悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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最終決戦10 ―母の顔―

 

 

”ビシィッ……!”

 

 

 

”ベキィッ……!” 

 

 

 

 

 

”ガッ……ガガガガガァンッ!!”

 

 

 城主であるドラキュラが倒れた事で魔力の供給が断たれたのだろう。浮力を失った空中庭園群が一つ、また一つと悪魔城へ落下していく……

 

 それはもちろんユリウス達がいる大庭園とて例外では無い。両者の死闘によって半壊していた庭園には巨大な亀裂が縦横無尽に走り、幾つかの塊に分裂しながらゆっくりと沈み始める。

 

 やがて……ユリウス達の乗った庭園の固まりは ”何か” に導かれる様に、玉座のある城主の塔へと墜ちていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

”ズ…ウゥゥゥゥン……ッ!”

 

 凄まじい轟音をまき散らしながら、庭園は城主の塔、玉座の前に滑り込む様な形で墜落した。だがその衝撃によって、力を使い果たし気絶していたユリウスはかろうじて目を覚ました。

 

「う……ここ……は?」

 

 起きたばかりのユリウスは状況が飲み込めていない様だった。自分の倒れている床は庭園の石畳だが、目の前にはドラキュラの玉座がある。瞬間移動でもしてきたのかと思った。

 

 ユリウスは現状を把握するため、体を起こそうとするが……

 

 

「う……ぐ!?」

 

 

 

 

 

「――ゲほぉッ!!」

 

”ビチャビチャビシャァ!!”

 

 突如猛烈な眩暈と吐き気に襲われ、ユリウスは胃の内容物を全て吐き出してしまった。

 

「はぁ、はぁ、これ……は!」

 

 時計塔でのアルカードと同じ症状……間違いなく核の力を使った事による後遺症だ。

 

「畜……生、この……程度、……ウっ!!」

 

”ビシャァァァ!!”

 

 自らを奮い立たせ立ち上がろうとした矢先、再び吐き気に襲われる。固形物は全て吐き出され、もはや胃液しか出ていない。

 

 ドラキュラが言った通り、防護服も無く核の力を行使するのは無謀過ぎた。高い生命力を持つアルカードですら瀕死に追い込まれたのだ。生身の人間であるユリウスの生命は、もはや絶望的だった。

 

「あと……30分、いや10分持てばいい。鞭を……届けるまでは……!」

 

 朦朧とする意識の中、託された使命がユリウスを突き動かす。周囲を見渡せばどうやら庭園ごと城主の塔に落っこちたらしい。これならかえって好都合だ。ここから慈愛の間まで庭園から降りるよりは遥かに近い。

 

「アル……カード」

 

 少し離れた場所にはアルカードが倒れていた。残された生命力全てをユリウスに託し、息絶えたアルカード。だが今のユリウスではとてもその亡骸を連れていけそうもない。

 

「畜生……ッ!!」

 

 この城に来たばかりの頃、礼拝堂で仲間を見捨てた陸軍を内心侮っていたが……今のユリウスは正にその時の彼らと同じ状況に追い込まれていた。

 

――すまねえアルカード、俺もすぐそっちに行くからよ。その時に煮るなり焼くなり好きにしてくれ――

 

 苦渋の決断をしたユリウスは、思う様に動かぬ体を引き摺りながら慈愛の間へと向かおうとした……が!

 

 

「―――!」

 

 

 不意に背後から浴びせられた強烈な死線に、ユリウスは思わず歩みを止めた。それは殺気のようでいてそれだけではない……妬みとも、恨みともとれる、とにかく凄まじい質量の”負の感情”だった。

 

――ドラキュラは倒したのに……何故!?

 

 一瞬ドラキュラを仕留め損なったかと思ったが、ドラキュラはアルカードと同じ様に庭園の床に横たわっている。もはやその身体から力は感じ取れない。圧力を放っているのはドラキュラでは無い。

 

――ドラキュラじゃ無いとすれば……一体誰が!?

 

 今すぐにでも慈愛の間へ向かいたいユリウスだったが、こんな不気味なプレッシャーを放っておくわけにはいかない。ユリウスはふらつく頭に鞭を入れ、周囲を注意深く観察した。

 

 ……ふと、明らかに視界が歪んで見える箇所があった。それは塔の中心部”玉座”。いや正確にはその玉座の後ろ、厚いビロードのカーテンが垂れ下がった先だった。ユリウスは死線の正体を確かめるべく、這うようにして玉座の階段を昇り始めた。

 

 

 

 

「絵……か?」

 

 カーテンの裏、薄暗い部屋の中にあったのは大きな一枚の肖像画だった。

 

 描かれていたのは一人の貴婦人だった。髪型や服の様相からして相当古い年代の人物の様だ。透き通るような白い肌、細くしなやかな指に、ゆるく波打つ黄金色の髪。緑色のドレスに本物の()()()()が埋め込まれたネックレスと、それは時代の離れたユリウスから見ても見とれてしまうほど美しい絵だった。

 だが……視線をさらに上、顎のあたりまで上げた瞬間、ユリウスに戦慄が走る。

 

 

「な……何だ……こいつは……ッ!?」

 

 

 本来ならば麗しい美女が描かれているであろう顔の部分。だがそこに描かれていたのは目は血走り、口は裂け、髪を振り乱し、その美しい体とは似ても似つかぬ、怒りと怨念に歪んだ醜悪な化け物だった……!

 

”ギョロリ”

 

「!!」

 

 不意に肖像画の瞳が動き、視線が合う――

 

「ぐあぁッ!!」

 

 瞬間、得体の知れない”何か”がユリウス目掛け放たれた!あらかじめ警戒していたのが功を奏し、かろうじて急所を外す事に成功したが……ユリウスはそのまま玉座まで吹っ飛ばされてしまう。

 

「な……何だあれは!?まだ化け物が残ってやがったのか……!?」

 

 強烈な痛みに傷口を見る。攻撃を受けた左肩は服ごとケロイド状に解け、煙と共に不快な臭気を発している。攻撃の正体は解らないが、もし避けるのが間に合わなかったら間違いなく心臓を溶かされ死んでいた。

 

「――はッ」

 

 背後から殺気を感じ振り返る。そこに立っていたのは倒したはずのドラキュラだった。闇のように黒かった髪は白い物が多く交じり、顔には皺が増え、その姿はさっきまでの若者とは別人に見えた。

 

「貴……様、見たな…………リサ……の……姿……を」

「リサ!?……あれがアルカードの……!?」

 

 ――あの不気味で醜悪な化け物が、記憶で見たアルカードの母親だって?笑えない冗談だとユリウスは思った。だが動揺するユリウスにはおかまいなしに、ドラキュラは再びユリウスに襲い掛かる!

 

「貴様の様な下賤な輩が……目にして良い物では無いィィィィッ!!!」

 

 いつの間に取り戻したのか、ドラキュラの手には捨てたはずの大剣が握られていた。ドラキュラは剣を大きく振りかぶると、ユリウス目掛け振り下ろ――

 

 

”ブシュゥゥゥッ!!”

 

「――がはッ!?」

「!?」

 

 しかしドラキュラが大剣を大上段に振り上げた瞬間、全身から夥しい量の血が噴き出した。

 

「これ……はッ!?」

 

 吸血鬼の力の源である真紅の石を砕かれた事で、もはやドラキュラにかつての力は無かった。いや、それどころか混沌を使い無理矢理修復していた傷口が一斉に開き、ただでさえボロボロだった体が一気に朽果てていく……!

 

「ぬうううううアァッ!!」

 

 ところがドラキュラは滅びゆく身体を強引に奮い立たせ、ユリウス目掛け斬りかかった。だがその太刀筋に以前の冴えは見る影も無く、剣を振るうというより剣に振り回されているとしか言えない有様だった。

 

「はあ……はあ……くッ!」

 

 だが力が残っていないのはユリウスも同じだ。核の後遺症に加え左手は吹き飛ばされ、体力はほぼ全てをトールハンマーを撃つための魔力に変換してしまっている。今のユリウスに戦う力は無く、出来る事といえば逃げる事くらいだ。

 

 両者は先の高度な鍔迫り合いが嘘のように、もつれあいながらたどたどしい追いかけっこを繰り広げる。

 

 

「例え世界全てが敵にまわろうと……リサは……私が……ッ」

 

 

 混沌を祓われ自我を取り戻したためか、ドラキュラには妻への愛が戻っているようだった。ドラキュラは目の前のユリウスから愛する妻を守ろうと、肖像画の飾られた部屋の前に陣取る。

 

「リサは……私が……リサ……リサ……リサァァァァ…………!!」

 

「………………ッ」

 

 まるで夢遊病者のごとく、譫言を繰り返しながら狂った様に剣を振り回すドラキュラ。肖像画の真実を見てしまったユリウスは、そんなドラキュラの姿に哀れみすら感じていた。

 

「く……、だああッ!」

 

 もはや鞭を振るう力さえ残っていなかったユリウスは、もたれ掛かる様にしてドラキュラに掴みかかると、そのまま倒れる様に押し倒した。ユリウスとドラキュラは再び厚いビロードの先、肖像画の飾られた小部屋へとなだれ込む。

 

「リサ……リサ……」

「…………」

 

 もはやドラキュラは正気では無かった。いたたまれなくなったユリウスはおもむろにドラキュラの頭を掴むと、その顔を力づくで引っ張り上げる!

 

 

「そんなに見たけりゃお望み通り見せてやるッ!!」

 

「!!」

 

 ユリウスに無理やり顔を持ち上げられ、ドラキュラは肖像画をまざまざと見せつけられる!

 

 

「目ん玉ひんむいてよおく見やがれッ!あれが……あれがお前の愛した女か!あれが慈悲深い母親の顔かッ!よく見ろドラキュラァッッ!!」

 

「――!」

 

 壁にかけられた肖像画を見た瞬間、ドラキュラの時が止まる。

 その視線の先にある肖像画は、生前のリサとは似ても似つかぬ化け物になっていたはずだが……ドラキュラの目には果たしてどのように映ったのか……

 

”グゴゴゴゴ……!”

「!!」

 

 その時、侵入者であるユリウスを認識した混沌の肖像画が再び力を蓄え始めた。ドラキュラとの乱戦で息が上がっているユリウスに攻撃を避ける余力はもはや無い。そしてドラキュラは…………

 

 

 

「う……」

 

 

 

「ぐ……うぅ……あれ……」

 

 

 

「あれ……は……リ……サ……り…さ………」

 

 

 

”バシュゥッ!!”

 

「!」

 

 再び混沌のレーザーがユリウス目掛け放たれた!

 

 

 

 

 

”ドンッ!”

 

「――!?」

 

 

 

 

「ぐうあァァッ!!!」

 

「ドラキュラ!?」

 

 あろう事か……ドラキュラがユリウスを突き飛ばし身代わりとなった!!

 

 

「ぐうぅぅ……うおおおおおッ!!」

 

 肖像画の放った怪光線に身を焼かれ、苦痛に悶えるドラキュラ。だがドラキュラは最後の力を振り絞り、肖像画目掛け手に持った大剣を投げ飛ばした!

 

 

「ギェエアアアアッ!!?」

 

 

 剣は肖像画にはめ込まれている黒い石に深々と突き刺ささる!たちまち醜悪な絵画がさらに醜く歪み、おぞましい悲鳴が室内に響き渡った!

 

 

「お前は……お前は断じて私の愛したリサでは無いッ!!」

 

 

 正気を取り戻したドラキュラが叫ぶ。ドラキュラは自らの手で自身を縛る因縁と……悪魔城と決別したのだ。

 

 

 

”ゴゴゴゴゴゴ……!!”

 

「!!」

 

 しかしドラキュラから三下り半を突き付けられても、千年に渡り共に歩んで来た悪魔城の方はおさまらない。ひび割れた漆黒の石から、溜まりにたまった混沌の闇が一斉に吹き出し、袂をわかった主を取り戻すべく殺到する!!

 

 

「ぐあああああああッッ!!」

 

「ドラキュラ!!」

 

 ユリウスは思わず宿敵の名を叫んでいた。つい先程まで凄惨な殺し合いを続けていたはずの敵同士、だがこのまま目の前の男を見捨ててはおけない!

 

 

「畜生!そいつから離れろォォ―――ッ!」

 

「――ベルモンド!?」

 

 先程まで主を守っていた混沌は、今やドラキュラを食いつぶそうとする怨念へと変わっている。ユリウスはドラキュラに纏わりつく混沌を引きはがそうと、両者の間に割って入った!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!?」

 

 ドラキュラを包む混沌に触れた瞬間、ユリウスの視界は暗黒に包まれた。この感覚には覚えがある。空中庭園の門の中に入った時と全く同じだ!

 

 

「痛い……熱いよぉ!」

「ぐあッ!?」

 

 

 どこからか幼い子供の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。と同時に、ユリウスの上半身を焼けつく様な痛みが襲った。

 

 

「ママ……、ママ……、何処なの、ま……ま」

「……!!」

 

 

 今度は消え入りそうなほどか細い声が聞こえた。同時に猛烈な空腹と、虚脱感、押しつぶされそうな不安が押し寄せてくる。

 

 

「げほッ、ごほッ、ハァ、ハァ、神……様」

「う……!?ごほ!がはッ!!」

 

 

 不安に押しつぶされそうになった直後、今度は凄まじい息苦しさを感じた。咳が止まらず、まともに呼吸が出来ない。思わず胸を我武者羅にかきむしる。

 

 

「何だ、これ……は!?」

 

 

 ユリウスを絶え間なく襲う痛みと恐怖。夢の世界でドラキュラに混沌の映像を見せられたが、これはその比では無い。実際に死んでいった者達が味わった苦痛を、全く同じ形で味合わされているのだ。

 

 

 

……そのまま朽果てるがいいベルモンドよ……

 

「――!?」

 

 

 その時何者かの声……いや意思が直接ユリウスの脳内に響いてきた。

 

 

 

――貴様も混沌の本質を理解しただろう――

 

 

――我は彼の者達の行き場の無い無念を鎮める、拠り所となる場所――

 

 

――貴様如きが侵す事まかりならぬ――

 

 

 

「これは……まさか!?」

 

 ユリウスは驚いていた。城主であるドラキュラを失った事で、とうとう悪魔城自身が現世に干渉してきたのだ。その声は悪魔城の名に似つかわしくない、落ち着いた気品のある声にユリウスには感じられた。

 

 

 

――貴様に彼の者達が救えるのか?――

 

 

――無念を晴らせるというのか?――

 

 

――魔王とは彼の者達の行き場の無い無念の代弁者――

 

 

――悪魔城とは彼の者達の行き場の無い無念の終着点――

 

 

――貴様はその安住の地を壊すというのか――

 

 

 

「……ッッ!」

 

 

 悪魔城の声はぞっとするほど優しく、威厳に満ち、説得力に溢れていた。今の今まで敵愾心に溢れていたユリウスが、自分が間違っているのではないかと自己嫌悪に陥る程に……

 

 悪魔城はそんなユリウスの心を弄ぶ様に、今度は今までと真逆。人間達の欲望をユリウスの心に投影させ始める。

 

 

無残に切り刻まれる罪人に熱狂する観衆――

 

年端もいかぬ少女を凌辱し、絶頂する金持ち――

 

自身に逆らう者を拷問し愉悦にひたる権力者――

 

 

 当然、先の混沌と同じ様にその感情と感覚はユリウスに伝わる。「こんな非道は許せない」、ユリウスの良心が訴えるが、その快感は否応なくユリウスを飲み込んでいく―――

 

 

「う……、うう……」

 

 

 苦痛と快楽が目まぐるしく入れ替わる事で、ただでさえ疲弊していたユリウスは徐々にまともな思考が出来なくなってくる。ユリウスは必死に耐えるが、畳みかける様に悪魔城が言葉を紡ぐ。

 

 

 

――これでもまだ人間に与するかベルモンド――

 

 

――人間とは救うに値せず――

 

 

――滅ぼす以外に救済は無い!――

 

 

 

 尚も抵抗を続けるユリウスに対し、悪魔城が語気を強める。と同時に、悪魔城のテレパスに強烈な負の感情が上乗せされた。

 

 

「!!!!!!!」

 

 

 何百万、何千万の苦痛、無念、絶望の感情。そしてそれらを弄ぶ愉悦、嗜虐、欲望の感情を一気に体感させられる。それはまるで強烈な光と闇が高速で点滅するストロボの様な感覚。

 その尋常ならざる体験はもはや人間の心が耐えられる物では無く、ユリウスの魂は悪魔城という巨大な混沌に一気に飲み込まれていく…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――助けて――

 

 

「!」

 

 だがその時、誰かの助けを求める声がユリウスに届いた。ともすれば悪魔城の声に、狂乱する欲深な人間達の声にかき消される程かすかな呼び声……

 だが確かに、ユリウスは何万、何億の思念の奥底から自身を呼ぶ声を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――迷うな、ユリウス!

 

 

「!!」

 

 暗闇の中に差し込む一筋の光にも似た、誰かの力強い激励。それは果たしてジョナサンか、ラングか、アルカードか、それとも古のベルモンド達か…………

 

 

一体誰が?解らない。

 

 

 だがその二つの声が、ユリウスの心に小さな火を灯し、やがて大きな炎へと燃え上がらせた。

 

 

 

”まだ負けてはいけない”

 

 

 

ユリウスの体が、心が、記憶がそう言っている。

 

 

 

 

――そう……だな

 

 

 

 

――最後の最期でケツまくったんじゃ……

 

 

 

 

 

 

 

「皆に……笑われちまう!!」

 

 

 

 ユリウスは最後の気力を振り絞り、今一度心の眼を開いた。本当に……本当に最後の戦いになるだろうという覚悟を秘めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおォォォ――ッ!!」

 

「―――!!?」

 

 混沌から意識を取り戻し現実世界に還ってきたユリウスに、悪魔城を具現化した肖像画がおおいに驚愕する。

 帰還したユリウスは動揺する悪魔城を真っ向から睨みつけ、指をさし高らかに言い放つ。

 

 

「無念の魂の拠り所だと?ふざけんじゃねえぞ悪魔城!」

 

「――???」

 

「ああだこうだ屁理屈抜かしてるが……テメエはそいつらを閉じ込めて食い物にしてるだけだろうが!」

 

「罪も無い人達を……魔物を……ドラキュラを、死んだ後まで利用しやがって……! いい加減トサカにきたぜ!!」

 

「!!!!!!」

 

 ついさっきまで出しガラの様だった男のどこにこれ程の力があったのか……!?義憤か、慈愛か、それともただ単に悪魔城の勝手な物言いが気にくわなかっただけか、だがいずれにせよユリウスの魔力はどんどん高まっていく……!

 

 

”パアアアアアア……”

 

 

 不意にユリウスの右手が赤く発光しだした。その指にはハルカの形見の星型の指輪……アストラルリングが輝いていた。

 しかしリングの宝石はけたたましく点滅を繰り返している。ユリウスにはもう魔力に変換できる程の生命力が無い事を指輪が警告しているのだ。

 

 

「ギャアギャア喚かなくたってな、解ってんだよ……そんな事」

 

 ラングの残した魔力はドラキュラとの戦いで使い果たした……アルカードにもらった体力もゼロ。だが……あるじゃないか、人間ならば誰もが持っている物が。そう、”寿命”というエネルギーが!

 

 

「俺の残りの命を全て使って……グランドクロスを撃ってやる!!」

 

 

 ユリウスは決意を固めると、発狂したように光る指輪をあえて無視し、静かに瞑想を始めた。痛みは全く感じない。だが指輪の効力によって残りの命のカウンターが、目まぐるしく回っているのが嫌という程解る。

 

 

――アルカード……すまねえ、約束は守れそうにない――

 

 

――ラング、ハルカ、思ったより早くお前らと会えそうだぜ――

 

 

――先生すみません、俺にはこんな決着の付け方しか思いつきませんでした――

 

 

――母さん……、父さん……――

 

 

 

 恐ろしいほど長い時間瞑想していたように感じる。だがきっと数秒も経っていないのだろう。指を見るとあれ程光っていた指輪は今はどす黒く沈んでいる。どうやら無事魔力の変換はされたようだ。

 

 

…………準備は整った。

 

 

 ”最後の時”への準備を終えたユリウスは、今一度肖像画を……いや、その先にある”何か”を見つめると、穏やかな声で語り掛けた。

 

 

 

「ごめんな……」

 

 

 

「お前らのうけた仕打ち……、ひでえや。こんなもん……許せるわけないよな」

 

 

 

「お前らの無念、晴らしてやりたい……救ってやりたい……」

 

 

 

 

「でもな……」

 

 

 

 

「俺はお前ら全部を受け止め切れるほど大物でも無ければ、聖人でも無いんだよ……」

 

 

 

 

「だから……せめて……」

 

 

 

 

 

 

「俺が最後までつきあってやる!!」

 

 

「!!」

 

 

――瞬間、ユリウスの体から眩く光る闘気が巻き起こった!

 

 

「さあ……そろそろ行こうや悪魔城。天国か……地獄か……本当にあるのかどうかも解んねえ場所へな!!」

 

「…………!!!!」

 

 

 死を目前にしながらその眼に希望を湛え続けるユリウスに、混沌の肖像画の苛立ちはつのり、その顔はもはや人相とは呼べない程醜悪なものに変わっていた。

 

 

――あまつさえ城主であるドラキュラを唆し――

 

 

――次は我をも滅するというのか――

 

 

――唯々諾々と神に従う無知蒙昧な猿が――

 

 

――我らの野望を邪魔するな――

 

 

 

『黙って…死ネエェェェェ―――ッ!!』

 

 

 それまでの理知的な声色が一転、薄汚く声を荒げ、悪魔城がユリウスに襲い掛かる!!

 

 

「化けの皮が剥がれたな……だが……もう遅いッ!!」

 

 

『――!!』

 

 

 

 

「これが最後の……グランドクロスだああああ―――ッ!!」

 

 

 

 偉大なる十字架の叫びと共に、光り輝く十字状の光が混沌を、肖像画を、悪魔城を包み込んでいく!

 

 全身全霊をかけユリウスから放たれたグランドクロスは、自身とドラキュラを包んでいた混沌を瞬く間に掻き消した!さらに玉座の奥、漆黒の石から這い出る混沌を、玉座の間を、悪魔城全てをその聖なる光でつつみ、飲み込んでいく……!!

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

――グ……

 

 

 

 

 

 

 

――GUGYAAAAAAHHHH―――ッ!!!

 

 

―――

 

 

――

 

 

 

 

 

 黄金色の光が全てを照らし終え、元の静寂が戻った時……ユリウスに今まで干渉していた闇の意思が”プツン”と消え去った。同時に醜悪な顔つきだった肖像画も、元の美しい女性の顔に戻っていた。

 

 

 

「…………終わっ……た……全…て……」

 

 

 

 そう呟いた瞬間、ユリウスの体は糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。

 

 

 

……ああ……ちくしょう…… 

 

 

 

 ユリウスは自身の行動に後悔は無かった。だがただひとつ、皆に託された使命。鞭を届ける事が出来なかった事だけが心残りだった。

 

 

 

すまねえ、アルカード……皆……許して……く―――

 

 

 

 ユリウスはそれ以上言葉を紡ぐ事は叶わなかった。ユリウスはその場に跪き、天へ祈りを捧げるような姿で絶命していた。

 

 半壊した塔から差し込む月明かりに照らされるユリウス。青年は……歴代のベルモンドが誰も成し遂げられなかった「悪魔城に打ち勝つ」という偉業を、自身の命と引き換えに成し遂げたのだった……

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 生者は誰一人いなくなった悪魔城玉座の間。大義を成し遂げ、天に召された青年の姿を、元の慈母の顔へと戻った肖像画が優し気な眼差しでいつまでも、いつまでも見守っていた………

 

 

 

 

 

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