悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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「スミス!ハリー!ミック!ホンダ!リー!皆……みんな!!」

 

 信じられない事が起こっていた。

この城で命を落とし、ある者はゾンビとなり、またある者は肉塊に成り果てた海兵隊の仲間達……そんな彼らが巡り巡ってこの地下深殿に流れ着き、物言わぬ躯となりながらもラングの声に答え再びその魂を燃え上がらせたのだ。

 

「馬鹿なッ!レギオンに囚われた者に自我が残っているなどあり得ん!!」

 

 レギオンを妨害する海兵隊員の躯に、シャフトは今までの高尚ぶった態度が一変、おおいに狼狽える。それほどレギオンの呪縛から脱するというのはありえない事なのだろう。

 一方本体(レギオン)からの指令が滞ってしまったためか、地上に落ちた躯は右往左往、中には勝手につまづいて自壊し始める物まで出てきた。上も下も大混乱である。

 

「おのれェ……主魁はあの者達か!水晶よ、行けィ!!」

 

 シャフトは瞬時にスミスら海兵がレギオン混乱の元凶である事をつきとめると、すぐさま水晶を呼び寄せレギオンに向けて飛ばす。

 

「――ヘルファイアッ!」

「ヌゥ!?」

 

 だがその時、無数の火炎弾がシャフトの水晶を一つ残らず撃ち落とした。アルカードが先の電撃からようやく目覚めたのだ。先制のヘルファイアの後へ続くように、アルカードが再びシャフトへと斬りかかる!

 

「忌々しい!そのまま眠っておればよい物を!」

 

 予想外の事態の連続にシャフトの口から苛立ちの声が漏れる。ヴァルマンウェの連撃は一旦勢いづかせると止める術がない。シャフトは避けるのが精一杯で、とても新たな術の詠唱までは行動が回らない様だ。

 

 

 一方アルカードとシャフトが鍔迫り合いをしている間にも、スミスら海兵の奮闘は続いていた。ある者は他の躯を押しのけ、ある者は触手にしがみ付き必死にレギオンを妨害している。よく見れば何人かは陸軍の兵と思われる者までいた。

 だが……所詮は生命を吸い尽くされた躯の体。海兵隊員は一人、また一人と力尽き、レギオンの体表から地面へと零れ落ちていく。

 

「スミス!皆!お前ら、もういい、もうやめろ!!」

 

 死してなお自分を守ってくれている仲間たちの姿に、ラングの瞳は涙であふれた。

命令とはいえ自分はお前たちを見捨てて真っ先に逃げた。お前たちがそこまでする程の価値など俺には無いのだと……

 

 

「――! レギオンのコアが!」

 

 だがとうとう、スミスら海兵隊員は他の躯を押しのけレギオンの核を露出させた。

レギオンのコアは赤く光る球体を網目状の繊維が覆い、それがまるで心臓の様に鼓動しているという……植物とも、動物ともつかぬ不気味な姿をしていた。

 

 

「今だ!ラングやれ――――ッッ!!」

 

「――スミスッ!」

 

 かつての仲間たちが必死に最後の魂を燃やし、ラングに攻撃を促す。だがその時、友の声をかきけす程大きな声でシャフトが叫んだ。

 

「軍人!貴様解っているのか!?レギオンのコアを撃てば取り込まれておる者達も消滅する!すでに死んでいる物だけではない!生きている貴様の上官も死ぬぞ!」

 

「…………ッ!!」

 

 シャフトの言葉にラングは明らかに動揺した。ホールの時と同じように、再び仲間をこの手で撃たねければならない……しかも今度は死んではいない、生きているティード将軍をもその手にかけろというのか。

 

「う……ぐ……ハァ、ハァ……!」

 

 ただでさえふらつく視界が蜃気楼の様に揺れる。息は荒くなり脂汗が滲む。銃を持つ手が震え照準など定まらない。撃ちたくない……。だが撃たなければいけない……。

 

 一般人の我々が考える以上に、軍隊における上下の繋がりというのは重く深い。死と隣り合わせの環境を共にし、時には生死を委ねる事もある。血を分けた肉親異常の絆で結ばれた仲間を、まして尊敬する上官をこの手で撃つなど……到底出来るはずが…………

 

 

 

――や……れ 軍曹――

 

 

「――!」

 

 それは無意識の行動だった。せめて将軍に弾丸をあてる事は避けたいと、位置を確認している時、将軍の口元が微かに動いているのに気付いた。

 

 読唇術が出来、かつ高い視力を持つラングでなければきっと気付かなかっただろう。スミスら部下の奮闘によって奮起したのか、先の混乱によってレギオンの呪縛が解けたのかは解らない。だがその眼はしっかりとラングを見据え、語り掛けていた。

 

 

 

――何を戸惑っている――

 

 

 

――これ以上生き恥を晒させる気か――

 

 

 

――お前が、お前しか出来んのだ――

 

 

 

――やれ 軍曹――

 

 

 

「………………ッッ!!」

 

 

 将軍の……スミス達の心からの叫びを受け、かききれた涙と共にラングの中の迷いも消えた。その意思は魔力となって手に持つアガーテに注ぎ込まれる!

ダイヤルは闇を払う”SHINE”!アガーテの銃口から眩い光があふれ出し始める!準備は整った。

 

 

 

 撃てえええェェェ――――――――ッ!!

 

「うオオオオオオオオ――――ッ!!!」」

 

 

 

 

 ありったけの魔力と想いを詰め込んだアガーテの弾丸が、今一筋の光となって放たれた――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!!!」

 

 だが……ラングと海兵隊の想いを乗せたアガーテの光弾は、どうした事かレギオンから大きくそれ、深殿の壁に巨大な風穴を空けてしまった。

 

 

「フ……フハハ!ひやりとさせおって、最後の最後で日和りおったか!」

 

 レギオンが無事なのを見て、シャフトが安堵のため息をつく。だがアルカードは訝しむ。

 

「ラングが的を外した……!?」

 

 ラングの射撃は一級品だ。一度撃つと決めたならば絶対に外す事は無い。まして今更怖気づいたなどと……アルカードには到底考えられなかった。

 

「…………ッ」

 

 だがこの中で最も混乱していたのはラング本人であった。もちろんラングは意図的に外した訳ではない。引き金を引く瞬間、銃身に強い衝撃を受けた。つまり何者かによって妨害されたのだ。

 

「く……ッ誰がこんな!!」

 

 ラングはすぐに衝撃が来た方向へ銃を向ける。だがその先に居たのは――――

 

 

 

 

 

「――ユリウスッ!?」

 

 

 ラングを妨害したのはシャフトでも闇の眷属でもない。地底湖から行方知れずになっていたユリウス・ベルモンドであった。生死不明だった仲間の無事な姿を見て、ラングは思わず歓喜の声をあげるが……

 

「ユリウス無事だったのか! い、いや、それよりこれはどういう事だ!何故俺の邪魔をする!」

 

 仲間の無事は喜ばしかったが、それはそれとしてユリウスの行動にラングは憤った。あと少しでレギオンを倒せた。それも身を切られるような思いを賭して引き金を引いたのだ。それを邪魔するという事はラングの決意だけではない、文字通り命をかけた将軍やスミス達の心まで侮辱する行為に他ならない。

 

「…………」

 

 だが当のユリウスはそんなラングの叫びを全く意に介さず、ゆっくりとすり鉢状の深殿の坂を下って来る。憤るラングはさらに詰問しようとしたが……

 

「……ッ!」

 

 ユリウスを一目見た瞬間、以前とは漂わせている気配が全く違う事に気付く。ユリウスの暖かい、周りを照らす炎の様だったそれが、どこか冷たい冷気の様な物を今は含んでいる。ラングは何故かそれ以上声をかける事が出来ず、ただ茫然とユリウスを見つめるしかなかった。

 

 

「…………ベルモンド!やはり来たか!!」

 

 遂にその姿を現したヴァンパイアハンターを見るや否や、シャフトは身を翻してユリウスの目の前に急行した。

 

 

「遅かったなベルモンド!今更ノコノコやって来おって……。今度は何の策を弄しておる!それとも今ここで舞踏館の決着をつけるか!?」

 

「…………」

 

 ユリウスを見下ろす位置についたシャフトは、大仰な態度で青年を恫喝する。それに対しユリウスも歩みを止め、顔を上げたが……その視線は目の前のシャフトでは無く、そのはるか先……レギオンにむけられていた。

 

「貴様……私を愚弄するか!!」

 

 目の前にいる自分をまるで無視するかのようなユリウスの態度に、シャフトのストレスがさらに上昇していく。そんな暗黒神官の心情を知ってか知らずか、ユリウスは静かに、だがよく通る声で言った。

 

 

「…………たいした役者だな?」

 

「!?」

 

 深殿に来てから初めてユリウスが口を開いた。だがそのあまりに唐突で脈絡のないセリフに、シャフトはおろかラングもその真意を計りかねる。

 

「ユ、ユリウス……?お前何言って……」

「ベルモンド……貴様何を訳の分からぬ事を!!」

 

 意味深な言動ばかりとるユリウスに、我慢の限界に達したのか、シャフトが水晶を呼び寄せ暗黒魔法の詠唱を始める。と、ここでようやくユリウスがシャフトに視線を合わせた。

 

「お前……本当に何も知らないのか?」

「な……何!?」

 

 ユリウスの問いにシャフトは困惑の表情を浮かべる。ユリウスは軽くため息をつくと、その視線をシャフトから少しだけ左にずらし、目の覚めるような大きな声で”その人物”にもう一度呼びかけた。

 

 

「もうネタはあがってんだ!いい加減猿芝居はやめようぜ!なぁ、ティード将軍……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや……死神さんよ!」

 

 

『――――!?』

 

 ――ユリウスの口から出たその魔物の名に一堂に戦慄が走る!

 

「ユ……ユリウスお前何を言っ ――――!」

 

 余りに突拍子の無いユリウスの言葉に困惑し、ラングがその真意を問いただそうと歩き出す……だが一歩踏み出したその瞬間、研ぎ澄まされた刃物の様なプレッシャーがラングの体を貫いた。

 ラングだけではない、アルカードも、ユリウスも、シャフトですらその感覚に恐怖を覚えた。出所は深殿の中央、レギオン――!

 

 

 

 

 

「ク……」

 

 

「クフフ……」

 

 

 

「ク ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ !!」

 

 

「――ッ!! この……声はッ!」

 

 その声は男らしさの中にもどこか愛嬌のあったティード将軍の物では無かった。不気味にエコーがかった凍り付く様に冷たい声……忘れたくとも忘れる事など出来ない。難攻不落の時計塔、4人がかりでようやく倒したあの魔物の声だった。

 

 

「惜しい……今一歩でこの場にいる者達を一網打尽に出来たものを……」

 

 

 ティード将軍はおもむろにレギオンの核へ腕をつっこむと、何やらまさぐった後で腕を引き出す。その手にはラグビーボール程の金属の塊が握られていた。その物体を見てラングは驚愕する。

 

「あれはSADM(特殊核爆破資材)の弾頭……!!」

 

 もしユリウスが止めてくれていなかったら……俺はあれを撃ちぬいていたのか!?

ラングはユリウスの行動の真意を否応なく理解した。

 

 

”ヒュッ!!”

 

 核を持つ将軍の右手首めがけ、ユリウスがナイフを投擲する!だがレーザーの様に光の尾を引く銀のナイフは、将軍の体に当たる瞬間、霞の様にかき消されてしまう。

 

「!レギオンの様子が……!?」

 

 その時、ティード将軍の周囲の空間が渦を描くように歪み始めた。

 

「あれは……ソウルスティール!?」

 

 将軍を中心に広がる暗黒の渦は、さながらブラックホールの如く、辺りにある物全てを吸い上げ、飲み込み始めた。見る間にレギオンを形作っている躯達が、渦の中に吸い込まれていく。

 

 

『うあああああ―ーッ!……ラ、ラン………………・・ ・ ・』

 

「ス……スミスッ!!」

 

 それは海兵隊員の躯も例外ではない。最後の別れの言葉を交わす間もなく、スミスら海兵含め、躯達は一人残らず吸い込まれてしまう!!

 

 

「い……一体……何が起きているというのだ……!」

 

 目の前で繰り広げられている光景に、シャフトですら事態が掴めず、ただ呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。ブラックホールの如き暗黒の渦は、必死に抗うレギオン本体すら無理やり飲み込み、最後にティード将軍も飲み込むと、やがてその場から霞の様に掻き消えてしまった。

 

 ……何事も無かったかの様に静けさを取り戻す空間。だがそのうち何処からかドス黒い瘴気が漂い始め、それは次第に巨大な暗雲となり…………やがて黒い靄の中から真っ白な髑髏が顔を覗かせる。

 

 

……ボロボロのすり切れたローブ……

 

……得体の知れぬ怪物の骨で出来た鎌……

 

……眼窩にゆらめく紫色の炎……

 

 

 

 そのおぞましい、見る者を恐怖させる姿は、まごう事なきドラキュラの腹心……

 

『――死神(デス)!!』

 

 時計塔で確かに討ち滅ぼしたはずの死神が、再び戦士達の前に現れたのだ!

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な……奴は確かに倒したはず……!」

 

 予想もしなかった死神の復活に、ユリウスと気を失っているハルカ以外の全員……ラングも、アルカードも、同じ闇の眷属であるシャフトすら驚きを隠せないでいる。中でもとりわけラングの動揺が大きかったが……

 

「そんな……将軍が……死神……?」

 

 軍人として雲の上の存在であり、憧れだった将軍がまさか死神だったなどと……にわかには信じられなかった。いや、信じたくなど無かった。

 

 

「本物の……本物のティード将軍は何処だ!!」

 

 絶望と恐怖を押し殺し、震える声でラングが叫ぶ。そんな健気さすら漂う男の問いに、死神はどこまでも冷酷に言い放つ。

 

「あの軍人か?奴ならばとうにベヒモスの腹の中よ。貴様は闘技場からすっと私に騙されていたという訳だ……クハハ」

 

「…………ッッ!!」

 

 死神の言い放った非情の宣告に、ラングは見抜けなかった自身に対する怒りと後悔に苛まれた。だが……

 

 

 

 

「…………とでも言っておけば気が済むかな?ラング・ダナスティ軍曹?」

 

「!!」

 

 死神がことさら優しい口調で懐かしいティード将軍の声色を真似た。いや、とても真似とは言えない。どう聞いても本人そのもの……

 

 

「諦めろラング。こいつは最初から……少なくとも12年前からずっと死神だよ」

「!」

 

 死神に弄ばれるラングを見かねたユリウスが、ラングに声をかけた。

 

「ど……どういう事なんだユリウス!お前は何を知っているんだ!説明してくれ!」

 

 半分泣きそうな表情で、ラングが離れた位置にいるユリウスに叫んだ。ラングの懇願に、ユリウスは少しの間思いつめた表情で俯いていたが……やがて重い口を開く。

 

「今から12年前……俺のいる村は何処かの軍隊に襲撃を受けた。生き残りは俺一人。その犯人が目の前のこいつ、死神(ティード)だ!!」

 

「……!」

 

 死神が……ティード将軍がユリウスの仇?真実を告げられた事で増々混乱するラング。だが死神はそんな”部下”には目もくれず、一方的にユリウスに話しかけた。

 

 

「……どうやら完全に記憶を取り戻した様だな?ユリウス・ベルモンド」

 

「……おかげさんでな」

 

「それは重畳……記憶の無い貴様を葬っても私の腹の虫が治まらぬからな。これで心置きなくあの時の借りが返せるというもの………。貴様も母の仇が討てて嬉しかろうベルモンド?……クハハ」

 

「仇……だって?」

 

 

 ユリウスの瞳に、暗い炎が灯った。

 

 

「母さんを殺したのは…………俺だろうが……ッ!!」

 

「――ッ!?」

 

 ユリウスが実の母を殺した……!?ラングは俄かには信じられなかった。だがそう言い放ったユリウスの表情は、酷く悲壮な……哀しい怒りに満ちていた。

 

 

――ユリウスの帰還……将軍の正体……死神の復活……過去の記憶……

 

 

悪魔城最下層の地下深殿で……混沌は増々その色を深めてゆくのだった……

 

 

 

 

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