悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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本城・大広間
シャフトの夢


……

 

 

…………

 

 

………………

 

 

 

「みんな!司祭様がお帰りになられたよ!」

 

「はっはっは、皆元気にしておったか?」

 

「シャフト様!」「司祭様!」「シャフトおじいちゃん!」

 

 

 うららかな日差しが差し込む午後、私は久方ぶりに修道院を訪れた。私はここに疫病や戦争、野盗らによって親を失った子供たちを集め、養育していた。

 

「うむ、皆元気そうだの。なによりなにより、しばらく会いに来られなくてすまなんだ……って痛い!よさぬかマルク!みだりに人を蹴るなと何度言ったら解るのだ!」

 

 修道院の敷地に入るやいなや、大勢の子供たちに迎えられ、もみくちゃにされる。中には少々悪ガキもいて、なかなか手荒い歓迎をされる事もあったが、それすら私にとっては微笑ましい事であった。

 

「シャフト様見てこの刺繍!シスターに習ったの!!」

「これ菜園で取れたじゃがいも!おじいちゃんにあげる!」

「聞いてよ司祭様!マルクいっつもアンの事いじめるんだよ!」

 

 皆が一斉に身の回りの事や、最近起きた事を話し始める。無邪気な子供たちの笑顔はやはり良い。教会の政争で荒んだ心が洗われる様だ。

 

……だが、かように不幸な子供たちをこれ以上増やさぬためにも、私は戦い続けねばならぬ。

後ろ髪を引かれる思いだったが、私は子供たちの様子を一通り見て回ると、すぐに教会へ帰る準備を始めた。

 

 

「……司祭様もう帰っちゃうの?」

 

「すまぬな皆、またすぐ来るでな。それまで皆仲良く、良い子にしているのだぞ。特にマルク。あまり下の子をいじめるでないぞ?――神は常に私達を見ておられるのだからな…………

 

 

………………

 

 

…………

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢……、か」

 

 本城の無機質な広間で一人、シャフトは目を覚ました。ハルカによって負わされた傷を少しでも癒そうと瞑想している内に、いつのまにか眠ってしまったらしい。

 

 回復のための睡眠が必要無い霊体になって幾年月……夢など見たのは何十年振りか。それも生きていた時の中で最も楽しかった頃の夢とは……

 懐かしいあの頃を思い出し内心嬉しくはあったが、手ひどい傷を負わされたこの状況、とても吉兆とは思えなかった。

 

 

「………………」

 

 子供達の笑顔が鮮明に蘇る。闇に堕ちてからも片時も忘れた事は無い。だが幼子の笑顔を守ろうと生きていた私が、今はその子供らの未来を奪い尽くそうとしている。今の私を見たらあの子達は何というだろうか……?かつてと同じように笑いかけてくれるのか?それとも………………

 

 

”バァンッ!!”

 

「……!」

 

 その時、大広間の扉が勢いよく開き、続けて悪魔の亡骸がシャフトの目の前に投げ込まれた。そして悪魔の死体に続くように、二つの影が広間へと入って来る。

 

「無粋な……」

 

 広間に乗り込んできたのは赤毛のヴァンパイアハンターと金髪の貴公子の二名だった。

 

 

「……娘子と軍人は辿り着けなかった様だな……」

 

「……!誰のせいで……ッ!!」

 

 直接手を下した訳では無いにせよ、その要因を作った当人の他人事のような物言いに、ユリウスが一気に気色ばむ。だがシャフトは激昂するユリウスに悪びれる様子も無く、足元に置かれた魔物におもむろに目をやる。

 

 

「もはやルビガンテ程度では足止めにもならぬか……」

 

 頭部から二本の角を生やした大柄な悪魔は、舌をだらしなく垂らし無残に果てている。少なくともこの悪魔城では上位に属する悪魔族のはずだが、神の使途を相手どるにはいささか荷が勝ちすぎたようだ。

 

 

「デスも大口を叩いておきながら情けない。あれだけお膳立てしてやったというのに()()()軍人一匹仕留めるのがやっととは……」

 

「…………!!」

 

 シャフトはユリウスの感情を逆撫でるかのように、薄笑いを浮かべながらラングの話題を口にし始めた。仲間を救うために命を賭した友人を馬鹿にされ、一瞬我を忘れそうになったユリウスだったが………………シャフトのあからさまな挑発が逆にユリウスを冷静にさせた。

 

 

「……今更駆け引きなんざやってる暇は無えんだ。とっとと始めようや……」

 

「…………ッ」

 

 底知れぬ怒りを心の奥底に秘め、ユリウスがシャフトに宣戦布告する。

 

 

「………………やむを得まい。ホールでの決着……今度こそつけるとしようか!!」

 

 精神を乱すための挑発が通じないと見るや、シャフトはすぐに思考を切り替える。シャフトが呪詛を念じるや否や、瞬く間に無数の水晶玉がシャフトの周囲に召喚される。

 一方ユリウスもシャフトとほぼ同時に戦闘態勢を取っていた。シャフトが水晶玉を召喚するよりも早く腰のホルダーからヴァンパイアキラーを引き抜き、構えていたが…………

 

 

 

 

 

 

「……なんと禍々しい…………!」

 

 

 シャフトはユリウスの持つ鞭の変化に目を見張った。ユリウスの力を受けたヴァンパイアキラーはその身を燃え盛る炎へと変える……だがその炎の色が以前の赤色ではなく、ドス黒い紫色へと変わっていたのだ。

 

「かような邪気をはらんでいながら聖鞭などとよく言えた物よ。まるでデスの放つ瘴気の様ではないか……!」

 

 魂が凍えるような冷たい闘気を放つヴァンパイアキラーを見て、シャフトがせせら笑う。

 

「そのような代物で我らに歯向かおうなどと片腹痛い。その濁り切った鞭では伯爵様はおろか、この私ですら…………」

 

 

”シパァァァンッ!!”

 

――!?

 

 

シャフトが口上を言い終わる前に、ヴァンパイアキラーの一撃が放たれていた。

 

 

「ぐ…………ッ!?ぐアアアアァァァッ!!?」

 

「……もう始まってんだぜ?ぐだぐだ能書き垂れてんじゃねえよ…………」

 

 

 放った鞭を引き戻しながら、ユリウスが冷たく言い放つ。力を増したヴァンパイアキラーの威力を、シャフトはその身をもって体感する事となった。ハルカの魂を取り込んだ鞭は何重にも張り巡らされたシャフトの防御結界を貫くだけでなく、ただの一撃でその左腕を消滅させたのだ。

 

 

「な、何だこの威力は!?このわずかな間に奴に一体何があったというのだ……ッ!?」

 

 

 ダンスホールで邂逅した際はまだダメージを受けるだけですんだヴァンパイアキラーの攻撃。だが今喰らった鞭の威力はあの時の比では無い。シャフトは消し飛んだ肩口を押さえながら、必死に思考を巡らす。

 

 

――舞踏館の時とは比べ物にならぬ威力……、この急激な成長は仲間を失った怒りが原因か?

――いやそれだけではない。鞭に触れた瞬間、深い絶望と共に強大な魔力を感じた……

――精神的なタガが外れただけではこの力の増大は説明がつかぬ……!

 

 

”ジャリッ”

 

「!!」

 

 だが考えがまとまる前に、ユリウスが一歩踏み込む音が聞こえた。やむなくシャフトは思考を中断し、目の前のユリウスと改めて向きなおる。

 

 

「ぐぅぅ……ッ、どうせ碌に動かぬ腕……、貴様のおかげで身軽になったわ!」

 

「そうかい…………なら体が無くなるまで軽くしてやるよ!!」

 

 左腕を失ってなお挑発めいた軽口をたたくシャフトに、ユリウスの怒りの炎がさらに燃え上がる。手負いの暗黒神官目掛け、再び渾身の一撃が放たれた!

 

 

「――速い!?」

 

 先程と違い今度は警戒していたにも関わらず、シャフトはまたしてもユリウスに先手を許してしまった。あらかじめ展開しておいた水晶玉が間に合い直接のダメージは避けたが、たった一振りで盾となった水晶玉達が粉々に打ち砕かれてしまう。

 

 

「な、何という力だ。このままでは……ッ!」

 

 鞭の威力もさる事ながら、ユリウスの攻撃には一切の躊躇が無かった。このままでは一方的にやられるだけと、シャフトは一旦宙へ飛んで逃げようとしたが……

 

 

「逃がすかッ!」

「何ッ!?」

 

 ユリウスから逃れようとしたシャフトを、アルカードの振るうヴァルマンウェが待ち構えていた。”勝利を呼ぶ風”所ではない、”勝利をもぎ取る暴風”の如き荒々しい斬撃がシャフト目掛け襲い掛かる!

 

「く……ッ、城に来たばかりの頃に比べ連携が様になっておる……ッ!」

 

 年若く、成長途上のユリウスは勿論だが、アルカードもまた、長い戦いの中で仲間と連携するという術を体得していたのだ。ユリウス達が悪魔城に侵入してから、その戦いぶりを水晶玉を通して監視してきたシャフトだったが、ユリウスとアルカード、両者の流れるような攻勢には舌を巻かざるを得なかった。

 

 

「チィッ!少しばかり小慣れた程度で……図に乗るで無いわァッ!!」

 

 両者の勢いに飲まれてたまるかと、シャフトは今一度自身に気合を入れ直し、周囲に散らばる水晶玉に魔力を送った。たちまち緑色の水晶玉が赤く発光しだす。

 

 

「煉獄の炎に焼かれて死ねィッ!!」

 

「!」

 

 大広間全体に散らばった水晶玉の一つ一つが極太の火炎放射を放ち、瞬く間に広間を煌々と光る橙色に染める。その凄まじい火勢にアルカードは一旦シャフトから離れるが……

 

 

 

 

 

聖 水 降 雨 術(ハイドロストーム)!!」

 

「なッ!?」

 

 

 だがアルカードと入れ替わるように、今度はユリウスの退魔術の呼び声が広間に轟いた。ユリウスの魔力によって増幅された聖水がスコールとなって広間全体に降り注ぎ、暗黒の炎をたちどころに消火してしまう。

 

 

「馬鹿な!?鞭だけでなく武器解放術(アイテムクラッシュ)まで完璧に使いこなせる様になったというのか……!!」

 

 シャフトの脳裏に二百年前の戦い……肉体を捨てる原因となったリヒター・ベルモンドとの死闘が蘇る。最強のヴァンパイアハンターと謳われた男が得意とした術を、長き戦いの末この若きベルモンドもとうとう使えるようになっていたのだ。

 

 

”ザアアアアアアア……!”

 

「………………」

 

 聖水の雨が炎を消すのと同時に、一度は燃え上がったシャフトの闘志も冷水をかけられた様に鎮火してしまった。聖水の雨に打たれるまま、シャフトはある種の悟りにも似た心境になっていた。

 

 

「……これでは……万に一つも勝ち目は無いか……」

 

 

 深殿での戦闘で深手を負っている上、相手は力を増したベルモンドの末裔と魔王の息子。もはやまともに組した所で勝ち目は無い。かといって今いる大広間を抜ければ後は城主の塔へ直接続く最上階のみ。これ以上退く事は自身の誇りという点でも、また闇の眷属の死命の点からいっても絶対に出来ない。

 

勝つ事は出来ぬ……、されど退く事も出来ぬ……。

 

 

 

進退窮まったシャフト。果たしてこの老僧が導き出した結論は――――

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ……終わらぬッ!」

 

「!?」

 

 だが絶望的な窮地に追い込まれて尚、シャフトの目に諦めの色は見えなかった。

 

 

「古の魔物共よ……我が叫びに答え姿を現せッ!!」

 

 

 シャフトが言霊を告げるやいなや、大広間の床に無数の魔法陣が光り、中から異種異形の怪物たちが現れる。

 

……太古の翼竜と見紛う程巨大な翼を持つ ”大コウモリ”

……無数の蛇の頭髪をくねらせ、石化の魔眼を光らせる ”メデューサ”

……冥府から蘇った呪われし王族 ”ミイラ男”

……狂気の実験によって作り出された異形の人造人間 ”フランケンシュタイン”

 

悪魔城が誇る四大クリーチャーとも呼ばれる古の魔物達が今、シャフトの手によって再び悪魔城に召喚されたのだ!

 

 

「行け我が下僕共よ!お前たちの標的はベルモンド一人!伯爵様のひざ元へ足を踏み入れんとする不届き者に身の程を解らせよ!!」

 

「!!」

 

 シャフトの号令の下、召喚された四大怪物たちがユリウスの下へ殺到する!

 

 

「ユリウス!」

 

 仲間の窮地に、アルカードが咄嗟に身を翻す!だが――

 

 

”ヴィシャァァァンッ!!”

 

「くッ!!」

 

 その行く手を不意に稲光が遮った。

 

 

「どちらへ行かれる?御子息殿にはもうしばし私と付き合ってもらいますぞ……」

 

「シャフト……ッ!」

 

 どういった狙いがあるのかは解らないが、シャフトは召喚した怪物たちを全てユリウスの下へと差し向け、自身は一人、アルカードの前に立ち塞がった。不可解なシャフトの行動に、アルカードがおもむろに問いかける。

 

 

「一体どういうつもりだシャフト。今更あの程度の魔物を呼び寄せた所で、もはや貴様に勝機など無いぞ!」

 

「……勝機……だと?」

 

 

 高貴な暗黒神官らしくない、醜いあがきともとれる行動を取るシャフトに、アルカードがその真意を問いただす。……が、

 

 

 

「そのような事………………」

 

 

 

 

 

 

 

「貴様に言われずとも端から解っておるわ!!」

 

「!?」

 

 シャフトの返答にアルカードは言葉を失う。それまで表面上だけとはいえ、主君の息子に対しそれなりの敬意を示していたシャフトの口調が、今初めて明確な怒気をはらんだ物へ変わったのだ。

 

 

「この暗黒神官シャフトをなめるなよ若僧?例えこの身朽果て、魂滅せようとも、必ずや我が野望を成してみせようぞ……!!」

 

「………………ッ」

 

 

 もはや勝ち目の無い状況に追い込まれながら、未だ闘志を失わず敵意を放ち続けるシャフト。アルカードは剣を構えながらも、目の前の暗黒神官の真意をただただ計りかねていた…………

 

 

 

 

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