アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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ちっちゃくないもん

 

 

 

 あ、体が動く。

 思うと同時に、僕は意識もせず目を開いていた。

 

「まっ、眩し! いやもう、光が痛いっ!」

「寝起きから騒がしいマスターですねえ。さあ、とっとと足を舐めやがれです」

「誰が舐めるかっ!」

「ならせめて服を着やがれです。こんな美少女に、そんな生々しい朝のモノを見せつけてんじゃねえですよ」

 

 やっと光に慣れてきた目を下に向けると、朝の生理現象でカチコチになった僕の息子がおはようございますしていた。慌てて手で隠してみても、とても隠し切れないほど元気いっぱいだ。

 白いワンピースを着た眼鏡の少女がそれを見ている。

 ストレートの長い黒髪がとても艶やかで、なぜか何も出来ずに諦めた初恋を思い出した。

 

「ちょ、なんか隠すのちょうだい!」

「ふむ。ではアイテムボックスの説明をするです」

 

 女の子はそう言いながらも、僕の息子をガン見だ。

 うわ、鼻で笑われた!?

 

「それではそち。じゃなくてマスター。アイテムボックスを開く事を念じるです。声に出してもおーけーです」

「ちょっと待て、今なんて言いかけた!?」

「高貴な生まれなもので、そちとかそなたとか使ってしまうです。気にしないでください、sotinマスター」

「言い切っただと……」

「いいから早くしやがれです。アイテムボックスと念じれば、網膜ディスプレイにリストが表示されるです。そこから下着なりsotinケースなり選択しやがれです」

 

 なんかもう恥ずかしささえ感じなくなってきたので、男らしく胡座になってアイテムボックスと念じてみる。見たいなら見ればいいじゃないか、毒舌メガネ!

 

「ん。リスト出た。……あれ、下着も御立派ケースもないよ?」

「御立派じゃないからあるわけねえです。ギリースーツ1式を選択して取り出し装備と念じるです。下着はそれに含まれているのです」

「くそう。これかな。選択、取り出し、装備っと」

 

 突然、服を着た感触に襲われた。

 これは、怖い感覚だ。慣れれば平気なのかな。

 

「ふん。まるで蓑虫オバケなのです」

「塗装したヒラヒラの布がいっぱいついてるんだね。お、取れた。背中の方は届かないから取ってよ?」

「面倒だけど、そのままじゃキモイから取ってやるです」

「ん。ありがとう」

 

 茶色に塗られた包帯みたいな軽い布が、ベッドの下で山になった。その布をすべて取ったら、その下は映画で見たような戦闘服だ。ちょっとかっこいいかも。

 

「さあ、次は武器装備1式を出しやがれです」

「いつの間にかアイテムボックスのリストが消えてる。もう1回だね。狙撃銃と、サブマシンガン取り出し。うわっ、重っ!」

 

 背中の重さが狙撃銃で、右腰の重さがサブマシンガンだと思う。かなりの重さで、真っ直ぐ歩けるか心配だ。

 

「筋力が50もあるから行動に支障はねえです。安全装置や弾の確認手順の知識は、白い死神に転職した時点で刷り込み済み。さっさとしやがれです」

「うわ、ホントだ。知らなかった事なのに、知識がある。手も慣れた感じに動くよ」

 

 セレクターだとかストックだとか、知らなかった部品の名前もわかるし操作もできる。

 カシャンと音を立ててマガジンを押し込み、コッキングレバーを引く。セレクターをセーフポジションに下ろして、右腰のホルスターに納めた。

 狙撃銃も同じくいつでも打てるようにしてから、ベルトをたすき掛けにして背負い直す。

 何ができるかもわからないのに、なんだか強くなった気分だ。

 

「ところで、ここはどこなの?」

「ようやくそれを聞きますか。言っておきますが、ここはもう平和な日本じゃねえです。安全な場所はほとんどないと考えやがれです。ダメ学生だったマスターは、日本でゲームもそれなりにしてきたはず。バイオレンスなゲームの世界に放り込まれた、レベル1のキャラクターがどれだけかよわい存在か考えてみやがれです」

「……スライムしか出ない地域からスタート、なんて安心設定じゃないんだね。わかった。気をつけるよ。それと、君の名前は?」

「僕の女神、なのです!」

「わかった。僕の女神。この何もない鉄の部屋から出ようと思うんだけど、出たらすぐクリーチャーってのが襲ってきたりするの?」

「スルーしたらやなのです」

 

 そんな泣きそうな顔で言われても。女王様気質なのにちょっとスルーされたら泣きそうになるとか、どんだけ豆腐メンタルなんですか。

 

「あー。じゃあ、名前を教えてくれる?」

「まだないです」

「じゃあ決めちゃいなよ」

「自分では決められない設定なのです」

「そういえば、UIを召喚したんだったね。人間味ありすぎて忘れてたよ。どんな名前がいいの?」

「んーと、んーとっ」

 

 かわいらしく考えこんでいるUIを待ちながら、網膜ディスプレイを調べてみる。

 視界の下の方に、青い丸と緑の逆三角形が小さく見えた。視界を左右に動かすと、青はそのままで緑はチラチラ動く。青が僕で、緑がUIみたいだ。

 

 次は視界の左上のメニューという文字を選択してみる。

 数字の羅列は、日時を示すものだと思う。マップと書いてあるからには地図なのだろうけど、まったくの白紙だ。次のページには、ステータス。そして習得スキルツリー。未習得スキルツリーと続く。

 

「わっかんねえです。マスターに一任してやるからありがたく思うです」

「じゃあウイで。そしてここから出たらすぐに危険地帯なの?」

「なんか適当なのです。再考しやがれです」

「そっか、ごめんね。日本ではかわいい人のことを、()い奴、なんて言うからさ。ピッタリだと思っちゃったよ」

「そ、それなら仕方ないのです。ウイは今日からウイなのです!」

 

 年下っぽい黒髪ロングの眼鏡美少女だから、僕が彼女に不埒な事をする時に愛い奴じゃのう、って言う妄想から出た名前なのは秘密にしておこう。

 

「これからよろしくね、ウイ。で、どうなの?」

「ここは神域なので、索敵は無理なのです」

「出てみないとわかんないのか。空気汚染とかは?」

「綺麗なもんなのです。水場があれば煮沸してから飲めば安心。クリーチャーの肉も食用なのです」

「クリーチャーってモンスターでしょ、食べるの? ……うっわ。ハードな世界だねえ。なら、とりあえず出ようか」

「ちょい待ち。ほい、これで準備おっけーなのです」

 

 あっという間に、ウイの白いワンピースはミニスカートの軍服に変わっていた。アニメでよくある、戦うのになんでわざわざ太もも露出すんのさ、って感じのかわいい軍服だ。

 

「あっ。ヘルメット落としちゃった。ごめん、取ってくれる?」

「何してんですかこのマスターは。よっ」

 

 白か。無地の白か。

 よし、今日は大事を取ってここに泊まろう。

 うん、それがいい。

 

「うわっ。キモっ」

 

 ヘルメットを拾って、僕に渡そうと振り向いたウイが言う。

 なんとでも言うがいいさ。僕はマスター。君のマスター。

 

「ウイ、おいで?」

 

 優しい笑顔で、肩をそっと抱き寄せる。いっただきまーす。

 あれ、ずいぶん硬い唇でえっ!

 

「おとといきやがれです、変態マスター」

 

 顔面にアサルトライフルの銃口がつきつけられている。このかすかな音は、セレクターレバーの操作音。え、フルオートっすか。いやん、僕はぜちゃう。

 

「す、すいませんでした……」

「2度目はないのです。勝手に発情して、いつでも好き勝手にウイを抱けるとは思わないで欲しいのです。それが許されるのは、キャンプ時のみなのです」

 

 あれ、キャンプの時ならいいの!?

 

「了解。さあ行こう、未知の世界へ。そして初日だから早めにキャンプを張ろう!」

 

 冷たい視線が痛い。

 

「やれやれなのです。では、扉を開けるです。穢れなき神域の扉よ、開けくぱぁ!」

「いろいろ台なしじゃん!」

「文句は神様に言うです。ほら、とっとと出るです」

 

 突然現れた扉を潜ると、荒涼とした大地が僕達を出迎えた。

 一陣の風が荒野を渡る。

 草木もまばらで、遠くに壊れ果てた建築物。その手前に見えるのは、まるで高速道路の残骸。あっちは半分崩れたビルだ。

 

「これが、僕の生きていく世界……」

「そうです。どう足搔いても、ここからは逃げられないのです。死ぬまで。さあ、辺りを見回してディスプレイに、黄色か赤のマーカーがないか確認するのです。黄色がマスターに気づいていない人か動物かクリーチャーかロボット、赤はマスターに敵意を持つものなのです」

 

 360度を見渡す。

 黄も赤もない。

 

「網膜ディスプレイ、オールグリーン。どこに向かえばいいの?」

「歩いた場所は自動で地図に記載されるです。どこに向かうもマスターの自由。ウイはついて行くだけなのです」

「そう言われても。遠くに崩れたビルが見えるけど、使える物が残ってたりしないよね?」

「あれは過去の文明の残骸なのです。日本では考えられないレベルの技術を持っていたので、使える物は多いのです。缶詰に賞味期限がないほどの文明なのです」

 

 それが本当なら、そういった遺跡はさんざん狙われた後だと思う。それでも、確認に行くしかないのが辛い。

 屋根があるなら、危険な動物やクリーチャーの巣になっているかもしれないんだ。

 

「迷う時間ももったいないね。行こう。スコープで入り口を見張れる場所まで進む」

「了解なのです」

 

 軍用ブーツで荒野を蹴飛ばしながら、注意深く歩く。

 網膜ディスプレイと今までの視界、その2つを意図せずとも見続ける事に慣れる、良い訓練かもしれない。

 しばらく歩くと、だいぶ自然に索敵できているような気がした。

 

「黄マーカーだ。見える、ウイ?」

「マーカーは確認したです。それが何かまでは見えないのです」

「右の斜面をちょっと登ろう。角度があれば、スコープで見られるかもしれない」

 

 頷いたウイを先に登らせて、僕も続く。純白が歩くたびに皺になって……

 

「ムラムラします!」

「マスでも掻いてやがれです」

 

 背負っていた狙撃銃を構える。右膝を立てた射撃姿勢は、白い死神の知識が選択させたみたいだ。ここの斜面では、伏せるよりこれがいいらしい。

 スコープを覗く。

 岩。土。岩。あれは、車の残骸?

 

「車の残骸がある」

「無事な軍事基地でもあれば、戦車だってあるはずなのです」

「動くなら欲しいね」

「修理スキルにガン振りですか。勇者なのです」

「それは勘弁かなっと、いた。でっかいネズミ? が5匹」

「すべて始末すれば、レベルが上がるのです。この世界の動物は、1度敵対したら逃げないのです」

「ネズミならやれそうだって、白い死神の知識でわかる。他の敵に気づかれるのが怖いけど、レベルが上がるなら経験値は欲しいね。やろうか」

「ネズミに狙撃銃は弾の無駄です。接近してサブマシンガンで仕留めるのです」

「んー。狙撃銃と【ファーストヒット】の確認がしたいんだ。悪いけど、1発だけ撃たせてよ」

「なら、さっさと殺るです」

 

 

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