悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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遅ればせながら明けましておめでとうございます。
本年も「悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999」を
よろしくお願い申し上げます。




少女たちの決意(前編)

 

 呪いの人形に魔力を吸い尽くされ、ラングは指一本動かす事もままならない。一方化け物の持つ変わり身人形は、今まさに拷問具(アイアンメイデン)のハラワタに吸い込まれようとしている……

 

――もうだめだ!このままでは俺も――

 

 自身の身にこれから起こるであろう惨劇に、ラングの体が思わず強張る……!

 

 

 

「――サモンスピリット!!」

 

 だがその時、どこからともなく現れた白いもやが、化け物の持つ人形を粉みじんに砕いた!

 

「ナニイッ!?」

 

 不意に人形を破壊され、化け物がその爛々と光る眼玉をぎょろつかせ周囲を見回す。

もやの出所はすぐに判明した。先ほど罠にかけたはずのアルカードが息を吹き返し、召喚した霊魂に人形を攻撃させたのだ。

 

「ソウル……スティール!」

 

 続けざまにアルカードが唱えた暗黒魔法によって、周囲の空間がブラックホールの様に歪む。

ラングを取り巻いていた人形たちは一体残らず渦へと吸い上げられ、グシャグシャにひしゃげてしまった。だが……

 

 

「がはッ!」

 

 アルカードの攻勢もそこまでだった。先のアイアンメイデンで負った傷は想像以上に深く、

魂吸収術(ソウルスティール)によって得られる回復効果も焼け石に水。それどころか高位の魔法を使った負荷により、止まりかけていた血が再び吹き出し始めた。

 

 

「オ……オォノォレェエエエッ!!」

 

 決定的だった勝利を邪魔されたうえ、自身のコレクションまで壊された化け物は癇癪を起した駄々っ子の様に周囲のぬいぐるみや人形に当たり散らしている。

 その隙にアルカードはポーションを口に含んだ。だがどうした事かいつもの劇的な回復が見られない。先の攻撃で受けた傷が深すぎて薬の治癒力が追い付かないのだ。

 

――不覚だった……、まさか転移魔法を使って来るとは……!

 

 奴の仕草に嫌な予感がし、咄嗟にラングを突き飛ばしたが、まさかこんな攻撃をしてくるとは予想外だった。幸いラングはケガこそしていないようだが、人形に吸われた魔力がまだ戻らないのかほとんど動く事は出来ないようだ。

 

 

「死ニゾコナイガ……、グチャグチャニ潰シテヤル!!」

 

 

 人形に八つ当たりして気が晴れたのか、化け物がようやく動き始める。化け物は先の攻撃がよほど腹に据えかねたと見え、例の拷問具は使わず直接アルカードを手にかけるつもりのようだ。

 

「く……ッ」

 

 化け物が4本の腕を乱雑に振り回しながらアルカードに迫る。この状況ではラングの援護は期待できない。やむなくアルカードは再び暗黒魔法の詠唱を始めたが……

 

”ドクンッ”

 

「!?」

 

 不意に全身に衝撃が走り、視界が歪んだ。

 

「ケラケラケラ」

「…………傀儡……だとッ!」

 

 ラングの時と同じように、いつの間にか忍び寄っていた人形がアルカードの魔力を奪ったのだ。アルカードはすぐ人形を振り払おうとしたが、その時にはすでに魔力のほとんどを吸われてしまっていた。眼前には化け物の巨大な手が迫る!

 

 

 

「アル……カードッ!」

 

 ラングは必死に体を起こそうとしたが、まるで自分の体ではないように力が入らない。今まさに死の淵にいる仲間を前に、ラングは悔恨のうめき声をあげる事しか出来ない…………だがその時、蹲るラングの横を紫にゆらめく一迅の風が過ぎ去る。

 

 

 

 

 

 

”バキイイィンッ!!”

 

「ギィイヤアアァアッ!!」

 

「!?」  

 

 次の瞬間、二人の耳に入ってきたのは奴の持つ木製の人形が砕ける音、そして化け物の醜い叫び声……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう!だらしないわねえアルちゃん!やっぱりアタシがいないとダメなんだから!」

 

「鼻……悪魔!?何故お前が……ここに……」

 

 目の前にいる使い魔の姿に、アルカードは自身の目を疑った。だがそれを問う間もなく入口の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

「な、何だこのデカブツは!?これが……パペットマスターとやらか!?」

 

 部屋に入ってきた二人の少女の内、ショートカットの少女が素っ頓狂な声を上げた。ハルカとマキ、二人の少女は蔵書庫からここ迎賓館まで、まさにベストと言えるタイミングで辿り着いたのだった。

 

 

「何故ハルカ達が……!爺め、何をしている……ッ」

 

 予想だにしなかった仲間達の出現に、アルカードは図書館の主へ恨みめいた言葉をぶつける。

そんなアルカードの心中はいざ知らず、マキは必死に状況を確認していた。中央には辞典で見たパペットマスター。その奥に傷だらけのアルカード。そして手前にはやはり倒れているラングの姿がある。一目見ただけで劣勢と解る状況だ。

 

 しかしもう一人の少女の目には倒れている仲間達の姿は入っていなかった。その翡翠色の瞳に移るのはただひとつ、長年追い求めた仇の姿……

 

 

「やっと……見つけたぞ……」

 

「!?」

 

 

 その憎悪に満ちた殺気に、思わずマキがハルカの方へ振り向く。少女の栗色の髪は静電気でも浴びたかのように逆立ち、その白い肌は真っ赤に蒸気している。すでにドミナスはハルカの中には無い。だが支配者の憎悪と見紛う程、ハルカの放つ殺気は尋常ならざる怒りを孕んでいた。

 

 

「こっちを見ろ化け物ォッ!!」

 

 

 ドスの効いた声でハルカが叫ぶ!鼻悪魔に注意が向いていたパペットマスターだったが、その強烈な殺気と声に反射的にハルカへと視線を向けた。

 

 

「私を覚えているだろう!!この日の為に……お前を殺すためにいままで生きてきたんだ!

……お姉ちゃんを……ナオミ・ヴェルナンデスを返せ!!」

 

 数年ぶりに相見えた魔物と少女。だがどうした事か自身に強烈な敵意を向ける少女を前にして、パペットマスターはひどく困惑した様子で首をかしげ、まじまじとハルカを見回している。その態度が指し示す結論に、ハルカは愕然とした。

 

 

「まさか……私を覚えて無い……のか?」

 

 喋るハルカの顔がひきつる。

 

「忘れた……」

 

「忘れた……だと?は……はは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるなッッ!!」

 

 

 再び室内にハルカの怒号が響いた。

 

 

「バカにしやがって……!嫌でも思い出させてやる!」

 

 ハルカの怒号に呼応するかのように、主から貰ったアストラルリングが赤く発光する。主の言う通り、ハルカは今まで見る事が叶わなかった精霊の姿をはっきりと感じられるようになっていた。

 

「炎の精霊よ!我が命に従い目の前の”木偶人形(デクヤロウ)”を燃やし尽くせェッ!!」

 

 正式な詠唱をするのももどかしく、精霊たちに命令を下す!ハルカの放った言霊に呼応した炎の精霊が、パペットマスター目掛け巨大な火球となって襲い掛かる!

 

 

”ゴバオォンッ!!”

 

 

 オレンジ色の大爆発が部屋の中を真昼の様に照らし出す!その熱線はかなり離れた位置にいるマキの肌を焦がすほどに強力な物だった。だが……光と炎が収まった後、ハルカ達の前に現れたのはほぼ無傷の姿のパペットマスターだった。

 

「馬鹿な!何故あの爆発を食らって無事なのだ!?」

 

 驚愕するマキ。だが魔法を撃ったハルカはその理由に気付いていた。敵の足元に(もっともパペットマスターに足は無いが)転がる黒焦げの人形やぬいぐるみ達。パペットマスターはハルカの火球が当たる瞬間、配下の人形達を盾に……自身の身代わりにしたのだ。

 

「この……下種野郎がァッ!!」

 

 仲間を仲間とも思わないパペットマスターの行動に、ハルカの怒りはもはや狂気のレベルにまで燃え上がる。自身の生命が削れるのも厭わず、立て続けに火炎球をパペットマスター目掛け繰り出す!しかしその全てが、無尽蔵に湧き出る人形の壁に遮られてしまう。

 

「ハルカ殿ッ!それ以上は……!!」

 

 もはや傍らのマキの声も届かない程、ハルカは自身を見失っていた。数年ぶりに見る仇への怒りが、彼女から普段の”したたかさ”を奪い、年相応の精神年齢に戻してしまっていた。いや、もしかしたら普段のしたたかさの方が必死に作り上げた”虚勢”で、今のハルカの姿こそ、彼女本来の物なのかもしれなかった。

 

 だがどちらが真実でどちらが嘘にせよ、この状況でそれは悪手以外の何物でもなかった。感情にまかせ撃ち続けた魔法によって、主の危惧していた崩壊は目前に迫っていた。

 

 

「く……そ、何で、落ちない……目の前に……あいつが……いるのに……もう少し……なのに」

 

 ハルカの放つ火球の勢いが目に見えて衰えてくる。以前のハルカならこの程度の魔法何百発撃っても何ともなかっただろう……。だが悲しいかな今のハルカにはその十分の一も撃つ事は出来ないのだ。それでも少女は歯を食いしばり、必死に呪文の詠唱を続ける。

 

 

 

 

「コノ人形ヲ……」

 

「あれは……ッ!」

 

 その時マキは人形の壁に隠れるようにして、例のダミー人形を拷問器具へ入れようとしているパペットマスターに気付いた。

 

「まずい!」

 

 ハルカは怒りで我を忘れ敵の行動に全く気付いていない。恐らく本に書いてあった敵の行動パターンも失念しているのだろう。ラングとアルカードは行動できるような状態ではない。鼻悪魔も群がる人形を捌くのに手いっぱい。このままではハルカが……!

 

 

「やるしか……無い!」

 

 考えるよりも先に少女は行動していた。

 

「ハルカ殿!御免!!」

 

「うぐッ!?」

 

 ハルカの背後から刀の鞘で殴り、無理やり攻撃を中断させると、マキはそのままパペットマスターとの間に割って入った。だがこの距離ではもう変わり身人形を破壊する時間は無い……!

 

 

「ココニ入レルトォッ!?」

 

 

 

 

”ガシャアァァンッ!!”

 

――無情の鉄音が部屋の中に響く――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マキィィ――――ッ!!」

 

 

 室内に響き渡る張り裂けんばかりの悲鳴!さっきまで溶岩の様に煮えたぎっていたハルカの怒りは一転、南極の氷河の様に冷たい絶望へと変わっていた。

 

 

「ゲェヘヘ……、マサカコンナ場所デ日本人形ガ手二入ルトハ…………」

 

 パペットマスターの下卑た笑い声が室内に響く。やがて固く閉ざされた拷問具の扉が開き、中から白い装束を真紅に濡らしたマキが飛び出す…………はずだった。

 

 

”バサササササササッ!”

 

 

 拷問具から放り出されたマキの体が、一瞬で白い紙の束へと変わる!

 

「コ、コレハドウイウ事ダ!?」

 

 魔物をあざ笑うように舞う紙人形の群れ!血濡れの少女が出てくる事を期待していたパペットマスターは、この異常な光景に眼を白黒させおおいにうろたえている。

 

 

 

 

「こっちだ化け物ッ!!」

 

「!?」

 

 紙人形に気を取られたパペットマスターの背後から、紫電に輝く抜き身を携えたマキが襲い掛かる!

 

”ズバシャァアアッ!!”

 

「ギィヤアアアアアアアアッ!!!」

 

 すれ違いざまに放たれた”やすつな”の斬撃が、パペットマスターの右目を両断する!!木偶人形の身とはいえ痛覚は人並みにあるのか、斬られた右目を押さえながらパペットマスターが地響きの様な絶叫を上げた!一方マキはその勢いのまま、無事ハルカの元へと着地する。

 

 

「マキ!無事なの!?でもどうして……」

 

「……叔父上のおかげで助かりました」

 

 マキが胸元を開いて見せる。少女の開いた和装の中には、ダンスホールを出る際に忠守に渡された人型の護符があった。

 

「……ハルカ!」

 

「!」

 

 マキが両手でハルカの頬を掴み、自身に顔をむけさせる。

 

「落ち着いてください!いくらなんでも無茶をし過ぎです!」

 

「そんな事は無い!」ハルカはマキの言葉に即座に反論しようとした。だがマキが見せた服の袖を見て言葉を失う。マキが見せた和装の袖には、ハルカの口元から流れ出た血がべっとりとついていた。

 

「仇を前にしてはやる気持ちも解ります。ですが焦って返り討ちにあっては元も子もない!」

 

「……」

 

「悔しいですが今の一太刀で解りました。今の私達では奴には勝てない……ですがここにはアルカード殿もいる!ラング殿もいる!微力ではありますが私も力をお貸しします!貴方は一人ではない!仲間を頼ってください!」

 

「!」

 

 

――”今度からは俺達の事ちったあ頼れよ?”――

 

 

 マキの言葉に、庭園で言われたユリウスの言葉が重なった。

 

 

……私は何も反省していなかった……また一人で突っ走って……

 

 ふと見ればマキの手には無数の生々しい傷跡があった。傍目には余裕があるように見えたが、この少女は文字通り身を犠牲にしてここまで自分を守ってくれていたのだ。会ったばかりの自分の為に何故ここまで……この城に来る前の自分だったらおそらく理解できなかっただろうが……

 

 

「ちょっと!ボクちんの事も忘れてもらっちゃ困るわよォん!」

 

 その時不意に鼻悪魔の声が響いた。あまりにも場違いなへんてこな声色に、思わず二人顔を見合わせ噴き出す。だが見れば鼻悪魔は群がる人形に対し、たった一匹で応戦し主人を守っている。

 

 

「ハルカ殿!(パぺマス)は私が食い止めます!早くアルカード殿の下へ!」

 

「……うん、解った。でも私の分も取っておいてよ?」

 

「ふふ……承知しました」

 

 ハルカに普段の茶目っ気が戻ったのをマキは感じた。この分ならもうあんな無茶はすまい。無言でアイコンタクトを済ませた後、ハルカはすぐさまアルカードの下へ、そしてマキはパペットマスターへと向き直る。

 

 

「オノレェ……ヨクモ俺ノ眼ヲッ!小娘ェ……ッ!オ前ハ特別二生皮ヲ剥イデ生キ人形二シテヤル!!」

 

 時を同じくしてパペットマスターもこちらに向きなおっていた。時間を置き多少は冷静さを取り戻したようだが、その言動は物騒な事この上ない。

 

 パペットマスターはアルカードの救援に向かったハルカには目もくれず、眼下のマキに狙いを定め四本の腕を頭上高く振り上げる……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……小娘と思って嘗めるなよ?化け物……」

 

「!?」

 

 

……だがその時、少女の放つオーラが尋常ならざる物へと変わった。ただならぬ気配にパペットマスターは思わず振り上げた手を引っ込め、数歩後ずさる。

 

 

「特別に教えてやる……我が忌み名は”真鬼(まき)”……”(しん)”の”(おに)”と書いて真鬼(まき)だ!

鬼の力を宿すと言われた我が流派の技……その身体でとくと味わえッ!」

 

 

 マキは忠守から受け取った式神の札を懐から取り出すと、その全てを宙にばらまいた!途端札はマキと寸分違わぬ姿へと変わる!

 

 

『くらえ!鬼神流奥義!!』

 

 

 マキが剣を逆手に持ち、左手で印を結ぶ!刹那、刀を抜いた五体の分身が、天翔ける流星の様に眼前のパペットマスターへと殺到した――!

 

 

 

 

 

 

 

 




公式のアナウンスでは”キシン流”はあくまでキシン家に伝わる流派で
”鬼神”でも”鬼心”でもなく日本とは全く関係ないらしいのですが、
1999年の戦いはある意味ドラキュラシリーズの総決算。
どうしてもキシン流を出したかったので結果このような形になってしまいました。

原作設定とは大分違いますが、どうかご容赦ください。


……でもマクシーム=サンのドットといい、動きといい、
日本と全く関係無いとは思えませんよねえ?


 

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