悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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慈愛の間
終幕


 煉瓦は崩れ、壁は朽ち、天井は裂ける。ものの数分も立たぬうちに、城の崩壊は見る間に進んでいく……

 

「ちッ、ここもか!」

 

 アルカードと別れた後、ユリウスは一目散に慈愛の間を目指した。だがアルカードに教えられたルートはある場所は瓦礫に埋もれ、またある場所は床が丸ごと崩落しそのままでは進めなくなっていた。

 

 それでもユリウスは時にはルートを迂回し、時には邪魔な壁を破壊するなどして道なき道を突き進み……どうにか日食が始まる前に慈愛の間にたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……、はぁ……」

 

 息を切らしながら扉を開ける。前に訪れた時から1時間もたっていない筈だが、慈愛の間の様相は180度様変わりしていた。

 

 青い炎を湛えていた燭台は全て倒れ、半球状の天井も至る所が崩れ落ち、その隙間から日が差し込んでいた。幸い聖母像は無事で、結界を発動させる為の効力もまだ残っているようだ。

 

「日食が……ッ」

 

 しかしもうほとんど時間は残されていない。こうしている間にも天井の隙間から覗く日食は黒色の真円を描きつつある。ユリウスは聖母像の差し出す両手にヴァンパイアキラーを捧げるべく、部屋の中央へと進んだ。

 

……だがどうした事か、ユリウスは半分ほど進んだ所で不意に立ち止まると、自身の背後に向かい静かに語りかける。

 

 

「いるんだろ……?出てこいよ」

 

 

 しばらくの間部屋の中は城が崩れる音のみが響き、それ以外は沈黙が続いた……だがその静寂を破るように、聞き覚えのあるエコーがかった不気味な笑い声が突如部屋に響き渡る。

 

 

「ク……」

 

 

 

「クク……」

 

 

 

 

「ク ハ ハ ハ ハ !!」

 

 

「クハハ……やはり気付いていたかベルモンド。そのまま進んでおればそのそっ首切り落としてやったものを……!」

 

 

 突如ユリウスの背後の空間がブラックホールの様に歪み、中から紫色の瘴気を纏った魔物が現われる。それは玉座の間でドラキュラに捻り潰された筈の……死神”デス”だった。

 

 

「……ゴキブリ並みのしぶとさだな……」

 

 

 ドラキュラが自分の事を油虫に例えていた事を思い返し、苦笑混じりにユリウスが呟く。

 

 どうやったのか知らないが三度復活したデス、だがその姿に以前の高貴な姿は見る影も無かった。ただでさえボロボロだったローブはもはや原型を留めておらずボロキレ同然、骸骨の体も所々朽ちかけており無傷な箇所を探すの方が難しいほど、アンデッドでありながらその見た目は半死半生といった有様だった。

 

 

「よくも伯爵様を!悪魔城を……!貴様は、貴様だけは許さん……ッ!膾切りに、いや、二度と血族が現われぬよう魂ごと粉々に砕いてくれる……ッ!!」

 

 

 凄まじいほどの憎悪と呪いの言葉を吐きながらデスがにじり寄ってくる。だがその足どりは傍目に見ても力無く、よろよろとおぼつかない。

 

「そんな体で何が出来る」ユリウスが問いかける。しかしデスはその動かないはずの口角を大きく歪ませながら、ニタリと笑みを浮かべ答えた。

 

 

「クフフ……選べ……鞭を捧げるか……それともその手に持ち私と戦うか……」

 

「…………」

 

 デスの言葉に、ユリウスの眉がピクリと反応する。

 

 

「その鞭を持って闘えば今の私などたやすく倒せよう……しかし封印は間に合わず、百年後に再び伯爵様は復活なされる……!!」

 

「鞭を像に捧げれば城の封印は完了するだろう……しかし弱っているとはいえ武器無しでこの私が倒せるかな……?仮に倒せたとしても……脱出する暇など絶対に与えんッ!貴様もこの悪魔城と供に永遠に日食の中に閉じ込められるのだッ!!」

 

 

 ”さあどうする選べ……!” デスは今にも飛び掛らんといった体勢でユリウスを煽る。

天に描かれた日食は既に真円を描き、慈愛の間は夜の闇に包まれたかのように暗い。

 

 

 だが……ユリウスは傍らのデスが拍子抜けする程あっさりと、まるで脱いだコートをハンガーにでもかけるかのような気安さで、聖母像の手にヴァンパイアキラーを納めた。

 

 

―――瞬間!聖母像の体が淡い光に包まれ、やがてその光は部屋中に、そして城全体を包み込む!

 

 

 

 

 

 

「――来たッ!!」

 

 ユリウス達のいる慈愛の間の丁度真下。ダンスホール中央にそびえる祭壇に、ヴァンパイアキラーの放つ光の信号が送られた。

 

『掛けまくも畏き……の大神……』

 

 忠守はすぐさま印を組むと、日食に城を封印する為の祓詞を唱え始める。たちまち忠守を含む祭壇の周囲に五芒星の光が立ち昇り、慈愛の間から贈られた光を幾乗にも増幅。光の帯はやがて繭となって悪魔城を包みこむ!

 

 

「諸々の禍事、罪、穢れ……祓へ給い清め給い………」

 

 

「魔王が魂、悪魔が城、袂を分かち……」

 

 

「常しえに封ずる事……恐み恐みも白す!!」

 

 

―――カッ!!

 

 

”ゴ……ゴ……ゴゴゴゴゴ……ッッ”

 

 

 忠守が封印の詔を唱え終えた瞬間、天にある日食と地にある悪魔城を結ぶ、一筋の光の道が形成された!

 ヴァンパイアキラーの力と、忠守ら神官の祈祷によって、悪魔城はこの大地から完全に隔離され、その巨体が浮上する。地上という鎖から解き放たれた悪魔城は、やがて辺りに物悲し気な轟音を轟かせながら、ゆっくりと真円を描く日食へ昇り始めた…………

 

 

 

 

 

 

 

「…………ッッッ!?!」

 

 デスの目論見は大きく外れた。ユリウスはデスが行動を起こす間も無く、一片の躊躇いも無しに鞭を聖母像に置いたのだ。

 

 ”二択を迫り逡巡させ、少しでも時間を稼ぐ。あわよくば不意の一撃を加える”

 そう企んでいたデスだったが……あまりにもあっけなさ過ぎる幕切れに、死神は我を忘れ呆然と立ち尽くしていた。

 だが……振り返ったユリウスが見せた勝ち誇ったような笑みに、デスは思わず我に返り叫ぶ。

 

 

「き……貴様死ぬつもりか!?いかにベルモンドとはいえ生身の人間が封印の衝撃に耐えられると思っているのかッ!」

 

 デスがユリウスを指差し絶叫する。だが当のユリウスは落ち着き払った様子で首を横に振ると、デスに向かい静かに語り始める。

 

 

「死ぬつもりなんてさらさら無えよ……死にかけの死神一匹ぐらい、鞭無しでも倒す算段がついてるってだけさ」

 

「――ッッ!!舐めおってェェッ!」

 

 ユリウスの不敵過ぎる言葉に、デスは怒りに身を任せ襲い掛かる!が……

 

 

”タアァァァンッ”

 

 

 乾いた銃声が慈愛の間に鳴り響き、デスの右手首は粉々に粉砕された。予想外の衝撃に、デスは一体何が起こったのかすぐには理解できない様子だった。

 

 

「意外と使いやすいじゃないか。もっともラングはともかくジョーンズの奴は俺に使われるなんて気に食わないだろうがな……」

 

 ……ユリウスの手には壊れかけの魔導銃(アガーテ)が握られていた。

 

「どうだ割と似合うだろ?地元(テキサス)じゃよく馬に乗ってたしな、ハイヨー!シルバー!……何てな?フフフ……」

 

 ユリウスが西部劇のガンマンのようにアガーテを指に引っ掛けくるくると回す。その余裕ぶった態度に、デスの神経は一層逆撫でされた。

 

 

「グヌウウウウッッ……そんなに死にたいかベルモンドォッ!!」

 

 失った右手を押さえながら、デスは憎悪のこもった視線をユリウスに投げかけると、今度はなけなしの魔力で無数の小鎌を召喚し、ユリウスめがけ投げ放つ……!しかしそれらも全てユリウスの放ったアガーテの連弾に撃ち落されてしまった。

 

「…………馬鹿なッ!」

 

 ユリウスの予想外の銃さばきに、デスが思わず一歩後ずさる。その後を追うようにユリウスが一歩詰め寄る。

 

 

「先生は……鞭に頼らなくても一流のヴァンパイア・ハンターだった……」

 

「ラングも……鞭なんか使えなくても最後まで立派に闘った……」

 

「ハルカも……!アルカードも……!ほかのみんなも……!自分の持てる全てを使って必死にこの城と戦ったんだ……!!」

 

 

「だからなあ……ヴァンパイアキラーなんて無くても…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テメェなんぞに負けるかあァッッ!!」

 

「!!!!」

 

 ユリウスの体から溢れる凄まじい気迫に、デスの体に戦慄が走る!ユリウスとデス……ダンスホールでの邂逅からほんの半日の間に、互いの趨勢は逆転していた。

 

 ユリウスは間髪いれずアガーテを乱射し、デスの体を削り取っていく!ユリウスの猛攻の前に、既に半生だった死神にはもはやなす術が無いかに思われた。しかし……

 

 

「ヌうゥゥ………」

 

 

 

「カアアアアッッッ!」

 

 

 だがデスにも……この魔物にも意地がある。千年の永きに渡り仕えた主を倒され、その象徴である城を封印され、このまま何も出来ず滅ぼされるなど、到底受け入れられる筈が無い。

 

 

「貴様の……貴様のせいで何もかもがアアアァァァ―――ッ!!」

 

 

 デスは最後の魔力を振り絞り、ユリウスの持つアガーテ目掛け魔法弾を放った!不意打ちに近い形で放たれた魔力の槍は見事にアガーテに命中し、ユリウスの右手ごと粉々に魔銃を粉砕する。

 

 が、それでもユリウスの進撃は止められなかった。ユリウスは骨の露出した右手を庇うどころか、逆に思い切り握り締めると、その勢いのままデスの横っ面目掛け鉄拳をお見舞いするッ!

 

「うゴゥァッ!?」

 

 ユリウスの血飛沫とともにデスの顔が半壊し、骨が砕け散った!並の魔物ならそのまま倒れるであろう痛恨の一撃。だが死神は残された右の奥歯を噛み締め無理やり意識を繋ぎとめると、こちらも残された左手でユリウスを殴りつけた!!

 

「ぐガァッ!?」

 

 死にかけているとはいえ体格差だけならミニマム級とヘビー級以上の差がある魔物の打撃だ。ユリウスの頭蓋は脳髄から揺さぶられ、同時に殴りつけたデスの拳が砕け散る!

 ドラキュラ戦でのダメージの蓄積もあり、残っていたユリウスの意識は一気に削られ、ユリウスの体はそのまま地面に叩きつけられそうになった。が――

 

 

”ダンッ!!”

 

「!?」

 

 だが……先の死神と同じくユリウスも耐えた。固い石畳みに叩きつけられる寸前、鼻先数センチで踏みとどまる!

 どうして意識を繋ぎとめられたのかは解らない。もう封印は完成している。今更勝とうが負けようが趨勢は変わらない。だが、ユリウスの心が、人間としての意地が倒れるのを拒否した。

 

 

「だああッ!!」

 

 

 ユリウスはくの時に折れ曲がった体を一気に跳ね起こし、その勢いのまま今度は左の拳でデスを殴りつけた!

 

「あグゥォッ!?」

 

 再び鮮血と供に骨片が舞い、デスの下顎は完全に崩壊した。だがデスは残された頭蓋でユリウスに強烈な頭突きをお見舞いする!ベルモンドと死神の、お互いの体を壊しながらの哀しい意地の張り合いが始まった。

 

 

「貴様さえ……ッ貴様さえいなければッ!伯爵様はッ!!私はァッ!!」

 

「もう幕は引いたんだよ!いつまでもみみっちくしがみついてんじゃねえッ!!」

 

「終わっただと!?まだだッ!貴様を……貴様を殺すまではアアァァ―――ッ!!」

 

「この……馬鹿野郎がァ―――ッ!」

 

 

 ユリウスが血と、汗と、鼻水と、あらゆる体液にまみれながら顔をグシャグシャにしてデスを殴る。もうこの魔物に対する憎しみも、怒りも、そんな事はどうでもよくなっていた。あらゆる感情が混ぜこぜになり、ただとめどない哀しみだけが涙となって、ユリウスの瞳から溢れていた。

 

 

「全部……全部終わったんだ!! 俺も!お前も!この城も!何もかも!!みんな……みんな終わったんだよッ!!あるべき所へ……」

 

 

 

 

 

「闇へ……還れェッッ!!!」

 

 

 ユリウスの天を突く叫びと供に、その体から十字状の光が溢れ出す……!その光は瞬く間に広がり、デスも、聖母像も、自身をも呑み込み、眩い光の柱となって部屋を包んでいく…………

 

 

 

―――

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が去った後の慈愛の間……

そこにはユリウスも、デスも、一切の人影は無く……、鞭を持った聖母像が穏やかな微笑みを浮かべるのみ………

 

 1999年7月某日正午。ここにベルモンドと悪魔城最後の…………本当に全ての闘いが終わったのだった…………

 

 

 

 

 

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