルカに白羽の矢をたてたというわけです」

 

 

 ジョーンズの話す意外過ぎる事実に、さすがにユリウスも動揺を隠せないようだった。だがすぐに顔をあげると、再び強い眼差しで口を開く。

 

 

「……そういう事か……俺も知らなかったルーツを教えてくれて有難うよ。けどな……だからって何でハルカがそんな危険な仕事を引き受ける!お前がある事ない事言って子供のアイツを巧く騙したんだろう!」

 

 

どうせ目の前の詐欺師じみた宗教化が言葉巧みに幼いハルカを誘ったに違いない……ユリウスは半ば決め付ける形で啖呵を切った。だが……ジョーンズの口から返ってきた言葉は意外な物だった。

 

 

 

「……ドミナスの憑代になる事はハルカ自身が決めた事。私は無理強いなどしていませんよ?」

 

「嘘をつくな!」ユリウスが即座に反論する。

 

 

「嘘ではありません。実はハルカには双子の姉がいましてね?可哀想に幼かった頃魔物に襲われ、それからずっと眠ったままなのです。最新の医療も、神の加護も、少女の眼を覚ます事はできず、ハルカは半ば諦めかけていた……」

 

 

「だが……!全ての魔導を極めたとされるドラキュラの魂なら!ドミナスの力なら!襲った魔物を見つけ出す事が出来るかもしれない!姉の魂を取り戻す事が出来るかもしれない!いや、そんな回りくどい事をせずとも新たに生命を創造する事すら造作も無い事……!ドミナスの術者になる事は重々考えた末の結論、紛れも無くハルカの意思なのですよ!」

 

 

「……何……だと!?」

 

 

 思わずハルカの顔を見る。ハルカの眼は人形の様に冷たい、普段の彼女とはまるで違う無機質な物だったが、その視線は真っ直ぐ……じっとユリウスを見つめている。

 

 

 

 

……知らなかった……まさか……ハルカに姉がいたなんて……しかも魔物に襲われ眠ったままだったなんて……ずっと……ずっと自分と同じ天涯孤独の身の上だと思っていた…………

 

 

 ハルカと知り合って5年近く、せいぜい年に数回教会の仕事で顔を会わす程度だったが、それでも供にドラキュラ打倒の使命を背負った者同士、ユリウスは少女と信頼関係を築けているとばかり思っていた。

 

 だが……それは自分の勝手な思い込みだったのか……少女が自身の困窮を一切話してくれなかった事に、自分を頼ってくれなかった事に、ユリウスは憤りと同時にどうしようもない寂しさを感じていた。

 

 

ハルカの真意を知り打ちひしがれるユリウス……だがそんな青年に追い討ちをかける様に、ジョーンズが厳しい現実を青年に投げかける。

 

 

 

「それとも何です?ドミナス無しでもあなた方はハルカの姉を救えると?目覚めさせる方法を知っているとでも言うのですか!?幼い少女が命をかけて決めた事です。何も出来ない他人がとやかく言うことでは無い!」

 

 

「……………………」

 

 

 ジョーンズの言葉は確かに正論だった……その断言するような口調も相まって、二人は思わず口を噤んでしまう。

 

 

「……反論は無いようですね?そう、それでいいのです。何、アルカードさんの犠牲は無駄にはしませんよ……ハルカ、始めなさい」

 

「……………はい」

 

 

 ジョーンズが後方のハルカを振り返り、儀式の開始を促がす。その言葉を受けた瞬間、ハルカの翡翠色の瞳から完全に光が消えた…………

 

 

――ユリウスも、ラングも、決して仲間の事を諦めた訳ではない。だがハルカの姉。アルカード。ドミナス。その全てが複雑に絡み合って、一種の錯乱状態になってしまっていた。

 一体どうしたらいいのか、どうすれば皆を救えるのか、このままでは取り返しのつかない事になる……!二人の脳裏に最悪の結末が過ぎった……その時だった――

 

 

 

 

 

 

「伯爵の力は人には過ぎたる物……後悔する事になりますよマドモワゼル……」

 

「!」

 

 

 庭園に響いた声の主……赤い燕尾服に身を包んだサンジェルマンだった。いつの間にか庭園の入り口に佇んでいた紳士は、優雅に服の裾をたなびかせながら、ユリウス達の下へと降りて来る。

 

 

「サンジェルマン!あの子は無事に届けてくれたのか!?それとアルカードの容態は!?」

 

 矢も立てもたまらずラングがサンジェルマンに問いかける。だが紳士の表情は何とも浮かない。

 

「……少年の方はご心配なさらず、しっかりとホールに送り届けました。ですがもう一人のお仲間の方は……」

 

 サンジェルマンがそこまで言いかけて口を噤む。……聞かなくても解る。予断を許さぬ状況と言う事なのだろう。

 

 

「おやおや、噂をすれば噂の錬金術師殿がご登場ですか、何です?あなたもわざわざこんな所までお説教を垂れに来たので?」

 

 

「いやいやそんなつもりは、ただちょっと若人達が心配になりましてね、散歩がてら様子を見に来たまででして。それに私はただの無力な1中年。とても貴方達をどうこうする力などございません。ただ……」

 

「ただ……何です?」

 

 

 サンジェルマンが”にこり”とジョーンズ達に微笑む。

 

 

「錬金術にその身を捧げた先人として、後進にアドバイスを……と思いまして」

 

 サンジェルマンは”オホン”と咳払いをひとつすると、ジョーンズに最上級の敬意を示しながら語りだした。

 

 

「貴方の見識、技術、少し見ただけですが供に疑いようもございません。ですが……それでも人の手に余るのがドラキュラの力。自惚れ……とまでは申しませんが、ドミナスの事、少々甘く見すぎているのではないですかな?」

 

 

「フッ」

 

「結局説教か……」とでも言いたげに、ジョーンズがサンジェルマンの諫言を鼻で笑う。

 

 

「確かにあなたの研究により、ドミナスを使用しても命を失う事は無くなったかもしれない……だが悪魔というのは必ず”対価”を要求します。記憶……感情……もしくは肉体的な何かか……それが何れになるかは解りません。だがこれだけははっきりと言える。ドミナスを使用した後……ハルカ嬢は必ず自身の大切な何かを失う」

 

 

「…………!」

 

 

 ハルカの小さな体が微かに震えた。ここでサンジェルマンがハルカに視線を向ける。

 

 

「マドモワゼル……あなたの身命を賭して肉親を救おうというお気持ちはご立派です。ですが……そんな邪まな力でお姉さんを取り戻せたとして、それでお姉さんは喜びますかな……?」

 

 

「……それは…………」

 

 

「確かにこの御仁の言う通り、伯爵の力を持ってすれば人一人位蘇りましょう……だが所詮それは闇の力を使った紛い物の命。まして……たった一人の肉親がその身を犠牲にしたと解れば…………あなた方の未来が明るい物になるとは、私にはとても思えないのですよ……」

 

 

 サンジェルマンの説得に、それまで人形の様に冷たかったハルカの表情に変化が見られた。ふと、サンジェルマンが今度はユリウスの方に視線を向ける。

 

「!」

 

多弁な紳士らしくなく、サンジェルマンは涼しげな視線をユリウスに投げかけるだけで一言も喋らない。だがその優男然とした顔立ちが、何故か厳しかった師の顔とだぶって見えた。

 

”貴方の仲間を救うという覚悟はその程度の物だったのか”

 

サンジェルマンの蔑む様な眼差しに、ユリウスは自身の弱い心に鋭い剣を突きつけられた気持ちになる。

 

そうだ……ついさっき錬金棟で俺は行動を起こさなかった自分に後悔したばかりじゃないか、

あれを、今度はハルカで繰り返すのか……?それは……それだけは絶対に嫌だッ!!

 

ユリウスは自らの不甲斐なさを戒める様に、自身の頬を思い切りはたくと、再び鋭い眼差しでジョーンズを睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ……」

 

「フフ……」

 

「フハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

「―――!?」

 

 

……突然ジョーンズが狂ったように笑い出した。

 

 

「胡散臭い爺め……それを説教と言うのだ!口ではああだこうだ言っているが要は貴様もドラキュラの力が欲しいだけだろう!?この偽善者めがッ!!」

 

「……渡してたまるか……この10年……私は持てる全てをグリフの研究とドミナスの復活に費やしてきたのだ……!」

 

「厳重に管理された宝物庫から十字架をくすね、盗人の真似事をしたのも全てはこの時の為!頭の固い教会の老人共を退け、この戦いに参加したのも全てはこの日のため!ドラキュラの力を我が物とし、腐りきった教会を変革する!そのためだけに私は今日まで生きてきたのだ!」

 

私の野望……誰にも止めさせはしないッ!!」

 

 

 ジョーンズの魔力が一気に膨れ上がる!その禍々しい気迫に、ラングは勿論、歴戦のヴァンパイアハンターであるユリウスですら一瞬たじろぐ。

 

 

「何をしているハルカ!さっさとドミナスの儀式を始めろ!姉がどうなってもいいのか!!」

 

 ジョーンズの命令に、ハルカが賢者の石に向かい呪文の詠唱を始めた。ドラキュラの魂を呪印(グリフ)とやらに変換するのだろうか。みるみるうちに石から陽炎の様な揺らめきが昇る。

 

 

「そこから一歩でも動いてみろ……例えベルモンドでも容赦はしない……ッ!!」

 

 ジョーンズは敵意を剥きだしにし、今にも飛び掛らんばかりにこっちを睨んでいる。これでは迂闊に近づく事も出来ない。じりじりとした緊迫感が辺りを包む……が、

 

 

「……これはいけない!私は後方に控えさせて頂きます、後はよろしく!」

 

 張り詰めた空気を破る気の抜けた声。サンジェルマンはくるりと背を向けると、入り口に向かいスタコラサッサと遁走をし始めた。

 

 

「な……!?煽るだけ煽って自分だけ逃げんのかよお前ッ!?」

 

 恥も外聞も無いサンジェルマンの行動に、ユリウスはほんの少しでも紳士を見直した事を心底後悔した。だがそんな二人の行動がジョーンズの逆鱗に触れる。

 

 

「動くなと……言ったはずだァッ!!」

 

「ッ!」

 

 苛立ちの声を上げジョーンズの放った光球がユリウスを襲う!……だが魔力の弾はユリウスに当たる直前、大きな音をたて弾け飛んでしまった。

 

 

「……チィッ!」

 

 間一髪、ラングのアガーテがジョーンズの魔力弾を撃ち落した!自身の渡した銃で自身の計画を邪魔され、ジョーンズの苛立ちが一層高まる。

 

 

「行けユリウス!!」

 

「ラング……! 悪ィ!!」

 

 

 ラングの援護を受け、ユリウスがハルカに向かって走り出す。

 

 

「させるかァッ!!」

 

 儀式の邪魔をさせまいと、ジョーンズが再びユリウスに狙いを定める!

 

 

”タタタァンッ!!”

 

「……くッ!?」

 

 だが、ユリウスを追おうと一歩踏み出したジョーンズの目前を、ラングの放った弾丸が再び遮る!その隙をついてユリウスは天高く跳躍し、ハルカの下へと急いだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見損ないましたよラングさん?貴方だけは他の連中と違うと思っていたんですがね……」

 

 

 ジョーンズがゆっくりとラングの方を振り向く。その怪しい瞳の輝きは既にこの男がドラキュラの魔性に囚われ、取り返しのつかない所まで踏み込んでいるようにラングの目には映った。

 

 

「……答えろッ!あなたが宮殿で言っていたハルカを労わる言葉は何だったんだ!あれは……あの娘を利用するための方便だったのか!?」

 

 

 アガーテの照星越しにラングが問いかける。この宗教家の口から自身の問いを否定する言葉が出てくる事を信じて…………だが、ラングの淡い期待はあっさりと裏切られる。

 

 

「その通りですが……何か?」

 

「…………ッ!」

 

 

「自分の都合の為に他者を犠牲にする……皆多かれ少なかれしている事。それにあの時私はこうも言った筈だ。”家族を守る為ならどんな事でもする”と……私にとって家族とは妻と、生まれてくる我が子のみ……それ以外の他人など、ゴミ以下の価値しかないのでね」

 

 

「……ッ! まさか一緒に探索に出た教会の人間は……!」

 

 ラングの脳裏に最悪の想像がよぎる。

 

 

「フフフ……教会の老人達も馬鹿な事を考えた物だ、あの程度の者達を私の監視によこすとは。私のする事に手出ししないなら命だけは助けてやるつもりだったが……まあ大事の前の小事という奴ですよ」

 

「…………ッ!」

 

 

 宮殿でハルカが見せた表情の意味がやっと解った。俺は……この人を見誤っていた……!!

この人のやろうとしている事は確かに正しいのかもしれない。本気で世界を救おうとしているのかもしれない。だが……同時にこの人は人間として大切な”何か”が壊れている……ッッ! 

 

 

 目の前の宗教家の本性を知り、ラングは宮殿でハルカが見せたあの冷たい視線の意味をようやく理解した。だがその後悔もジョーンズの言葉にすぐにかき消される。

 

 

「……そもそも貴方にだけは言われたくない。自分達に都合の良い”正義”などという言葉を振りかざし、節操の無い野犬の如く世界中に戦争の種をばら撒き続ける貴方たち軍人にだけは!!」

 

「話をすりかえるな!それは詭弁だッ!!」

 

「フン!痛い所を突かれて逆上か?…………もういい、これ以上話しても時間の無駄だ。いいからそこをどけ!さもないと……」

 

 

 ジョーンズがラングの方へ一歩足を踏み出す。その圧倒的な気迫に、歴戦の兵であるラングでさえ無意識に一歩後ずさってしまう。

 

……だがラングはそこで踏みとどまった。この男を二人の下へ行かせる訳にはいかない。ユリウスがハルカを連れ戻すまで、何としても時間を稼がないとならないのだ。ラングは必死に呼吸を整え、無心にアガーテの引鉄を引いた!

 

 

”パアァァァンッ!”

 

「……ッ!?」

 

 

 ラングは目の前で起きた事態に目を疑った……確かにジョーンズの左肩を狙った筈の弾丸が、何故か大きく外れてしまったのである。

 

――良心の呵責に負けて無意識の内に外してしまったのか?新兵でもないというのに!――

 

ベテランらしからぬ自身のミスに動揺しつつも、今度こそはと入念に照準を合わせ引鉄を引く!

……だが何度撃っても結果は同じ、足、膝、腕、何処を狙ってもアガーテの弾丸は大きく狙いを外れ、ジョーンズの体を素通りしていく……!

 

 

「ハハハハハハハハ!」

 

 

 有り得ない事態に動揺するラングを見て、ジョーンズが堪えきれずに苦笑する。

 

 

「ハハハハ、やはりあなたは私の見込んだ通り底抜けのお人好しの様だ!自分の毒で死ぬ毒蛇が何処にいる?セーフティぐらいかけてありますよ……ッッ」

 

「…………ッッ!!」

 

 そんな初歩的な仕掛けに気付かなかった自分に、ラングは自身を殴りつけたい程ショックを受けた。だがすぐに頭を切り替えると、肩に掛けたレライエの銃に手を伸ばす!

 

 

「そんな暇を与えると思うかッ!」

 

「ッ!?」

 

 ジョーンズはラングの反応を見るやいなや残像が残る程のスピードで加速し、10メートル以上離れていた相互の距離を一瞬で詰める!もはやこの距離ではライフルは意味を成さない。

 

 

「恨むなよ?()()()()だ……ッ」

 

 

淡く発光するジョーンズの左手が、ラングの左胸にかざされた……

 

 

 

 

 




 





(´・ω・`)<何か年末辺りから妙にPV数が多い……

(´・ω・`)<やっぱり投下時刻は決まってた方がいいのか……

(´・ω・`)<試しに空中庭園が終わるまでの間、朝7時15分投稿でやってみようと思います。

(´・ω・`)<ご理解、ご協力のほどよろしくお願いします。


 
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