悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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リリスとユリウス

 ボートが地底湖の船着き場に着いてからすでに10分以上が過ぎようとしていた。

 

 相変わらずユリウスとアルカードが戻って来る気配は無い。事情を知っているはずの渡し守を問い詰めてもみたが、「行くべき場所」などとあやふやな言葉を繰り返すのみで、一向にらちが明かない。

 

「全く二人とも何処にいったの!?いい年して迷子なんてだらしない!」

 

 ハルカは憤懣やるかたないといった感じで憤っている。こんな状況でも普段通りに振舞う少女をラングは頼もしく思ったが……その顔にほんのわずかだが不安の色があるのをラングは見抜いてしまった。

 

”いざ敵の本丸に乗り込まん”といった矢先に出鼻をくじかれた格好である。いくら強者といえそこはまだローティーンの少女、冷静でいろと言う方が無理かもしれない。

 

 

”こんな時こそ大人の自分がしっかりしなくては”

 

 

 そう思うラングだったが、正直な所ラングにもこれから先どうしてよいのかさっぱり解らなかった。渡し守の話が本当ならば、二人はどこか別の場所に飛ばされた可能性が高い。ここで待っていても永久に帰って来ないかもしれない。

 

「…………」

 

 地下渓谷の奥を見る。幸い見える範囲は一本道のようだが、それも奥に行けばどうなっているかは解らない。地図もなければ案内人もいないこの状況、闇雲に進むのは自殺行為に他ならない。だがこうしている間も時間は無情に過ぎていく……

 

 

”バサバサバサッ”

 

 

 ラングが思考の迷宮に追い込まれかけたその時、どこからともなく一匹の蝙蝠が二人の元に飛び込んできた。蝙蝠は白い霧に包まれたかと思うや否や、黒衣の貴公子へとその姿を変える。

 

 

 

「すまない、待たせたようだな」

『――アルカード!』

 

 

 突然姿を現した仲間に、ラングとハルカはすぐさま駆け寄る。だがその姿を一目見た瞬間、ラングは驚きの声を上げた。

 

「お前……ケガしてるじゃないか!」

 

 アルカードが纏っているビロードのマントは、その至る所が燻っていた。さらに微かにだが血の跡もある。明らかに戦闘の跡だ。

 

「気にするな、少しばかり小競り合いをしただけだ。それよりユリウスはどうした?」

 

 自分の事などどうでもいいと言わんばかりに、アルカードは姿の見えないユリウスについて尋ねる。ラングは船着き場に着いてからの事を説明し、逆にユリウスの行方について尋ねたが……

 

 

「そうか…………やむを得ん、俺たちだけで先に行くぞ」

 

 アルカードはユリウスを待つ素振りさえ見せず、洞窟の奥へと体を向ける。

 

「ま、待てアルカード!ユリウスを置いていく気か!?」

 

 アルカードの余りの果断さに、慌ててラングが呼び止める。

 

「落ち着けラング。乗る前に渡し守が言っていただろう。”行くべき所へ導く”と……

ここにいないという事は、ユリウスの行くべき場所は此処ではなかったという事だ。

奴の運命がそうさせたのだ。俺達がどうこう出来る事では無い……」

 

「そんな……」

 

 この非常事態にアルカードは冷静そのもの、全く動じていない。長年のユリウスとの信頼関係がそうさせるのか、それともこの城の起こす不可解な現象を熟知しているからかは解らないが、正直な所アルカードの余りの冷徹さに、ラングは少し反感を覚えた。

 

 

「だがユリウス無しでどうするんだ!?城の封印とやらにはアイツと鞭が絶対に必要なんだろう?」

 

「奴を信じろ、例え黄泉路に堕とされようとも自身の使命は果たす男だ。とにかく今は俺達だけで先に進む。気を抜くな、ドラキュラはもう目の前だ」

 

「………………解った」

 

 アルカードに諭され、渋々ではあるがラングはその意見に従う事にした。

 

 ラングは万が一ユリウスがここに戻ってきた時に備え、メモを一枚破くと書置きを残し、その上に石を置いた。常に変化し続けるというこの悪魔城でどれだけ効果があるかは解らないが、念のため進行方向も記しておく。

 

「ユリウス……無事でいてくれ……」

 

ラングはもう一度地底湖を振り返り心の中でそう念じると、すぐにアルカード達の後を追った……

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 華麗な調度品に彩られた部屋の中。か弱い女性のすすり泣く声が響く……

 

 

「うっ…ひぐっ……、えぅぅ…………」

 

 夢魔はユリウスの来訪が余程ショックだったと見え、その場にへたりこんだまま泣きじゃくっている。

 

「いやもう手は出さねーから!攻撃しねーから!いい加減泣き止んでくれよ……」

 

 別にユリウスは殺すとか、倒すとか、怖がらせるつもりで逃げ道を塞いだわけでは無い。ただ事情が聞きたかっただけなのだが……泣く子と何とかには勝てぬという諺があるらしいが、ユリウスは泣き続ける夢魔を必死になだめ、そのご機嫌を取り続ける。夢魔がまともに話が出来る様になるまでおよそ30分を要した……

 

 

 

 

 

「で、何でアンタが此処にいんのよ」

 

 ベッドに腰掛け、足をパタパタしながらムスッとした表情で夢魔が話しかけてくる。落ち着いたと思ったら今度はやたらと高圧的な態度だ。逆にこっちがムスッときたがまた泣かれてもかなわない。取り合えずスルーして会話を進める。

 

 

「俺が知るか……!ていうか本当にお前の仕業じゃないんだな?」

 

 背もたれを抱きかかえるような格好で椅子に座りながら、ユリウスが夢魔に尋ねた。

 

 

「だーれが!頼まれたってアンタなんか絶対に呼ぶもんか!……でもホントどうやって来たのさ?ここは精神の世界……普通の方法じゃ絶対に入って来れないはず……あ!」

 

リリスが何か思いついた顔でユリウスを見る。

 

 

「アンタさあ…………ひょっとして死んだ?」

 

「死んでねえよ!!」

 

 

 突拍子もない夢魔の発言に、たまらずユリウスが叫んだ。が……、

 

 

「うん……死んで無い…………はずだ。たぶん、いや、そんな筈が……でも、まさか……」

 

 ユリウスの脳裏にあの不気味な渡し守の姿がよぎった。どこからどう見ても三途の川の渡し人だったその風貌を思い返し、ユリウスは頭を抱えこむ。

 

 一方天敵の落ち込む姿を見て俄然やる気が出てきたのか、リリスは「何?何があったの?」と嬉々として食いついてくる。あからさまに人の不幸を楽しんでいる様子の夢魔に内心イラッときたが、また不機嫌になられてもかなわない。取り合えずここに来るまでにあった出来事をかいつまんで話した。

 

                   ●

 

                   ●

 

                   ●

 

 

「な―――んだ!つまんないの!」

 

 ユリウスから事情を聞いた途端、心底くだらないといった顔でリリスがベッドに倒れこむ。何が何やら解らないユリウスは、すぐさま夢魔に説明を求めた。夢魔はハート形のしっぽをピョコピョコ揺らしながら、枕に顔をうずめ振り向きもせずに答える。

 

「あんたの言ってるそいつって要はあの渡し守でしょ?たまにあんのよ、船着き場じゃなくて妙な所に飛ばされる事が。でも大体は本人が無意識に行きたいと思った場所に飛ばされるんだよね、つまりあんた自身が此処を選んだって事」

 

「…………???」

 

 ユリウスは最初夢魔の発言の意味が全く理解できなかった。念のためもう一度思い返し、咀嚼してみる。

 

 

「本人が行きたい場所へ飛ぶ……?」

 

……という事はなんだ?俺は自分の意思で夢の世界に来たって事か?何故?何で?WHY?

 

 幾ら考えても自分自身の潜在意識とやらがさっぱり解らない。思い当たる節が全く無いのだ。ジョナサン先生や母さんにもう一度会いたいかと言われればイエスだが、ドラキュラとの決戦を放ってまで会いたいとは思わないのでそれも少し違う気がする。

 椅子から腰を上げ、宙を見上げながら右往左往するユリウス。夢魔はしばらくその光景を気だるそうな目で眺めていたが、突然何か思いついたように体を起こしたかと思うと、ユリウスを見て ”にや~” といやらしい笑みを浮かべた。

 

 

「あぁ……そういうコト♪」

 

「な……何だよ……」

 

 

リリスが妙に艶っぽい声を出し、ねぶる様な視線でユリウスの顔を覗き込む。

 

 

 

「ふふぅん、私わかっちゃった♪…………アンタ……私を追って来たんでしょ?」

 

「は?」

 

 

突拍子もない夢魔の言葉に、ユリウスは眉をしかめ聞き返す。

 

 

「うふふ……そうだよねぇ……男の子だもんねえ…………いつ死ぬかわかんない闘い……悔いは残したく無いもんねえ…………そっかあ、あたしが忘れられなかったかぁ……いやあつらいなあ、罪な女だよねぇ、あたしってさぁ……❤」

 

「おい……お前何言って……」

 

 勝手に一人で盛り上がる夢魔がさっぱり理解できないユリウス。が、何が気に入らなかったのかそんなユリウスを見てリリスの態度が豹変した。

 

 

「あ――もう!男らしくないな!!したいんでしょ!アタシと!SEXを!!」

 

「BOOOOOOOOO!!!」

 

 

――いきなり何言ってんだコイツは!?突拍子もない夢魔の発言に、ユリウスは思わず動転してしまう。

 

 

「目の前には強大な敵!明日死ぬとも知れない命!とくればチェリーボーイが考える事なんて1つ!童貞捨てたい!それだけでしょ!!」

 

 夢魔が一方的な持論を捲くし立てる。……そんな馬鹿な!そんな不純な動機で俺は仲間から離れてこんな所まで来たというのか!?そんな筈は無い!何か、何かもっと大事な理由があるはずだ!…………しかし改めて夢魔の姿を見てみると…………

 

 

”ゴクリ……”

 

「…………いい女だ」

 

 思わず生唾を飲み込む……夢の世界で会った時は怒りに我を忘れていたから気付かなかったが、夢魔の肢体はとてつもなく官能的で扇情的で蠱惑的……早い話がエロかった。

 

 肌はシルクの様に真っ白だが、それでいて健康的な張りがある。足の描くラインは細すぎず太すぎず、腰のくびれもコルセットが映える見事なカーブを描いていた。そして何より胸が……胸がデカイ!!それはもうこの上ない程ユリウスのストライクゾーンど真ん中だった。

 

 

 無意識の内に呼吸がどんどん荒くなる。そんなユリウスの反応を楽しんでいるのか、

リリスは以前夢の世界でして見せた様に、二つの山を隠すレザーの覆いをほどき、惜しげもなくその豊満な胸をあらわにした。披露した。晒した。そしてあられもない姿になるやいなや、しどけなくユリウスに持たれかかった。

 

 

「あの時はショックだったなあ……恥ずかしいの我慢して……精一杯勇気出して服を脱いだのに、全然反応がないんだもん…………」

 

「――ッ!?」

 

 

 夢魔がその巨大な双丘をユリウスの胸にこすりつける。何重にも重ねられた服越しにも関らず、その柔らかな衝撃は確実にユリウスの体へ伝わってきた。

 

目が充血し、脈打つ鼓動が早くなる。発刊作用が促され、呼吸と鼻息が荒くなる。あの時は全く反応しなかったが、今はもう反応しすぎるくらいユリウスのユリウスが色々反応しまくっていた。

 

 

「あら……!こっちは正直……」

 

「……!!」

 

 自身の体の変化をリリスに指摘され、ユリウスの顔がその赤髪と同じくらい真っ赤に燃える。

 

 

 

 

「ねえ……しよ?」

 

「!!!!!!」

 

 

 身もふたもないストレートな夢魔の誘惑に、若干18歳の青年の脳はハムスターの走る回し車の如く無茶苦茶にかき回される。

 

――な、何で!?どうしてこうなった!?さっきまで血の匂いのする鉄火場にいたのに、気付けば甘いバラの香りがするこの状況!ていうか初めての相手が魔物ってヴァンパイアハンターとしてどうなの!?そもそも夢の中でヤるってそれチェリー卒業した事になるの!?現実童貞ってそれ童貞とどう違うの!?教えて先生!助けてラング!どうにかしてアルカード――ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――!」

 

「……?、ラングさん、どうかした?」

 

 

その時、地下渓谷を歩いていたラングが不意に立ち止まった。

 

 

「いや、今ユリウスの声が聞こえたような……」

 

「え、嘘!?私は何も……アルカードさん聞こえた?」

 

 

「……………………いや……」

 

 

「だよねー、気のせいじゃない?」

 

「だといいが……」

 

 訝しむラングに首をかしげながら、ハルカ達は先へ進んでしまう。一人残されたラングはユリウスの声が聞こえた方を振り返った。

 

 

「妙な胸騒ぎがする……無事でいてくれユリウス……!」

 

”自身の行くべき場所”にいるという仲間を想い、ラングは一人その身を案じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあああああああ――――っ!!」

 

「生娘みたいな声あげてんじゃないよ!いいから黙ってアタシにヤられろ!!」

 

 必死の抵抗も空しく、ユリウスは夢魔に組み付かれベッドに押し倒されていた。眼前に迫った夢魔の荒い吐息が鼻にかかり、否が応でも鼻腔を刺激する。

 

「ハァ……ハァ……もうさぁ……観念しちゃいなよ?貞操観念とか、退魔師のルールとか、

一発やっちゃえばもーどうでもよくなるって♪」

 

「さっきまであんなに怯えてたくせに何でそんなに乗り気なんだよお前ッ!」

 

 濡れ場という本来の土俵に上がったせいか、夢魔は男を得た淫魔……もとい水を得た魚の如くノリノリである。一方ユリウスにとってはベッドの上の……もといまな板の上の鯉よろしく絶体絶命の状況だ。

 

 

――どうしてこうなった!?この程度の魔物いつもなら簡単にあしらえるのに!まさか本当にこれが俺の望んだ事だっていうのか!?こんな展開を期待してたっていうのか!?ていうかコイツ意外と力つええ!!――

 

 

 ユリウスの思考が目まぐるしく回転する。だが目の前に迫るピンク色の唇と、プリンの様にプルプルと揺れる二つの核弾頭。何より夢魔の放つ甘い体臭(フェロモン)がユリウスの頭から正常な判断を、下半身からは理性を奪っていった。

 

 

「フゥ―ッ、フゥ―ッ、……あら、もうはち切れそうじゃない……あーもう我慢できねえ、もういいよね?十分 ”待て” 出来たよね?じゃ、遠慮なく……」

 

 

 

 

「いっただっきま―――す!」

 

「ま、待てええええええええええええええ――――――――ッ!!!」

 

 

 今まさに夢魔の毒牙がユリウスの毒牙に食らいつく……!その時だった。

 

 

 

”パアアアアアア――――”

 

「!?」

 

「え!?ちょ……何!?」

 

 ユリウスの腰に収められていたヴァンパイアキラーが突如光り出し、ユリウスと夢魔、二人の影をあっという間に白い光に包みこみ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

「…………?……ここは……」

 

 

 何ともいえない感覚に包まれて、ユリウスは意識を取り戻した。

暖かいような、寒いような、そんな形容しがたい感覚。体はふわふわと浮いている様で、どうにもおぼつかない。辺りは真っ暗闇だというのに、自分の体だけは何故か見える。

 

 一体ここは何処なんだ?今度は何処に飛ばされたんだ?ユリウスは必死に考えるのだがどうにも頭がうまく働かない。朧げな意識を覚醒させようと何とか気持ちを集中させていた……その時

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

「うわぁッ!?」

 

 突然背後から話しかけられて、思わず素っ頓狂な悲鳴をあげてしまう。

 

 

「うっさい!処女失くした生娘みたいな声だすんじゃないわよ!」

 

 声の主は夢魔だった。真っ暗闇にその白い肌が否応にも目立つ。

 

「リ、リリス!?びっくりさせんな!つーかここ何処だよ!またお前の仕業か!」

 

「はあ!?何でもかんでもアタシのせいにすんな!あとちょっとでおいしく頂けるとこだったのに台無しにしたのはそっちじゃない!」

 

 リリスが鼻を擦りつけんばかりにユリウスに詰め寄り、腰のヴァンパイアキラーを指さした。そうだ、確かにあの時、突然鞭が光り出したかと思った途端、急に意識が薄れて……

 

 

「(助かった…………んだろうか?)」

 

 あのままだったらまず間違いなく夢魔の餌食になっていただろう。寸での所で救われた訳だが、ちょっとだけ……いや正直な所かなり残念なような、何とも言えない複雑な気持ちにユリウスはなった。

 

 

「そ、それで結局ここはどこなんだよ」

 

「……勝手に人を連れ込んどいてそんな事も解んないの?コ・コ・よ!」

 

 リリスはそのしなやかな人差し指をくるくる遊ばせたかと思うと、やがてその指先をユリウスの額にピタリとつけた。

 

「前会った時言ったでしょ?あんたの記憶の中には黒いもやみたいなのがかかってるって。

ここはあんたの頭の中、何があるか解らなかった未知の部分よ」

 

「記……憶……?」

 

――記憶……どうやっても思い出せなかった、あの日の記憶……その中に自分がいる……?

 

 

「見れる……のか?俺も知らない、俺の記憶が……」

 

 ユリウスが恐る恐る尋ねる。

 

 

「見れるよ。でも……」

 

 リリスは意外にもあっさり答えた。だが……

 

 

 

 

 

 

「――目の前のコイツを倒せたらだけどね!」

 

「――!」

 

 暗闇から放たれた不意の攻撃に、ユリウスとリリスは即座に飛び退いた!いつの間に現れたのか、何も無いと思っていた空間に得体の知れぬ巨大な化け物が出現している。

 

「これだけデカいのは初めてだわ。アンタどんだけトラウマ抱えてんのよ!」

 

 ユリウスの後方、上空に陣取ったリリスが叫ぶ。

 

「な!?……どういう意味だ!」

 

「こいつはね……嫌な思い出から自分の精神を守る一種の”防衛装置”なの!これだけデカいってことはアンタ自身がそれだけ過去に起きた事を思い出したくないって思ってるって事!」

 

「…………ッ!」

 

 リリスの言葉に、ユリウスは今一度化け物を見た。輪郭もあやふやで、見た目も墨のように真っ黒。解るのはただデカい事だけだ。

 

「こいつが……俺の?」

 

 不思議な事に目の前の敵から恐怖は感じなかった。それどころか妙な懐かしさすら感じた。だがそれと同時に言い知れぬ不安が背筋にピタリと張り付いている。

 

 もし……もしこいつを倒したら自分はどうなるのだろう?知らない方がいい……知ってしまったらもう後には引き返せなくなる……ユリウスは無意識の内にそう感じた。

 

 

「それでも……」

 

「それでも俺は思い出さなくちゃいけない……!!」

 

 

 ユリウスは両の手で顔を思い切りはたくと、今一度目の前の”自分自身”を睨みつけた。自身の中の直感が告げている。この記憶はこれからの戦いにどうしても必要な物だと、仲間たちのためにも思い出さなくてはならない事だと……!

 

「やるしか……ねえかッ!」

 

静かにヴァンパイアキラーを構えるユリウス。その蒼い瞳に、もう迷いは無かった。

 

 

 

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