悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999 作:41
「○×山中で起きた大規模な地盤沈下は、地下に溜まっていた可燃性ガスの影響と見られ………」
遠くから微かに人の話し声が聞こえてくる……青年はまだ微睡みの中にいた……
正直うっとおしかった。理由は解らないが酷く疲れていた。何故なのかは思い出せない……いや、思い出そうとすると恐ろしい悪夢が蘇ってきそうで……できるならこのまま永遠に眠っていたい…二度と目を覚ましたくない……おぼろげな意識で青年はそう考えていた……
しかしその儚い願いはやけに甲高い審判のラッパと供に、唐突に終わりを迎える。
「先生!19号室の患者さんが!!」
微睡みはけたたましい看護婦の叫び声によって終わりを告げ、薄く開いた目に、嫌に白く眩しい光が差し込んできた……
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「あなたは陥没した地面の底に一人で倒れていたんですよ?」
度の強そうな厚い黒縁メガネをかけた医者らしき男が興奮気味にそう告げた。どうやらここは病院らしい。壁、天井、カーテンに毛布まであらゆる物が白一色。道理で目に入ってきた光が妙に白っぽかったわけだ。
どこからか聞こえてきた話し声も、要は休憩所のTVから流れるニュース番組のキャスターの声で、耳の遠い老患者が大音量で流していたからだった。もっともそのおかげで目が覚めたわけだが……
「痛つっ!!」少し体を動かしただけで激痛が走る。見れば体のあちこちが包帯だらけだ。おまけに両腕はギブスで固定されているし、左の腕には点滴、体中の至る所からよくわからないコードが延びている。顔を見ることは出来ないが、おそらく似たようなものだろう。
「一体何日くらい寝ていたのか?」
青年は医者に尋ねた。
「丸1か月だ」
と医者が答える。なるほど、それなら先の看護婦の驚きようも頷ける。医者が言うにはこのまま意識が戻らないのではないかと心配していたそうだ。もっとも、不思議な事に多額の医療費が振り込まれていたのでその点では問題は無かったらしい。
「一体誰が?」
医者に尋ねたが、匿名なので解らないと言う。ただ当直の看護士が病室をのぞく黒いスーツの男を一度見かけたらしい。
「あなたの知り合いではないのか?」
医者に聞かれたが皆目見当がつかない。だが、どこか懐かしいような気もした。
「……おっといけない!」
医者はわざとらしく手を打つと、真っ先に聞かなければいけない事を忘れていたと、笑いながら言った。
「ご自身の名前は解りますか?発見された時身分を証明できる物を何も身につけておられなかったようなので……」
なんだそんな事かと青年は思った。体が動かせるならお返しに今すぐ肩をすくめるジェスチャーのひとつもしてやっただろう。青年は溜息混じりに自分の名を答える。
「俺の名はJ――
………そう言いかけて、まるで時が止まったかの様に青年の口は動かなくなった。
言い慣れたはずの……今まで何度と無く思い返し、喋ったはずの言葉が何故か出てこない………
必死に思い出そうとしているのだが………頭を動かしているのだが………焦れば焦るほど、考えれば考えるほど……当たり前に出てくるはずの自分の名前が………使い慣れた自分の名前が……どうしても出てこない………
医者は心配そうな顔でこちらを見ている。何をしている訳でもないのに、汗が滲み、呼吸が荒くなる。瞳孔は開き、動悸が止まらない。傍らの看護婦の視線がそれに拍車をかける。
しばらくの沈黙のあと、青年は医者に言った。
「俺は………」
「俺は誰だ?」
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病院を見下ろす小高い丘の上に二人の男が立っていた。
一人は黒いスーツを着た長髪の青年、もう一人は和装に身をつつんだ中年男性だ。
和装の男性が黒スーツの男に話しかけた。
「いいのですか?彼をあのままにしておいて……」
黒スーツの男は振り向きもせず静かに……しかしよく通る声で答えた。
「奴は……鎖を断ち切ったのだ……千年の長きに渡り……ベルモンドの一族やその分家、俺や父………その他多くの人間が絡み取られ、縛られていた鎖をな………」
「ドラキュラは……父の気配は完全に無くなった………城もしばらくは現れる事はないだろう………ベルモンドの宿命も終わったのだ……もう……解き放ってやってもいいだろう…………」
そう言い終わると、男は踵を返し麓の方へ歩き出した。
「……どちらへ?」
和装の男が再び聞く。
「……奴の果たせなかった約束を果たしに……」
その手には銀色に光るドッグタグと、こぶし大の石が握られていた。和装の男性にそれだけ告げると、男はたちまち白い霧となって消えてしまった。
”ザアアアア……”
さわやかな風が吹く丘に、忠守は一人佇む、もうすぐ夏も終わりか……と思った。
「どうかご健勝で………」
もうそこには居ない友人に対し一人そう呟くと、忠守は病院に向かい一礼し、彼もまた故郷へと歩き出したのだった………
――悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999――
END
「あ~、コホンコホン」
誰もいなくなった丘に、いつの間にか1つの人影があった。赤いタキシードに黒いシルクハット、金色に輝く長髪をなびかせた中年の紳士だ。
木々と草が生い茂り、辺り一面緑で覆いつくされた丘には、そのけばけばしい赤と金の対比が否が応にも目立つ。やがて紳士は周りに誰もいないにも関らず、まるで友人にでも話しかけるように何事か喋り始めた。
「……いや、一時はどうなる事かと思いましたが、無事封印が成功して良かった。私めも文字通り骨を折り、砕き、燃やされた甲斐があったというもの。いやはや感動もひとしおですな」
「……実を言うとですね、他の次元では城の封印はあまりうまくいっておらぬのですよ」
「もちろん中には成功した例もありましたが、それ以外の多くが彼、ユリウス・ベルモンドを始め戦士は全滅、世界はボロボロ。地球の地軸が傾き、マナが失われ、一年中真夏の世界で少年少女が汎用人型決戦兵器に乗って戦う……おっとこれはまた別の世界の話でしたな。まあとにかく中立の私としてもあまり見ていて気分の良い物では無い訳でして、ハイ」
「それに比べれば数人の仲間の犠牲と彼自身の記憶だけですんだこの次元はうまくいった方でしょう。手に入らないベストよりも手に入るベター、格言ですなこれは」
「え?碌な事をしていないお前が偉そうに語るな?いやはやまったくごもっとも。……ですが、世の中はありとあらゆる事象が他者の犠牲の上に成り立っております。今この記録を御覧になっているあなたも、意図的か否かにかかわらず、知らず知らずのうちに誰かを踏み台にし、また誰かの踏み台にされているわけでして」
「確かに彼らの一生は短かった。死ぬにはいささか早すぎたかもしれません。だがきっと死ぬ瞬間……彼らは後悔はしていなかったと私は思います。信頼できる仲間を、愛する家族を救うため自らの命を捧げた彼らは間違いなく命を、自分の人生を生ききった事でしょう……」
「永遠に終わらない旅を続ける私からすれば素晴らしいの一言に尽きます。私は命の価値はどれだけ長く生きたかではなく、何を成したか、精一杯生ききれたかにあると考えておりますからして。いや全く羨ましい限り……え?不老不死のお前のほうがよっぽど羨ましい?いや、これはこれで結構苦労もあるのですよ、いや本当に……」
「それでも彼、”ユリウス・ベルモンド” の得た物に納得いかない方もございましょう……命をかけて闘い、多くの仲間や師を失ってまで得た結果がこの仕打ちかと」
「ですが……私はこれで良かったと思っております。もしあのまま記憶が残っていたならば、きっとそう遠くない未来、彼の心は壊れてしまっていたでしょうから」
「……それにね?彼自身が言っていたではないですか。”業という物からは逃げる事などできない”と……」
「”彼の物語” はこれで終わりでは無いのですよ!むしろここから始まるのです。”神”というのはいい性格してますからね、ベルモンドと伯爵、こんな面白い”絆”を放っとく訳ないじゃないですか!……まあ私も人の事を言えた義理では無いですが……ね」
「……さて、長々と語ってしまいましたがそろそろこの次元からお暇するといたしましょうか。次の日食は……36年後ですか。いや10年後だったかな?まあ私にとってはたいした違いではないですが……ね、」
「では皆様、次は日本でお会いしましょう。今度は晴れるといいですな!それでは!」
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以上で悪魔城ドラキュラ1999本編完結になります。8年間の長きにわたりお付き合い頂き本当にありがとうございました。
本編はこれで終わりですが、事前に書いた通りエピローグ的なショートストーリーと、あとがきの様なものを書くつもりでいます。
それほど間を置かずに投稿する予定ですので、お暇なときにでもチェックしてみてください。
最後に作品を読んでくださった方、感想、評価、お気に入り登録してくれたユーザーの皆様全てにこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
我ながらつたない文章でしたが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。ありがとうございました。
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