悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999 作:41
脱出
”ドオオオオオオッッ”
『うおおおッ!!?』
突如大地震の如き揺れがダンスホールを襲い、神官の幾人かはその場に転倒してしまう。ヴァンパイアキラーの力によって悪魔城とドラキュラが切り離された直後、城が日食へ向かい上昇し始めたのだ。
「ぬかった……、封印の衝撃がここまでとは……!」
悪魔城程の巨大な建造物が大地の頸木から外れる衝撃は、忠守達の想像を遥かに超える物だった。ただでさえ崩れかけていた城が、その反動で一気に崩壊のスピードを速める。
「やむを得ん、皆、急いで脱出を!!」
出来る事ならばアルカード達の帰還を待つつもりだったが、この崩壊速度でこのまま待っていたら自身を信じて残ってくれた神官たちが全滅してしまう。
忠守は断腸の思いで号令をかけ、神官たちに脱出を促すが……
”ゴガララララァァァ!!!”
『!!!』
だが脱出を促した矢先、その出鼻をくじくが如くホールを支えていた柱の数本が崩れ落ちる!大理石の柱と壁が土砂の様に雪崩れこみ、正門への出口は瞬く間に瓦礫で埋まってしまった。
「く……ッ!なんという……」
己の見通しの甘さを悔い、忠守が苦悶の表情を浮かべる。だが……災禍はこれで終わらない。
「た、忠守様!!」
「ッ!!」
追い打ちをかける様に、後方に残っていた忠守と祭壇目掛けダンスホールの天井が崩落してきた!今の忠守には、この巨大な重量物から祭壇と部下を守る力は残されていない――!
「――ッッ!!」
”ズッ……ウウウウゥゥンッ!!”
「……」
「………………?」
轟音の後に続く静寂…………
死を覚悟した忠守だったが、不思議と痛みがない。人の最後というのはこんなものかと思ったが……ふと、大きな影が自分を覆っている事に忠守は気付く。
「ッ!!!?」
訝しみながら見上げた先……天井を覆い尽くす程の巨大な魔獣が、蜥蜴の様な顔を向け、遥か高みからこちらを見下ろしていた。
突如出現した異形の怪物に、すわ悪魔城の追手かと神官たちはある者は恐れおののき、ある者は腰を抜かす。だがまさにその時、ホールに見知った影が現れた。
「忠守!」
「有角殿!」
最上階でユリウスと別れたアルカードが、結界が完成したのとほぼ同時にホールに到着したのだ。だがアルカードは忠守達の無事に安堵する間もなく、行く手を遮る様に立つ怪物の姿に目を奪われた。
「ガラモス……!」
アルカードが魔獣に向かって叫ぶ。ガラモスも言葉こそ発しないものの、その視線を忠守達からアルカードへと動かし、じっと宿敵の顔を睨みつけている。
――貴公子と魔獣。凄まじい闘気を発しながら睨み合う両者に、神官達は一言も言葉を発せない。忠守達は脱出するのも忘れ、ただただ息を飲み事の成り行きを見守る事しかできないでいた。
”バババジィィィッッ!!”
「!!」
不意に魔獣が持つ杖から目もくらむ様な雷光が迸る!強烈な稲光に、忠守達は思わず目を閉じ身をかがめるが……再び目を開けた時、出口を塞ぐ瓦礫はホールの外壁ごと跡形も無く消え去っていた。
「……行けい!」
「――!」
ガラモスは祭壇に覆いかぶさるようにして、アルカードに向かってそう告げた。その意外過ぎる言葉に、アルカードは驚きと共に言葉を失う……だがやがてガラモスともう一度視線を酌み交すと、すぐに出口の方を向き走り出した。
「行くぞ忠守!」
「は、はい!」
アルカードに促され、忠守たちも走り出す。ホールから去る間際、忠守は後ろを振り返った。崩れ行くダンスホールの中、祭壇を守る様に立つ魔物が、まだこちらを見つめていた。
「あの魔物は一体……?」
走りながら忠守がアルカードに尋ねる。アルカードはしばしの沈黙の後、普段と変わらぬ声色で答えた。
「古い……友人だ」
◆
◆
◆
「城が……ッ日食の中へ……ッ!!」
ドラキュラ城から大分離れた小高い丘の上、生き残りの人間達は、マキの先導の下どうにか城からの脱出に成功していた。
主を失った城は崩壊を続けながら徐々に空へ……日食の中へと吸い込まれていく。やがて日食の円に悪魔城が完全におさまると、今度はその影が欠けるのと共に少しづつ城もその姿を消していく……
……………
………
……
…
…
……数分の後、日食が終わるのと同時に悪魔城もその姿を完全に消した。天には雲一つない青空に太陽が煌めき、城が存在していた場所には隕石が落ちたような穴がポッカリと空いている。
辺りは今までの死闘が嘘のように、平和な夏の日差しに照らされている。人類はドラキュラの脅威に……破滅の未来に打ち勝ったのだ。
「………………」
だが、生き残った人間達から歓声は上がらなかった。あまりにも現実離れした空間からいきなり現世に戻って来た事で、さっきまで城内で体験した事……城の中で出会った不気味なクリーチャー、数々の罠、尊い犠牲、そして今目の前で起こった事象。それら全てが悪い夢だったのではないかと、軍人達は勿論、こういった経験に慣れている筈の教会の人間ですら、皆一様に呆然と立ち尽くしていた。
――叔父上……!皆……!
無言なのはマキも同じだった。少女の目には透き通るような青空も、眩い太陽も映ってはいない。ただ城に残してきた忠守や仲間達の顔が自責の念と共に浮かび上がるばかり……、少女の顔は澄み渡る空と対照的に、一向に晴れないでいた。
「――……ぃ、――ぉ……ぃ」
「……?」
だが……遥か遠く、木々の間から聞き覚えのある声が微かに聞こえてくる。
「おーい!マキー!皆ー!」
「お、叔父上っ!!」
無事に生還した忠守たちの姿を見て、一斉に歓声が上がった。マキもイの一番に丘を駆け下り、忠守達に駆け寄る。
「叔父上!有角殿!よくぞご無事で!!」
戻った忠守達と喜びの抱擁をかわすマキ。教会の人間や軍人達も、共に戦った仲間が無事に帰還した事で、ようやくその顔に笑顔が戻った。
しかし……戻ってきた者達を見回した瞬間、マキは言いようの無い不安にかられ、思わず傍らのアルカードに問いただした。
「……あの、他の皆さん……ハルカ殿達は?」
「………………」
◆
◆
◆
「………うっ……ひっく…………」
「……」
妹のように思っていた友人の訃報を聞いた少女は、その瞳を赤く染め、うずくまったまま嗚咽している。忠守がそっと寄り添い慰めていたが、叔父である彼にも少女の悲しみを癒す事は出来なかった。
沈んだのはマキだけでは無い。ジョーンズやラングの悲報を聞いた教会関係者や軍人達も歓喜から一転、皆沈黙し、ただただ沈痛な面持ちで哀悼を捧げている。
「有角殿……」
忠守が皆から離れた場所に一人佇むアルカードに声をかける。だが男からの返答は無い。不安げに思った忠守がアルカードの顔を見る。しかしその顔を一目見た瞬間忠守は言葉を失う。
アルカードは一見すると普段と変わらぬ表情に見えた。だが牙が食い込むほどに噛み締めた口元からは、真っ赤な血が滴っていた。同じように震えるほど強く握り締めた手からも、ビロードのように赤い鮮血がとめどなく流れ落ち、青く茂った草を赤く濡らしていた。
――何をしているユリウス!必ず戻って来るのではなかったのか!
もし周りに誰もいなかったらきっとそう絶叫していただろう……アルカードはその場にいない仲間を想い、ただじっと、日食に消えた悪魔城を睨み続ける事しか出来なかった…………
DS三部作+アケ魔城&リメイク入りのドミナスコレクションが発売され、にわかに界隈が活気づき嬉しい限りです。
で、本小説の今後の予定ですが本編2話+エピローグ+もし書けたらあとがきの様な物を投稿して完結の予定でいます。
随分時間がかかりましたがユリウス達の長かった旅も もうすぐゴールです。完結までいましばらくお付き合いください。