悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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 禍々しくうねる夢の世界を舞台に、ユリウスとドラキュラ、宿命の男達が対峙する。精神力によって優劣を左右される夢の世界の戦いは、大ケガを負い、体力も尽きかけているユリウスにとって千載一遇のチャンスかと思われたが……
 


最終決戦8 ―譲れないもの―

「夢の世界……か、」

 

 ドラキュラは周囲の空間を見回すと、ユリウスの方を向きニヤリと笑みを浮かべた。

 

「貴様だけが夢の恩恵に預かれると思うな……夢見がちな愚か者に現実という悪夢を見せてやろう!」

 

「!?」

 

 ドラキュラが不意にその手を掲げると、マーブル模様に揺らめいていた夢の世界が瞬く間に色づき始め、徐々にはっきりとした形へと変わっていく……

 

 

 

 

「……子……供?」

 

 ユリウスの目の前に現れたのは、まだ幼さの残る少女だった。手下の女悪魔を召喚したのかとユリウスは警戒するが……

 

 

「いやあああああ――ッ!!」

「なッ!?」

 

 突如巻き起こった火柱が、瞬く間に少女を包み込んだ!

 

「熱い!熱いよ―っ!お母さ……!!」

 

 皮膚と髪の毛が焦げる不快な匂いが、瞬く間に周囲に立ち込める。生きたまま火あぶりにされる少女は、身が焼ける苦痛の中、必死に母親に助けを求めている。

 

「チィッ!!」

 

 ユリウスは少女を救おうと、ヴァンパイアキラーで炎から引っ張り上げようとした。だが鞭は少女の体をすり抜け、空しく宙を裂く。

 

「幻影!?」

 

 果たして目の前の光景はドラキュラが作り出した幻だった。だがただの幻覚と切って捨てるには余りある程、肌に感じる熱さ、耳に残る悲鳴、人が燃える不快な匂い、そのいずれもが真に迫っていた。

 

「いぎぃぃぃぃッ!!」

「――!?」

 

 間を置かず、今度は後から悲鳴が聞こえてきた!ユリウスの背後に現れたのは、不気味な拷問具に股を引き裂かれ、惨たらしい絶叫をあげる女性だった。拷問具を壊そうと鞭を振るうが、やはりこちらもすり抜けてしまう。

 

「どうしたベルモンド?顔が青ざめているぞ?」

「…………ッ!」

 

 惨たらしく殺されていく人間達を前にして、冷酷な微笑を浮かべるドラキュラ。一方ユリウスは目の前の迫真過ぎる光景に徐々に精神を乱されていく。

 

 

「こんなもん……何だってんだッ!」

 

 ドラキュラの作り出した幻影を振り払う様に、ユリウスがドラキュラ目掛けヴァンパイアキラーを放つ。だが先程はドラキュラをたじろかせた鞭が、今度は逆に軽々と弾かれてしまった。

 

 

「今からそんな体たらくで持つか?まだ地獄は始まったばかりぞ?そらッ!!」

「……!!」

 

 ドラキュラの掛け声と共に、先程までの拷問風景は一転、骸骨の様にやせ細った人々の光景へと変わる。

 

 

道端にうち捨てられた餓死者達の横を、毛皮のコートに身を包んだ婦人が悠々と闊歩していく……

 

まだ息がある赤子が、死んだ母の乳房にすがりつく。それを飢えた野犬がじっと狙っている……

 

枯れ枝の様に痩せた男性が逆さ吊りにされ、糞便の入った桶に何度も沈められる……

 

 

「う……ぐ……やめろぉぉッ!」

 

 自身の中から湧き上がる迷いを断ち切るように、ユリウスがヴァンパイアキラーを振るう!しかしその鞭にいつもの力は無く、ユリウスの攻撃は弾かれるどころか、そもそもドラキュラに届きすらしなかった。

 

「鞭の威力が落ちているぞベルモンド。人間の醜さを知って怒りが萎えたか?もっとも私は……」

 

 

 

 

「逆に怒りが湧き上がってくるがなァッ!!」

 

「ぐうあぁぁッッ!」

 

 ドラキュラが軽く剣を振り払っただけで、強烈な衝撃波が巻き起こった!ユリウスは即座に防御姿勢を取ったが、その威力の前になすすべなく吹っ飛ばされた。

 

「所詮貴様の覚悟などその程度……、さあ続きだ!」

 

 ダメ押しとばかりに三度風景が変わる。処刑場へ続く長い列を待つ人々、兵士たちの慰み者にされる年端もいかぬ少年少女、毒ガスに目を犯された兵士達が紐で結ばれ列をなし歩く。ろくな食べ物も与えられず、見せしめに腕を切られる奴隷達…………

 

 

「く……、うぅ……、やめろ……やめ……てく……ッ」

 

 

 それはまるで目まぐるしく変わる暗黒の万華鏡だった。精神の状態がそのまま力に変わる夢の世界で、人間の負の歴史をまざまざと見せられたユリウスは目に見えて弱っていく。先ほどの攻勢が一転、ユリウスは鞭を振るう事も出来ない程に力を失っていた。

 

「……はぁ、……はぁ、こんな……幻で……」

「幻……だと?」

 

 焦燥したユリウスの口から洩れた何気ない一言。だがドラキュラはその言葉に対し敢然とした態度で言い放った。

 

「今貴様が見ている光景はまやかしでも、私が作り出した幻影などでも無い。全てこの数百年の間に実際に地上で起こった事だ」

 

「……ッ!」

 

「人間とは勝手な物だ。自分と少しでも違う者がいれば迫害し、優れた者がいれば妬み、恨み、引きずりおろそうとする」

 

「そのくせ自分に都合が良ければ褒め、讃え、利用し、すがりつく……そんな醜い者達を私はこの目で嫌という程見てきた……」

 

「人間どもがお前たちの一族に何をしてきたか知らぬわけではあるまい?ほんの少し歴史の歯車が狂っていれば……お前の先祖もあの中に居たのだぞ?」

 

 

「…………そんな事はッ」

 

 ユリウスが必死に反論する。だが、ドラキュラは揺るぎない、確信に満ちた言葉で続けた。

 

 

「絶対に無いと言い切れるか?悪魔の世迷言と思いたくば思え。お前の先祖達も今のお前の様に反論した……」

 

「だが現実はどうだ?私が人間に反乱を起こしてから優に500年は経つが……その間私は一体何度蘇った?その度にヴァンパイアハンター共は偉そうな口を利いたが、何年経とうが人間は何も変わってはおらぬではないか!!」

 

 

「違う!」

 

「!!」

 

 

 

 

 

「人間は……お前が思ってるほど」

 

 

 

 

「捨てたもんじゃねえッ!!」

 

 

 ユリウスは残りの力を振り絞り、ドラキュラ目掛けヴァンパイアキラーを振るった!だがドラキュラは微動だにせず、その真紅の瞳に静かな怒りを湛え言い放つ。

 

「その台詞は……」

 

 

 

 

 

「聞き飽きたッ!!」

 

「―――ッ!!」

 

 ユリウスの反論を断罪するかの如く、ドラキュラが超特大の黒炎球を放った!

 ドラキュラの怒りをそのまま具現化したかのような黒炎球は、ヴァンパイアキラーごとユリウスをその火勢の中に飲み込み、焼き尽くす!

 

「うああああッ!!」

 

”ガシャアァァン!!”

 

「!」

 

 だが術の威力が強すぎたのか、黒炎球はユリウスもろとも夢の世界の壁を吹き飛ばしてしまった。

 

「チッ!少々興が乗りすぎたか……」

 

 ひび割れた鏡の様に覗く空間からは、以前と変わらぬ空中庭園が見える。ドラキュラが吹き飛ばされたユリウスを追って元の世界に戻ると、開いていた夢の世界は陽炎の様に消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……が……ッ」

 

 特大の暗黒火球を喰らって尚、ユリウスは生きていた。だが全身に重度の火傷を負い、仰向けに倒れたまま動く事すら出来ない。一足遅れて庭園に戻ってきたドラキュラが、地面に倒れたユリウスを冷たい眼差しで見下ろす。

 

「この魔王に大層な物言いだったが……人間の良さとやらを見せてくれるのでは無かったのか?なあ、ベルモンドよ?」

 

「……ッ……ッ」

 

 ユリウスは先の暗黒炎で喉と肺を焼かれているのか、ドラキュラの挑発にも「ヒュー、ヒュー」と、かぼそい呻き声を上げる事しか出来ない。

 しかもリリスに治癒してもらった胸の傷も再び開き、体の至る所から大量の血が溢れだした。

 

「千年に渡る因縁も、最後はあっけない物だな……」

 

 もはや会話する意味も無いとみたか、ドラキュラはわずかなため息をつくと剣を振り上げた。しかしドラキュラの鋭敏な五感は、自身を狙う微かな殺気に気付いた。

 

 

 

 

 

「ユリ……ウス……」

 

「アルカード……!」

 

 振り返った殺気の出所……力を奪い尽くした筈のアルカードが体を起こし、こちらを睨んでいた。

 

 

「まだ生きていたか……ベルモンドといい貴様と言い、全く人間とはしぶとい生き物よ……!」

 

 暗黒の力を奪い尽くし、生命活動に必要な血液もほとんど吸い取った。にもかかわらず意識を取り戻し、自身に敵意を向けてくるアルカードに、ドラキュラは若干の驚きと、膨大な苛立ちを覚えたが………

 

 

「ソウル……スティー……ル」

 

「……ほう!闇の血は全て抜き取ったと思ったが、まだ暗黒の術を使えたか!」

 

 もはや戦う力など残っていない筈の愚息が、健気にも術をかけ、最後の抵抗を試みている。その哀れさを通り越した惨めな姿に、驚きは嘲笑へと変わっていく。

 

「今更そんな事をして何になる?現に私には露ほども効いてはおらぬぞ?」

 

 アルカードがなけなしの魔力を振り絞って放ったであろう魂吸引術だったが、ドラキュラの言う通り全くと言っていいほど効果は見られなかった。それどころかただでさえ老人の様にやつれていたアルカードの肉体が、見る間にミイラ同然の姿へ変わり果てていく……

 

「……フッ

「……?」

 

 だがどういう事か、アルカードは勝ち誇った笑みをドラキュラに投げかけると、そのまま静かに事切れてしまった。

 

「何がおかし……」

 

 その不敵な笑みを訝しみ、ドラキュラが首を横に向けた次の瞬間……

 

 

 

”ガブゥッ!!”

 

「ぬぅおォアァ゛ッ!?」

 

 焼けつくような痛みがドラキュラの首筋を襲う!突如息を吹き返したユリウスが、ドラキュラが注意を反らした一瞬の隙にその首筋に噛みついたのだ!

 

「グウウ!下郎が!離れろォッ!!」

 

 何処にそんな力を残していたのか、ドラキュラの首に食らいついたユリウスはカミツキガメの様に食らいついて離れない。やむなく、ドラキュラは自身の皮膚ごと力まかせにユリウスを引っぺがす!

 

”ドシャァッ!”

 

「ハァ……、ハァ……、ベルモンドォ……ッッ!」

 

 食らいつかれた首筋を押さえながら、興奮冷めやらぬドラキュラは肩を揺らし息を荒げる。一方地面に突き飛ばされたユリウスは無言のままゆっくりと起き上がると、口の中に残ったドラキュラの皮膚と血液を、味の抜けたガムの様に”ペッ”と地面に吐き捨てた。

 

「ゲホッ、ゲホッ、まっじい……」

「貴様ァァァ……!下賤な人間の分際で我が肉体を……ッ!!」

 

 自身の肉体をまるで反吐のように吐き捨てたユリウスに、ドラキュラは憤る。目の前の不届き者に制裁を加えるべく、即座に剣を振り上げるが……

 

”――グラッ”

 

「!!?」

 

 ものの数秒もたたぬうちに視界が歪み、ドラキュラはその場に膝をついてしまった。

 

「な……、これは……!?」

 

 まるで熱病にでも侵されたかのように体が熱くなり、自由が効かない。視界もグルグルと回転し、白昼夢でも見ているようだ。

 

「どうしたドラキュラ?噛みつくのが趣味でも噛みつかれるのは初めてか?」

「!……ッ」

 

 ぐにゃぐにゃに歪んだ視界の先、挑発的なユリウスの声が聞こえてきた。

 

「ジョーンズの奴が言ってたぜ?俺の血はお前にとっちゃ猛毒だってな……!」

「……ッッ!」

 

 ユリウスが血で真っ赤に染まった歯を剥きながら”にィィ”と笑う。

 噛みついた瞬間、ユリウスは自身の血液を傷口からドラキュラの体内に送りこんでいた。ドラキュラにとってベルモンドの因子はヒ素や青酸カリ以上の劇物。一時的とはいえその力を削ぐには十分だった。

 

「この……死にぞこないが……!」

 

 ドラキュラが何とか立ち上がろうとするが、ベルモンドの血の呪いは予想以上であり、再びその場に膝をついてしまう。

 

――何故だ、何故こんな真似ができる?奴はまともに動く事も出来なかった筈……!

 

 ベルモンドの血が起こす拒絶反応に耐えながら、ドラキュラが必死に思考を巡らす。

賢者の石は砕いた。リリスも死んだ。回復薬を使った様子も無ければ、奴は治癒魔法も使え……――!!

 

 その時、ドラキュラの脳裏に息子、アルカードの不敵な笑みが過ぎる。

 

「まさか……先のソウルスティールは私では無く……!?」

 

 首元を押さえながら振り返る。そこには全ての力を使い果たし躯となったアルカードが転がっていた。もちろんアルカードからは何の返答も無い。

 だがその表情が全てを物語っていた。アルカードは僅かに残された闇の力を使い自身の命を吸引、その全てをユリウスに託したのだった。

 

 

 

「ドラキュラ、さっき人間がどうとか言ってたな」

 

「!!」

 

「何度でも言ってやる。人間は捨てたもんじゃねえ」

 

「…………ッッ!」

 

 

 

――人間は捨てたもんじゃない……そうだろ?みんな――

 

 ユリウスは思った。確かにドラキュラの言っている事は真実かもしれない。ユリウス自身これまで生きてきた中で、迫害に近い仕打ちを受けた事も一度や二度では無い。

 だがそれが人間の全てでは無い事もユリウスは知っていた。母さん、父さん、ジョナサン先生、アルカード、ハルカ、ラング、この城に来てから会った多くの人達。そして……人間では無いがリリス。

 関わった時間に差こそあれど、彼らが自分に与えてくれたものの大きさ、強さは計り知れない。それを知っているからこそ、ユリウスはドラキュラの言い分全てを正しいとは決して認められなかったのだ。

 

 

「人間の醜い性根をあれだけ見せてやっても解らぬとは……ベルモンドとは正真正銘の虚けだな!」

 

 ドラキュラは剣を杖代わりに何とか立ち上がると、吐き捨てる様な罵倒をユリウスに浴びせる。だが……ヒートアップするドラキュラとは対照的に、ユリウスは自分でも驚くほど冷静に目の前の敵を見据えていた。

 

 

「そうかい、じゃあ頭の良いお前に聞くけどな、なんで俺は混沌の中に入れたんだ?」

 

「……!?」

 

「俺が受け入れられたんじゃない。鞭に使ったアルカードの剣……アルカードの母親の魂をあんたが受け入れたからだろう?」

 

「今でもあんたが嫁さんだけは信じてる証拠だろうが。あんたの嫁さんは何なんだ。正真正銘紛れも無い人間だろうが!」

 

「―――ッッッッ」

 

 

 ユリウスの言葉は、ドラキュラが敢えて目を背け続けていた核心をついていた。だがその無垢な言葉はドラキュラを心の底からいらつかせた。

 

 

「リサが……下等な人間共と同じだとォォォッッ!?」

 

 

 自身のレーゾンデートルと呼ぶべき対象を、滅ぼすべき有象無象と同一視される……ドラキュラにとって最大級の侮辱と呼べるその言葉は、ドラキュラの感情を一気に昂ぶらせ、ドス黒い闘気となって燃え上がらせた。その湧き上がる怒りの力は、ユリウスに浴びせられたベルモンドの血を一瞬で消し飛ばすほどだった。

 

 

「切り刻んでも、焼き尽くしても、その度に油虫の様に湧き、減らず口を叩く……」

 

「貴様らは何だ!?一体何度叩き潰せばくたばるのだッ!!」

 

 

 

 滾るドラキュラに、ユリウスは答える。

 

 

 

「決まってんだろ……」

 

 

 

 

「お前を完全に滅ぼすまでだ!!」

 

 

 瞬間、ドラキュラに相対するかのように、ユリウスから黄金色の闘気が発せられ、手に持つヴァンパイアキラーが白く輝く波動の鞭へと変化した。

 

 アルカードが託してくれた力は本当に……本当にちっぽけな物だった。だが逆にそのちっぽけな力がユリウスに勇気を与え、奮い立たせた。

 自身の命を顧みず、全てを託してくれた仲間達の想いが、諦めかけていた青年の心に、再び闘いの火を灯していた。

 

永き闘いの終曲は……目前に迫っていた――

 

 

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