悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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今回の話は序盤の展開(時系列的には2.5話)をユリウス視点から描いたものになります。



間話0
白昼霧


 

西暦1999年 7月某日 東ヨーロッパA国

ラングたち海兵隊が悪魔城内へ突入した少し後の事………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――まだ夜も明けきらぬ深い森の中を、颯爽と駆け抜ける一迅の影がある。

 

 

「――っと、もう着いちまったか、……何だ俺が一番乗りか?」

 

 影の正体は赤い長髪をなびかせた青年、ユリウス・ベルモンドだった。師との別れから半年、さらにいくつかの場数を踏んだと見え、その顔はもう立派な一人前の戦士の風格を漂わせていた。

 

 仲間たちとの合流地点にたどり着いたユリウスはとりあえず周囲を見回した。辺りは深い霧が立ち込め、ほんの数メートル先も見えない白の世界である。多少開けてはいるがすでにここは敵の領内。いつ誰が襲い掛かってきてもおかしくはない。

 

「!」

 

 不意に殺気を感じ腰のホルダーから鞭を引き抜く!瞬間、何者かが放った火球はたちどころに霧散してしまう。

 

ユリウスは鞭を構えたまま、炎の出所を注視し続けた。

 

 

 

「無事……試練を乗り越えたようだな」

 

 やがて白い霧の中から漆黒のスーツを纏った長身の男性が姿を現す。

 

「……おかげさんでな」

 

 火球を放った者の正体が解り、ユリウスが突き出していた鞭を引いた。どうやら両者は知り合いらしい。

 

「久しぶりに会ったってのに随分なご挨拶だな。アルカー……いや、その姿の時は有角だったか」

 

「どちらでもいい。どうせ発音は似たような物だ」

 

 有角と呼ばれた男性は攻撃した事を悪びれる様子もなく、淡々と受け答えをしている。ユリウスも一歩間違えれば大けがをしていた所だったというのに、とくに気にする素振りも見せず話を続ける。

 

「ほかの連中はどうした?」

 

「教会の者達も、日本の神官も、全員近くまで来ている。だが中には非戦闘員もいる。おまけにこの霧だ。俺が先行して安全な道の確保をしている」

 

「ふぅん……」

 

 有角の言葉を聞いて、ユリウスはしばし考え込むような仕草を見せた後、再び尋ねた。

 

 

「お前……この森に入ってからここまで何匹の敵と会った?」

 

「…………」

 

 しばしの沈黙ののち、有角が答える。

 

 

「……ゼロだ」

 

「俺もだよ。いくらなんでもおかしくないか?ここは悪名高き”悪魔城”の領内(テリトリー)だろ?」

 

 ユリウスが首をすくめるジェスチャーをする。

 

「それにお前も気づいてるだろ?霧と木の匂いに混じって……」

 

「…………」

 

 ユリウスの問いに有角は無言で答えた。青年の言う通り、森に入ってからずっと……微かではあるが人間の血と火薬の匂いがするのだ。しかもそれは城に近づくにつれて強くなっている。

 

「考えたくは無いが……俺たちの他に先客がいるようだな」

 

「火薬の匂いがするって事は宗教関係者じゃ無いな。警察か?それとも軍か?お前軍関係には関わらせないって言ってたよな?」

 

「ああ……いくら戦闘のプロでもここでは被害が増えるだけだ。情報は伝えていない筈だが……」

 

「その様子じゃどこからか漏れた可能性もあるって感じだな。しゃーない、ちょっくら俺が見てきてやるよ」

 

 ユリウスは手に持っていた鞭を再び腰のホルダーにかけると、一人城へと向きなおる。

 

「な……皆が来るまで待て!この先は何が起こるか解らんのだぞ!?」

 

 もう走り始めている青年を有角が慌てて呼び止める。しかし……

 

「心配すんな!それよりお前は連中の引率しっかりやっとけ!辿り着く前に全滅なんて笑い話にもならねえぞ!」

 

 ユリウスはそう言い残すと、あっという間に白い霧の中へと消えていった……

 

 

「やれやれ、あの性格は変わっていない様だな……」

 

 一人残された有角は青年の無鉄砲さにしばし呆れかえっていたが、やがてユリウスの向かった方とは反対の方向、待機している仲間の元へ音も無く消えていった……

 

 

 

 

 

 

 一寸先も見えぬ白い闇の中をユリウスは進む。だがやはり敵は一体も襲ってはこない。さらに数分も走った頃、濃い霧の中でも解るほど巨大な城壁のシルエットが視界に入った。

 

「ついちまったな……」

 

 とうとうユリウスは一匹の魔物とも会う事無く、城の入り口にたどり着いてしまった。悪魔城の恐ろしさは師から嫌という程聞かされていたが、正直何だこの程度かと拍子抜けしてしまう。

 

……だが、すぐにそんな甘い考えは掻き消えた。微かだった血の匂いが、今ははっきりと判るほどに濃くなっているのだ。案の定、正体不明の攻撃がユリウスを襲う!

 

「!」

 

 不意に感じた邪悪な気配に、反射的に後方へ飛び退く!

 

”ヂィッ!”

 

 瞬間目の前を見えない何かがかすめ、ユリウスの赤い前髪を数本切り裂いていった。

 

「くッ!」

 

 すぐに腰のヴァンパイアキラーを取り出し戦闘態勢をとる。さっきの有角とは違う、今の攻撃は完全に自分を殺しに来ていた。

 

「…………」

 

 辺りは不気味なほど静まり返っている。周囲を見回そうにも相変わらず深い霧が立ち込め、敵の姿は全く見えない。

 

「!」

 

 再び気配を感じ咄嗟にかがみこむ!やはり見えない何かが攻撃を加えたのだろう、ユリウスの赤毛が今度は数十本も舞い散った。

 

「くそが!」

 

 だがユリウスもただ敵の攻勢に甘んじているだけではない。瞬時に攻撃の出所へカウンターの鞭を振るった!

 

”スヒュッ”

 

「何!?」

 

 だがどうした事か、敵の攻撃と同時に放った鞭に全く手ごたえがない。飛び道具を使っているのかと思ったが、確かに敵の気配はすぐ近くから感じられる。

 

”ブオッ!”

 

「ちっ!」

 

 困惑するユリウスを尻目に、見えない敵は三度攻撃を加えてきた!ユリウスは再びカウンターを見舞ったが、やはり鞭は空しく霧をさくのみ……

 

”ビシッ”

 

「くッ」

 

 そうこうしている内にクリーンヒットでは無いものの、初めて敵の攻撃を喰らう。こちらの攻撃は当たらないのに敵の攻撃は当たる。実に理不尽である。

 

「……まさか」

 

 

……ここで青年は気付いた。気配はある、だが実体は無い…………

……敵の姿は見えないのではなく、すでに見えているのだとしたら…………

 

 

「――霧自体が……魔物!」

 

”ザワワワワワワッ”

 

 敵の正体に気付いたユリウスをあざ笑うかのように、笑い声とも風切り音ともつかぬざわめきが辺りに響いた。

 

”ビュウッ!!”

 

 嘲笑する敵を振り払うように、辺りを鞭で切り裂いてみたが、やはり手ごたえは無い。少なくとも物理的な攻撃が効く相手ではないようだ。

 

”パチィッ”

 

と、何故か青年は手に持つ鞭をホルダーにかけると、上着の内から文庫サイズの古びた本を取り出した。

 

…………?

 

 霧の魔物はユリウスの行動の意味するところが解らず、一瞬攻撃の手を緩めた。だが一向に動く気配の無い敵を見て、戦闘を放棄したとでも思ったのだろう、寝首を掻いてやろうと背後から忍び寄る。だが……

 

「……かかったな?」

 

…………!?

 

 不用意に魔物が近づいた瞬間、ユリウスは持っていた本を宙に放り投げた!何百という本のページが鋭利な剃刀となって周囲に舞い散る!

 

……♪

 

 だが当の魔物は青年の攻撃を鼻で笑っていた。いくら攻撃範囲が広かろうと、いくら切れ味が鋭かろうと、物理的な攻撃では自分にダメージは与えられない。そう余裕ぶっていたのだが……

 

「……てめえの負けだ」

 

……ッ!?

 

 ……気付いた時には遅かった。乱雑に舞っているとばかり思っていた本のページは、理路整然と……青年と魔物を包み込む様に巨大なドーム状の壁を作っていた。霧の魔物は自身を取り囲む紙の檻を突き破ろうと攻撃を加えたが……

 

”バジィッ!!”

 

…………ッ!?

 

 魔物の攻撃は即座に跳ね返された。ユリウスが使ったのはただの本ではない、神の加護が施された戦闘用の”聖書”だったのだ。聖書の壁は徐々にその範囲を狭め、一人と一体に向かって押し迫ってくる!

 

――このままではまずい!――

 

 さすがに自身が置かれている状況を察知したのか、霧の魔物はこの紙束を使役している目の前の敵に矛先を向けた。ユリウスは無防備にも目を閉じ瞑想している。今なら楽に殺せる……!

 

――ッッッ!!!

 

 無音の咆哮をあげながら魔物がユリウスに襲い掛かる!だが……

 

 

「色即是空……」

 

――!?

 

 魔物の攻撃は空しく宙を切った。攻撃を加えた瞬間、青年の姿が霞の様に消えてしまったのだ。一体どこへ消えたのか、後には敵を見失った霧の魔物が残るのみ……

 

………………ッ!!!!!

 

 魔物は半ば自暴自棄になりながら必死にあがく!だが……すでに手遅れだった。聖書の壁は魔物を押しつぶさんばかりにどんどんその空間を狭め、そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――コロン。

 

 最終的に聖書は小さめのボール程の大きさにまで縮まった。中に閉じ込められた魔物はまだ生きているのか、脱出しようと必死にもがき、そのせいで紙のボールはコロコロと揺れている。

 

「やれやれ……」

 

 聖書のボールが魔物を押さえつけている間、ユリウスは切られた髪を整えていた。だが魔物が完全に封じ込められた事を確認すると、上着の内ポケットから小ぶりなガラス瓶を取り出し、ボールに向かって放り投げた。

 

 

!!!!!!!!

 

 

 ガラス瓶がボールに触れた途端、青白い火柱が巻き起こり、瞬く間に紙のボールは炎に包まれた。声にならない叫びをあげながら、霧の魔物はあっけなく消滅した。

 

「これは!」

 

 気付けば周囲に立ち込めていた霧がさっぱり晴れている。やはりこの霧は人為的な物だったらしい。

 

「!?」

 

 霧が晴れて見通しが利くようになったが、辺りの惨状を見て驚いた。ユリウスの周囲にはボロボロに引き裂かれた無数の死体が転がっていたのである。

 

「匂いの原因はこれか…… !?、これは合衆国(うち)の海兵隊の服!?」

 

 周囲の遺体はどれも人の原型をとどめていなかったが、着ている服の切れ端は間違いなく海兵隊の戦闘服だ。ここまでの敵が異常に少なかったのは、恐らく彼らと魔物との間に激しい戦闘があったからだろう。

 

 

「すぅぅ……ハァ―――」

 

 青年はここに来てから初めての戦闘で若干乱れた呼吸を整えると、目の前にそびえる威圧的な巨城を仰ぎ見た。

 

「これが……悪魔城……」

 

 ユリウスの身長の何十倍も高く見える重厚な城壁は、いまにも青年の体を押し潰さんと無言のプレッシャーを放っている。その凄まじい威圧感に、青年は思わず足がすくみそうになった。だがすぐにそんな弱気な心を振り払うと、ユリウスは一歩足を踏み出した。

 

 堀に渡された橋を渡り、場内へと足を踏み入れる。だが敷地内へ侵入するや否や、不意に地面が盛り上がり、腐臭を放つ無数のゾンビがユリウスの行く手を阻む。

 

「雑魚はすっこんでろッ!!」

 

 群がる敵を蹴散らしつつ、城門から中庭へと歩みを進める。そしてほどなく……天高くそびえる悪魔城の本丸がその姿を現した。ユリウスははやる気持ちを押さえ息を整えると、手に持った鞭を握りしめ、今一度眼前にそびえる悪魔城を見た。

 

 

「……待っていろドラキュラ……先生や母さん……一族の因縁は俺がケリをつけてやる……!!」

 

 

 決意を新たに目の前の巨大な門へ手を触れる……

ユリウスが力を加える間もなく、長年待ち焦がれていた獲物を飲み込む様に、悪魔城はゆっくりとその双鋼を開いた…………

 

 

 

 




この話は以前小ネタ集の方に投稿した作品に修正を加えたものです。
投稿時、挿入投稿の仕方がよくわかっていなかったため小ネタ集の方に投稿しましたが、本編完結して一段落ついたので改めて投稿しました。新作では無いですがご容赦ください。

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