悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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 悲壮な決意を胸に秘め、本城へと足を踏み入れたユリウス一行。
目指すは悪魔城最上階。そしてそこから続く城主の塔…………のはずだったが……
 


地下水脈
行くべき所


「おいアルカード!お前よくも一服盛りやがったな!」

『今頃!?』

 

 ホールでアルカードに眠り薬入りの肉を食べさせられた事を今更蒸し返すユリウスに、ラングとハルカが揃って呆れかえる。

 

「お前……意外と執念深いな」

「う、うるせー!色々ありすぎて忘れてたんだよ!」

 

 これから敵の本拠地に乗り込むというのに、ユリウスは相変わらずである。一方その原因を作った当のアルカードも普段通り、我関せずと言った感じでどんどん先へと進んでいく。

 

「無視すんなアルカード!つーかお前何で上じゃなくて地下に向かってんだよ!」

 

 ユリウスの興奮度合いが増々ヒートアップする。だがそれも当然だった。アルカードはドラキュラが待ち受ける本城へ皆を導くかと思いきや、何故かその足は城の地下へ……、気付けば一行はゴツゴツとした岩肌が広がる地下洞窟を進んでいた。

 

 

「……悪魔城は上に登ったからといって上階に辿りつける訳ではない。黙ってついて来い」

 

 アルカードは”そういう物だ”とでも言わんばかりに碌に説明もしない。ユリウスはこれ以上謝罪や回答を引き出すのは無理と判断したか、渋々後をついていく。……やがて20分も進んだ頃、青白く光る水面を湛えた地底湖が4人の前に姿を現した。

 

 

「綺麗……」

 

 

 息を飲むようなその光景に思わずハルカが感嘆の溜息をもらす。一片の光も差さない地下でありながら、地底湖から発せられる青い光が、無骨な岩壁を幻想的な絵画へと変えていた。だがアルカードはそんな絶景にも全く興味を示さず、湖に沿うようにどんどんと先へ進む。

 

 

 

 

 

 

 

「あなた方の行くべき所に導きましょう……」

 

『……………………ッ』

 

 

 アルカードに案内された地底湖のほとりにある船着場。ユリウス達を待っていたのは10人乗るのがやっとの古ぼけた小舟と、フードを目深に被ったひどくやせっぽっちの船頭だった。

 

 

「三途の川の渡し守(カロン)みたい……」

 

 

 皆が思ってはいたが敢えて口に出さなかったことをハルカがあっさりと口に出す。その遠慮ない物言いに一瞬緊張が走ったが、渡し守はそういった事は言われ慣れているのか、特に気分を害した様子も無く淡々とした調子で少女に返答する。

 

 

「望みとあらばお連れしましょう?三途の川でも冥府でも……お嬢さんが本当にそこに行きたいのならね……ひひひ」

 

 フードから覗く口元をいびつに歪ませ、渡し守が笑みを浮かべた。本人は愛想良くしたつもりなのかもしれないが、ただでさえ不気味なその風体がより一層影を帯び、気味の悪い事この上ない。

 

 

「像はお持ちの様だね……さ、お乗りなさい。乗る時はゆっくりね……」

 

 アルカードが通行証か何かなのか、小ぶりな人魚の像を渡し守に見せた。思いのほか親切な渡し守に促され小船に乗り込む。

 

 

「船の上で暴れないように……()ちても私は知らないよ……」

 

 どこか不安になる忠告を発した後、渡し守はその手に持つ櫂で桟橋をグッと押し込んだ。その反動で4人が乗った小船は一気に岸から離れる。

 

 海兵隊でボートには乗り慣れているが、いざ乗って見るとこのまま本当に黄泉路へ連れて行かれそうだとラングは思った。だがラングの予想に反し、古ぼけた小船は思いのほか安定した動きで青く光る水面を突き進む。

 

 

 

 ――地下水脈の流れは非常に穏やかで、敵も出てこない。岩自体が発光しているのか辺りはぼんやりと明るく、小船に身を委ねながらまったり周囲の景色を眺めていると、ここが悪魔の城の中である事を忘れてしまいそうになる。

 

 

……思えば随分遠くに来たものだ……

 

 

 心地よい小船の揺れに身を任せながら、誰それとなくそんな事を思った。いやおそらくこの城に来てからまだ半日も経っていないのだろうが、数々の戦いや施設の思い出は、まるで自分が何年もこの城で戦っていた様な錯覚をおこさせる。急に静かな場所に放り込まれた反動か、自然とセンチメンタルな物思いにふけってしまう。

 

 

 ”ギィ……ギィ”という櫂がこすれる音以外は、チャプチャプと船が水を掻き分ける音しかしない。皆何かする訳でも無く、そのまったりとした空気にしばらく浸っていた…………が、それもそろそろ退屈に変わろうかという頃、唐突にユリウスが口を開く。

 

 

 

「ハルカ……お前これからどうするんだ?」

 

 何ともぶしつけ、かつ曖昧なユリウスの質問に、逆にハルカが聞き返す。

 

 

「どうするって……何を?」

 

「これからの生活の事だよ。保護者(ジョーンズ)もいなくなっちまったろ……」

 

 

 ああそういう事……と言った感じでハルカが答えた。

 

 

「別にどうもしないよ。書類上の後見人ってだけで一緒に暮らしてた訳じゃないし、神学校の寄宿舎に戻るだけだよ」

 

「ゲッ!あそこかよ……よくあんなトコに居られるなお前。俺も昔先生に入れられたけど二週間で脱走したぞ?」

 

 

……自慢する事じゃないでしょ。と、半ばあきれた様子でハルカがユリウスを見る。だがその呆けた表情は次にユリウスの発した言葉によって一変した。

 

 

「親御さんもいないんだろ…………良かったら……テキサス(ウチ)来るか?」

 

「へ!?」

 

 

 突拍子も無いユリウスの言葉に、ハルカのつぶらな瞳が一回り大きくなった。

 

 

「土地と家だけは腐るほどあるからな……敷地の中には森もあるし、湖もあるし、牧場っていうか村だぞ村。ロンドンよりか空気も良いし、お前の姉ちゃんの体にもいいと思うんだ」

 

 

 思いもよらぬユリウスからの誘いに、ハルカはしばらくの間あっけにとられた様な顔で呆けていた。が、やがて堪えきれずにプッと吹き出すと、屈託の無い笑い声を上げながら答えた。

 

 

「きゃはは!いきなり”一緒に住もう”とか誘うなんてどーゆー事?え!?もしかしてユリウス私達の事狙ってるの?やだー、やっぱそういう趣味なんじゃない、ユリウスやっらし――ッ♪」

 

「な……バカ!そんなんじゃねえよ!俺はただ……」

 

 ハルカの反応を、ユリウスは大慌てで否定する。

 

「ふふふ……せっかくのお誘いだけどごめんねユリウス。残念だけど田舎暮らしは御免なの、

気持ちだけ貰っとくわ♡」

 

「ああ!?テキサスなめんな!ユタよりかは都会(マシ)だぞコノヤロー!」

 

 顔を赤くさせ、しどろもどろになりながらつっかかるユリウス。そんな青年を尻目にハルカはクスクスと無邪気に笑っている。と、ここで悪戯心が芽生えたのか、この小悪魔はその矛先をもう一人の仲間へと向けた。

 

 

「でもどーしよっかなー?確かにお姉ちゃんと二人だけっていうのも心細いし……そうだ!いっそラングさんの所に押しかけちゃおっか!」

 

「え!?う……家!?」

 

 

 突然ハルカに猫撫で声で擦り寄られ、思わずラングの声が裏返る。

 

 

「お……俺の家は兵士用の借家だからな……いや、確かに妻帯者用だから子供部屋もあるけど……事情を説明すればマリアはOKしてくれるだろうが……でも俺の給料でハルカ達を養えるかな?

いくらなんでもまだジュニアスクールにも通ってない女の子に生活費出してもらうのは男としてのプライドが……というかハルカってイギリス人だよな?グリーンカード取れるかな……?いやそもそも軍人の俺が外国人の養子を貰うのは色々問題が…………」

 

 やけに具体的な独り言を呟き始めるラング。だが彼は突然喋るのを止めると、何かを決心したようにおもむろに顔を上げた。

 

 

「……軍……やめるか」

 

 

 いきなり飛び出した衝撃発言に今度はハルカが慌てた。

 

 

「ちょ、STOP!ストップ!ラングさん!じょーだん、冗談だってば!ラングさんってば真面目過ぎ!!いくら私でも新婚さんの家庭に転がり込むほど図々しくないから!」

 

 

 慌ててハルカがラングの将来設計を止めに入る。ちょっとしたからかいで彼の人生を狂わせたらラングの奥さんに申し訳なさ過ぎる。

 

 

――その時二人の様子を眺めていたユリウスがおもむろに呟いた。

 

 

「何だったらうちの農場で働くか?家賃、光熱費タダだぞ」

 

「………………考えておく」

 

 

……これから死地へ向かおうというのに、普段と変わらぬやりとりを繰り広げる一行。そしてそんな三人の仲間たちを、アルカードは少し離れた場所からひとり静かに見つめるのだった……

 

 

 

 

 

 

 姦しいやり取りが終わりまた緩慢とした空気が漂い始めた頃、突然辺りを白い霧が覆い始めた。初めは前が霞む程度だったが、次第にその白いモヤは濃くなり、数分後には隣に居る仲間の顔さえ解らない程になった。

 

 

「お、おいこれは何だ?ユリウス、ハルカ、大丈夫か?居るなら返事してくれ!」

 

 

姿の見えない仲間に向かってラングが呼びかける。すると間髪入れず「おーう」とか「いるよー」と何とも呑気な返答が返ってきた。仲間の無事を確認しひとまず安心する。船は目前に広がる霧を物ともせず快調に進む……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユリウスとアルカードがいないじゃないか!!」

 

 

 対岸へ着いた時、船から降りた乗客は2人。返事の無かったアルカードはおろか、呼びかけた際に声を返してきたユリウスすら何処にもいなかった。

 

「おいあんた!二人はどうした!まさか落としてきたのか!?」

 

 凄まじい剣幕でラングが渡し守の胸倉を掴んだ。だが渡し守は不敵な微笑を浮かべながら答える。

 

「ひひ……どうやらあの方たちの行くべき場所は”此処”ではなかったようだね……」

 

「何……!?」

 

 渡し守の意味深な言葉に、ラングはただ困惑する事しか出来なかった……

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「何処だここ……?」

 

 気がついた時、ユリウスは一人ポツンと、こじんまりとした部屋の中にいた。

 

「……っかしいな、さっきまでボートに乗ってたはず……」

 

 辺りを見回すが、さっきまであれ程濃かった霧も、ゆらゆら揺れるボートも無い。ラングも、ハルカも、アルカードも、あの幽霊みたいな渡し守さえいない。いるのはただ一人、自分だけだ。……やむなくユリウスは現状を整理すべく部屋の中を観察する。

 

 

 部屋は妙に時代がかった、下界で言うならアンティークに属する家具で埋め尽くされていた。周りには高そうな人形、薔薇の花の生けられた花瓶、大きな鏡台に化粧台。それと……乱雑に脱ぎ捨てられたランジェリーやストッキングが至る所に落ちている。

 

どうやらこの部屋の主は女性、しかも下着の色や部屋の雰囲気からして若い女の子の様だ。もっともそんな場所に入った事など無いから何の確証もないが……

 

 

 不幸中の幸いか、部屋からは邪気の類は感じられない。当面の安全確認は終えたものの、さてこれからどうしたものかとユリウスは頭を掻き掻き思案にくれる。……と、その時急に部屋の外が騒がしくなった。どうやらこの部屋の住人が帰ってきたらしい。部屋の主の物らしい声はどんどん大きくなり、ユリウスが身を隠す間も無くガチャリと音をたてドアが開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、久し振りに下界と繋がってイイ男が手に入ると思ったのにホンッとサイアク!!もうお風呂入って寝よ…………ん?」

 

 

「あ」

 

「え」

 

 

――互いの目と目が合った……次の瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ――ッ!思い出した!お前は夢魔のリリスッ!!」

 

「げえッ!べ、ベルモンド!?何でアンタが此処に!」

 

 

 部屋に入ってきたのは蝙蝠の羽を持ち、角を生やした女悪魔。幻夢宮でユリウスを襲った夢魔リリスだった。自身を散々こけにしてくれた魔族との再会に、ユリウスは目を剥き出さんばかりに驚く。

 一方リリスにとってみても、危うく殺されかけた凶悪なヴァンパイアハンターがいきなり部屋の中にいたのだ。その顔は明らかにひきつっている。因縁の二人の望まぬ再開であった。

 

「母さんの事も先生の事も、全部……全部思いだしたぞ!あの時はよくもやってくれたな!」

「い……今更過ぎた事をしつこいんだよ!あんたみたいなイカれた奴相手になんかしてられっか!」

 

 先に行動を起こしたのは夢魔だった。また貼り付けにされては堪らないとばかり、身を翻してユリウスから逃げ出す!

 

 

「色即是空……!」

 

 

――しかしまわりこまれてしまった!

 

 

「嫌あああああああああああああああああッ!!!」

 

 

 思いもよらぬ天敵の出現に、夢魔が涙を流し叫び狂う!

二人にとって恐怖の一夜が……

 

 

”センリツノ ヨルガ オトズレタ!”

 

 

 

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