悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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夢

 

 

ここは……何処だ……?

 

 

何だろう……とても暖かい……

 

 

確か……デスと戦って……それから……

 

 

駄目だ……頭がぼんやりする…………

 

 

まあ……どうでもいいか……

 

 

鞭は……届けた……

 

 

やれることはやったんだしな……

 

 

もう……疲れた…………

 

 

 

いっそ、このまま…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ス」

 

 

……?

 

 

「……ユリウス」

 

 

……ハル……カ?

 

 

「帰らなくて……いいの?」

 

 

……帰るって……何処へ?

 

 

「元居た世界に決まってるじゃない」

 

 

元の……世界……

 

 

「それに私との約束は?」

 

 

約……束……?

 

 

「お姉ちゃんの魂……届けてくれるんでしょ……?」

 

 

それなら……アルカードに頼んだよ……

 

 

「ユリウスは届けてくれないの?」

 

 

俺には……無理だよ……

 

 

「どうして……?」

 

 

もう……疲れたんだ……

 

 

「疲れた……?」

 

 

俺に関わると……皆死ぬ……

 

 

「……」

 

 

父さん……母さん……ジョナサン先生……ラング……そして……お前……

 

 

「……」

 

 

もう……誰も殺したくない……死んでいくのを見たくない……

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

「…………ユリウス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うだうだ言ってないで起きろォォォ―――ッ!」

 

「――ッッ!?」

 

 

 少女の唐突な罵倒に、微睡んでいた青年の意識は一気に覚醒する。

 飛び起きたユリウスの眼前数十センチの目の前には、栗色の髪と翡翠色の瞳を湛えた少女が……地下深殿で自分が魂を奪ったハルカ・ヴェルナンデスが生前と全く同じ姿のままそこにいた。

 

 

「は……!?ハル……ッ」

 

 

 もう二度と会えないと思っていた少女の姿に、動転したユリウスはそれ以上声を上げる事が出来なかった。だが唖然とする青年に追い打ちをかけるように、再び懐かしい声が聞こえて来る。

 

 

「やっとお目覚めか?海兵隊なら懲罰ものだぞ?」

 

「……!?ら、ラングまで!!な、何で……!」

 

 

 ユリウスは唐突に現れた二人を代わる代わる見比べ、目を白黒させた。ハルカだけでなくデスに殺されたはずのラングも目の前にいる。果たして目の前の光景は真実なのか?それとも自分の都合のいい夢なのか?

 

 だが……改めて二人の顔を見回した後、ユリウスの頭脳は冷静に自身の状況を理解した。

 

 

「……そう、か」

 

 

 

 

 

 

「俺は………死んだのか……」

 

 

 

 

 

 

 

「……プッ」

 

 

 

 

 

 

『ははははははは!』

 

「!!?」

 

 深刻な顔で呟くユリウスを見て、二人が大笑いを始める。

 

「HAHAHA……、安心しろ、お前はまだ死んじゃいないよ」

「俺もハルカもあんな別れ方じゃスッキリしないからな。最後の挨拶くらいさせてやろうって、神様が気を利かせてくれたみたいだ」

 

「―――????」

 

 ラングが何か話しかけているようだが、混乱しかけているユリウスには半分も理解できなかった。ただはっきりしているのは、二人とも生前と同じ笑顔を自分に向けてくれている事だけだった。

 

 

 

◆

 

 

 

「まあとにかくだ。よくやったなユリウス、ドラキュラ討伐おめでとう。お疲れさん」

「ほんとユリウスにしては頑張ったんじゃない?まあか―なり危なっかしかったけど」

 

「!」

 

 ”ドラキュラ”というフレーズに、ユリウスは咄嗟に我に返る。

 

 

「そ、そうだ!そんな事はどうでもいい、俺はお前らに謝らなくちゃ……」

 

「謝る?何を?」

 

「何をって、何もかもだ!俺が、俺がもっとしっかりしてればラングも、ハルカも、きっと死なずに済んだ。みんなで帰れたんだ!」

 

「……」

 

「なのに……なのに俺だけ生き残って……、許してくれとは言わねえ!でも、でも……」

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

「まあ……そうだな」

 

「!」

 

 

「正直後悔が無いと言ったら嘘になる」

 

「……ッ」

 

 

「でもなユリウス。あまり俺を見くびるなよ?」

 

「……!」

 

 

「後悔が無いと言えば嘘になる。だがこれでも俺は軍人だぞ?入隊した時から”その時”の覚悟はしてきた」

「もしこの戦いを生き延びたとしても、また次の任務は来る。それが終わればその次が、生き続ける限りめぐり巡ってその時は来る。たまたま今回が”その時”だったってだけさ」

 

「………ラン…グ……」

 

 

 

 

 

「……わたしはそこまで達観できないなあ……」

 

「!!」

 

 

「あーあ、やっとお姉ちゃん取り返したのに、一度も会えないまま死んじゃうんだもん。マキともせっかく友達になれたのに、青春を謳歌する事も、素敵な伴侶に巡り合うことも出来ないまま……ああ、可憐な少女は冷たく硬い鞭の中…………」

 

「……………………」

 

 ハルカの言葉に、ユリウスは沈痛な面持ちで俯いてしまった。そんな青年の様子を見て、ラングが苦笑いを浮かべ口を開く。

 

 

「……ハルカ、あんまりユリウスをいじめるな。本心じゃ無い事は話し方で解る」

 

「!」

 

「あ、やっぱりばれた?いや~うまく猫かぶってるつもりだったんだけどなあ」

 

「な!おま……ッッ」

 

 一杯食わされた事が解り、ユリウスは即座に顔をあげハルカに向きなおったが……

 

 

 

「けどまあ文句があるのはホントだけどね?」

 

「!?」

 

 少女の瞳孔が、不意に猫の様に鋭くなる。

 

 

「大体何?アルカードさんに「必ず戻る」って言ったくせに、死にかけのデスなんかと相打ちするなんて。いくら鞭が無いからってちょっとダサ過ぎない?」

 

「……うぐっ」

 

 ハルカの相変わらずの歯に衣着せぬ物言いに、ユリウスは思わずたじろぐ。

 

 

「それとも……最初から戻らないつもりだったのか?」

 

「!」

 

 ラングの指摘に、ユリウスは思わず口を噤んだ。ユリウスは二人の追求から逃れる様に顔を背けたが……しばしの沈黙の後、重い口を開く。

 

 

「正直……解らねえ」

 

『わからない――?』

 

 

「アルカードと別れた時、必ず戻るって言ったのは本心からだ。でも……」

 

「デスと戦った時……ああ、このまま死んでもいいかなって……そうすりゃお前らへの詫びに少しはなるかなって……想ったのも事実だ」

 

「…………」

 

 

「大体生きて戻った所で……家族も、先生も、お前らもいないしな……それに……」

 

「それに……?」

 

 

 

 

 

「……お前ひとり……置いて行けるかよ……」

 

「――!、ユリウス……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬―――っ鹿じゃないの!?」

 

「はああ!?」

 

 

 感謝の言葉をかけられるどころか、少女から発せられたのはユリウスへの罵倒だった。二人は喧々諤々、生きていた頃と同じ様に感情に任せた口喧嘩を始めてしまう。

 

 

「いつまでもお子ちゃまなユリウスと一緒にしないでくれる?ユリウスのお守なんか無くったって、わたしは一人で大丈夫なんだから!」

 

「な!?お前本当に解ってんのか!?たった一人でこの先何十年……へたすりゃずっと鞭の中に、悪魔城に閉じ込められるんだぞ!!耐えられるわけねえだろ!」

 

「それがいらないお世話だっつーの!大体そんな辛気臭い理由で一緒に居られたらこっちが気が滅入ってやってらんないよ!超~メイワク!!」

 

「辛気臭い!?当たり前だ!お前やラングがいなくなった後……俺がどんな気持ちになったか知ってんのか!!」

 

「――!」

「――!」

 

 

「もう……、もう嫌なんだ。大切な人と……お前と、皆と会えなくなるのは……」

 

『…………』

 

 二度と会えないと思っていた大切な人と再会し、思いの丈をぶちまけたからか……感極まったユリウスの眼からは、人知れず涙が溢れていた。声は震え、膝は崩れ、いつの間にか青年は少女に縋っていた。しかし……

 

 

 

 

 

 

「………ダメだよ」

 

「!」

 

 

「ユリウスは……まだ生きてるじゃない」

 

「……」

 

 

「悔しいけど……私も、ラングさんも、もうユリウスに何もしてあげられない……」

 

「…………」

 

 

「……ハルカの言う通りだ。もう俺たちはお前に何もしてやれない。……だがアルカードは違う」

 

「……ッ」

 

 

「きっと……アルカードはお前を待ってるぞ?あいつを一人にするのか?」

 

「それは……」

 

 

「アルカードさんああ見えて物凄く寂しがり屋だからねー、一人になったら泣いちゃうかも」

「だな、表情が変わらないせいで解りづらいけどな」

 

「…………」

 

 

「それになユリウス。やっと一族の使命とやらが終わったんだろう?本当にここで終わっていいのか?」

 

「……何?」

 

「これからじゃないかお前の人生は。やりたかった事、何でも出来るんだぞ?……綺麗なおねーちゃんと色んな事したり……な♪」

 

「な……おまっ!」

 

「人間年取ってからの方が長いんだ。楽しい事も、つらい事もこれから山ほどある。本当の……お前が自分で決める、お前自身の人生を進むんだよ、ユリウス!」

 

「…………!!」

 

 

 ラングがわざとらしいくらい明るく、おおげさなジェスチャーを交えユリウスを激励する。それとは逆に……今まで悪態をついていたハルカが、一転神妙な面持ちで話しかけてきた。

 

 

「ね?だからユリウス、私は……私達は本当に大丈夫だから……」

 

「ハル……カ――」

 

 

 ユリウスは思わず二人に向かって何かを伝えようとした。だが頭がぐちゃぐちゃになって肝心の言葉が、言いたい言葉が出てこない。

 謝罪か、感謝か、それともそれ以外の”何か”か……、だがユリウスの脳が感情を整理し、言葉を紡ぎ出す前に、無情にも三人の時は終わりを迎えようとしていた。

 

 

「ラング……!体が……!!」

 

 いつぞやの夢の世界で師と別れた時と同じように、ラングの体が光の粒子へと変わっていく。

 

 

「どうやら時間切れみたいだな。何、ちょっとの間のお別れだユリウス。けどくれぐれも馬鹿な気はおこすなよ?こっちに来るなら爺になってから来い!いいな!!」

 

「名残惜しいけどお別れ会はここまで!さあユリウス用意は良い?瞬間移動で一気に地表まで飛ばすからね。しっかり受け身とってよ?」

 

「待て!まだ話は……ッ」

 

 ユリウスは二人を引き留めようと必死に手を伸ばした。だがどれだけもがき、踏み出しても、その手が二人に触れる事は無かった。

 

 

「じゃあなユリウス。最後にもし……、もし無事に帰る事が出来たら、マリアに……妻に永遠に愛していたと伝えておいてくれ」

 

「バイバイユリウス、私もお姉ちゃんとマキに帰れなくてごめんって言っといて、もし破ったら化けて出るから!」

 

 

「な……ふざけんな!言いたいことがあるならお前らが直接言え!俺に押し付けんな!」

 

 

「まだ……まだお前らに言いたいことが!話したいことが……!」

 

 

 

「ハル……!ラ…グ……………!!」

 

 

 

「は………ラ………」

 

 

 

「……」

 

 

 

 …

 

 

 ―――

 

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