悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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最終決戦9 ―死闘の果て―

 

 リリスが……アルカードが……そして皆が繋いでくれたこの命。絶対におろそかにはしない!!

 

 アルカード達のくれた微かな……しかし大きな力を胸にユリウスは鞭を構える!その視線の先には、城の混沌全てを纏ったドラキュラが仁王立つ!!

 

「滅ぼす……だと?完全体となった私を……?」

 

 

 

「世迷言は……死んでから言ええエエェェッッ!!!」

 

 

”ヴゥオオオォォォウッ!!!”

 

「!!」

 

 ユリウスの行動、言葉、そして何よりその真っすぐな眼差しがドラキュラの神経を逆撫で、腸を煮えくりかえらせる!

 逆上するドラキュラが震える手で無理やり大剣をふりかざすと、幾度となく行く手を阻まれた、目に見えぬ衝撃波が再びユリウスを襲う!

 

 

”――見える!”

 

 

 アルカードから闇の力を受け継いだおかげか、さっきまで知覚する事も出来なかったドラキュラの攻撃を、ユリウスはしっかりと捉えられる様になっていた。

 ドラキュラの背後に、黒い靄の様なものがまとわりついている。それが剣閃に重なる様にしてこちらに向かって来る!

 

「うおおおおおおおおお―――ッ!!」

「ッ!?」

 

 自身に迫りくる暗黒の闘気に、ユリウスは閃光となったヴァンパイアキラーで対抗する!荒れ狂う黒龍と化した剣と、輝く白竜と成ったヴァンパイアキラーが絡み合い、鎬を削る!

 

「ぐううううううッッ!」

「ぬうあああああッッ!」

 

 光と闇、双方一歩も引かぬ鍔迫り合い!互いの闘気が身を焦がす中、両者とも歯を食いしばり、必死に耐える!

 

――何故だ!?何故こうも……!

 

 雌雄を決する戦いの最中、ドラキュラは目の前の敵から湧き上がる力を訝しんでいた。

 既に夢の世界の力は消え、回復した体力も極僅か。ベルモンドの血を浴びた事による弱体化もあるにせよ、未だ互いの力には歴然とした差があるはず……

 

「!」

 

 その時、ドラキュラの眼にその場にいるはずの無い者が映った。

 

「アル……カード!?」

 

 拮抗する互いの波動がたまたま人の形に見えたのか、それともアルカードの思念が乗り移ったのかは解らない。だが相対するベルモンドに寄り添うアルカードの姿をドラキュラは確かに見た。

 

『でえええ……やあああ―――ッ!!』

「――ッ!!」

 

 死んだはずの息子の影を垣間見、ほんの一瞬ドラキュラの精神が揺らいだ。それに対し背水の陣を引くユリウスとアルカードの覚悟がわずかに勝った。本来ならば勝てたはずの力比べが一気に崩れ、ユリウスに押し切られる形で力場が崩壊する!

 

 

”ズバアアアァァァァッ!”

 

「!!?」

 

 ユリウスの放った光の鞭が、ドラキュラの放った混沌を暗雲を散らす様に払いのける!

 

 

「ぬぅぅぅぅ……まさかッッ!!」

 

 今まで一度たりと切り返される事の無かった混沌の剣圧を防がれ、ドラキュラの驚きと苛立ちは最高潮を迎える。だが……

 

「がは……ッ!?」

「!」

 

 ドラキュラの攻撃を見事に凌いだユリウスだったが、たった一度の攻防で魔力を失い、宿敵の前で膝を屈してしまう。

 

「ぐ……、ちくしょう……!」

 

 死を賭してアルカードの託してくれた力は確かにユリウスを奮い立たせた。だがその絶対量は、地球に匹敵する力を持つドラキュラを相手どるにはあまりに少なすぎた……!

 

「どうやらここが ”人間” の限界の様だなベルモンド?」

「……ッッ」

 

 息も絶え絶えのユリウスとは対照的に、ドラキュラは明らかに力を取り戻しつつあった。先の奇襲で撃ち込んだ血の呪いも、すでにそのほとんどを浄化しつつあるようだ。

 

「我が妻を侮辱した罪、その命で償えい!!!」

 

 ドラキュラは瞬く間に剣に混沌を纏わせると、動けないユリウス目掛け一直線に振り下ろす!

 刃渡り数百メートルにもなろうかという混沌の暗黒剣が、空中庭園ごとユリウスを真っ二つにしようと襲い掛かる!

 

 

”――目を逸らすな!”

 

 

 何か策があるのか。それともただの意地か。自身に迫りくる死の剣を前にして、ユリウスは目を背けるどころか食い入るように視線を離さなかった。そして今まさにその切っ先が触れる寸前――

 

 

”ギギギアァドオオオォォ……ンッ!!”

 

 

 何千何万の亡者の呻き声ともつかぬ不気味な音をたて、ドラキュラの混沌の剣が空中庭園を両断した!

 

「――!」

 

 だが瞬間ドラキュラは異変に気付いた。確かに捉えたはずの手ごたえが……無い!

 

「……」

 

 ドラキュラの剣閃が巻き上げた砂ぼこりと、黒色の瘴気が辺りに立ち込め視界はかなり悪い。だがドラキュラは鋭敏にユリウスの行動を探知していた。

 

「馬鹿め……その技は見切っているわ!」

 

 立ち込める煙の中、無数の影と気配が揺らめいている。例の”色即是空”とかいう体術を使い、かろうじて今の一撃から逃げおおせたらしい。

 

 しかも気配から察するに、なけなしの力で最後の抵抗を試みようとしているようだ。朧げな気配が少しづつ、ドラキュラを取り囲むように距離を詰めているのが解る。

 その動きは一見不規則なようで、その実細かい調整が利かない事をドラキュラは見抜いていた。

 

――そこォッ!!

 

 熟練の戦闘機乗りが敵の未来位置へ銃弾を叩きこむ様に、ユリウス本体が進もうとしている方向へドラキュラの魔手が伸びる!

 

”フッ”

 

「!?」 

 

 だが今まさにユリウスを掴もうとした瞬間、存在していた無数の気配が全て消え去り、ドラキュラの手は空を掴んだ。

 

”ビュオウゥゥッッ!!”

 

「――なッ!?」

 

 間髪入れず、ヴァンパイアキラーの風切り音がドラキュラに迫る!

 

 

――見切られているなら……捕まえられる前に解除すればいい!――

 

 本来は回避や撹乱に使うための体術「色即是空」。ユリウスはそれを逆手に取り、”色即是空を使って避ける”という行動を撒き餌に使い、それ自体を途中でキャンセル、即座に反撃に転じたのだ。

 

「チィィッ!この期に及んで小細工をッ!」

 

 砂煙の中からとびだしたヴァンパイアキラーがドラキュラの右眼前に迫る!ドラキュラは斬撃に使った混沌をすぐには補充できず、やむなく抜き身の剣でユリウスの鞭を迎え撃つ!

 

 

”ギイィィィィン……ッッ!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?エリザベータが……死んだ……!?」

 

 

「はい……、原因不明の病にかかり、手の施しようもなく……」

 

 

「そんな……エリザベータ……嘘だと……嘘だと言ってくれ!」

 

 

「奥方様は……今際の際まで、旦那様の名を……その身を案じておられました……」

 

 

「…………!!」

 

 

「神よ……私は貴方の従順な僕として今まで生きてきた……それが……その仕打ちがこれか!」

 

 

「許さん……許さんぞ……もう貴様など信じるものか……今に……今に見ていろ神め……!」

 

 

 

 

 

 

「お初にお目にかかる……我は全ての死を司る神……”デス”」

 

「死神……だと?」

 

「貴公の強き思いにより蘇りたり……、主よ何を望まれる?その願い叶えてしんぜよう」

 

「望……み……」

 

「決まっている……、神への……復讐!!

 

 

 

 

 

 

「レオン!私と共に来い!」

 

「マティアス……俺は……お前を永遠に許さんッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”パァァァァンッ!!”

 

「――くうッ!!」

「――ぬうッ!!」

 

 絡み合った互いの矛は、青白い閃光を発しながら共にはじけ飛んだ!

ユリウス、ドラキュラ、両者ともにその衝撃に吹き飛ばされるが……

 

「な、何だ……今のは!?」

 

 ユリウスは突然起こった不可思議な現象に混乱していた。

ヴァンパイアキラーとドラキュラの剣が重なった瞬間、ユリウスの脳内に突如明朗な映像が流れ込んできたのだ。

 美しい女性、死神、そして二人の騎士。映像は断片的な物で詳細は解らなかったが、最後に見た男たちは凄まじい剣幕で何か言い合っていた。顔立ちから見ておそらく一人はドラキュラ。ではもう一人の白い甲冑を纏った男は……

 

「ベルモンドッ!貴様私の記憶を覗いたなッ!?」

「記憶……だって!?」

 

 思案するユリウスを、ドラキュラが糾弾する。どうやら今脳内に流れてきた映像は、やはりドラキュラの過去だったらしい。

 自身の手に握られたヴァンパイアキラーを見る。奴の剣とは何度も鍔迫り合いをした。何で今になってそんな事が……!

 

「血……か?」

 

 思い当たるとすればアルカードからもらった最後の生命。そしてドラキュラに噛みついた時少なからず飲み込んだであろう奴の血液。

 それらが鞭に練りこまれたアルカードの剣とリンクした事で、一時的にドラキュラと意識が繋がったとしか思えなかった。

 

「この……痴れ者がァッ!!」

「!!」

 

 最も見られたくない相手に自身の過去を覗きこまれる……耐えがたい屈辱に動転したドラキュラは、剣に混沌を纏う事も忘れ目撃者の首を斬り落とそうと襲い掛かった!

 

「くッ!!」

 

 咄嗟に鞭を放ち剣を防ぐユリウス!と同時に、やはりさっきと同じように鮮明な映像が脳内に流れ込んできた……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない所だったな。貧しき者への施しも結構だが、女一人でかような場所を歩くな……ど!?、そんな、まさか、エリザ……ベータ?!?」

 

「エリザ……ベータ?私はリサと申します。あなたは……」

 

「……はっ!、わ……私か?私の名は……」

 

 

 

 

 

 

「……ヴラド、ヴラド、どうされたのですか?ぼうっとして」

 

「いや、不思議なものだな……。リサ、そなたといると心が和らいでいくのが解る。こんな安らいだ気持ちになったのは一体いつぶりだろうか……」

 

 

 

 

 

 

「リサ、私の……妻になってはくれまいか……?」

「……!、その言葉を……待っていました……」

 

「……では!」

「はい……喜んで……お受けいたします……」

 

 

 

 

 

 

「愛しているぞ……リサ」

「ヴラド……私も……愛しています……」

 

 

 

 

 

 

「オギャァ!、オギャァ!」

 

「ははは!でかしたぞリサ!玉のような男の子だ!私とお前の子だ!きっと聡明な男になるぞ!」

 

「ふふ……あなたったら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”パァァァァンッ!!”

 

「!!」

「!!」

 

 互いの武器が重なった瞬間、再び記憶がリンクした。だが今度はドラキュラの方から先に剣を引き、唐突に映像は中断された。

 

「あれが……アルカードのお袋さんなのか?」

 

 二度目の映像に映ったのは三人。一人は少し年をとっていたが間違いなくドラキュラ本人。そしてもう一人はとても美しく、優しそうな雰囲気を持った女性だった。彼女がドラキュラの妻とすれば、おそらく最後に出てきた赤ん坊はアルカードだろう。

 

 だが一番驚いたのはドラキュラの姿だった。今目の前にいる男と同一人物とは思えない程、雄大で、暖かく、慈愛に満ちた男がそこにはいた。

 

 

「…………ッッ」

 

 どうやらドラキュラの方も、互いの武器が記憶を共有する”鍵”だという事に気付いたようだ。自身が持つ剣と、アルカードの持っていた剣は元々妻との婚約祝いに拵えたつがいの守り刀。その繋がりは形を変えても断ち切れるものでは無い。

 

 ドラキュラはこれ以上過去を探られるのを警戒してか、ユリウスへの攻撃を躊躇しているようだ。だが逆にユリウスはドラキュラとの間合いを少しづつ詰め始める。

 

 何故あれほど優しい笑みを浮かべていた男が悪に堕ちたのか?出歯亀のようで余り良い気はしなかったが、知っておかなくてはこの宿敵と真の決着はつけられない。そう本能が理解していた。

 

 

「うおおおおッ!!」

「――ッ!」

 

”キィィィィン……!”

 

 三度……鞭と剣が重なった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では父上、母上、領地の巡察に行ってまいります」

 

「ええ、気を付けてねアドリアン」

「うむ。気を付けて行くのだぞ」

 

「アルカード様は誠に聡明ですなあ……、まだ元服前だというのに、もうこの爺めには教える事がございませぬ」

 

「フフフ……、当たり前だ爺よ。なにしろアドリアンは私とリサの子なのだからな!」

「もう、あなたったら……、」

 

 

 

 

「親を失った子供のため救護院を立てよ……と?そう申すのかリサよ」

 

「はい、いけませんかあなた」

 

「いや、領民を救うは王の務め。それに愛するお前の頼み、いったい誰が断ろうか。むしろ王として今まで気づかなかった私の落ち度だ。許してくれリサ」

 

「そんな……、顔をあげてくださいあなた。でもあなたならきっとそう言ってくださると思っていました。ありがとう……ヴラド……」

 

 

 

 

「リサが……人間の手にかかった……だと!?」

 

「は……、貧しき者の家々を治療に回られていた所を……教会の者達に捕らえられ、太陽の下では我々の力は及ばず……!」

 

 

「………………」

 

 

 

 

「ふ……」

 

「ふ……はは……」

 

「はははははは!!」

 

 

 

 

「神め……一度ならず二度までも私から愛する者を奪うかッ!!」

 

「許さん……神も、神を妄信する愚かな人間共も……全て、全て根絶やしにしてくれる……!!」

 

 

 

 

 

 

「い、いやあああ……ッ!」

 

「伯爵様、どうか、どうかお慈悲を……い、ぎぃぃぃぃッ!」

 

「た、助け……、ああああああッ!!!」

 

 

「…………」

 

 

「……う、うう……」

 

「もう……もうやめてくれ!」

 

「…………」

 

「リサ様を教会に売ったのは俺だ!俺だけをやればいいだろう!」

 

「…………」

 

「皆は関係ない!悪いのは俺だ!だから妻と子……がッ!?」

 

「…………」

 

「あ……が……ぐあああああッ!!」

 

「…………」

 

「……う……ぁ……………………」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

「伯爵様……これにて領内の人間の処分、全て完了いたしました……」

 

「…………」

 

 

「次は……如何なされますか…?」

 

「…………」

 

 

「……決まっている」

 

 

「……神への……復讐!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルモンドの若者よ。どうか……どうかあの人を救って下さい……」

 

 

 

 

 

 

「ぬうアアアアッッ!!」

 

”パァァァァンッ!!”

 

「ぐうぁっ!?」

 

 ドラキュラが自身にまとわりつく怨念を払うかのように、ユリウスを力まかせに吹き飛ばす!ユリウスは危うく城下に落とされかけたが、かろうじて崩れかけの石像に鞭をからませ難を逃れた。

 

「く……ッ、あれが……魔王になった理由……?」

 

 どうにか態勢を整え、遠く離れたドラキュラを見る。

断片的……かつ不鮮明ではあったが、大方の理由は今の映像でユリウスも察した。

暖かな家庭。これからの展望。唐突な崩壊。憤怒と狂気……ほんの僅かではあるが、コインの裏表の様に自身の境遇と重なっている気がした。

 

 

「ふぅ――ッ、ふぅ――ッ、」

 

 一方のドラキュラは脂汗をにじませ、大分焦燥しているようだった。

ヴァンパイアキラーとドラキュラの剣が重なる度、自身の記憶が覗き込まれる。忘れようとしていた過去を再び掘り返される。その不愉快さに、ドラキュラはほぼダメージを受けていないにもかかわらず、苦渋と苦痛に満ちた顔をしていた。

 

「ええい!もはやかような剣などいらぬ!!」

「!」

 

 とうとう苛立ちを抑えきれなくなったか、ドラキュラが剣を放り捨てた。剣はカラカラと寂しげな音をたて、庭園の石畳に打ち捨てられる。

 

「…………」

 

 ユリウスはドラキュラの行動の一部始終を黙って見届けていたが……打ち捨てられたドラキュラの剣に寂しげな視線をやった後、思いもよらぬ行動に出る。

 

「ベルモンド!?貴様……何の真似だ!!」

 

 なんとユリウスはドラキュラを前にして、唯一の対抗手段であるヴァンパイアキラーを腰のホルダーに納めてしまった。そしてそのままドラキュラに向かって何事か語り始める。

 

 

「……ずっと考えてたんだ。何でヴァンパイアキラーで出来た傷だけ治らないのかってな」

「……!?」

 

 脈絡のないユリウスの疑問に、ドラキュラは怪訝な表情を浮かべた。だがユリウスはおかまいなしに話を続ける。

 

 

「確かにヴァンパイアキラーは吸血鬼殺しの鞭だ。でもそれは退魔道具や、グランドクロスの光だって同じはずだ」

「力の大小の差はある。でも何でヴァンパイアキラーだけそんな効果があるのか。お前の過去を見てはっきりした。たぶん……アルカードのお袋さんがそうしているんだ」

 

「!?、……ハッ!何を今更……貴様もアルカードと同じ様にリサが私を罰しようとしていると言うか!」

 

 

 ユリウスの導き出した”解答”にドラキュラが気色ばむ。しかしユリウスの”解釈”は違った。

 

 

「違う!あんたの嫁さんはあんたを”罰しよう”となんかしてねえ、”救おう”としてるんだ!!」

 

「!?」

 

「お前……傷を塞ぐために城の混沌を吸収してるよな。気付いてねえのか?その度にお前から理性が、人間味が無くなってるんだぜ?」

 

「初めて会った時に感じた、恐ろしさと高貴さが、混沌を吸い込むたびにどんどん無くなってる。喋り方、仕草、立ち振る舞い、雰囲気、どんどん化け物染みてきてる。お前がお前じゃ無くなってる」

 

「……ッ!!」

 

「きっと……あんたの嫁さんはこれ以上あんたに変わって欲しくないから、優しかったあんたでいて欲しいから……必死に混沌が入るのを止めてるんだ。例えそれがあんたを殺す事になっても…………」

 

「…………ッッ!!!」

 

 ドラキュラの瞳孔が開き、時間が止まったかのようにその体が弛緩した。ドラキュラはまるで庭園に飾られた石像が如く、そのまま押し黙り、固まってしまう。

 

 

「………かつての………私…………」

 

 

 ドラキュラのただでさえ白い顔は、いまや蒼白と言っていいほど血の気が失せていた。怒りの表情は嘘のように消え失せ、今にも泣きだしそうな程に顔を歪ませながら……言った。

 

 

「リ……サ……」

 

 

「そう……か」

 

 

 

 

「お前まで……本当に私を見捨てルノカ……ッ!!」

 

「!!」

 

 ドラキュラの顔と声はどちらも醜く歪み、完全に以前のドラキュラでは無くなっていた。

 

 

「私に……我々二逆ラうか」

 

「なラバ……仕方なイ」

 

 

「私モ……貴様ヲ捨テヨウ!!」

 

 

「なッ!!?」

 

 瞬間、箍が外れたかの如く、纏っていた衣服が混沌に変化しドラキュラの肉体を覆い尽くす!その姿は瞬く間に禍々しく不気味な影法師となった!

 

 

「この……わからず屋が!!」

 

 好きな女まで……人の心まで捨てやがって!ユリウスはやるせなさと哀れみのこもった眼差しで、再びヴァンパイアキラーを引き抜いた!

 

 

「モハヤ我々を止メる者は居ラズ!!ベルモンド、鞭ごト貴様も取り込んでくレヨう!」

 

 愛するよりどころすら捨て、もはやドラキュラでも、マティアスでも無くなった混沌の塊がユリウスを……いやこの世界全てを飲み込もうと迫る!

 

 

「死ネェぇェ!ベルモンドォォぉォッ!!」

 

 

 より禍々しく、不気味な色へ変わった混沌の衝撃波が、再びドラキュラだった者から放たれた!しかも先の剣閃の様な直線では無く、津波の様な波状攻撃となって……!

 

「くッ!!」

 

 ユリウスは倒れたアルカードの躯をかばう様に立つと、脇を締め、両肘を腰に据えた。

 

「はぁぁぁぁ……ッッ!」

 

 今の問答で僅かながらマナを取り込めたが、それでも”奥義”を放つには足りない。ユリウスは指先、髪の毛、それこそ汗の一滴まで、体の隅々から僅かに残った魔力を限界までかき集め、どうにか一発分放てるだけの力を蓄えた。

 

「一点……、俺の前面にだけ力を集中させるんだ!」

 

 悔しいが彼我の実力差は圧倒的だ。残り少ない魔力を真正面から衝突させたところで、玉座の間や混沌の中でやられた様に押し切られるのがオチ。

 激流の中の堰のように、受け止めるだけじゃなく受け流すんだ。心を落ち着けろ。呼吸を整えろ。自分を……今までやってきた事を信じろ!!

 

 

 

「グランド……クロォォォスッ!!」

 

 

 

 ユリウスから立ち昇る黄金色の闘気!だがその形は以前の十字型では無く、ドラキュラに対しV字型の矢じりの様な形をしていた。

 

 

”ドオオオオオオッッッ!!!”

 

 

 荒れ狂う土砂の如き混沌がユリウス達を飲み込む!だがユリウスの前面にのみ展開された流線形の闘気は、ドラキュラの放った混沌の奔流を見事に受け流し、ユリウスとアルカードを守り抜く!

 

 

”ザアアアアァァァ……”

 

 濁流となった混沌に根こそぎ洗い流され、庭園は大理石の石畳は剥げ、赤茶けた土台の土が剥き出しになった。しかしユリウスの決死のグランドクロスにより、ユリウスとアルカードのいた場所だけは、元の庭園のまま残っていた。

 

”グラ……ッ”

 

「ぐ――!?」

 

 しかし難局を乗り越えたユリウスを突如眩暈が襲う。ほぼ枯渇しかけていた魔力を気力で持たせていたが、もはやそれも限界だった。

 

「HAHAHA!!よクぞ我々の力を耐えキっタ!ダが今の貴様二はもはや二の矢ハ撃テまイ!!」

「……ッ!!」

 

 あれだけの混沌を放出しておきながら、ドラキュラの力は一向に衰える気配が無い。逆にドラキュラの言葉通り、ユリウスはもはや立っているのもやっとの状態だ。城の混沌と一体化したドラキュラは瞬く間に今以上の魔力を集め、自身が編み出した最強の術法の印を組む!

 

 

「今度コそ貴様の……ベルモンドの”終焉”ダ!

”――極終焉術法(デモニック・メギド)!”

 

 

 ドラキュラが言霊を言い放った瞬間、城主の塔を半壊させたドラキュラの最終奥義が放たれた!マグマのように煮えたぎる闇の波動がドラキュラを中心に立ち昇り、瞬く間にユリウス達を飲み込んでいく……

 

 

 

「ぐ……だあああァァァ――ッ!!」

 

「ッ!?」

 

 だがここで予想だにしない事態が起こった。ユリウスは眼前に迫るメギドの炎に向かってヴァンパイアキラーを振るったのだ。

 

「愚か者メ!今更リサの力を宿シタ鞭を振るっタ所デ、この魔王が誇る究極奥義ヲ防げルカッ!!」

 

 ユリウスの攻撃を破れかぶれの最期の足掻きと受け取ったか、ドラキュラがその行動をせせら笑う。愛する女性を捨てた今のドラキュラに、母の力を宿した鞭はもはや通用しない。だが……この男が何の算段もなく鞭を振るう訳が無かった。

 

”カッ!!”

 

「!!?」

 

 ドラキュラは目を疑った。全てを飲み込むメギドの炎が、ユリウスの一歩手前で食い止められているのだ!

 

「馬鹿ナ……!?何故デモニック・メギドを跳ネ返セる!?もハヤ貴様にそンな力は残っておラぬはズ……ッッ」

 

 確かにリリスやアルカードの生命力を受け、多少は力も回復しただろう。だが先の混沌を防ぎきるのに全ての魔力を使い果たし、今の奴はクロス一本放てないはずだ。

 

 

「……この力にだけは頼りたく無かったけどな」

 

「!?」

 

 悲壮な決意を秘めた瞳で、ユリウスが言い放つ。

 

 

「目には目を、歯には歯を、不浄(メギド)の炎には…………不浄(メギド)の炎だ!!」

 

 ユリウスにはまだ使っていない力があった。地下深殿で死神が発動させたものの、少女が命をかけて自らに取り込み、その魂と共に鞭に吸収された忌まわしき力―――

 

 

「―――核!?」

 

 

 鞭から放たれた力にドラキュラが目を見張る。ユリウスはヴァンパイアキラーに残っていた核爆弾のエネルギーを開放し、デモニック・メギドの炎と相殺させたのだ。

 

 

「フ……、フハハハハ!!傑作だベルモンド!善ナる神の使途ノ貴様ガ最期に頼るのがその陳腐ナ兵器とハな!生身ノ貴様がその力を使えバ、例えデモニック・メギドを防げても無事デは済マんゾ!?」

 

 崩壊した庭園にドラキュラの高笑いが響き渡る。だがお返しとばかりに、ユリウスもドラキュラの言葉を鼻で笑い返す。

 

「悪いな、”使える物はなんでも使え”ってのがモリス家の家訓なんでね。悪だろうが正義だろうが勝つためには何だって使うさ!!」

 

「!!!」

 

「それに言われなくてもそんな事はわかってんだよ。てめえをぶっ倒して鞭を届ける……それまで生きられればそれでいい!!」

 

 ドラキュラの力だけでなく、自らの身体をも焦がす核の力。だがユリウスは身を焼かれる苦痛を意に介さず、目の前の敵に食い下がる!

 

 

「嘗めオって……!千年の長キに渡りコノ悪魔城が蓄えタ混沌が、そんなガラクタに負けルと思うてカ!!」

 

 ドラキュラが己の魔力をさらに高める!その勢いに、互いの力の境界線が一気にユリウスの方へと押し込まれる……!

 

 

「耐えろ……!根性出せヴァンパイアキラァァァ―――ッ!!」

 

 

”――ゴワァッ!!”

 

 

 

 

 

 

"ドッオオオオオオ……ンッッ"

 

 両者の矛が重なった場所を起点に、放射状の大爆発が巻き起こる!二度に渡る地獄の業火を受け、空中庭園はもはや元の荘厳さを留めてはいなかった。

 黒い灰が濛々と立ち込める庭園。あれだけの爆発を浴びながら、ドラキュラは全くの無傷だった。一方核の力をまともに浴びたユリウスは……

 

「残念だっタなベルモンド。死力を尽くシテも所詮人間の力なドこの程度……」

 

 

「――まだだッ!!」

 

「!?」

 

 今度こそ次矢は撃てまいと高を括っていたドラキュラを、ユリウスは再び覆す!

ユリウスの左手には、ラングの形見であるアガーテが握られていた。

 

「喰らえドラキュラ!この時のために取っておいた力を!!ラングが残してくれた人間の光を!!!」

 

 アガーテのコアに残された、ラングが撃つ事叶わなかった最後の魔力。形見のエネルギーはユリウスの体内へ流れ込むと、変換、増幅され、再びアガーテへと戻り、敵目掛けて放出される!

 

 

『――聖光波動砲(グランド・エッジ)ッ!!!』

 

 

 アガーテから放たれた共鳴術法の聖なる砲撃が、一直線にドラキュラに向かう!光の砲弾はドラキュラの体を覆う混沌を掻き消し、その肉体を再び白月の下に曝け出した!

 

「見えたッ!!」

 

 曇天の切れ目の様に開いた僅かな空間。ドラキュラの白い肌、そしてひと際赤く光る右目が見えた!

 

 

「小僧オオおオッ!!」

 

「!!」

 

”バシュゥゥウッ!!”

 

 

 突如ドラキュラの眼から赤い破壊光線が放出され、アガーテを持つユリウスの”左手”を吹き飛ばした!しかしユリウスの”右手”は既に攻撃動作に移っていた!!

 

 

「ハルカ……力を貸してくれぇぇぇ!!」

 

 ユリウスの指にはめられた、星形の指輪が赤く発光する!!

 

 

『トォォォ――ル・ハンマァァァァ―――ッ!!!』

 

 

 今のユリウスが放てる最速の一撃!!アガーテの砲撃がこじ開けた混沌の隙間を、神速の雷と化したヴァンパイアキラーが真紅の石を目掛け突き進む!

 

――おのレッ!!木端な雷なド我が混沌デ弾き返シてくレるッ!

 

 ドラキュラはすぐさま剥き出しになった右目を混沌の鎧で覆い隠そうとした。しかしまるで()()()()()()に邪魔されているかのように、光弾に祓われた部分に混沌が集まらない!

 

「馬鹿ナッ!?クソッ!!」

 

 やむなくドラキュラは自身に迫るヴァンパイアキラーを防ごうと腰の剣に手を伸ばす……が、

 

「――ッ!!」

 

 その行為は叶う事は無かった。幾度となく敵の攻撃から主を守った愛する女性との”繋がり”は、今しがた自らの手で捨て去ってしまったのだ。

 …………激闘の果て、残された力はドラキュラの方が圧倒的に上だった。だがたった一手。自ら捨て去った ”絆” がドラキュラの命運を分けた。

 

 

 

”ヴァシァァァァァンッ!!”

 

 

「――ァッ!!?」

 

 青白く光る雷光がドラキュラの右目を……真紅の石を貫いた!

 

 

”パキィィィン……!”

 

 とてもこの世の物とは思えぬ美しく儚い音をたてながら、真紅の石が流星のようにきらきらと砕け散る……!

 

 

 

 

 

 

「俺は……運が良かったんだ……」

 

 

「俺だけじゃ……勝てなかった。アルカード……、ラング……、ハルカ……、俺たち四人で戦ったから勝て……たんだ………………

 

 

”ドジャァッ……!”

”ドジャァッ……!”

 

 

 そう呟いた直後、力の源を失ったドラキュラと、全てを燃やし尽くしたユリウス。両者の身体は全く同時に、庭園の冷たい地面へ吸い込まれる様に堕ちていった…………

 

 

 

 

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