悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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ドミナスVSアルカード

 

「……これがドミナス……父の……魂の欠片か」

 

 寂しげな夜風が吹く空中庭園……アルカードが目の前の敵を静かに見据える。

 

 

鋼鉄の様に黒光りする鋭い爪……

天を覆いつくさんばかりに広がる巨大な羽……

哀れな宗教家にとりつき不敵に笑う三つの首……

 

 

 ……なるほど、さすがドラキュラの魂の一部と言うだけあり、その姿は二百年前に戦った父の姿とよく似ている。しかも似ているのは見た目だけでは無い。その異形から発せられる暗く禍々しい闇の波動も全く同じ……いや、欠片といいながらその力の強大さは本物を超える程だ。

 

 

――二百年の間にこれほどまでに混沌が膨らんでいたという事か――

 

 

 最後に父と刃を交えてから二百年以上、その間にも多くの争いが起きた。ましてここ百年間は二度に渡る世界大戦に数多の大虐殺と、城が腹を満たすに充分過ぎるほどの混沌が溢れかえっていたのだ。紛い物とは言え油断をすれば足元をすくわれるだろう。

 

 

「アル……カァァ……ドォォ……」

 

「父上……」

 

 ジョーンズにとりついたドミナスがアルカードの名を呼ぶ。もっともそこに血を分けた息子に対する親愛の情など微塵も無く、感じるのは憎悪と殺意のみだったが。

 

 

「W……WOOOOOOOOO!!」

 

「!」

 

 一瞬の静寂の後、先に仕掛けたのはドミナスだった。黒光りする巨大な腕をさらに肥大化させ、アルカード目掛けて伸ばす!

 

「――ッ!!」

 

 ドミナスの豪腕はアルカードに回避する暇すら与えず、庭園の床ごとアルカードを押し潰した!

 

 

「アルカ―ドォッ!!」

 

 

 ラングの絶叫をも飲み込む轟音!だが次の瞬間、土煙の中から巨大な物体が飛び出し地面に落下する!蜥蜴のしっぽの様に蠢く物体……それは両断されたドミナスの腕だった。

 

 

「な……何だあれは……?」

 

 濛々と立ち込める煙が落ち着き、おぼろげに姿を現すシルエット。そこにいたのは何事も無かったように佇むアルカードと、主人を守る様に浮かぶ一振りの大剣だった。

 

「お呼びでしょうかアルカード様……」

 

 禍々しい装飾に彩られたその大剣は武器でありながら流暢に言葉を話し、なおかつアルカードに対し慇懃に礼を取る。その姿はまるで一角の騎士の様であった。

 

「来たか剣魔よ……お前の力……再び借りるぞ」

 

「……御意……」

 

 柄の部分にある顔が目を閉じ、主に対しうやうやしく平伏する。と思った次の瞬間には、剣はドミナス目掛け突撃していた。

 

「――!」

 

 剣魔の間を空けない奇襲にドミナスが一瞬たじろぐ。だが欠片とは言え魔王ドラキュラの魂。残った左腕で素早く剣魔の斬撃を防ぐ。しかし――

 

「何処を見ている!」

 

 剣魔の攻撃に気をとられた一瞬の隙をついて、アルカードの剣閃が無防備なドミナスの右側面を捉える!

 

「やった!」

 

ラングが歓喜の声を上げる!

 

「いや……」

 

ユリウスが顔をしかめる。

 

 

 

「チィッ……!」

 

 アルカードが苦悶の表情を浮かべた。本来なら確実に敵にダメージを与えていたであろう攻撃が、何故かドミナスの防御障壁にあっさりと弾かれてしまったのである。

 

「キシャァアッ!!」

 

「ぐぅッ!」

 

 敵に自身を傷つける力が無いのを悟ったのか、例の三つ首が蛇の様に伸び、アルカードの首筋に食らいつこうと襲い掛かる!かろうじて二匹までは振り払ったが、三つ目の首が迫る!

 

「チッ!!」

 

 止むを得ず左腕を盾にする!激痛が骨の髄まで響いた。

 

「アルカード様!!」

 

 幸いにも主の危急に気付いた剣魔がすぐさま駆けつける!こちらの攻撃は危険と判断したのか、左腕に喰いついていた首が瞬時に引っ込む。束縛から開放されたアルカードはすぐさま距離をとった。

 

 

「…………」

 

 ひとまず敵の射程外まで離れた所でアルカードは剣の状態を再確認した。本来ならば鏡の様に磨き上げられているはずの刀身に、うっすらと黒い影が差している。原因は間違いなく時計塔での戦い……ヴァルマンウェ程では無いにせよ、母の形見の剣もデスの瘴気に侵されていたのだ。

 

「デスの呪いがこれ程とはな……」

 

 表情には出さなかったが、死して尚残る死神の執念に心の中で苦笑する。

 

 

「やむを得ん……来い剣魔!」

「仰せのままに……!」

 

 アルカードの呼びかけに、剣魔はその異形の体を一振りの無骨な長剣へと変えた。使い魔の剣を手に取り、アルカードが改めてドミナスと対峙する。

 

「!!」

 

 しかしドミナスの行動は早かった。アルカードが準備を整えるよりも早く、再生した腕で魔法陣を組み、燃えさかる火炎を放っていたのだ。大地を嘗める火柱が、既にアルカードの目前に迫っていた。

 

「ヘルファイアッ!!」

 

 ギリギリで火炎弾を放ち相殺する!だがやはりドミナスの方が一枚上手だった。今度は青い魔法陣を組み、放射状に例の光線を放つ!アルカードはドミナスの懐に潜り込んで避けようとしたが一歩遅く、何本かの光線にその身を貫かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

「アルカード!」

 

 仲間の劣勢に矢も立てもたまらずラングが一歩踏み出す。が、どうした事かその場から一向に前に進めない。いくら前に出ようとしても、気付くと元いた場所に戻っている。

 

 何が起きているのかすぐには解らなかったが、すぐにこんな芸当が出来るのは一人しかいない事に気付く。自分の後ろでふんぞり返っている件の紳士だ。

 

「あんた!こんな時に何をふざけ……」

 

 いきり立って掴みかかるラング。だが紳士の醸し出す言い知れぬ重圧に、その言葉は強制的に中断させられた。

 

「今の貴方が行った所でどうなるのです?今は彼の戦いぶりをよーく()()おきなさい」

 

 サンジェルマンの口調は変わらず淡々としている。が、その奥に有無を言わさぬ威圧的な物が感じられた。ラングは救援を求める様にもう一人の仲間を見たが、ユリウスは座り込んだままじっと遠方のアルカードを見つめている。

 

 

”バシィィィイッ!!”

 

 

 突如煌いた眩い閃光に思わず目を覆う。ドミナスが放った雷光が庭園を真昼の様に照らし出したからだ。その衝撃は凄まじく、ハルカの使う電撃に勝るとも劣らない。アルカードはかろうじて避けたようだったが、劣勢なのは傍目から見ても明らかだった。

 

 

「くそ!このままじゃ……!アルカードの奴、まだ完全に体が治ってないのか!?」

 

「…………」

 

 ラングと同様、ユリウスも違和感を感じていた。いくら容態が回復したといってもほんの数時間前まで文字通り死にかけていたのだ。確かに万全の体調とは言い難いだろう。

 

 だが精彩を欠いている理由はそれだけでは無いように感じられた。今のアルカードの動きにはまるで普段の冴えが無い。いや、手を抜いていると言ってもいい。まるでわざと相手の攻撃を誘っているような…………

 

「!……あいつまさかッ」

 

 ユリウスが何かに気付く。

 

「アルカードッ!!」

 

 ユリウスがアルカードに向かって叫ぶ。もっとも血の気の引いた体では”叫ぶ”というより”搾り出す”と形容した方が近かったが、ともかくその声は何とかアルカードに届いたようだった。

 

「…………」

 

「!」

 

 アルカードは確かにユリウスの呼びかけに反応した。だがちらりとユリウスに視線を送っただけで、またすぐ戦いに戻っていってしまう。

 

「あいつ……ッ」

 

 一人強大な敵に立ち向かう仲間を、ユリウスは今はただ見守る事しか出来ないでいた……

 

 

 

 

 

 

 アルカードの苦闘は続いていた。元々ドラキュラとアルカードは闇の力を持つ者同士、その技は互いに相殺しあってしまい効果は薄い。

 

「ダークインフェルノ!!」

 

 アルカードがマントの仲から禍々しい暗黒球を放つ!しかし案の定防御結界に阻まれ碌にダメージを与えられない。それでも一見無意味な攻撃を続けるのは、アルカードが敵の”ある物”を待っているからに他ならない。

 

 

 

 アルカードの思惑……それはユリウス達にドミナスの攻撃を見せ、実際に自分が避ける事でドラキュラの倒し方を学ばせるという実に単純明快な……だが非情に困難な物だった。

 

 

 そもそも先の戦闘にしても、アルカードは霧や蝙蝠に変化できるのだ。それらを駆使すればもっと楽に、無傷で切り抜ける事も出来ただろう。わざわざ体術や魔法だけで避けていたのは、人間でも出来る行動でなければ意味が無かったからだ。

 

 だがアルカードも最初からこんな酔狂な作戦を考えていたわけでは無い。しかしユリウス達を追いかけ庭園に辿り着き、ドミナスの姿を目の当たりにした瞬間、アルカードにはこの邂逅が天啓のように感じられた。

 

 今回の戦いはドラキュラと人間との最終決戦。どちらかが滅びどちらかが生き残る。

……引き分けは無い。

 

 一か八かの”賭け”なのは承知していた。最悪手の内を明かせないまま自身が死ぬかもしれない。だがそれでも……ほんの少しでもドラキュラに勝てる要素が増えるならば実行しておきたかった。

 

 

 幸か不幸かドミナスの攻撃は二百年前の父とほとんど変わらなかった。体が青く光れば防御結界。赤い魔法陣を出せば炎と言った具合に、威力の差こそあれ、そのパターンは同じだった。だが最も重要な……ドラキュラの最終兵器とも言える技をアルカードはまだ引き出せていなかった。

 

 

「キシャアァッ!!」

 

「なめるなッ!」

 

 掴みかかってきた触手を一刀の下に斬り捨てる!

 

 

「こんな物か!ドラキュラッ!!」

 

 アルカードが挑発めいた怒号をドミナスに浴びせる。普段の貴公子らしからぬ粗暴な振る舞いだったが、結果としてこれが功を奏した。それまで庭園の中央広間から微動だにしなかったドミナスが、初めて自ら距離をとった。

 

「…………来るか……!」

 

 ドミナスが両腕を胸の前におき、白く発光する魔法陣を出現させる。気がつけばいつの間に現れたのか、上空の満月を覆い隠すようにドス黒い暗雲が垂れ込め、雷鳴が轟き始める。

 

「ヴォ……ル………ソ……マハ…………」

 

 正確に聞き取れはしないが、酷く冒涜的な禍々しい呪詛を唱え始めるドミナス。その詠唱が進むにつれ、恐ろしいほど凝縮された魔力がドミナスの手の中に集まり出す。アルカードはどんな状況にも対処できるよう、半身の体勢に身構えた。

 

 

「ぐ……ッ」

 

 だがここで光線で貫かれた足に激痛が走る。紛い物とはいえやはりドラキュラ。相当の力を蓄えていたようだ。ここまでダメージを喰うのは想定外だった。

 

 

――今の自分に避けきれるか?――

 

 

若干の迷いが脳裏を過ぎる。過去に父とは三度矛を交えた。

 

一度目は手も足も出ず、負けた……

二度目は仲間たちの力を借り、勝った……

三度目は一対一で戦い、しりぞけた……

 

だがここ二百年間は戦士達の援護に回り、表立って前線には出ていない。まして今は病み上がりに手負い。この状態で果たして……

 

 

「アルカードッ!」

 

「……!」

 

 その時激励とも叱咤ともつかぬ仲間の声に気付いた。自分に対し何事か叫んでいる仲間の顔を見て、不意に時計塔でのやり取りを思い出す。

 

 

――少しは頼れよ!

――仲間だろう?俺達は……

 

 

 そうだ……二百年前は一人だったが今は仲間がいる。彼らなら……うまくやってくれる筈だ。

それにこの戦いはユリウス達の為でもあるが自身の為でもある。ここで勘を取り戻しておかなくては本物のドラキュラに抗する事など到底出来ないだろう。

 

 ドミナス越しにユリウスを見る。赤毛の青年は何事か訴えるような眼差しで、その蒼い瞳を真っ直ぐこちらに向けていた。

 

 

 

「死ネェッ!!アルカードォッッ!!!」

 

 

――はたしてその一時の感傷は、ドミナスの放った巨大な閃光と共に打ち破られた――

 

 

「消エ……去レェェェェイッ!!」

 

 ドミナスの放った波動の塊が、アルカード目掛け襲い掛かる!

 

「くッ!!」

 

 巨大な波動を横っ飛びでかわす!しかし続いて次弾が迫る!これもかろうじてかわす!だが次々に繰り出される波動砲は徐々にアルカードの体力を削り、追い詰めていく!!

 

「ぐあァッ!!」

 

 とうとうそのうちの一発がアルカードを捕らえた!かろうじて防御障壁を張ったが、その衝撃に吹っ飛ばされ、混沌の扉に叩きつけられる。

 

「ブゥハハハハハハッ!!」

 

 煩わしい敵をようやく撃ち落し、ジョーンズ……もといドミナスが不気味な笑い声をあげた。やがてひとしきり笑って気がすんだのか、アルカードにとどめを刺すべくドミナスが庭園に降り立つ。

 

 ドミナスは自慢の爪を光らせながら、ゆっくりとアルカードへと近づいていく。だが眼下の敵が見せた表情に違和感を憶えた。

 

 アルカードの灰色の瞳に、燃えるような輝きが灯っている。これは死を覚悟している人間の眼ではない。むしろ勝利を確信している者の目……

 

訝しむドミナスに、アルカードが静かな微笑を浮かべながら言った。

 

 

「俺が……一人で戦っているとでも思ったか?」

 

「――!?」

 

 

”ドォンッ!!”

 

 

「グアアァッ!?」

 

 突如ドミナスの背中に衝撃が走る!首を伸ばし振り返った先にはユリウスとラング、二人の男の姿があった。アルカードはただ闇雲に逃げ回っていたわけでは無い。攻略法を二人に見せつつ、

ドミナスが絶好の位置に来るよう誘導していたのだ。

 

『くたばり……やがれェェェ―――ッ!!』

 

 ユリウスとラング、二人の絶叫と共に、アガーテの銃口から魔力の弾丸が発射される!

 

 

 

 

 

 

 

 

共鳴魔法(デュアルクラッシュ)!?」

 

 ユリウスの突飛な提案にラングが思わず聞き返す。

 

「時計塔で俺とアルカードが使ったのをお前も見ただろう、あれを今度は俺達がやるんだ……」

 

「な……あんな芸当俺にできるわけが!……それにまだ魔力が……」

 

 否定するラングに、ユリウスが息をきらし詰め寄る。

 

「できないじゃねえ、やるんだよ!お前は魔力はカラだが体は動く、俺は体は動かないが魔力は残ってる!お前は奴をぶっ飛ばす事だけイメージすればいい!後は俺が合わせる!」

 

 ユリウスの無茶苦茶な理屈にラングは心底狼狽した。しかしドミナスの魔力はいつ爆発してもおかしくない位に膨らみ、もはや一刻の猶予も無い。

 

「くそ!なるようになれッ!!」

 

 ラングは半ば開き直った様子で瞑目し、アガーテの照準を遥か遠くにいるドミナスに合わせた。

 

「呼吸を合わせろ……」

 

 ユリウスが静かに囁くと、ラングの銃に束ねたヴァンパイアキラーを重ねた。銃を伝わってユリウスの鼓動と魔力が伝わって来る。……その時、ラングの奥底に眠る”何か”が呼び起こされる。

 

 

”何だ……?無数の光の矢が……イメージが自然に頭に流れ込んでくる……?”

 

 

 ラングはその言霊を聞いた事など一度も無かった。だが何故か……何処か懐かしいそのフレーズを無意識の内に口に出していた。

 

 

『――サウザンド・エッジ!!』

 

 

 古の言霊を言い放った次の瞬間、無限と思えるほど大量の弾丸が銃口から放たれる!

 

「うおおおおおおおッ!?」

 

 ドミナスより誰より、放った当の本人が一番驚いた。光り輝く魔力の弾丸が無尽蔵に湧き出てくるのだ。その光景は天を駆ける光の流星群(シャワー)と見紛う程だった。

 

「狙いがそれてるぞ!しっかり握れ!」

 

 ユリウスの檄に”ハッ”と我に帰る。数千もの弾丸が一度に発射される反動は凄まじく、少しでも気を抜くと銃を手放しそうになる。ロデオの暴れ牛の様に暴走する銃を必死に押さえつけ、一発でも多く当たる様にラングは照準を調整し続けた……

 

 

 

 

 

 

「グ……オオオ……ッ!下賎……ナ、人間風情ガアァ……ッ!!」

 

 

 デュアルクラッシュの銃弾をうけ続けながらも、ドミナスは怨嗟の声を上げユリウス達へ一歩一歩近づいて来る。しかも間の悪い事にユリウスの魔力が尽きてきたのか、放たれる弾幕の密度が目に見えて減ってきた。

 

 

「WOOOOOOOHHHHH!!!!」

 

「――!!」

 

 

 突如ドミナスが唸りを上げ、自身に纏わりつく全てを振り払う雄叫びを上げた。その衝撃波にデュアルクラッシュのスクラムを崩され、それまでどうにかドミナスの進行を押さえつけていた魔力の弾幕が、とうとう完全に止まってしまう。

 

 

「ここ……までか……」

 

 倒れこんだラングが力なく呟く。

 

「ああ……だが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで充分だ」

 

 

「――――!」

 

 

 その時、ドミナスが周囲の異変にようやく気付いた。無数の剣が自身を取り囲むように宙に浮いている。しかも一本が二本、二本が四本と、見る間にどんどんその数を増やしていく。

 

 

「一回でダメなら十回……」

 

 ユリウスがドミナスを見上げながら呟く。

 

 

「十回でダメなら百回……百回でダメなら千回……千回でダメなら……」

 

 

 

 

「千百回だ!なあアルカードッ!!」

 

 ユリウスの叫びにドミナスは思わず後方を振り返る!先ほどまで地べたに這いつくばっていた筈の敵が今は妖精の薬によって回復し、不敵にこちらを見据えている。

 

「この技の詠唱は少々面倒でな……だが、おかげでうまくいった。――行け!剣魔!」

 

 アルカードの号令一途、数百にもその身を分離させた剣魔の群れが、一斉にその矛先を標的に向ける。

 

 

「我は百にして一……一にして百…………」

 

 

『喰らえ!百なる一の剣ッ!!』

 

 

 宙を漂っていた剣魔の群れが、一斉にドミナスへと降り注ぐ!

その数は百どころでは無い、数千、数万にも見える剣のスコールがドミナス目掛けて襲い掛かる!

 

 

「ヴ……ヴアアアアアァ―――ッ!?」

 

 無数の剣が突き刺さる轟音が、地鳴りの様に庭園に鳴り響く。一本一本の衝撃には耐えれても、その数は百や二百では無い。圧倒的な勢いに押さえつけられて、徐々にドミナスの体勢が低くなってきた。その様はまるで剣に貼り付けられた昆虫標本の様だ。

 

 だがそこは腐っても驚異的な再生力を持つドラキュラ。剣魔の嵐撃を浴び身動きは取れないながらも傷つく端から再生し、未だ致命傷には至っていない。息の根を止めるためには決定的な一撃を叩き込む必要がある。

 

 

「アルカード!今だッ!!」

 

 ユリウスの言葉よりも早くアルカードは駆け出していた。狙うは敵の心臓部、依り代にしているジョーンズとの結合部だ。

 

 アルカードは走りながら呼吸を整えると、その手に握る母の形見の剣を強く握りこむ。

剣魔も心得た物で、主に花道を渡すかの如く、海が割れるように心臓までの道が開いた。

 

 

「行けええええええッ!!」

 

 

ドミナスの核目掛け、アルカードの渾身の一撃が振り下ろされる!

 

 

 

”キイィィィィィンッ!”

 

「――――ッ!!」

 

 

 だが全身全霊をかけ振るったアルカードの剣は、透き通った金属音を響かせて真っ二つに折れてしまった。デスの瘴気に蝕まれた長剣には、もはやアルカードの全力の一撃に耐える力は残っていなかったのだ。

 

「よりにもよって……此処で……ッ」

 

 ユリウスが思わず怨嗟の声を呟く。

これ以上無いくらい最低最悪のタイミング…………しかし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――これをお使いなさいッ!!」

 

 3人の視線が一斉に声の方向を向く。いつの間に移動していたのかアルカードの背後に回っていたサンジェルマンが、自身の持つサーベルをアルカードに向かって投擲したのだ。金色に輝く光線となった剣が、吸い込まれるようにアルカードの掌に収まる。

 

「!……礼は言わんぞ!」

 

 アルカードは即座にサーベルを引き抜くと、引き掛けにドミナスの首を切り落とした。断末魔を上げる間も無く、三つある首の1つが地に落ちる。

 

 

「ヴォアアシャアアアァ――ッ!!」

 

 怒り狂う残り二つの首がアルカードに襲い掛かる!しかしもはやアルカードの敵ではなかった。

 

 

「これで終わりだ……消え去れ!哀れな紛い物よッ!!」

 

 

 遅い来る残り二つの首を一刀のもとに斬り捨てると、その勢いのままドミナスの心臓にサーベルをつきたてる!黄金のサーベルはドミナスの硬い外皮を貫き、核の部分まで達する!

 

 

「VOOOOORWAAAAHHHH―――!!!」

 

 

 耳を覆いたくなるほどの断末魔が庭園に轟く!

瞬間、ドミナスの腸に蓄えられた混沌が一気に噴出し、決壊したダムの様に溢れ出した!

 

……しかしそれも束の間の事だった。威容を誇っていた魔物の影は次第に薄れ、父と子、その仮初めの戦いにひとまずの決着がついたのだった……

 

 

 

 

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