アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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黄金の稲穂、3輪の花

 

 

 

 ミツカが開けたドアを1番に抜ける。

 すべての視線が俺に突き刺さった。老いも若きも、すべての女の視線がだ。

 壁際のピンボールに1つだけのビリヤード台。派手なジュークボックスは可動品らしく、オールディーズのような歌が流れている。

 外観は酷いが、いい酒場じゃないか。

 

「悪いが坊や、ここは女専用の宿屋と飲み屋でね。痛い思いをするのが嫌なら、回れ右して出てってくれないかい?」

 

 言った武装した女は冒険者だろう。

 だが、職業がない。HPバーの上にあるのは、名前だけだ。

 

「花園の連中に用があってもか、マリー?」

「気安く呼ぶんじゃないよ、坊や。職持ちが花園にねえ。カウンターに聞きな」

「ありがとよ、マリー」

 

 舌打ちを聞きながらカウンターに向かう。

 グラスを拭き、俺を見ようともしないバーテンも女だ。

 

「バーボンをショットで。それと花園の交渉役を呼んでくれ、ジェニファー」

「あたしがそうさ。5枚だ」

「硬貨100枚取り出し。連れにソフトドリンクと、客に不愉快な思いをさせてるから、それぞれ好きなドリンクを1杯飲ませてやってくれ」

 

 小さく歓声が上がった。

 女しか入れないなら、酒の1杯で粘ったりもするのかもしれない。

 外はあの暑さに、あの治安だ。

 安全なここは、砂漠のオアシスのようなものだろう。気を張り詰めてばかりもいられないのは、職業持ちも一般人も同じだ。

 

「飲み物を出すのが落ち着いたら、始めましょう」

「ドングリ茶か、懐かしいな」

 

 俺の左右のスツールに腰掛けた2人に出されたのは、ドングリ茶らしい。

 バーボンを舐めながら、その会話に加わらずに音楽を聞く。

 

「聞こうか。受けても良さそうなら、リーダーを連れてくる」

「仕事が早いな。ウイ、頼む」

「はい。では説明します」

 

 音楽と会話を半々くらいに耳に入れながら、感知力を信じて異常がないか探るのに集中した。

 ブロックタウンの次期町長。保安官の職業持ちで、嘘が見破れ犯罪者かどうか分かる。犯罪歴のない人間なら、移住費用はブロックタウンが出す。犯罪者は1歩たりともブロックタウンに入れない。

 

 タバコに火を点ける。1本くれと言った婆さんに箱ごと放った。

 

 ブロックタウンの空き家と就職斡旋。その給金を日払いで支払った場合の生活シミュレート。ハンターズネストまで船を使える事。3人以上を護衛してきた場合の報酬に、花園が何を望むか。

 そこまで話して、ようやくジェニファーがカウンターを離れた。

 

「金で済むといいな」

「ええ。ミツカの体で済んだら最良ですね」

「だから嫌だって。それにしても、やはり音楽はいいな。ブロックタウンのジュークボックスは、あたしが子供の頃に壊れたっきりだ」

「ウイに見てもらえ。それでダメならニーニャの遠足で、ブロックタウンに招待だ」

「そして自宅に泊めて、美味しくいただくんですね」

「冗談。ロリコンじゃねえぞ」

「12なら結婚してもいい年じゃないか。初潮が来たら女だ」

「待たせた。リーダーの部屋に案内する」

「よろしく頼む」

 

 コンクリートの階段には罅の1つもなく、掃除もされているらしい。男も泊まれるなら、ここにしたいところだ。

 

「入ってくれ。あたしは店に戻る」

「手間をかけた」

 

 はっきり頷いてジェニファーが踵を返す。

 網膜ディスプレイのリキャストタイム表示。【ワンマガジンタイムストップ】リキャスト可能まで、4分。

 

(行くぞ。【ワンマガジンタイムストップ】まで4分)

(了解)

(わかった。犯罪者だったり、嘘があれば知らせる)

 

 ノック。

 内側からドアが開かれた。

 

「リーダー待ってる」

「邪魔をする」

 

 最前線の衛生兵・アリシア。戦闘服の腰にサブマシンガンが下げられている。いいね。サブマシンガンも、熟しかけた20代の腰つきも。

 

(もぎますよ?)

 

 それは勘弁だ。アリシアのお尻から視線を外して着いて行く。

 

「連れてきた。ベッドでは使えそうな男と、ピチピチの女2人」

「そうかい。それじゃ、後で抱いてもらうとしようか。はじめましてだ、依頼人」

「どうぞ、お掛けください。それと2人の失礼をお許しくださいね」

 

 英雄的機関銃手・レニー。大女だ。ただ、異常に整った顔立ちをしている。主人公みたいな職業といい、これがリーダーだろう。

 

 俊敏なる工作兵・カリーネ。優しそうな美人だ。唯一の常識人って感じだな。

 

「失礼。名前と職業は見えてるだろうから省略する」

 

 勧められたソファーに座ると、アリシアがコーヒーを出してくれた。

 礼を言って口をつけると、ちゃんとコーヒーの味がする。つまりは、遺跡品だ。

 

「話はジェニファーから聞いた。たとえばだが、俺達花園が面倒を見てる女達もブロックタウンは受け入れてくれるか?」

「犯罪者でないなら。1年は税金も免除します」

「おや、アンタはブロックタウンの自警団の団長だったね。覚えてるよ」

「光栄です」

「50はいる。体を売るのが嫌で、ここの2階で朝から晩まで針仕事だ」

「多くて10人ずつの移住でしょう。その50人を優先していいですよ。護衛料も払います」

「その次はガキだ。200はいるが、半数は犯罪に手を染めている」

「100は受け入れましょう」

「例外はねえのかい? 食うに困って盗んだ、たった一欠片のパンだったりするんだ」

「ありません。例外は町で悪さをしない、短期滞在の冒険者と行商人だけです」

 

 レニーがタバコを出したので、俺も新しいタバコを開けてくわえた。

 ライターの火に、レニーがタバコを寄せる。

 どこか、甘い匂いがした。

 

「アンタ達が期待してる労働力はその後だ。俺達だってメシは食うから、遺跡漁りの合間に護衛。終わるのは何年先になるかわからねえよ?」

「構いませんよ。犯罪者を平和なブロックタウンに放つよりマシです」

「……仕方ないね。ガキの半分は、こっちでなんとか生きてもらうか」

「護衛料はどうしますか?」

「高いよ?」

「聞きましょう」

「ブロックタウンに、花園の拠点。この3人と下にいたジェニファーとマリーが暮らせる建物だ」

「ミツカ?」

「コンテナじゃない一軒家がまだある。電化製品はないが、お風呂もトイレも使える」

「いかがです?」

「受けよう。ブロックタウンに護衛で行って、南のオーガを狩りながら遺跡を探し、お宝はシティーで捌く。それを繰り返せば、暮らしていけるだろう」

 

 やっと場の雰囲気が和らいだ。

 『冷えたビール』をウイが出す。

 

(ウイは飲むなよ?)

(わかってますよ。酒乱扱いしないでください)

「こりゃ嬉しいね。遠慮なくいただくよ。乾杯!」

「乾杯。どうでもいいが、近いぞアリシア」

「欲情したら、僕の部屋に行く」

「してねえよ?」

「頑張る」

 

 俺とミツカの座るわずかな隙間に入り込んで、アリシアがビールを飲む。

 

「ずいぶんヒヤマを気に入ったんだなあ、アリシア。1晩借りるなら、ウイとミツカの許可を取れよ? そして、次は俺に貸せよ?」

「わかった。ウイ、ミツカ、いい?」

「せめて移住の護衛を終えてからですね」

「うー。意地悪」

「レニー、移住はいつからはじめんだ?」

「明日からでもいいぞ」

 

 それはまずい。

 移住しに来ました、部屋ないから野宿して。

 それじゃ、あまりにも酷い。ブロックタウンの面子に関わる。

 

「……俺達が先にブロックタウンに戻って、段取りをしたい。今から出るぞ、ウイ、ミツカ」

「わかりました。ごちそうさまでした。船の手配は、ハンターズネストのサーニャさんと武器屋さんの無線でお願いします。行商人にはサーニャさんが噂を流してくれてますが、女性に必要な物があれば花園でも行商人に働きかけてもいいですよ」

「ごちそうさま」

「じゃあ、ブロックタウンで待つ。また会おう」

「おう。息子を洗って待ってろ!」

「ちょっとなら臭い匂いも好き」

「その時は、混ぜてくださいねー」

 

 職業持ちはスケベしかいねえのか。

 

「ヒヤマが言いますか」

「久しぶりに心を読まれたな」

「丸わかりです」

「ジェニファー、マリー。またな」

 

 黄金の稲穂亭。3輪の花が女達を守る場所。いつかブロックタウンにも、黄金の稲穂亭が出来るのだろうか。

 シティーへの扉の前には、警備ロボットが2体配置されていた。

 

「あれ? 来た時いなかったよな、これ」

「おお、無事だったか。銃声もしないのにチンピラが3人も死んでたから、警備ロボットを回してもらったんだ。用事が終わったんなら入れ」

「おお、ありがとうおっちゃん」

 

 ワンマガジンタイムストップの効果中に、銃声は消えるらしい。

 無駄な心配をさせてしまったようだ。

 シティーに入れてもらい、タバコを1箱ずつ土産だと言って渡した。

 

「ありがとな。また来いよ」

「おう。膝を大事にな」

 

 おっちゃんと握手して来た道を戻る。

 サーニャ婆さんは、夜にはハンターズネストに戻ると言っていた。まだ昼くらいだが、夜にハンターズネストまで乗せてもらいたいと早めに伝えておきたい。

 

「邪魔するよ」

「ニーニャちゃんいるかな」

「こんにちは。すみませんが、サーニャさんはいらっしゃいますか?」

 

 ウイが声をかけたのは、見た事のないおばさんだ。

 

「お名前をよろしいですか?」

「ヒヤマ、ミツカ、ウイです」

「少々お待ちください」

 

 凄いな、あのインターホン可動品なのか。

 

「2階へどうぞ。皆さんいらっしゃいます」

「ありがとうございます」

 

 カウンターの奥に、階段があったらしい。よく見ると、カウンターの上にだけ天井があった。

 上ってみれば、かなり広い普通の部屋だ。

 

「おお。早かったねえ。どうだったんだい?」

「花園が受けてくれた。婆さんがハンターズネストと行き来する時は、どうかよろしく頼む」

「任せな。行商人にも情報を流したよ。腕っこきが3人、ブロックタウンに居着いたってね」

「ありがてえ。そして今夜、ハンターズネストに戻るなら乗せてくれ」

「構わないよ。それより座りな」

 

 3人でテーブルに座ると、イワンさんの奥さん、ニーニャの母を紹介された。

 母親はリザ。恰幅のいいおばさまだ。

 

「ところでヒヤマ、ブロックタウンの暮らしはどうなんだい?」

「優雅なもんさ。クーラの利いたリビング。清潔な風呂。真っ白なシーツ。メシは缶詰が多いが、帰りに仕留めるサハギンであのスープを作りてえな」

「遺跡には行かないのかい?」

「行くさ。街にずっとじゃ息が詰まる。花園が南を狙うらしいから、俺達は落ち着いたら東に向かおうと思う」

 

 イワンさんに便乗して、煙草に火を点ける。

 婆さんは手を出さなかった。

 家族に止められているのかもしれない。恨みがましい眼差しをしている。

 

「わかった。俺も男だ。もう何も言わねえ」

 

 言わねえイワンさん。

 

(2点です)

(心を読むな。そして点数厳しいぞ)

「私はお婆ちゃんが決めたなら従いますよ」

「ありがとうよ、リザ。じゃあいいね、ニーニャ」

「うんっ」

 

 笑顔がかわええのう、ニーニャ。

 

「では、ニーニャをヒヤマの嫁に出す。第一子を、我がカチューシャ家の棟梁に。第二子以降は、ヒヤマ家に任せる。異論はないね?」

 

 ねえ訳ねえだろ!

 

 

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