悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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鬼神流……それは古来日本の都において跳梁跋扈する百鬼たちを倒すため、陰陽師達の間で密かに受け継がれてきた剣の流派である。その真髄は無限に湧き出る魑魅魍魎に対し、強烈な一撃ではなく千の手数を持って制する所にある。

                      小波書房刊『忍者と陰陽師の関係』より抜粋
 


少女たちの決意(後編)

 

「鬼神流奥義!五芒の太刀!!」

 

「ウゲヤァアアアアッッ!!」

 

 マキに操られた式神たちが、目にもとまらぬスピードでパペットマスターに斬撃を浴びせかけていく!その残像は丁度陰陽道における”どうまんせいまん”……五芒星の軌跡を描いていた。

 

 

「ウ……グ……。コノ人形……ヲ……」

 

「させるかッ!!」

 

 苦し紛れのあがきか、パペットマスターが再び転移攻撃を仕掛けようとしている。

マキは即座に印を結びなおし、分身の一体を人形の破壊へと向かわせる!

 

”バキィィンッ!”

 

あと少しで拷問具(アイアンメイデン)に人形が収まるという所で、式神の放った斬撃が変わり身人形をバラバラに砕いた!

 

「ヌウァッ!?糞ォッ!!ウグッ!グアアアアア!!」

 

 怨嗟の声を上げる間もなく、他の式神から再び連撃を食らうパペットマスター。

まさに”手も足も出ない”と形容するにふさわしい戦況。マキの見事な攻勢がパペットマスターの行動を完全に封じこめていた。

 

 

 

 

「凄い……本当にNINJA(ニンジャ)はいたんだ!」

 

 目の前で繰り広げられる日本人少女の技に、思わずラングが感激の声をもらす。

――この非常時にそんな悠長な事を言っている場合じゃないだろとラングを怒らないでやって欲しい。欧米人であるラングにとってマキが繰り出す技は映画やゲームで見た伝説の職業”忍者”に写っても仕方のない事なのだ。もっとも当のマキは忍者でも何でもないのだが……

 

「!」

 

 と、その時またもや少女の背後に蠢く人形を見つけた。マキは術に集中しているからか、自身に忍び寄る敵の存在に全く気付いていない。

 

「危ない!」

 

 咄嗟にアガーテを引き抜く!

 

”パァン!”

 

「ギヤァッ!」

 

「!」

 

 ラングの放った魔力の銃弾は、寸分違わず人形の眉間を貫いていた。

 

 

「……動ける!」

 

 まだ完調とは言い難かったが、どうやらある程度は魔力が戻ったらしい。これなら少女のサポート位は出来る。ラングはすぐさまレライエの魔銃を携えると、少女を狙う新手の人形に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホーリーライトニング!」

 

 ハルカの放った雷の光弾が、アルカード達に殺到していた人形達を一掃する。どうにか間一髪の所で間に合ったようだ。だが近寄ってみるとアルカードはかなりの深手と見え、黒衣の至る所に穴が開き、その幾つかからは未だ血が流れ出ている。

 

「アルカードさん大丈夫!?すぐに治癒魔法を……!」

 

 ハルカはすぐさま治療にとりかかろうと、治癒効果が上がるという賢者の石を取り出そうとした。だが……

 

”グィッ!”

「!」

 

 突然アルカードにその手を掴まれてしまう。

 

「何故……ここに来た」

 

 アルカードはハルカの腕を掴むと、その華奢な指に光る赤い指輪(アストラルリング)をハルカ自身に見せつけるように向けた。

 

「お前は……この指輪がどんな代物か解っているのか!?」

 

 アルカードの鬼気迫る表情に、ハルカは思わず怯みそうになる。だがすぐに気を持ち直すと、

絞りだすように答え始める。

 

「知ってるよ……魔力の代わりに生命力を奪うって……さっきは思わず忘れちゃったけど……」

「ならば尚更だ!爺め、一体何を考えて……ッ」

「お爺さんを叱らないであげて!私が無理をいったから……」

 

 主を叱りつけるアルカードに対し、ハルカが必死に主を擁護した。

 

 

「ごめん……なさい。言いつけを破って勝手にここまで来て……」

 

「…………」

 

「でも……私だけ逃げるなんて出来ないよ!ユリウスも、ラングさんも、みんな血だらけになって戦ってるのに!このまま……このまま皆に迷惑かけただけで終わったら……私ただの馬鹿じゃない!」

 

「……ハルカ……」

 

 

 ハルカの独白を聞き、やはりこの少女もベルモンドの血をひいているのだなとアルカードは実感した。だがやはり今のハルカではこの先の戦いは手に余る。少女の気持ちも解らないでは無かったが……

 

 

「……お前は十分戦った。お前の力もあってドラキュラの片腕であるデスも倒せた。あまり気負うな、後は俺たちに任せ……」

 

「…………それだけじゃないよ」

 

「…………何?」

 

 アルカードはハルカを戦いから退かせるべく、出来る限り優しい口調で諭した。だがその時ハルカの顔に一瞬暗い影が差す。

 

 

「私…………やっぱり私お姉ちゃんの仇が討ちたいよ!自分勝手だと言われてもいい!悪人だと思われてもいい!でもあいつだけはこの手で殺さなきゃ死んでも死にきれない!!」

 

「奴がお前の言っていた仇の魔物だというのか……ッ」

 

 思いもよらぬハルカの言葉に、アルカードは改めて件の化け物を観察した。言われてみれば幼いハルカに聞いた特徴と似ていなくもない。しかしあれ程探して見つからなかった物がなぜ今……

 

 

 ハルカの発言に驚愕するアルカードをよそに、ハルカはひとしきり思いのたけをぶちまけ落ち着いたのか、ポーションを一飲みすると無言でアルカードの治療にとりかかり始めた。

 

 

――ハルカの治療を受けている間、アルカードは一人思案する――

 

 

 綺麗ごとではない、”生”の感情を直接ぶつけられて、アルカードは若干困惑していた。500年以上生きているアルカードは見た目こそ若いが人間とは比べられぬ程老成し、達観している。だが完璧すぎるゆえ、常人の抱えるささいな悩みや機微が理解できない所があった。いや、永遠に近い時を生きるため、そういった感情を無理にでも捨てざるを得なかったという方が正しいか。

 

”ドラキュラ”という絶対悪を前にすれば、人間ならば誰もが私情よりもドラキュラ打倒を優先する……そう考えていた。だがそれは大きな間違いだった。

 

 

 百人いれば百通りの考え方がある様に、それぞれ目的も思惑も違う。ユリウスやラング、かつて共に戦った数多のヴァンパイアハンター等、自身の身近にいた人間が特別だったのだ。いや、彼らとてその心の内には様々な想いを秘めていたのだろう。ただそれを大義の為に押し殺していただけに過ぎない。

 

 

 ハルカも本来なら自分よりも他人を優先するような子だろう。だがそんな本質を打ち消すほどに、肉親への情……それを奪われた怒りは強かったのだ。

 

 顧みて自身がまだ若かった頃……母が魔女狩りによって人間達に殺された時、自分はハルカと同じ感情を持たなかったと言い切れるだろうか?あの時もし母が止めてくれなければ、きっと自分もハルカと同じ……ドラキュラと同じ道を辿っていただろう……

 

 

 この世に生を受け五百年余。知らず知らずの内に自身を天上人のような存在だと思いこんでいたのかもしれない。まだまだ俺も未熟だなと、アルカードは自らを自嘲した。

 

 

「終わったよ……」

 

 アルカードの思案が終わるのと同時に、傷の治療も終わったようだ。賢者の石の効果か、さほど時間もかからず、ハルカの消耗も最低限ですんだらしい。

 

 

「……条件がある」

 

「……え?」

 

 まだ幾分伏し目がちなハルカに、アルカードが静かに語り掛ける。

 

「来てしまったものは仕方がない。だが指輪の力を借りたとしても今のお前では力不足だ。()()()()が終わったらお前にはホールで結界の護衛にまわってもらう。いいな?」

 

 アルカードの口から出たのは非情の戦力外通告。だが裏を返せば今この戦いに参加する事、

パペットマスターを討つ事を認めてくれたという事だ。

 

「いい……の?」

 

「……かまわん。だがさっきのような無茶は二度とするな。いいな?」

 

「う、うん!あ、いや、はい!!」

 

 どもりながらも必死に受け答えをするハルカ、その顔を見てアルカード自身の心も幾分楽になった。だが……

 

 

「ア、アルカード様!」

 

「!」

 

 鼻悪魔が普段のおちゃらけた調子ではなく、かなり切羽詰まった口調でアルカードの名を叫ぶ。気付けばいつの間に集まったのか、多種多様な人形の群れがアルカード達を取り囲むように何重もの隊列を組んでいた。人形たちは今にも攻撃を加えんと機を伺っている。

 

「なんて数……ッ!」

 

 ハルカの顔が思わず歪む。以前の自分ならばこの程度の敵トールハンマーの一撃で一掃できただろう。だが今の自分ではとても魔力(生命力)が持たない。

 

「くッ……大気に潜む精霊よ……」

 

 だが例え体力がもたずともやらなければ殺られる。ハルカはせめて一矢報いようと、精霊呪文の詠唱を始めた。だが初期の詠唱も終わらぬうちにアルカードによって制止される。

 

「な……アルカードさんどうして!?」

 

「無駄な体力を使うな。その力は…………奴のためにとっておけ」

 

 アルカードが指さした方向、マキ達と戦うパペットマスターの姿があった。

 

「……露払いは任せろ。ハルカ、頼んでおいた剣を」

 

 アルカードがハルカに向かって右手を差し出す。ハルカは慌てて図書館の主から預かっていた剣をアルカードに手渡した。

 

「……!これは……」

 

 手渡された剣の本数を見てアルカードは訝しんだ。頼んでおいた”ヴァルマンウェ”と”母の形見の長剣”の他にもう一本、太陽の刻印が刻まれた幅広の大剣があるのだ。

 

「あ……それはお爺さんがアルカードさんに、きっと役に立つからって……」

 

「!……フッ、爺め……」

 

 滅多に笑わないアルカードの口元が綻ぶのを見て、ハルカは驚く。

 

「下がっていろハルカ。少しばかり……荒っぽくやらせてもらう!」

 

 アルカードはそう言うと、手渡された大剣を勢いよく床に突き刺す!

 

 

「出でよ!暁の軍団!!不死の戦士達よ、我が下に集え!!」

 

 

 アルカードの号令一斗、部屋の床が間欠泉の様に噴出し、奇襲をかけようとした数体の人形が勢いよく吹き飛んだ!やがておさまった煙の中から、黄金色の鎧に身を包んだ骸骨の騎士たちが颯爽とその姿を現す。

 

「お呼びを受けまかりこしました。今回のご命令は何でしょうか、アルカード様……」

 

 騎士団のリーダーと思われる巨大な槍を持った騎士が、一歩前に進み出る。

 

「よく来てくれた。敵はあの顔のでかい木偶人形だ。だがその前に……周りにいる小うるさい人形共を一匹残らず叩き潰せ!」

 

「御意……」

 

 アルカードの命令を受領すると、リーダーの骸骨はアルカードに背を向け仲間たちの方へと向きなおった。

 

「聞いたな?敵はこの部屋にいる人形全てだ……では皆……」

 

 

 

 

 

 

「かかれええええええ――――ッ!!」

 

『うおおおおおおおおおおッッ!!!』

 

 

 今までの沈黙が一転、不死の軍団は荒れ狂うバーサーカーの如き雄叫びをあげ、人形の群れに突っ込んでいった。突如現れた異形の騎士団に、遠巻きに警戒していた人形たちは完全に機先を制され、瞬く間に崩壊していく……!

 

「……凄い……ッ」

 

 けたたましい怒号を上げながら人形の群れを蹴散らす暁の軍団だったが、傍目には夢の国の無害な住人を骸骨のバケモノが殺戮している様に見える。そんなファンシーな地獄絵図を、ハルカは目を丸くして呆然と見つめていた。その時、不意にアルカードから声をかけられる。

 

「……ハルカ」

「……な、何?」

 

 突然話しかけられて思わず返事がどもる。だが次にアルカードの口から出た言葉がハルカをさらに混乱させた。

 

「言うのが遅くなったが……お前たちのおかげで命拾いをした。感謝する、ありがとう」

 

「……!?!?」 

 

「…………」

 

「……どういたしまして!アルカードさん!!」」

 

 仏頂面の貴公子から初めて受け取った感謝の言葉に、ハルカの瞳は飛び出さんばかりに一層丸くなる。だが……すぐに少女は満面の笑みを浮かべアルカードの感謝に答えたのだった。

 

 

 

 




おかげさまで総合評価が100ポイントになりました。
読んでくれた方、お気に入り登録してくれた方、評価してくれた方、全ての方に感謝します。

ゆっくりではありますがこれからも更新を続けるのでどうか末永くお付き合いください。
 
 
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