アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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到着

 

 

 

 朝日が川面に反射して、キラキラと光を荒野に散らす。

 こんなに荒廃した大地にでも朝はやって来て、人はそれを1日の始まりとするのだ。当たり前の事のようでも、そうしている限り人は世界に、自然のすべてから見放されたりはしないのかもしれない。

 

 サンテーブルに置いた灰皿でタバコを消し、朝っぱらから感傷的な自分に苦笑いしつつ腰を上げた。

 

「お兄ちゃん、外にいたんだ。朝ごはんだよー」

「おう。おはよう、ニーニャ。ってなんだ、その不思議な物体?」

 

 歩くニーニャを追うように、4足歩行のドラム缶が着いて来ている。

 

「う? ああ、たーくんだよ。よろしくね」

「たーくん?」

「たーくん、ご挨拶は?」

「ピョロピー!」

「よろしくだって。ちゃんと挨拶できて偉いよ、たーくん」

「ピョロピー」

 

 蜘蛛のような4本の足の上に、単眼のモノアイが光りながら動く銀色の太い金属の筒。ロボットなのだろうが、まるで空き缶を利用した小学生の工作じゃないか。

 よく見ると、そのてっぺんに片目がデロリと零れる男の子のフィギュアが乗っている。子供にこんなの与えたバカは誰だ。

 

「たーくんは、ニーニャのよーじんぼーなの。外に出る時は、一緒じゃないと怒られるんだあ」

「護衛ロボットって事か。よく可動品があったな」

「ニーニャが修理して、プログラムし直したんだよ。ねえ、朝ごはん食べよ?」

「ああ。悪かった。行こう」

「うんっ」

 

 ニーニャとたーくんが事務所の入口に向かう。

 後を追おうとすると、たーくんのモノアイが180度回転して俺を捉えた。

 

「ピョロピー」

「……今、行く」

「ふふっ。心配したんだね。たーくんは優しいなあ」

 

 マシンガンで撃たれるかと思ったっての。刻が見えたらどうしてくれる。

 

「おはよう、婆さん。ウイとミツカも」

「揃ったね。いただこうか」

 

 朝の挨拶もそこそこに、婆さんの号令で朝メシを食いはじめる。

 

「昨夜のうちに、スラムの出口にハンターズネストは休みだと看板を出してある。メシを食ったら、船でシティーに向かうよ」

「了解。硬貨は?」

「今日だけはサービスするさね。次からは超エネルギーバッテリー1つで、100回まで1人硬貨10枚の料金で運ぶ。行き帰りのついでにね。3個を先に貰ってあるから、かなり運べるよ。信用できる用心棒を、そっちが用意したらだがね」

「百合かサムライか絶壁な。どれかは口説き落とす」

「違いますよ。花園か剣聖か鉄壁です」

「花園が1番いいんだよな?」

「ああ。全員が女で、腕もいい。次の剣聖は腕はいいがソロ。鉄壁の連中は、ニーニャがいない時しか乗せない。そんな連中さね」

「なんとしても、花園に頼みてえな。ミツカの知り合いなんだろ?」

「1度ブロックタウンに寄った時に会っただけだ。1年は前だから、覚えてるかどうか」

 

 俺とウイのも合わせれば、金はたっぷりある。ただ、それは花園も同じだろう。

 シティーで1番の冒険者パーティー。

 金だけで動かないなら、ミツカの体でも差し出すか。

 

「ごちそうさま。なんか寒気がした」

「サハギンサンド、うまかったな。ごちそうさま。ニーニャ、急がなくていい。ちゃんと噛んで食え」

「ありがふぉ、お兄ひゃん」

「ごちそうさまでした。コーヒーを出しますね」

「おお。何年ぶりのコーヒーだろうねえ。ありがたくいただくよ」

 

 ウイのアイテムボックスから、別荘で淹れたコーヒーが出される。

 いい香りを楽しみながら啜ると、食べ終わったニーニャが俺をじっと見ていた。

 

「飲むか?」

「いいのっ?」

「ああ。飲んでみな」

「ニーニャちゃんはジュースの方がいいんじゃ?」

「飲んでみてダメなら、ジュースを飲めばいいさ」

「無理みたいね。ニーニャちゃん、オレンジジュースよ」

 

 顔を歪めて固まったニーニャに、ウイがジュースを飲ませる。

 帰ってきたコーヒーを飲みながらタバコを出すと、婆さんの手が伸びてきた。

 

「体によくねえぞ?」

「たまにならいい薬さね。ありがとよ。いいライターじゃないか。ふーっ。美味い。1級品だねえ」

「ごちそうさまでしたっ。婆ちゃん。ニーニャ、船の準備するね」

「俺達も手伝うぞ」

「悪いねえ。あたしゃ戸締まりをするから、よろしく頼むよ」

 

 とは言っても、クルーザーになんて乗った事がない。どうすればいいのかさっぱりだ。

 

「ニーニャ、このロープを引っ張って船を寄せればいいのか?」

「うん。お願い、お兄ちゃん」

 

 何トンもある船だろうに、あっさりと桟橋に引き寄せた。

 元からこういうものなのか、筋力が上がったからなのかはわからない。

 

「たーくん、お願い」

「ピョロピー」

 

 たーくんが2本の足を船縁に引っ掛け、桟橋のタイヤに船を固定する。

 ニーニャの護衛だけじゃなく、こんな事も出来るのか。たいしたもんだ。

 

「やるなあ、たーくん」

「凄いぞたーくん」

「レーザー砲を10門も搭載して、さらにこの機能。ニーニャちゃんは、さすが専門職ですね」

「えへへ。直して欲しいのあったら、いつでも持ってきてね。シティーのうちの店には、ニーニャが直した武器もいっぱいあるよ。それにたーくんには6発だけだけど、ミサイルも搭載してるの」

 

 護衛ロボットどころじゃねえな。キリングマシーンじゃんか。

 

「待たせたねえ。さあ、乗った乗った」

 

 5人と1体が乗り込むと、船が川面を滑り出す。

 

「気持ちいいですね。船なんてはじめてです」

「あたしも。凄いな、まるで空を飛んでるみたいだ」

「お姉ちゃん、たまにサハギンが飛び込んで来るから気をつけてね」

「……キャビンってトコも見てみたいな。なあ、ウイ」

「ええ。ここで発砲して修理代とか怖すぎます。すぐに下りましょう」

 

 たーくんを残してキャビンに下りると、狭くはあるがテーブルとベンチのある居心地の良さそうな空間だった。

 ニーニャの勧めに従って座る。

 すぐに鉄のテーブルに張り付く磁石付きの灰皿が出された。可愛いし気がつくし、こんな妹が欲しかったもんだ。

 

「ありがとな」

「ゆっくりしててね。ニーニャは婆ちゃんに操船を習ってくる」

「そっか。ありがとな」

「ありがとね、ニーニャちゃん」

「ニーニャちゃん、これ缶入りの甘いアイスティー。お婆ちゃんのとニーニャちゃんのね」

「ありがとう。じゃあ、ごゆっくりー」

 

 タバコを吸いながら、網膜ディスプレイの地図を開く。

 おお、川の中まで地図が埋まってる。いいねえ。生きてるうちに、この辺だけでも地図を埋めたいもんだ。白い部分が残ってるのは、なんとなく気持ちが悪い。

 

「シティーに入る前に、硬貨だけは分配しておきます。テーブルに出すから、すぐにすべて収納してくださいね。では、ミツカからです」

 

 急いで灰皿と缶コーヒーを手に取る。回収の邪魔になるかもしれない。

 テーブルに、硬貨の山が出来た。

 ミツカが慌てている。

 

「あたし1人分でこれなのかっ!?」

「そうですよ。早く回収しなさい。揺れたら落ちますよ」

「わ、わかった」

「ヒヤマのはアイテムボックスに直接入れましたよ」

「お。サンキュ。1200くらいか」

「ええ。1223枚。きっちり3等分です」

「えーっと。対物ライフルに自動拳銃を5丁、各種弾薬か。足りるよな?」

「自動拳銃は相場が硬貨50枚。弾薬はブロックタウンと変わらないでしょう。対物ライフルだって高くても200とかでしょうから、サブマシンガンも新調したらどうですか」

「そうするかな。装弾数が多くて威力が高いのねえかなあ」

「どれも初心者シリーズよりはマシでしょう。ミツカは銃はいらないのよね。何を仕入れてブロックタウンに運ぶの?」

「花園への依頼料が足りるかの心配をしているくらいだよ」

「足りなかったら、俺達が出すさ」

「ダメだ。これはブロックタウンの」

「ミツカ、遠慮したらどうなるんでした?」

 

 ミツカが黙り込む。

 気持ちはわかるが、俺達は硬貨なんてあまり必要ないんだから遠慮しても仕方ない。

 

「それでも、ブロックタウンのために2人の金を使わせる訳にはいかない!」

「何か勘違いしてるようですが、出すとすればブロックタウンへの投資としてですよ?」

「投資……」

「ええ。ミツカもいるので、ブロックタウンは私達の帰る場所です。将来のブロックタウンが良くなるために、今お金が必要ならそれを出して、いつか返してもらうんですよ」

「それならいい、のか?」

「まあ交渉は私がしますし、相手は女で職業持ちですから、ヒヤマがいればどうとでもなるでしょう」

「相手は百合だろ。ミツカが抱かれた方がいいんじゃねえか?」

「嫌だ。花園のリーダーは悪い人じゃないが、そんな関係にはなりたくない」

 

 いいじゃねえかよやらせろよ、とか言って遊んでいたら、ニーニャがキャビンに下りてきた。慌てて下ネタをやめて笑顔を作る。

 

「そろそろシティーだよー」

「ありがとな。すぐ行くよ」

「はぁい」

 

 見ると、空き缶どころか灰皿の吸い殻まで片付けは済んでいた。

 

「楽しみだな」

「ええ。どんな街なのでしょうね」

「シティーの住人は約500。でもスラムの人口は、1000とも2000とも言われている。ブロックタウンとは違うんだろうな」

 

 階段を登り切ると、夏の日差しが出迎えてくれた。

 泊りになるのは決定だから、クーラーのあるホテルでもあればいいが。

 

「来たっ。お兄ちゃんお姉ちゃん、あれがシティーだよー!」

 

 そう言いながらニーニャが進行方向を指差している。

 

「これは……」

「凄いな、さすが都会は違う!」

「工場以外の何にも見えませんね」

「運河沿いだからなあ。製鉄所かなんかか。遺跡っちゃ遺跡だな」

 

 世界大戦時の巨大軍艦にも似た、威容を誇る錆びた工場。

 その船着場に、船が寄ってゆく。

 太いロープを持ち上げたニーニャからそれを受け取り、船着き場で手を振る大男に向かって、上がった筋力に物を言わせて投げた。

 

「ありがとよー、兄ちゃんー!」

 

 そう言った大男に手を上げて挨拶する。

 男は素早くロープを鉄の杭に結び、見事な筋肉を見せつけるようにロープを引いた。

 

「ピョロピー」

「偉えぞ、たーくん。さあ、お客人。シティーにようこそ。歓迎するぜ!」

「ありがとさん」

 

 船着場には、この大男以外の人影はない。

 最後に婆さんが船から降りる。

 

「行こうか。シティーに入る資格は、1000枚の硬貨を持ってるかシティー住人の保証人がいるかだ。大丈夫かい?」

「問題ない」

「なら、あのゲートを潜るといい。警備ロボットがいるが、攻撃を加えなければただの鉄の塊だよ」

 

 空港の金属探知機のようなゲートを潜る。

 こんなんで、アイテムボックスの中の硬貨までわかるんだろうか。

 

「ご新規3名様の所持金を確認しました。ようこそ、シティーへ。良い滞在となる事をお祈りしています」

 

 スピーカーからの声がそう言うと同時に、地響きを立てて鉄の壁がせり上がった。ドアでも門でもなく、壁そのものがだ。

 

「大した歓迎だな」

「資材搬入口なのでしょうが、良い虚仮威しですね」

「都会は壁が動くのか。凄いなあ」

 

 ミツカ、それ違う。

 

 

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