悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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H・TEAD

――AD1944 ヨーロッパ 悪魔城、玉座の間――

二人の若きヴァンパイアハンターが、城主ドラキュラとその腹心死神(デス)を相手に、今まさに最終決戦に挑もうとしていた。

 

「シャーロット!」

「ジョナサン!」

 

『グランド・クロスッ!!』

 

 金髪の青年が持つ鞭と魔法使いの少女が持つ本が重なりあった瞬間、聖なる闘気が巨大な十字架のビジョンとなって噴き上がった!螺旋の軌跡を描く十字架が、旋風となって魔王ドラキュラに襲い掛かる!

 

「そうはいかぬ!!」

「――!?」

 

 だが戦士たちの放った聖なる波動がドラキュラに当たる直前、なんと死神が身を挺して主君をかばった!

 

「この程度の魔術、我が力で弾き返してくれる!」

 

 死神は並みの悪魔なら触れただけで消滅する聖なる十字架を真正面から受け止める!

無謀ともいえるその行動……だが魔法使いの少女はその鬼気迫る行為に思わずたじろいでしまう。

 

「嘘!?正面からグランドクロスを受け止めるなんて!!」

「気圧されるなシャーロット!このまま押し切るぞ!!」

 

 不測の事態に動揺する少女を、青年が諫める。一時的に威力の弱まった共鳴術法だったが、すぐに元の勢いを取り戻した。

 

「ぬぅ、まさかこれほどとは……分家と侮りすぎたか……ッ!!」

 

 聖なる十字の光が、徐々に死神の体を削り取っていく!もはや死神が消滅するのは時間の問題……かと思われたが――

 

「もはやこれまでか……ならば……!」

『!?』

 

 共鳴術法を放っていた二人はデスの行動に驚愕した。死神はそれまで前方に翳していた両腕を大きく開き、襲い来る十字架の群れにその身を晒したのだ。

 

「伯爵様!我が力……お使いくだされェェェ――――ッ!!」

 

 崩壊する死神の体から飛び出た漆黒の魂が、玉座に鎮座するドラキュラへと取り込まれていった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャフトとレギオン、海兵隊の帰還、ティード将軍の正体、死神の復活、そして明らかになったユリウスの過去……

目まぐるしく動く真実の波に、深殿にいるだれもが言葉を失っている。そう……ユリウスと死神の二名を除いて。

 

「あの時は童と思い油断したわ……だが二度とあのような失態はせぬ……」

「そりゃこっちのセリフだ……今度こそ二度と復活できねえようにしてやるよ……」

 

 12年越しの因縁に決着をつけるべく、両者の闘気は今にも弾けんばかりに膨れ上がっていた。他者が立ち入れぬ程の殺気が漂う中、文字通り戦いの先鞭をつけたのはユリウスの方だった。

 

”シパアァァンッ!!”

 

 度重なる試練を越え、神速の域に達した鞭がデスへ伸びる!

 

”バチィッ!!”

 

「――!」

「――!」

 

 だがその攻撃は何者かの妨害によって不発に終わった。ユリウスの攻撃を邪魔した者……それはある意味では当然だが、ある意味で意外な人物。暗黒神官シャフトであった。

 

「しばし待てベルモンド、この者と話がある!」

 

 シャフトはユリウスを一喝すると、すぐに傍らの死神に向きなおった。ドラキュラの右腕と左腕、闇の両雄が並び立つその光景は、恐ろしさも先行したがある意味で壮観でもあった。

だが……その仲は傍から見ても良好とは言い難い。

 

 

「これはこれは……暗黒神官殿御自らかばって頂けるとは恐悦至極の至り……」

 

 死神が慇懃に礼をとる。だが挑発めいたその態度も意に介さず、シャフトは単刀直入に切り出した。

 

「貴様……何者だ」

「…………何?」

 

 シャフトの問いかけに、デスが怪訝な表情で聞き返す。

 

「なるほど、貴様がベルモンドが大成する前に亡き者にしようと奇襲をかけ、逆に()()()()にあったのは今の話でよくわかった……」

 

「だが時計塔で倒されたはずの貴様が何故ここにいる?私自ら時計塔へ赴き確認した。間違いなく貴様は現世から消滅したはずだ!貴様は何者だ?デスの名を騙り何が目的か!」

 

 シャフトが持つ水晶玉には時計塔での激闘が映し出されている。もちろんそこにはユリウス達の手で死神が敗れ去る一部始終も鮮明に映っていた。

 シャフトの疑念はアルカード達も同じであった。激闘の末、ギリギリではあったが間違いなくこの手で倒したのだ。それがこうも簡単に復活されたのでは、今までの苦労は何だったのかという事になる。

 

 

「……クハッ」

「 何がおかしいッ!!」

 

 シャフトの糾弾にデスが嘲笑で答える。

 

「やれやれ……伯爵様の御力をその身に受けておきながらこの程度の事も解さぬとは……まあよい、順立てて説明してやろう……」

 

 

 デスは一呼吸置くと、ゆっくりと骨しかないその口腔を開いた。

 

 

「私は正真正銘”死神”だ。だが貴様の言う”死神”ではない……」

「何!?」

 

 意味深な死神の言葉に、各人の困惑の色が深まる。だが当の死神はそんな事はおかまいなしに、淡々と事の詳細を語り始めた……

 

 

 

 

 

 

「今から50年ほど前の事だ……ブローネルとかいう絵描きがこの悪魔城を乗っ取ろうとした事があった」

 

「無論そのような不届き者は始末したが、事はそれで終わらなかった。当時ベルモンドは復活しておらなんだが、分家筋にあたる者が性懲りも無く城を封印しようと戦いを挑んできたのだ」

 

 デスがユリウスをちらりと見た。

 

「そう、貴様は知っているなベルモンド?お前の師、”ジョナサン・モリス”だ」

 

「…………」

 

「本来ならば分家の力など恐るるに足りぬ……だが伯爵様が真の力を取り戻すのは世紀末。不完全な力では如何ともしがたく、私も共に戦い、最後にはこの ”魂” も捧げたが力足りず、城は封印されてしまった………」

 

「!」

 

 死神の発言に、シャフトがハッと驚く。

 

「ようやく気付いたか。そう、私も貴様と同じ、伯爵様と……この城と同化した口よ」

 

 

 

「私はな……50年前の戦いで消滅した死神の ”分霊” なのだ」

 

『分…霊!?』

 

 デスの正体に驚きの声をあげる一同、だが死神の語りは尚も続く。

 

 

 

「悪魔城が封印される際、必ず幾何かの伯爵様の”残骸”が残るが……魂を捧げた事が功を奏したのだろう、伯爵様の欠片と共に私の魂も現世に留まる事が出来た」

 

「しかし現世にとどまれたのはわずかな伯爵様の魂のさらにほんの一部。そのままでは遅かれ早かれ私は消滅してしまっていただろう…………」

 

 

 

 

 

「――――だが、時代が私に味方をした」

―ー死神の眼窩がギラリと光る。

 

 

「時は世界を巻き込んだ大戦の渦中。手頃な死体など文字通り腐る程あった」

 

「私は50年後の悪魔城復活を見据え、できる限り若い肉体を欲した。そして運の良い事に目の前で死にかけている赤子を見つけた。赤子とはいえその魂は世を、人を恨み、憎んでおった。体を乗っ取るのにそう苦労はせなんだわ」

 

「依り代を得た私は戦場にいた合衆国の軍人を洗脳、その養子となりやがて同じ軍人となった。軍人という職業は世界に混沌を振りまくのにうってつけだったからな」

 

「以後私は各地の戦場を渡り歩きながら混沌の種をばらまき、来るべき伯爵様の復活に備え密かに力を蓄え続けた……という訳だ」

 

『…………ッッ』

 

 

 デスの語りは終わった。だが死神と入れ替わるように今度はユリウスが口を開く。

 

「……で、ついでに名前も改名したってか?H(ヘンリー)TEAD(ティード)……くっだらねえアナグラムだなオイ、正体隠す気あんのかよ?」

 

「クハハ……事実今の今まで誰も気づかなかったではないか。そこにいる暗黒神官殿も含めて誰も、な……」

 

「……ッ!!」

 

 死神の嫌味に、シャフトの顔がみるみるひきつる。無理もない、何しろ無力な老人と思っていた人間がその実自身よりも格上の存在で、あまつさえその掌の上で踊らされていたのだから……

 

 

「……よくよく考えればおかしな話だぜ。瘴気だらけの城で一人だけピンピンしてるんだからな?当たり前だ、その瘴気を作り出してる張本人なんだからな」

「アルカードが居れば気づいてたかも知れねえが……あんな状態だったし、しかも顔を合わさないよう適当に理由つけて入れ違いで出ていきやがったもんな?全くうまくやったもんだぜ」

 

 ユリウスが今まで感じていた違和感を捲し立てる。

 

「何、そう難しい事でも無い。こちらとしても本当なら最後まで影に徹するつもりだったのだ……死神(ほんたい)があれほど早くやられていなければ、な……」

 

 デスがユリウス達をジロリと睨んだ。

 

「ならば貴様らを一時(いちどき)に始末しようと暗黒神官殿の茶番に付き合ってやったのだが……所詮は思い付きの戯事。そううまくはいかぬ物よ、クハハハ!」

 

 

 ユリウスの指摘に死神は歯をカタカタ鳴らしながら笑っている。……と、それまで沈黙を守っていたアルカードが不意に口を開いた。

 

 

「……空中庭園で門が開いたのは貴様の仕業か」

 

「フフ……いかにも。そもそもトランツの奴を今回の件に噛ませたのも私でございます。あやつめ、大統領直接の密命と張り切っておったが、身の程知らずもいい所よ。あの様な小物に一国の長が大任を託す訳がなかろうに……」

 

「――! まさかジョーンズさんを殺したのはッ!」

 

「あの宗教家か?伯爵様の欠片を集めさせたまでは良かったが、まさか自爆しようとするとはな……あれには少々肝を冷やしたぞ。まあ結果的に魂は回収できたので良しとするがな」

 

「そうそう、気を失っている様だがそこの小娘にも礼を言っておかねばならんな。貴様らが印術(グリフ)とやらを集めたおかげで伯爵様の魂は完全にそろった。この死神、心から礼を言わせてもらおう。クハハハハ……!」

 

「…………ッッ!!」

 

 

 これまでの戦い……いやそれが始まる何十年も前から全てが死神の手の内だった……

余りにも衝撃的な事実に言葉を失う一同。そしてそんな神の使途をあざ笑うかのようにエコーがかった不気味な笑い声をあげ続けるデス。悪魔城最下層、地下深殿は混沌の渦に飲まれつつあった。だが……永遠に続くかと思われた混沌の祭典は不意に終わりを告げる。

 

 

「それもこれも…………元はと言えば貴様が原因よベルモンド!」

 

死神はひとしきり笑った後、一転憎悪を込めた眼差しで眼下の青年を睨みつけた。

 

 

「12年前……貴様を仕留め損ねたせいで私の計画は大幅に狂った!その修正のため異界から魔物を呼び寄せ……、トランツの奴を唆し……、宗教家に遺骸を回収させ……、私自身の力を取り戻すのにも10年かかった!!」

 

「己の失態は己の手で払う……あの時の恥辱、今ここで刈り取らせてもらおう!」

 

「!!」

 

 荒くなる語気に呼応するかのように、死神を覆う瘴気が一気に濃くなった。凄まじい殺気を感じ咄嗟に身構えるユリウス。大鎌を肩にかけ戦闘態勢を取るデス!瞬く間に地下深殿に緊張が走る――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――いたのか」

 

「……何?」

 

 だがその張り詰めた空気の中、ラングが微かな……だが確固たる怒気をはらんだ口調で囁いた。

 

「騙して……いたのか! 国を、軍を、オレたち海兵隊を!答えろ!ティード将軍!!」

 

 それまでうつむいていたラングが顔を上げ激昂する!その眼には微かに光る物が滲んでいた。しかし……青年の涙の訴えにも、死神はただ機械的に答えるのみであった。

 

「騙した、とは人聞きが悪いな……「栄光ある死」を与えてやったと言ってもらおうか。

……なあ、()()()()()?」

 

「……!」

 

 デスはラングの神経を逆なでするかの様に、懐かしい将軍の声色で答える。

 

「ただ無為に日々を生き、惰眠を貪り、この星の糧を漁る。斯様なあさましい人間どもに、この死神が死という救いを与えてやったのだ!伯爵様の贄となる名誉も添えてな!」

 

「―――!」

 

「どこぞの喜劇役者が言っていたな?「一人殺せば罪人、万人殺せば英雄」と、人間にしては中々気の利いた文句を考えるではないか!兵士たちは皆、喜々として英雄(わたし)の命令に従い死地へむかっていったぞ!クハハハハ!!」

 

 

「――――!!!」

 

 

 その言葉で、ラングの中の何かが完全に崩れ去った。憧れが……信じていた一縷の希望が……ただの張りぼてどころか醜悪極まる邪神だったと思い知らされた。

 

 

「全部……全部嘘だったのか……あの日々も……あの戦いも……」

 

「俺たちは……皆は……最初から……死ぬために……」

 

「何……だったんだ?……ホールで俺にかけてくれた……あの言葉は……」

 

 

「あの言葉? ……ああ、あの標語の事か。”常に忠誠を”か、フフ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誓っているとも!伯爵様への忠誠を!!信じているとも!この世全ての混沌をな!!」

 

 

「――――ッッ!!!」

 

 

 ラングは反射的にアガーテを抜いていた。騙されていた事、裏切られた事、最初から死ぬ事が決められていた仲間たちの無念が混ぜこぜになって、考えるよりも先に体が動いていた。

だが――

 

 

「――馬鹿めッ!!」

 

「――」

 

 その時すでに、大鎌を振りかぶった死神がラングの目前にいた。

 

 

”ザンッッ”

 

 

――その行動はあまりにも早すぎた。ユリウスも、アルカードも、シャフトですら目で追う事が出来なかった。死神の気配を辿り、ようやくその姿を捉えたユリウスの瞳に写ったのは…………

 

 

 

両断された……ラングの胴体だった――

 

 

 

 

「――ラ」

 

 

 

 

 

「ラングゥゥゥ―――――ッッ!!」

 

 

 

 血を吐くようなユリウスの絶叫が、地下深殿に木霊していた…………

 

 

 

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