アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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サハギン

 

 

 

 

「川が見えるな。あそこからは、あの川沿いの道を真っ直ぐか」

「2日半かかる直線道路なら、150kmはありそうですね」

「道路は、瓦礫と車の残骸だらけ。歩くしかねえんだろうな。車があっても」

「動く車なんて生まれて18年、見た事も聞いた事もない」

 

 年上かよ、ミツカ。

 あれ、そういえばウイの年を聞いてないかも。こっち来たばかりの頃は、けっこう幼い言動も……

 法に触れたら怖いから、ウイが言い出すまで聞かないでおこう。それがいい。

 

「川沿いは用心しながら行くぞ。サハギンは狩るが深追いはしない。ウイ、ミツカ、俺の縦列隊形で進む」

「了解。では、行きましょう」

 

 ゆるい斜面を下りながら、振り返って鉄塔を見上げる。てっぺんが少し欠けた鉄塔は夏の日差しを受けて、長い影を荒野に落としていた。

 

「止まれ」

 

 抑えた声に、ウイが素早く反応してその場にかがむ。ミツカもウイを見てそれに倣った。

 膝撃ち。

 狙撃銃を構えて探す。

 マーカーは、右斜め前だ。

 倒壊した建物。ひび割れたアスファルト。錆びたガードレール。砂利の河原。大きな岩。いないだと?

 

「マーカーはあるが姿がない。光学迷彩の可能性は?」

「ないとは言えませんが、可能性としては低いかと。サハギンが水の中にいませんか?」

 

 川の水。

 これか。姿は見えないが、HPバーとサハギンという文字が見える。

 

「サンキュ。いた。水の中にサハギン。HPは50。ザコいな」

「珍味として流通する程度には、冒険者に狩られているクリーチャーです。あまり群れもしませんし、いい獲物です」

「狙撃しても、沈んだら回収は無理か。行こう。上がってくれば狩る」

「あたしも頑張るぞ」

「ええ。頼りにしてるわ」

 

 その言葉がよほど嬉しかったのか、ミツカが鼻歌を歌い出した。

 聞き慣れないメロディーを耳に入れながら、道路を横切ってガードレールのそばを歩く。

 歩く場所を決めるのは、先頭のウイだ。

 そのルートから察するに、サハギンを殺る気まんまんらしい。

 

「左に赤マーカー。さっきのサハギンか。足は遅いな。回収を考えて引きつけよう。そこの車の裏で待つ。ガードレールを越える所に、一斉射撃だ」

「了解」

「おうっ」

 

 ボンネット越しに2人が構える。アサルトライフルと猟銃だ。

 俺は保険の意味でショットガンをルーフに置き、自動拳銃を抜いた。水を吐く攻撃が強力すぎるなら、ショットガンで河原に落としてやればいい。

 近づいてくるマーカー。

 ウイが距離の読み上げをはじめると、ミツカが生唾を飲み込む音がここまで聞こえてきた。

 

「ガードレール、越えます」

 

 鱗にびっしり覆われた手が、ガードレールを掴んだ。3本指。

 酷くゆっくりと身を持ち上げるサハギン。

 ヒレもある。身長より大きな三叉の銛。顔は、まんま魚類だ。

 ガードレールを飛び越えるのではなく、酔っぱらいのサラリーマンのように緩慢な動きで跨ごうとしている。

 

「【パラライズマガジン】。撃てっ!」

 

 足を狙った1発。

 ダメージは10。続いて15。

 ウイだ。

 20。

 ミツカの猟銃か。命中おめでとう。

 サハギンのHPを5残して、銃声が止まっている。クリーチャーは逃げないらしいし1発で麻痺ったからいいが、なにやってんだ。

 

「決めなさい、ミツカ!」

 

 猟銃が火を吹いた。

 ウイの言葉に従ったと言うより、条件反射のような1発だった。

 

「おめでとう。これは、ミツカのアイテムボックスに入れとけ。親父さんとお袋さんへの土産だ」

「おめでとう、ミツカ」

「あ、あたしが、倒した……」

「ああ。見事にな」

「自信を持ちなさい」

「そうか、そうかっ。でも、ウイが収納してくれ。土産は必要ない」

「なら俺のに入れて、ブロックタウン帰ったら渡しに行くぞ?」

「ダメだって。これ以上は世話になれない」

「だから遠慮したらどうなるか教えたでしょうに。仲間はずれでいいのね?」

「それは嫌だっ!」

「なら早く入れちまえ。先は長いんだ。行くぞ」

 

 ショットガンを収納して、狙撃銃を背負う。

 自動拳銃のマガジンを補充すると、ミツカも終わったようだ。

 薬莢は自動でアイテムボックスに入っているし、サハギンの経験値は10だと知れた。

 もうここに用はない。

 さっさと歩き出す。

 

「ありがとう」

「はじめての獲物くらい、両親に食わせてやれ」

「そうよ。2足歩行で150センチくらいの体なのに、白身魚の味らしいから、いいお土産よ」

「そ、その、その時は2人もうちに来て食べないか?」

「せっかくの祝いの席に、俺達なんかいていいもんかなあ」

「違いますよ、ヒヤマ。これは娘さんを俺にくださいイベントですよ」

「ああ。蒔いた種の責任ってやつか。ミツカが子供産む気になったら、ちゃんと挨拶もしねえとなあ」

「まだ産む気はない。まずはブロックタウンを何とかしないとね」

「その資金源がおいでだ。左前方。複数だな」

 

 ウイが双眼鏡を出す。

 俺も狙撃銃を構えて、スコープを覗いた。

 

「シティーで双眼鏡を買ってやるから、今は我慢な。ミツカ」

「私とお揃いのを探しましょう。自動拳銃も3人分ね」

「ありがとう。大丈夫だ。周囲を警戒してるよ」

「サハギンが3。倒されたのが2。相手はモヒカン。ヒャッハーだな。数は3。32口径が1人、後の2人はバットに、ありゃバールか。おお、バールつええな。サハギンがすべて倒されたら、32口径持ちから狙撃する。距離があるから大丈夫だとは思うが、戦闘準備はしてくれ」

 

 状況を見てるうちに、バールで殴られたサハギンが血を吹いて倒れていた。

 

「出来れば1匹は残してください。ミツカに殺らせます」

「あ、あたしが?」

「無理はしなくていいぞ」

「……やらせてくれ。2人と一緒にいたいなら、敵は殺せなくちゃいけない」

 

 反対に殺られそうになっても、俺とウイがいれば平気か。

 なら殺らせてみよう。

 いつか人間に襲われたのに躊躇って、ミツカが傷つくところなんて見たくはない。

 

「わかった。弾の確認をしておけ。そろそろ終わるぞ」

 

 カチャカチャと音がする。

 ミツカの準備が終わる頃には、あっちのケリもついているだろう。

 

「準備も、心構えも終わった。やってみせる」

「気楽にな。相手は人間じゃねえ。人を喰う、クリーチャーだ。終わったな。32口径装備、バール装備の順に狙撃する。残るバット野郎の残HPは15。1発でも当てりゃ終わりだ。行くぞ。【ファーストヒット】」

 

 接近戦の2人より残HPの多い32口径のモヒカン。

 ニヤニヤ笑う汚い顔まで見えている。

 人を殺す無慈悲さと真逆の、優しい指使いでトリガーを引いた。

 

「初弾命中、敵即死」

 

 ウイの言葉を聞きながらボルトを操作する。その間も、バール野郎から照準は外していない。トリガーを引くと、モヒカンはぶっ飛んだ。

 

「バール装備、死亡。残る1匹は、バットのまま足場の悪い河原を走ってきます。いい的ですね。ミツカ、殺りなさい」

 

 ミツカの汗が乾ききったアスファルトに落ちて、何も残さずに消えた。

 銃口が揺れる。

 怯えでも震えでもない、しっかりと狙いをつける動きだ。

 

「あたしは、オマエを殺すっ!」

 

 銃声が長く尾を引いた。

 荒野は、静まり返っている。鳴く鳥の1羽もいない。

 

「残り1匹、死亡。いい腕です、ミツカ」

「お疲れ。やるじゃんか」

「あ、ありがとう。レベルも8になったよ」

「おめでとう。また一歩、差を詰めたわね」

「おめでとさん。たった半日で3レベ来るか。ハンパねえな」

「ブロックタウンを出る前に、6直前だったんだ」

「なるほど。つかブロックタウンで、どうやってレベル上げしてたんだ?」

「小遣いを貯めて、家畜を潰させてもらうんだ。職業がない人は経験値とかないけど、ブロックタウンには荒れ地の牧畜家って職業のお爺ちゃんがいたからね。硬貨が必要なんだ」

「子供が小遣い握りしめて、家畜殺しに行くのか。シュールだなあ。どら、漁夫の利でサハギンまで回収して昼メシにしようぜ」

 

 身軽にガードレールを飛び越える、ウイのパンツが眩しい。

 続いたミツカもガン見してた。

 レズっ気は収まらないもんなんだなあ。あれから毎晩うちに来るから、嫌ってほど俺があふんあふん言わせてんのに。

 歩きながらウイがアイテムを回収する。何も言わないから、特に良い物はないんだろう。

 

「回収完了。ミツカ、32口径を右脇に装備するといいわ。背中の猟銃と、右腰の32口径だけじゃ不安だから」

「そうかな。じゃあ借りるよ。それにしても、ウイのアイテムボックスはどんな容量してるんだ。筋力と体力の合計が容量のはずだろう。明らかに超過してないか?」

「ミツカは職業があるから、私達の職業も見えてるでしょう」

「白い死神に神の愛し子、だろう」

「それが答えよ。容量は無限。ヒヤマは違うけどね」

「さすがはウイだ。ん。ここで昼食?」

 

 ウイが道路と河原の境目に座った。

 パンツ見えてんぞー。そして、ミツカがガン見してんぞー。

 

「死体からこれだけ離れればいいかと。見た感じ日陰もないので、ここで我慢しましょう」

 

 周囲にマーカーはない。

 俺とミツカも、砂利にそのまま座り込む。

 タバコに火を点けて深く吸い込むと、『冷たいスポーツドリンク』が渡された。礼を言って呷る。

 まるで水分が、体に染み込んでいくようだ。文句なしに、美味い。

 

「うわっ。美味しい、だけじゃなくて胃で吸収される感じ。なんだこれ?」

「スポーツドリンク。脱水症状予防に効果的な飲み物よ。風邪の時なんかにもいいから、ブロックタウンに帰ったらミツカの家にも持って行きなさい。仲間はずれが嫌ならね。はい、お弁当」

「むう。わかった。お弁当って。これはまた、贅沢にもほどが……」

「ただのハンバーガーじゃない。デザートはメロンの缶詰よ」

「遺跡品だけの食事とか、想像した事もなかったよ……」

「慣れろ。それにさっき回収した物は山分けなんだぞ。ミツカだって、これくらいはいつでも食える」

 

 タバコをもみ消して、ハンバーガーに食らいつく。

 缶詰のパンと野菜とハンバーグだが、味は悪くない。

 ちなみに野菜は、新鮮なサラダがそのまま缶詰になっていた。なんでこんな事が出来るんだと聞いてはみたが、ウイいわく考えるだけ無駄、なのでもう気にしていない。

 

「さっきのお菓子やジュースは、半分をシティーで売りましょう。もう半分はブロックタウンに持ち帰って、行商人が来たら小出しにして売る。現金だけでも3000はあったから、シティーでの買い物は余裕ね」

「3000!」

「ええ。硬貨だけでも、1000がミツカの取り分よ」

「ご先祖様からの貯蓄って一体……」

「ごちそうさま。自動拳銃は俺が2人にプレゼントすっからな。弾も」

「お揃いの自動拳銃。この世界らしくていいですね」

「そんな。あれは、硬貨50はするんだぞ」

「そのくらいは稼いでるっての」

「でも、32口径があるし」

「ミツカ、黙ってもらっておきなさい。いつもあんなにエロい事をされてるんだから、それくらい当然でしょ」

「いっつもお前らの方がノリノリじゃねえか……」

「何か言いやがりましたか?」

「なんも言ってませんっ」

 

 

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