悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999 作:41
「将軍――ッ!ティード将――――軍――――ッ!!」
ありったけの声を張り上げてラングがティード将軍に呼びかける。だがレギオンに囚われた将軍は虚ろな表情のままで、ラングの呼びかけにも全く反応を示さない。
「無駄だ……レギオンに取り込まれたが最後自我などという物は消え失せる。もはや貴様の声は彼の者には届かぬ……」
「ッ! 貴ッ様ァァァ――――ッ!!」
”タタタァン!”
上官を貶められた怒りに、ラングは絶叫しながらシャフトに向けアガーテを撃つ!だが……
「なッ!?消え……」
アガーテの魔力弾が当たる直前、ダンスホールの時と同じようにシャフトの姿が消えてしまう。
「ラングさん後ろ!!」
「――!」
ハルカの呼びかけに即座に振り向くが――
「遅いわッ!!」
”ドゴォッ!!”
「がはッッ!」
大胆不敵にもシャフトは三人の真っただ中に現れると、前方に突出していたラングを背後から思い切り殴り飛ばした。100キロを優に超えるラングの体が宙を舞い、レギオンの真下へ滑り込むように落下する。
「フハハ!どうした軍人、私を撃つのではなかったのか!」
深殿にシャフトの笑いが木霊する。その攻撃は致命傷でこそなかったが、背中に衝撃を受けたせいでラングはまともに動く事が出来ない様だ。
「ラングさん!」
「――!させるかッ!!」
救援に向かおうとするハルカに対し、間髪入れずシャフトが動く!しかしその時両者の間に黒い影が割って入った!
「シャフト!」
「ぬう……ッご子息殿かッ」
アルカードの放った剣閃がシャフトを狙う。だが紙一重の差でシャフトが間合いを外し、ヴァルマンウェの切っ先はシャフトの鼻先をかすめるのみに終わった。
「ハルカ!ラングを!!」
「承知!!」
威勢のいい声を上げ、ハルカが一陣の風の如く仲間の元へ飛ぶ。後に残るはシャフトとアルカード。因縁の二人の対峙である。
「ヴァルマンウェ……相変わらず忌々しい程の切れ味ですな……」
シャフトが被っていた帽子を脱ぐ。帽子は前面に無数の斬撃があり、まるでなます斬りにされた魚の様だ。と、決闘開始の白手袋と言わんばかりにシャフトがアルカードに帽子を投げつける。
すると突如ネオンの様な残光と旋風が巻き起こり、帽子をバラバラに切り裂いてしまった。
「お前が永遠の命を手に入れていようが構わん。二百年前と同じ様に斬り捨てるのみ……」
アルカードは抜きはらったヴァルマンウェを再び鞘に納めると、姿勢をかがめ居合に近い構えをとる。しかしシャフトからは相変わらず余裕が消える事は無い。
「フハハ……、今の私を二百年前と同じと思われるな。何よりこの場にいるのは私一人だけではありませんぞ?レギオン!」
”オオオオオオオオオオオオオッッ”
”ドサッ”
”ドサッ”
”ドサッ”
”ドササササササッ!!”
「!?」
シャフトの呼びかけに答える様に、レギオンがその巨体を震わせる。だがそのまま真下にいるラング達を押しつぶすのかと思いきや、ボロボロとその体表を揺らし、例のニンゲンモドキを大量に落下させた。
「!まだ治療が終わってないのに!!」
自分たちを再び取り囲もうと群がる薄気味悪い躯達に、ハルカが思わず苛立ちの声をあげる。
「く……ッ下がってろハルカ、こいつらなら今の俺でも……ッ」
まだ完全に回復していない体を奮い立たせ、ラングが銃を構える。躯達は相変わらず小刻みに揺れながらにじり寄って来るが、その脆さは実証済みだ。ラングは最も自分たちに近づいている躯達に照準を合わせると、静かに瞑想を始めた。
――こんな雑魚にレライエの銃は勿体ない、最低限の力をこめたアガーテで十分――
そう考えたラングはアガーテに魔力を充填すると、躯の頭部に狙いを定め引き金を引く!
「撃つなラング!!」
「!?」
だがその時不意にアルカードから ”待った” がかかった。しかし時すでに遅く、アガーテの弾丸は躯へ向かって放たれた後――
”ボゴォンッ!!”
「ぐぅあッ!?」
「きゃあッ!!」
轟音と共にオレンジの閃光が周囲を染める!アガーテの弾丸を受けた躯が突如大爆発を起こしたのだ。しかも弾丸を喰らった躯は近くにいた他の躯もまきこんで爆発したため、連鎖反応でその威力は途方も無い物となった。
「ラング!ハルカ!」
アルカードの叫びすらかき消す程の轟音と爆発!アルカードの位置からは大分距離が離れているにもかかわらず、その熱波と衝撃は肌を焦がすほどであった。
ハルカとラングは直撃では無かったとはいえ、それを至近距離で受けたのだ。倒れこんだまま気を失ってしまったのか二人とも微動だにしない。
――あの躯共、嫌に脆いと思っていたが……この布石のためにわざと!
アルカードは自身の行動を悔いた。レギオンの行動に違和感を感じておきながら、それに気づかないとは……!
アルカードがシャフトをキッと睨む。その老神官の表情からは”してやったり”と言った感情がありありと読み取れた。本音を言えば今すぐにでも斬りかかりたい所だが、爆発から生き残った躯達は倒れた二人に尚も群がろうとしている。今はシャフトに構っている暇は無い。
「冥界の扉よ我が願いを聞き……」
二人を救援すべく、アルカードは
「おっと、術を使う前によく周りを確認された方がよいかと……」
「!!」
シャフトの言葉にアルカードは”ハッ”と我に返る。気付けばいつの間に移動したのか、レギオンの中央に囚われていたはずのティード将軍が球体の底……最下部に移動させられているではないか。
「――チィッ!」
ソウルスティールの攻撃範囲は広い、今術を放てば上空の将軍まで巻き込んでしまう。やむなくアルカードは術の詠唱を中断、再度別の暗黒魔法の詠唱を始めたが……
”バチィィッ!!”
「うぐぁッ!?」
――背中に加わる強烈な衝撃!
「フハハ!何処を見ていらっしゃるのか!敵は
「く……はッ」
”ズシャァッ!”
シャフトの放った電撃をもろに喰らい、とうとうアルカードもそのまま崩れ落ちてしまった。ラング、ハルカ、そしてアルカード。倒れ伏したままの三人にレギオンから零れ落ちた躯達がゆっくりと迫る……
「待て」
シャフトがその手の平を前にかざすと、不気味に揺れ動いていた躯達が、まるで熟練の兵隊の様にピタリとその動きを制止した。
「つまらぬ……」
シャフトが心底落胆した様子でアルカード達を流し見る。
「……老いぼれ一匹捕まえただけでこうも歯ごたえが無くなるとは、つくづく神の教えとは面倒な物よ。早々に見限って正解だったわ」
人命を意識するあまり精彩を欠くアルカード達に、シャフトはかつて神に仕えていた頃の自分を思い出す。人の命はこの世界に匹敵するかけがえの無い物……と、本気で信じていたあの頃。だがそれも遠い昔の事。何よりそれが正しかったかどうかは、今目の前のアルカード達を見ればおのずと答えは出ている。
――こんな形で終わるのは少々物足りぬが、まだ何処かにベルモンドもいるであろう。奴が来る前に片を付けなくては――
これ以上アルカードらの醜態を見たくないとでも言うのか、シャフトは自らの手でとどめをさすべく右手をかざした。だが……
”ピュインッ”
「!」
シャフトの頬を風切り音がかすめる。
「ほう……、あれだけの爆発をまともに喰らってまだ動けるとは。タフさだけは一丁前の様だな」
風切り音の出所……未だ燻る戦闘服を纏った、銃を構えるラングの姿があった。
「ハァ……、ハァ……、ハァ…………くっ」
銃を持つのもつらいのか、ラングはふらりとよろけた。虎の子のポーションを飲みはしたが、躯の爆発は薬瓶の一本や二本で回復しきれる程たやすくは無い。
「……フフ」
そんな吹けば飛ぶようなラングに対し、何故かシャフトは攻撃を加えるどころか、今までとは打って変った猫なで声で、子をあやす慈母の様に語り掛けた。
「なあ軍人よ、貴様は何故戦う?」
「……なに?」
突然意味不明な事を尋ねられ、ラングが眉をひそめる。
「名誉のためか?職務のためか?まさか雀の涙ほどの給金のためという訳でもあるまい」
「……何が言いたい」
「貴様も好き好んでこの悪魔城まで来たわけではあるまいよ。お前はただ巻き込まれたに過ぎぬ」
「同胞も多くが死んだ。命令を下す者もあのザマだ。生き残りも遅かれ早かれ始末する。貴様一人逃げかえった所で真実を知る者など……」
「だから何が言いたいんだ!!」
シャフトの説法を遮る様にラングが叫ぶ。しばし両者の間を沈黙が流れ……そして
「帰りを待つ女がいるのだろう……?」
「――!」
シャフトはラングの核心をついた。
「貴様の心根がそう言っておる。帰りたい……抱きたい……あの体につつまれたい……とな。何、やせ我慢をする必要は無い。私も神官だったとはいえ一人の男でもあった。貴様の気持ちはよく解る。人間とは、男とはそういう物だ……」
「……」
「だが断言しよう。貴様程度の力ではこの先……本城に進めば間違いなく……死ぬ」
「……ッッ」
「軍人達の慣れの果ては貴様も見たであろう……よいのか?意思も、感情も、記憶すら失いただこの城の糧となる。そんな末路が望みか?……違うであろう……?愛する者のいる場所へ帰りたいのだろう?」
「……………………」
「軍人よ、神を裏切り我らの軍門に下れ。人間ながらレライエの銃を使いこなすその力量、そのまま失くすには惜しい。功績をあげれば行く行くは伯爵様の目にも留まろう。さすれば貴様の伴侶ともども永遠の……」
”パァンッ!”
「……!!」
アガーテの魔弾が、シャフトの説教を引き裂いた。
「それ以上くだらねえ能書き垂れてみろ!お前の××と××つなげて縫い合わせてやるぞ!」
「…………ッッ!!?」
ユリウス達一般人と接する間、出来る限り控えていた海兵隊仕込みの下品なスラングがラングの口から放たれた。シャフトは一瞬呆気にとられていたが……その意味を理解するにつれ見る見る顔がひきつっていく。
「死ぬのが怖いかだって?ああ怖いさ!イラク!ソマリア!コソボ!今まで行った全ての戦場が怖かった!
「だがな……俺は軍人だ!命令なら人も殺す!非道な事だってする!けどなあ……例え死のうが、エサをぶら下げられようが、仲間を……もう二度と仲間を裏切ってたまるかよ!!」
「~~~~~ッッッ!」
自分など簡単に縊り殺せるであろう敵を前にして、一切怯まず啖呵を切るラング。正直な所自分でもなぜこんな事を言っているのか、言えてしまうのか解らない。
ただ一つ確実なのは、目の前の敵に海兵隊の仲間と愛する女性を駆け引きの道具に利用され無性に腹が立った……それだけは確かだった。
「…………木偶の棒がァァ……せめてもの慈悲を無駄にしおって……ッッ」
「!!」
先程までとは真逆の、脊髄まで響く程の重苦しい声でシャフトが喋った。その余りに強烈な殺気に、ラングは思わず銃を落としそうになる。
「ベヒモス程度に恐れをなし、仲間を捨て逃げ去った人間が随分とデカい口を叩くでは無いか……何だ?人知を超えた者達といるうち自身も超人になったとでも思うたか!?」
「勘違いも甚だしいわ!もういい、やれレギオン!老いぼれと同じ様に精々苦しませながらその体に取り込んでしまえ!!」
”オオオオオオオオ……!!”
「!!」
シャフトの指示に、レギオンの体表の一部がパックリと裂け、中から巨大な蓮の花のような触手がニュルリと這い出てきた。一体どんな代物かは解らないが、危険な攻撃をしてくる事だけは想像がつく。
「くそ……ッ」
後ろにいるハルカはまだ気を失ったままだ。爆発から咄嗟にかばったから時間さえあれば意識も戻るだろうが……正直この位置取りとケガではハルカを連れて逃げる事はおろか、時間を稼ぐ事も難しい。
ラングは半ば絶望にさいなまれながら上空を見上げ銃を構える…………が、どういう訳かレギオンは一向に攻撃をしかけてこない。
「な……どうしたレギオン!さっさと奴らを仕留めよ!レギオン……!?」
一向に動かないレギオンに、シャフトが訝しんで再度レギオンを振り返った。
――その時だった。
「よく言った!ラング!!」
『!?』
よく通る青年の声が深殿に響いた。
「――!?、ベルモンドか!?やはり機をうかがっていたな……何処にいる!姿を見せよ!!」
すわヴァンパイアハンターの奇襲かとシャフトは大慌てで辺りを警戒する。だが深殿の何処にも、入り口はおろか出口、空中の足場にも人影は見当たらない。
「今の……声は……!」
警戒するシャフトをよそに、ラングはその声の違和感に気付いていた。あれはユリウスの声じゃない。もっと昔から知っている……つらい時にいつも励ましてくれた、最も親しい人間の声……
「――ッ!」
居てもたってもいられず、ラングはハルカを背負うとレギオンの下から駆けだした。もちろん体は万全では無いから何度も躓き、転びそうになりながら……。それでもようやくレギオンの影から抜け出し、声のした方向、レギオンを振り返り宙を見上げた。そこには信じられない光景が広がっていた。
「ば……馬鹿な!あり得ん……ッッ!」
眼前に広がるその光景にシャフトは驚愕した。一体どういうことなのか、レギオンの触手にそのレギオンの一部である躯達がからみつき、自身の攻撃を妨害していたのだ。
一方ラングも霞む目を何度もこすり、上空の躯達を凝視する。血の気は失せ、その体からは一本の毛髪も残っていなかったが間違いない。あの顔立ちは紛れも無い友の物……
「――スミス!!」
ドッペルゲンガーなどではない、間違いなくスミスだった。いや、スミスだけでは無い、この城で死んでいった同僚や部下、海兵隊の仲間たちが必死に他の屍を押さえつけ、レギオンの動きを封じていたのだ。
「スミス!ハリー!ミック!ホンダ!リー!皆……みんな!!」
もう二度と会えないと思っていた仲間達との再会に、ラングの青い瞳が赤く潤んでいた……
ストーリーの展開、及びどのキャラに焦点を当てるかで
迷ってしまい、前回投稿から1年近く間が空いてしまいました。
お気に入り登録して頂いている方、読んでくださっている方、
本当に申し訳ありません。
ただ次話から数話分のストックは出来たので、清書次第あげていくつもりです。
投稿ペースは無茶苦茶ですが、何卒よろしくお願いします。
自粛などまだ何かと大変な時期ですがあと少し頑張りましょう。