悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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城の混沌によってクリーチャーと化したラング……
ラングを救うべく一人相対するユリウス……
ユリウスの背を守る様に立つアルカードとハルカ……
虎視眈々と三人を狙うデス……
そして今死神の傍らに、並び立つようにシャフトが降り立った。


悪魔城最下層、地下深殿……城主ドラキュラの鎮座する本城を目前に、状況は光と闇の総力戦の様相を呈していた。



地の底の闘い
総力戦


 

「さて、仕切り直しの様だが……どうする?このまま纏めて相手取るか、それとも……」

 

 アルカード達を前にして、死神が傍らの暗黒神官に尋ねる。クリーチャーと化したラングを含め丁度3対3の状況。しかし死神たちは中央のアルカード達を挟み込むように陣取っているため、形勢は闇の眷属側に有利であった。

 

「……ヴェルナンデスの娘子は私が相手をする……」

「……ほう?」

 

 意外にもシャフトは因縁のあるアルカードでは無く、魔法使いの少女と組すると言う。

よほど意外だったのか、死神がその真意を問いかけた。

 

 

「貴様はアルカード様を狙うかと思ったが……」

 

「……本城目前まで攻め込まれているのだ。今更私情にこだわっている場合ではあるまいよ。それに娘子と私は()()がいいでな……」

 

 シャフトはそう言うと一歩前に出た。そんな暗黒神官に、死神は念押しの声をかける。

 

「……解っておるであろうな司祭殿?子供だからと手を抜くでないぞ?」

 

「…………」

 

 シャフトの真意を知っているのかそうでないのか、死神がやや疑念の混じった言葉をシャフトにかける。

 

「……貴様こそベルモンドを軍人に向かわせて良いのか?五百年前のベルモンドは奴と同じ呪いを打ち払い、人間に戻したと聞くぞ?」

 

 死神に逆に疑いの眼差しを向けるシャフト。だがデスはよほど自信があるのか、シャフトの疑念を一笑にふす。

 

「クハハ……それこそいらぬ心配よ、何、安心せよ。もはや何人もあの呪いを払う事など出来ぬ……」

 

「………………」

 

 

 

 

「…………努々油断はするな。よいな?」

 

 不気味な含み笑いをする死神を横目に、シャフトは無数の水晶玉を周囲に出現させた。それに呼応するように、死神もまた巨大な鎌をその両腕に携えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺にしか出来ないったって……どうすりゃいいんだよ……ッ」

 

 巨大な怪物となった友を前にして、ユリウスが一人吐き捨てる様に呟く。

アルカードはベルモンドなら出来ると言ったが、会った事も無い五百年前の先祖を引き合いに出されてもはっきり言って困る。そもそも師から様々な戦闘技術は習ったが、怪物となった人間を元に戻す方法など見た事も聞いた事も無い…………

 

 

……いや、正確には似たような話は聞いた事があった。

 

 

 師ジョナサンは50年前の戦いにおいて吸血鬼となった人間をその呪縛から救い出した事があったという。だがその時はあくまで師の役割は戦闘補助で、実際に呪いを打ち破ったのは仲間の魔法使いが使った解呪の魔法だったそうだ。

 だが先のハルカの解呪薬の効果を見るに、恐らく普通の方法ではラングにかけられた呪いは解けない。とすれば残された方法は一つ……

 

 

「……(こいつ)しかねえよな……」

 

 ユリウスが導き出した答え……それは直接ヴァンパイアキラーでラングを打つというシンプル極まりない方法であった。

 

 

 

 

 ――元来”鞭”という道具は武器では無い。色々な場所で同時多発的に発生、発展したので起源は定かでは無いが、元々は家畜や奴隷を制御するため……有り体に言えば他者に痛みを与え言う事をきかせる、懲罰のために発展してきた道具である。

 

 何故わざわざそんな物を遠い祖先が武器として選んだのかは解らない。だがもしかしたら神に背いたドラキュラを罰し、贖罪を行わせるためなのかもしれないが…………

 それはともかく今は一か八か、ヴァンパイアキラーが与える”痛み”がラングを正気に戻す事に賭けるしかなかった。

 

「他に方法は無えんだ……。骨の一本や二本覚悟しろよ、ラング……ッ」

 

 そう自分に言い聞かせる様に呟くや否や、ユリウスはラングに向かって走り出す。ヴァンパイアキラーの威力が最も生かせる距離は数~10メートル程度、広いと言っても深殿の大きさはたかが知れている。すぐにユリウスはヴァンパイアキラーの射程距離に到達し、ラングに向かい鞭を振るった!

 

”パキィィン!”

 

「!!」

 

 だが深殿に響いたのは敵を打ち据える音ではなく、乾いた骨が砕け散る音!

ユリウスの攻撃はよけられたのだ!近しい者を打つという行為が無意識に鞭を鈍らせたのか?

……否。かわされた理由はそれだけでは無い、怪物と化したラングの動きが予想以上に素早かったのだ。

 

「くそ!」

 

 幾たびの試練を乗り越え成長したと自負していたが、今更ながら自身の甘さに腹が立つ。ともかくユリウスは逃げたラングを慌てて探した。――敵はすぐに見つかった。ラングは宙に浮く例の台座にしがみ付くように、逆さまにぶら下がる形でユリウスを見下ろしていた。

 

「まるっきり動物園のゴリラじゃねえか……」

 

 そのどこか滑稽さすら漂うラングの仕草に、ユリウスは思わず気が緩みそうになる。だが……

 

”グ……ベキ……メリ……!!”

 

「!!」

 

 ラングは自身がへばりついた台座を力まかせに宙から引きはがすと、ユリウス目掛け勢いよく放り投げてきた!

 

「なッ!?」

 

 自分たちが数人乗ってもびくともしなかった石造りの台座が、ラングに無理矢理放り投げられた事で半壊……さながら瓦礫のショットガンと化してユリウスを襲う!

 

 

”ドガガガガガッ!!”

 

「くッ、この程度!」

 

 だがそこは俊敏さに長けるユリウス。意表をついた攻撃に多少面食らいながらも、体さばきだけで雨あられと降り注ぐ瓦礫の弾丸を避ける!しかし――

 

”ガシィッ!!”

「ぐぁッ!?」

 

 不意に丸太の様に太い腕がユリウスの首を掴んだ!ラングは瓦礫の散弾に紛れて逆にユリウスとの距離を詰め、掴みかかる隙を狙っていたのだ!

 

「ぎ……ぐ……くッ」

 

 ただでさえ強い腕力を、城の混沌で強化したラングの力は、ベルモンドの怪力をもってしても外す事が出来ない。ネックハンキングツリーの形で高々と抱えあげられたユリウスの顔は、見る見る青紫色に変化していく。

 

 

「ユリウス!!」

 

 ユリウスの危機に、死神たちと睨み合っていたハルカが思わず飛び出す!慌ててアルカードが呼び止めようとするが――

 

 

 

 

「――離れたな?」

 

 

「きゃっ!?」

 

 その時突如地面から飛び出た水晶玉がハルカを捉えた!水晶はシャボン玉の様に膨れ上がると、瞬く間にハルカを包み込んでしまう。

 

「ヴェルナンデスの娘子よ……しばし私と付き合ってもらうぞ!」

 

 ハルカを包み込んだ水晶は、そのままふわりとシャフトの元へ引き寄せられていく。

 

「ハルカッ!!」

 

 まさかの事態に、アルカードはハルカを拘束する水晶を切り裂こうと腰の剣に手をかける。だがもう一人の魔物がみすみす攻撃を許すはずが無い。

 

 

”キイィィィンッ!”

 

「――くッ!」

 

 金属と金属のぶつかる激しい金切り音!アルカードが水晶へ斬りかかる間も無く、死神の鎌がヴァルマンウェと重なる。そうこうしている内にハルカとシャフトは深殿から霞の様に消えてしまった。

 

「く……ッ、ハルカをさらって何をする気だ!」

 

「さあて……?何分彼奴の考える事は解りかねますので……な!!」

 

 死神のデスサイズが再びアルカードを襲う!咄嗟にヴァルマンウェで防いだがその一撃の重さにアルカードの体が大きく引き摺られる。

 

「クハハ……私は本体ほど甘くはありませんぞ!?」

 

「…………ッ!」

 

 デスが朽ちかけた歯をカタカタ鳴らして笑う。その愉悦に満ちた表情に、アルカードは思わずギリリと歯噛みをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんな所に連れ込んで私をどうするつもりかしら?ねえお爺さん」

 

 ハルカが目の前の暗黒神官に尋ねる。視界が開けた時、両者は薄暗い石造りの部屋にいた。

 

中央には複雑な古代文字が書かれた魔法陣。そしてそれを囲むように松明が燃えている。それほど広くない天井や壁には、窓はおろか扉も無い。出入り口の無い完全に閉ざされた空間だった。

 

「なーに?私をドラキュラの生贄にでもするつもり?それとも……まさかその年でロリコンなの?やーだー、きもーい♪」

 

 こんな状況でもハルカは物おじせずクスクスとシャフトをせせら笑う。だが……シャフトはハルカの挑発に応じる素振りも見せず、静かに言葉を発した。

 

 

 

 

「娘子よ……お前は見逃してやる、この城から去ね」

 

「――!?」

 

 シャフトからの意外な提案に、ハルカは一瞬思考が停止し固まってしまう。だがすぐに気を持ち直すと、持ち前の強気な姿勢で暗黒神官にくってかかった。

 

「はあ?何?逃がしてやるですって?ラングさんにも何か言ってたみたいだけど、そんな見え透いた罠に乗るわけ……」

 

 明らかに苛立った口調でハルカが答える。だがシャフトはハルカとは真逆の至極落ち着いた動作で水晶玉を取り出す。

 

「……そう気張るな。この水晶を通しておおまかな顛末は知っておる」

 

 シャフトの持つ水晶玉に、迎賓館でのハルカの戦いが映し出された。

 

「お前の目的は城の封印では無く姉の魂を取り戻す事だったはず。その願いが叶った今、命を賭して伯爵様に歯向かう理由などありはすまい?城の外に出してやる、姉と二人どこへなりと行くがいい」

 

「――!」

 

 シャフトの言葉に反応するように、中央の魔法陣が怪しく光り出す。

 

「仲間が側に居ては貴様も逃げづらかろう?そう思ってわざわざこの場を用意してやったのだ。さあ足を踏み入れよ。城の外へ出してやろう……」

 

 

 シャフトは先にラングに話しかけた時と同じ……いやそれ以上に優しい口調でハルカに誘いかけた。ざっと見た所シャフトの言う通り魔法陣に書かれた術式は罠の類ではない。本当に城の外に転移出来る様だ。

 

「………………」

 

 シャフトの論説は的を射ていた。確かにハルカの当初の目的は達成されている。シャフトからすれば少女がこの城にこだわる理由は最早無いように思えた。だが……

 

 

 

「ふ……」

 

「……?」

 

 

 

「フフフ……」

 

「……何がおかしい?」

 

 

 

「フフ……ッ、お気遣いありがとうお爺さん。けどお化けになった貴方には解らないだろうけど、人間には()()()って物があるの。ノコノコわたしだけ帰って……」

 

 

 

 

 

 

「生きていけるわけないじゃない!!」

 

 

 ハルカが拒否の意を込めたファイアーボールをシャフトに放った!

 

 

「――そんな事だろうと思ったわッ!」

 

 だがハルカの行動はシャフトの予想の範囲だったのか、火球は護衛の水晶が放った炎によって瞬く間にかき消されてしまう!

 

 

「軍人といい、貴様といい……くだらぬ面子やしがらみのために一つしかない命を散らすか!

やはり人間とは愚かだなッ!!」

 

 一度ならず二度までも誘いを断られた事でさすがに憤ったか、シャフトの魔力が一気に膨れ上がった。だがハルカも即座に二の矢を放つ!

 

「自分だって元々人間のくせに!行け!ホーリーライトニングッ!!」

 

 ハルカの号令の下、精霊を宿した雷球の群れが、さながらミサイルの様にシャフトを追う!

だが――

 

 

「噂に聞くヴェルナンデスの力…………この程度かッ!!」

 

 シャフトは護衛の水晶玉すら使わず、迫りくる雷の球に向かって何か呪詛を呟く。すると見る間に雷球は光を失い、そのままフィラメントの切れた電球のようにかき消えてしまった。

 

「うそ……ッ!」

 

 これといった魔法も使わずにライトニングをかき消してしまったシャフトに、自身の魔術に絶対の自信を持っていたハルカは目を剥いて驚く。

 

「ご子息殿から聞いておらぬか?私は元々教会の司祭。神聖魔法の類は一通り修めておる。もちろんその対処法もな……!」

 

「――――ッッ!」

 

 絶対的に相性の悪い敵……ハルカの脳裏に「苦戦」の二文字がちらついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……ハル…カ」

 

 ラングに首を絞めつけられ朦朧とする意識の中でも、さすがに状況は理解できた。暗黒神官の思惑が何にせよ、どうせ碌な事ではない。一刻も早くラングを戻し、ハルカを助けに行かなくてはいけないのだが……しかし怪物と化したラングはそのタフさにも磨きがかかっており、蹴ろうが、ひっかこうが、一向にその力を緩めない。そうこうしている内に酸欠で力が抜け、ユリウスの腕ははだらんと垂れ下がってしまった。

 

「グゥへへへ……」

「……!!」

 

 敵に対し圧倒的に優位に立った事で嬉しくなったのか、カオスラングの口から下卑た笑い声が漏れだす。だがそれが気を失いかけていたユリウスを奮い立たせた。勝ち誇った笑みを見せつけられてムカついたのも勿論だが、それ以上に闇の力にいいようにされているラングを見て、その不甲斐なさに無性に腹がたってきたのだ。

 

「……いい加減に……」

 

 ユリウスは気取られないようにそっと手を背後に回すと……

 

 

「しやがれッ!!」

 

”ヴォオゥッ!!”

 

「グォアアアッ!?」

 

 突如ラングの顔が青白い炎に包まれた。ユリウスが聖水の小瓶をラングの顔面目掛けて放り投げたのだ!いくら頑強な体といっても熱い物は熱い。ラングは反射的にユリウスを放り投げると、顔についた火をガムシャラにかきむしる。そして焦げ付いた体毛ごと引きちぎる事で何とか火を消し止めたが――

 

――!

 

 ラングが目を開けた瞬間、眼前に飛び込んできたのはヴァンパイアキラーの先端であった。

 

 

”ヴァチィィィィンッ!!”

 

 

 音速を越える子気味いい破裂音が深殿に木霊する!ヴァンパイアキラーの一撃をまともに喰らい、トンは越えるであろうカオスラングの巨体が大きく吹っ飛んだ!

 

 

「ゴホッ!ゴホ……ッ!……やった……か!?」

 

 ラングに潰されかけた喉を押さえながら、ユリウスが吹っ飛んだラングを確認する。どうにかヴァンパイアキラーを直撃させる事に成功したが、推測が正しいかはまだ解らない。ラングは倒れこんだまま微動だにしないが……

 

”バオゥッ!!”

 

「!!」

 

 その時軽快なハンドスプリングでラングが飛び上がった。その顔は聖水の炎によって所々体毛が焼けこげているが、さしてダメージは無い様だ。

 

「だろうな……、一発当てたくらいじゃどうにもならねーと思ってた……よ!」

 

 ラングの素のタフさを鑑みてある程度予想はついていたのか、多少肩を落としつつもユリウスは再び鞭を振るう!だが……それが楽観に過ぎる事をユリウスはこの時まだ気づいていなかった。

 

 

 

 

……カオスラングは確かに強力な魔物には違いなかった。ワーウルフ並みの瞬発力にフレッシュゴーレム以上のパワーを備え、並みの魔物ならば歯牙にもかけないだろう。

 だが度重なる戦いと試練を乗り越えてきたユリウスには冷静になりさえすればどうとでも対処できる相手であった。事実カオスラングは深殿の壁面に張り付いたり、その剛腕で大地を叩き、地面を揺るがすなど多様な攻撃を仕掛けてきたが、その全てを的確に対処されていた。だが…………

 

 

「くそ!どうして戻らねえ!?」

 

 攻勢に出ているはずのユリウスの顔に汗が滲んでいた。ユリウスは初撃を加えた後も諦めず、さらに二度、三度とヴァンパイアキラーを打ち続けた。だが一向にラングに巣食う混沌を払える気配が無い。

 

「……ウ、ウウ……」

 

「く……ッ」

 

 いかに並外れた耐久力を持つラングでも、ヴァンパイアキラーの攻撃を立て続けに喰らえばダメージは負う。このまま攻撃を加えれば元に戻す前にラングを殺してしまいかねない。

 葛藤し、攻撃を躊躇するユリウス。その時そんな青年を焚きつけるがごとく、エコーがかった声で死神が語り掛けてきた。

 

「クハハ!無駄なあがきよベルモンド……五百年前の呪いとはわけが違うぞ……?」

「…………!!」

 

 アルカードの振るうヴァルマンウェの猛攻をさばきながら、デスが横目でユリウスの行為を嘲笑う。

 こちらを惑わせるためのいつもの挑発かと、ユリウスは無視を決め込もうとした。だが死神の言い放った二の句がユリウスを心の底から動揺させた。

 

 

「だが……十年前に私を退けた聖光十字(グランドクロス)ならばひょっとすれば呪いを解けるやも知れぬなァ…?

……()()()の技を貴様が使う事が出来れば……だがな?クハハハ!!」

 

「――!!」

 

 死神の言葉に、ユリウスの顔色が一瞬で変わる。ユリウスのトラウマを抉るデスの嘲笑が、地下深殿に響き渡っていた…………

 

 

 

 

 

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