……なるたけ急ごうか。でも構想がない。つんだぁー!
今日は10月31日。ハロウィンの日であった。
ハロウィン、と言えども学校の様子に変わったところはなく、強いていうなら少々お菓子をよく見かけただろうかという程度。私服登校なら仮装してくる生徒もいただろうが来禅高校は完全制服。その上普段からお菓子を持ち込む女子高校生には、ハロウィンなどあまり関係がないようにも見えた。
とはいえ、そんなハロウィンをなんども経験してはいない、ハロウィンを始めて知る精霊たちは別である。主に十香が。「Trick or Treat」と言えばお菓子を貰えると誰かから――女子三人組の心当たりがある――教えこまれたのだろう。あちこちを回っては「とりっくおあとりーと!」と拙い発音で言って回っている。
狂三はハロウィンくらいは知っているし、鞠亜や鞠奈は俺とハロウィンで出かけたこともある。初体験なのは十香だけなのであった。
学校が終わり、家に帰ってからが俺の本番。これから、学校で配ったパンプキン味のクッキーとはまた別に作っておいたお菓子を精霊たちの元へと配るべく、俺は家を出た。
――十香の場合
「十香ー、入っていいかー?」
「む、シドーか? 別に構わないぞ?」
「おじゃましますっと」
リビングには十香がいた。
「見れくれシドー! とりっくおあとりーとというやつを言えば、みんながこんなにお菓子をくれたのだ!」
両手で抱えきれないほどのお菓子を机に載せる十香。カバン一杯に詰め込んで帰ってきたのか。
「山のようにお菓子が積み重なってるな……って、半分くらいもう中身が入ってねぇ!?」
「うむ、食べたからな」
精霊って太ったりするものなんだろうか。鞠亜や鞠奈の姿が五年前から変わりないし、てっきり精霊は歳をとらないものかと思っていたら身近な琴里が精霊で、精霊でも歳をとることは立証された訳だが不摂生から体調を崩すなんてことがあるのかとふと疑問に思った。多分霊力が何とかしているのだろう。実際、俺も酷く体調を崩すことは無いわけだし、その辺に霊力が関わっている気がする。
「ほら、十香。追加のおやつだ」
「おお! ……む? シドー、これは何なのだ?」
「十香専用きなこパンプキンパン……ってところかな」
ハロウィンらしさと十香の好みの両立を目指した結果だ。昼間に配った分とは違い一人ひとりに用意した方はサプライズのつもりでこっそりと作ったので相性が分からないのだが、最悪パンプキンのパンときなこの薄いパンに分けられる二段構造にしてある。おかげで少し見栄えは悪くなってしまったのだが。
「ありがとう、シドー!」
口いっぱいに頬張り、幸せそうにする十香を見れただけでも十分だ。
――四糸乃の場合
「四糸乃、いるかー?」
「し、士道、さん。……と、トリック、オア、トリー、ト……です……」
「おう、はいこれを」
「しどーくーん、なぁんだいこれはー?」
「よしのんのハロウィン衣装と、四糸乃にはよしのんとお揃いのアクセサリーに手作りのキャンディだ」
「おーっ、そりゃあいいねぇー!」
「その、士道さん、ありがとうございます……」
ペコリと頭を下げる四糸乃。ちなみに衣装の方は〈ラタトスク〉の面々によしのんへのプレゼントを相談したところ用意してくれたものだ。よしのんが喜んでくれて幸いである。キャンディーを作るのは初めてだったが、それなりに見栄えのいいものが出来た。味も……おそらく良いはずだ。
「ーー! ーー!」
「はは、分かったから落ち着いてくれ」
早速キャンディを咥え、美味しかったのか両手を握りぴょんぴょんと跳ねる四糸乃。転ぶと危ないので部屋に戻る様に伝え、次の部屋へと向かった。
――狂三の場合
「あら、士道さん。どうかしましたの?」
「狂三こそどうしたんだ? 今から出かけるのか?」
「ええ、十香さんや四糸乃さんにお菓子でも配ってみようかと思いまして。ハロウィンの準備などしておりませんから、今から少しだけ買いに行くところですの」
最初の狂三のイメージからすると随分変わったようにも思えるが、こういった気遣いのできる彼女こそが元の彼女なのかもしれない。
「ちょっと待ってくれよな……はい、狂三の分だ」
「これ……お菓子ですの?」
「おう。時計型に加工したマジパンだ」
加工に
「ふふ……ありがとうございますわ」
「おう、狂三も気をつけてな」
人殺しを問わないほどに歪みきってしまった彼女が、しかしその歪みを抱えたままで前を向き、進んでいるその姿はとても眩しいものに思えた。
――琴里の場合
「どうしたのよ士道……って、これを私に? 何かしら?」
「ハロウィンの贈り物を用意するのに〈フラクシナス〉を借りたから、そのお礼と、後はいつもの琴里のためにってところかな」
そう、みんなに配ったお菓子は〈フラクシナス〉の設備を借りて作ったものだ。家で作ると匂いなんかでバレてサプライズが薄まるしな。
「ええと、髪を結ぶリボンに……こっちは?」
「琴里用に焼いたハロウィンケーキだ。あと、そっちはまた別で艦橋のみんなやほかの乗組員達に配っておくクッキーだな」
「もう……別に気にしなくていいのに」
「そうもいくかよ」
肝心な時はこちらの独断専行が目立つがしかし、助けてもらっているのは事実なんだから。だから
「いつもありがとな、琴里」
「ん…………」
顔を背けた琴里の耳は真っ赤に染まっていた。
――鞠亜の場合
「いつもありがとうな、鞠亜」
「それはこっちのセリフですね、士道」
「それで、これを鞠亜にどうぞ」
「士道、口調が可笑しくなってますよ? 中身は……パンプキン味のチョコレート菓子ですか?」
「ああ、大当たりだ」
小さな、ア⚪ロぐらいの大きさのやつをたくさん作ってみた。まあ、形は真四角で面白みもないんだけど。
「いつの間に作ったんですか、士道? 基本、私たちがそばにいたと思うのですが」
「サプライズだから夜にこっそりとな。それより、感想が聞きたいから食べてみてくれないか?」
霊力のおかげか不摂生をしても体は普通に持つ。
「それじゃあ、士道が食べさせてください」
「べ、別に構わないけど……」
「ついでに後ろから抱きしめてくれると嬉しいです」
「やけに素直だな……別に構わないんだけどさ」
背中から、髪を引っ張らないようにそっと抱きしめる。伝わってくる、愛しい温かみ。
「はい、あーん」
摘んで差し出した指ごと食べられた。そしてそのまま、チョコレートそっちのけで指を甘噛みされ、舌でなぞられる。
「ま、鞠亜……?」
「士道の指、不思議な味がします」
チョコレートを嚥下して
「味もついていないはずなのに、なんだか甘くて、不思議な味……」
手首を引かれ、また指を咥えられる。今度は意趣返しのつもりで指を動かし、口腔をまさぐるように動かせば、その指に吸い付いてきた。
というか、なんだかこれ、変な気分に……
「ま、鞠亜、待ってくれ、ちょっと変な気分というかその」
「士道、背中に当たってますよ?」
この後、やけに素直な鞠亜に襲われたことは言うまでもない。
――鞠奈の場合
「どうしたのよキミ、夜中に一人で」
「まあ、ちょっとしたお届けものってやつだ」
「なにこれ……お菓子かしら? まさかハロウィンの?」
「ちょっと遅くなっちまったけどな。カボチャで作った饅頭ってところだな。中身もカボチャ」
和風にカボチャというちょっとした挑戦だ。まあ、あんこの使用を避けて中身もカボチャにしたため、それほど悪い味ではないはずだ。
「まさしくカボチャづくしね……って、どうしてキミは私の後ろに回るのよ」
「鞠亜に私に行った時に、鞠奈にもこうしてくれって言われてな」
私だけでは不公平ですから、とのことなのでとりあえずやっておこうかと。
「"も"ってことはあの子もやったのね……」
「はい、あーん」
「こ、このままたべるの?」
「ほら、あーん」
有無を言わさず差し出す。
「ん……美味しいわよ。カボチャの味ばかりだから、今度また別の味も欲しいわね。じゃあ、早く離れて」
「ん? どうしたんだ鞠奈」
様子がおかしい。少し姿勢的に辛かったがちらりと顔を見れば、真っ赤に染まっていた。
「待って、その、近いし心臓の音聞こえるし後ろなのにいい匂いするし安心するしその、当たってるし……もうダメ!」
この後、セーブが効かず勢いのままの鞠奈に押し倒された。後で恥ずかしがるなら止めておいたらいい、なんて言葉はテンションが高い時には出てこないのだと後で力説された。
一人ひとり分けた感じになりました。鞠亜と鞠奈を分けたかったのが理由です。まあ、番外編だしこういうちょっと不整合のある感じもいいよね。
後ろから抱きしめられるってどんな感じなんでしょうねぇ。恋人がいた事のない私には無縁ですがこんな感じで書いてみました。贈り物はそれぞれにお菓子的な贈り物ということで思いついたものですが正直狂三の辺りでネタ切れだった気がせんでもない。そして十分ほどの遅刻ですがこれでハロウィン番外編とさせてもらいます!
後ろの2人本命なのは言うまでもない。普段とは一味違う彼女達、いいでしょ?
ところでお菓子とか何となくしか食べない私にはよく分からんのだが架空の菓子とか書いてたりします? ちょっと不安になったので書き足してみた。