アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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ジャスティスマン

 

 

 

 解錠を譲られたウイが鍵を弄る間、どんな車両があるかで盛り上がった。

 運び屋の予想は四輪駆動車。俺はサイドカー付きの軍用バイク。ルーデルはなぜか、耕運機との予想だ。当たった奴には、ブロックタウンで外した2人が酒を奢る。

 

「開きました」

「経験値は100。さすがは、車両が残されてる建物だな」

「なら、耕運機はねえな。この勝負はもらったぜ、ルーデル」

「フタを開けるまでわからんさ。ウイちゃん、車両は見えるかい?」

「ふふっ。ルーデルさんがたしかめてください」

 

 ルーデルがドアに歩み寄る。

 道を空けたウイが、イタズラっぽい表情で俺を見た。

 もらったな。

 

「これは……」

「バイクだろ?」

「いや、四駆に決まってらあ。ハマーがいいな」

「バイクだよ。ただし、サイドカーはない」

「なんだ。全員不正解か」

「ふざけんな、運び屋。俺が正解だろうがよ」

「サイドカーなしじゃ、不正解だ」

「半分は正解だろう。ヒヤマには、俺が奢るさ。しかし困ったな」

 

 パワードスーツを着て、兜だけを脱いでいるルーデルが頭を掻く。

 

「なにが困ったんだ?」

「左が義足だから、シフトチェンジがな」

「ジュモが運転するのデス。各種運転技能は、元からプログラム済みなのデス」

「俺が後部シートなのか……」

「ニーニャ、バイクを見てやってくれるか?」

 

 ゲンナリしているルーデルはシカトして、バイクの状態を見てもらう。

 

「ほとんど修理の必要はないよう。でも、【プリーズメカニック】! これで、消耗部品も新品同様っ。何ヶ月かに1回は、ニーニャに見せに来てね。そしたら、めったに故障もないと思うの」

「ありがとう。感謝するよ」

「ありがとデス。これでルーデルと風になるのデス」

「たいしたもんだなあ、ニーニャ嬢ちゃん。そのうち、俺のバギーにも頼むぜ」

「うんっ。3日後にやるねー」

「助かるよ。ほんじゃ、行くか。ジュモ嬢ちゃんの練習がてら、ゆっくり進もう」

 

 建物内の工具や鉄クズは、運び屋もルーデルもいらないらしい。3人と1匹を待たせないように、素早くウイが根こそぎ収納した。

 

「オフロードSRモドキの音か。楽しみだな」

「そういや、SRっぽいな。単気筒じゃねえだろうけど」

「お、なんだ死神。単車やってたのか?」

「まあな。ありゃ、なんだこれ。音がホントに単気筒っぽいぞ」

「ガソリンエンジンじゃねえよな?」

「超エネルギーバッテリーに決まってるよー。でも単気筒だよ?」

 

 ガソリンエンジンよりよほど優れた乗り物なのに、シリンダーを使ってんのか。本当に、この世界の科学は意味がわからない。

 シルバーのバイクに、ジュモとルーデルが乗り込む。

 重量も大丈夫そうだ。

 ジュモはメイド服美少女だし、ルーデルはパワードスーツも銀色だ。それでレーザーライフルを片手に持ってたりするから、かなり絵になっている。

 

「まるで映画の主人公だな」

「単車のボニーとクライドか。ジュモ嬢ちゃん、行けそうか?」

「問題ないデス」

 

 建物を出てハンキーのエンジンをかけると、2人を乗せたバイクが出入口から飛び出してきた。

 

「荒い運転しやがる」

「ジュモお姉ちゃん、上手いねえ。ドリフトも完璧っ」

「ドリフトさせるようじゃダメなんだがな。追いつくのは無理だが、行くぞ」

 

 ハンキーを走らせると、スピードを欲しがっていない自分に気がついた。

 日本にいた頃は、無茶な運転もずいぶんやった。事故の瞬間、ドライバーはその被害を察する。これはフェンダーがイッたとか、全損もあり得るとかだ。

 死ぬ。そう思った事も何度もある。それを切り抜けるのが、何よりの快感だった。

 

「どうしたの、お兄ちゃん」

「ん。なにがだ?」

「笑ってたよ」

「そうか。銃を振り回して戦う事とか、嫌いじゃねえのかもしんねえと思ってな」

「2丁拳銃でクリーチャーの攻撃を躱してる時とか、お兄ちゃん楽しそうだもんねー」

 

 マジか。もしかして、俺って危ない奴なんじゃ……

 昼食を挟んで日暮れには、シティーが見えてきた。

 

(死神。うちの相棒や、嬢ちゃん達はどうする?)

(スラムのシティー入り口に、女専用の宿屋がある。レニー達の花園がバックになってっから、1日2日なら安全だと思うぞ。かわいこちゃんも含めて、1部屋で待っててもらおう。買い物もその後だ)

(そりゃ助かる。ルーデルにも伝えるぞ)

(頼む)

 

 スキルポイントが足りないからすぐには無理だが、俺も無線スキルを取得するべきだろうか。シティー防衛戦なんて事態になるなら、欲しいスキルは山のようにある。時間のある限り、レベル上げをするしかないか。

 

 そういえば、ニーニャのレーザーライフルを発見した鉄塔から、遠くに遺跡らしき巨大な建物が見えた。ハンターズネストに泊まりながら、あの辺りを探索しよう。

 

 ハンキーのスピードに合わせて、バギーとバイクがスラムを走る。

 スラム側から入るのはこれが初めてなのだが、スラムには門すらもなかった。

 

「これじゃ、クリーチャーが来たらただの餌場じゃねえか」

「弱いのは誰かが倒してくれるけど、強いのが来たら被害者もたくさん出るみたい。レニーさん達みたいな気の良い冒険者さんも、いつもいる訳じゃないから……」

 

 言いながら、ニーニャは涙ぐんでいる。優しい少女だ。それでも、理想だけ語って誰かを困らせたりはしない。

 黄金の稲穂亭の前でハンキーを降りる。

 それなりに信用されているのか、バギーとバイクもウイに収納を頼んでいた。

 先に黄金の稲穂亭に入ったミツカが出てくる。

 

「ジェニファーがいたよ。大部屋を取った。やっぱり、男は宿泊できないってさ」

「それでいいさ。じゃあ、俺達はシティーに行ってくる。終わったら無線で伝えてもらうから、大人しく待っててくれ。かわいこちゃんもな?」

 

 しゃがんで撫で回し、最後にキスをすると運び屋に肩を叩かれた。

 

「頼むから、頼むから俺の前でそんな真似はすんな。もう諦めてるが、頼む」

「お、おう。わりい。無意識だった」

「くっくっくっ。さあ、行こう。運び屋が案内だろう。そんなに落ち込むな。自棄酒には付き合う」

「笑ってんじゃねえよ、ルーデル。……こっちだ」

 

 3番出入口の前に立つと、中から俺達を覗いた警備員が驚いていた。

 

「な、なんて重武装だ。街の中だけでも、もうちょっと軽装にしないか?」

「あー。コイツは全身に火傷の痕があってな。こうじゃねえと人前に出たがらねえ。警備ロボットは?」

「そうかい。ロボットは今、こっちに回してもらってる。もうちょっと待ってくれ」

 

 膝をやられたおっちゃんはいないらしい。

 しばらく待つと、警備ロボットがやって来てルーデルをスキャンした。俺と運び屋は、リストと照合するだけだ。

 

「許可が出た。ようこそ、シティーへ」

「ありがとよ。こりゃ気持ちだ。飲み代の足しにしてくれ」

 

 硬貨を警備員に放った運び屋に着いて行く。ルーデルは辺りを見回すでもなく、淡々と歩き続ける。久しぶりの街だろうに、現代の人々の暮らしが気になったりはしないのだろうか。

 

「ここが受付だ。よう、美人秘書さん。ジャスティスマンとの面会を希望する。3組の車両持ちパーティー。そのリーダーだ」

「……その節はお世話になりました。少々お待ちください」

 

 知的美人に運び屋が言う。

 絡んでるようにしか見えないが、天井のタレットはピクリとも動かない。撃ち抜いていいのに。

 

 知的美人の名前はロミー。

 裁判員という職業は、ジャスティスマンがスキルで任命したのだろうか。机の上の自動拳銃を隠そうともせずに、受話器を持ち上げた。

 声のない話し合い。無線スキルなのだろうが、なら受話器は置けばいいと思うのは俺だけなのだろうか。

 

「お待たせしました。お会いになるそうです。どうぞ」

「ありがとよ」

 

 壁だと思っていた自動ドアが、音もなく開いた。受付の隣の階段はフェイクらしい。

 タレットが両側と天上に配置された廊下を進む。

 最後に分厚い鉄のドアが開いて、ようやく広い部屋に出た。

 

「ようこそ。運び屋くんはひさしぶり。後ろの2人ははじめましてだね。カチューシャ商会から、話は聞いている。若いのがヒヤマくんだね。さあ、かけてくれ」

 

 なんて事はない、白髪の壮年の男性だ。

 これが、ジャスティスマンか。

 

 豪華なソファーに腰掛けると、ロミーが人数分のカップを運んできて、ソファーの前のテーブルに並べた。紅茶の香りが漂う。ひさしぶり過ぎて、すぐにはなんの香りか思い出せなかった。

 俺とルーデルに自己紹介もさせずに、運び屋は揚陸艇とアザラシ兵の話を切り出す。

 運び屋はこれでも、海千山千の冒険者だ。口を挟まずに、黙って成り行きを見守る。

 

「思ったより早いな……」

「時間はねえぜ」

「君が運んできたアタッシュケースを開けた時から、覚悟はしていたんだ」

「どうすんだい?」

「簡単な話だよ。徹底抗戦だ。あいつらの要求は飲めん」

 

 なにを運んできたんだ、コイツは。

 抗争規模か戦争規模かは知らないが、争いは確定か。

 どう関わるべきか考えてはみるものの、判断材料が決定的に足りない。

 

「君達がここに来たという事は、場合によっては手を貸すという意思表示でいいのかね?」

「俺は報酬次第だな。こっちの2人とは、別に話をつけてくれ」

「なら、状況から説明しようか。運び屋くんが運んできたアタッシュケースには、降伏を促す文書と降伏後の支配に関する書類が入っていた。差出人は、ブラザーズオブザヘッドと名乗る人物。ご丁寧に航空機や艦船を所有する、1000人規模の軍の責任者だと書いてある。本拠地は土漠の先、砂漠や荒野をいくつも越えた西海岸の街だそうだよ」

 

 アザラシ兵程度が1000なら、ただの儲け話。

 問題は、敵の職業持ちの割合だろう。

 

「職業持ちは、2人だけ確認してる。土漠の街でだがな。裏町のストーカーと、寝室の暗殺者」

「どっちも戦闘向きじゃねえな」

「小間使いと連絡役だった。ルーデルは、金で受けるか?」

「勝ち目があるならな」

「そりゃ何よりだ。ジャスティスマン、ルーデルは対車両戦闘のプロだ。報酬は俺と同額で雇うといい。死神は、何が報酬なら受ける?」

「金はあるしな。ジャスティスマンさんよ。職持ちが4人、ガトリングガンの銃座を付けた車両持ち込みで参戦するなら、何を出す?」

 

 ジャスティスマンの瞳が瞬時に、戦闘前の冒険者のような光を湛えた。

 

 

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