アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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商談成立

 

 

 

「まず、運び屋くんと相棒くんに、シティーへの立ち入り資格と硬貨100万」

「そいつは助かる。これからずっとか?」

「もちろんだよ。バイク乗りのルーデルくんとメイドさんには、ジャスティスマンがこの界隈での身元保証人になろう。それと、同じく硬貨100万」

 

 ルーデルが、パワードスーツの首を鳴らす。

 

「身元保証人とは?」

「その装備で歩き回れば、疑われたり怖がられたりもするだろう。火傷の痕を確認した事と武装していても安心な人物だという保証を、書類として用意して渡そう。それで、この界隈では誰も文句は言えない」

「それは、助かります」

「死神ハーレムには200万。それとシティーが残ってるうちは、ブロックタウンはシティーの衛星都市のようなものだと噂を流そう。税も法も、なにもかもブロックタウン任せで、シティーは硬貨1枚も受け取らない。だが警備ロボットを派遣して治安を守り、シティーを訪れる定住希望者を回す。もちろん、犯罪者以外の金持ちをね」

「警備ロボットはおまけで、シティーのネームバリューを使わせてやるって事か。貰い過ぎな気がするな……」

「私がこの窮地を救ってもらうなら、そのくらいはさせてもらえないとね。今日もどこからか、シティーの噂を聞きつけた人々が集まる。金持ちはスラムの安全な宿で定住権の空きを待ち、そうでない者はスラムで働く。治安が良くて土地と建物さえあれば、ブロックタウンは発展するはずさ。願わくば、友好的な隣町でありたいね」

 

 運び屋とルーデルが頷く。

 とりあえずは、全員が満足できる条件か。

 実際の防衛計画も、可能ならここで決めてしまいたい。

 

「決まりだな。俺はシティーの宿に詰めて敵を待つが、ルーデルと死神はどうすんだ?」

「俺は少しでもレベル上げをしておきたい。遠出はしねえから、何かあったら無線をくれねえか?」

「了解だ。頑張りな、若人よ」

「俺は、どうするかな。仕事を探しながら、スラムにでも泊まるか」

 

 ジャスティスマンがパイプを出して火を点けた。

 こっちはメットのルーデルに悪いから、我慢してるってのに。

 

「ああ、そうだ。ルーデルくん、身元保証人なんてのは三文芝居のようなものだ。ここでは、ヘルメットを取ってタバコやお茶を楽しんでくれたまえ。私も秘書のロミーも、グールの友人がいるんでね。気にしなくていい」

「……お見通しでしたか」

「心遣いには感謝しているよ。シティーの住人は、グールを見慣れていない。密やかな交流はあるのだが、それを一般人が目にする機会なんてまずないのでね」

 

 ルーデルが頷き、メットをアイテムボックスに入れてタバコを咥える。

 俺も紫煙を吸いながら、戦闘となった時に自分に求められる役割を考えた。

 まず思い浮かぶのは、高所からの狙撃。それも指揮官を狙えば、役には立てるだろう。

 だが、それだけでいいのだろうか。ハンキーには銃座がある。ミサイルランチャーも使えば、砲台役も可能かもしれない。

 

「それでジャスティスマン、防衛計画は?」

「ロミー、計画書を皆さんに」

「はい。こちらになります」

 

 渡された書類の束を、それぞれが時間をかけて精読。

 1枚目に、概略図があった。

 運河は機雷を放つだけ。

 運河に架かる橋の手前に地雷原。橋の抜け際には、塹壕と遮蔽物を集中させる。

 橋から陸側の180度にも、地雷とアンブッシュ。

 絵に描いたような防衛戦だ。

 

「ロボットの配置しか書いてねえな」

「冒険者の参戦は、予想していなかったのだよ。まだ集まりそうかね?」

「報酬次第だとは思うが、死神が声をかけりゃ集まるんじゃねえか?」

「たぶんだが、花園と剣聖は頼めば力を貸してくれるとは思う。後は、あいつらの伝手で集めるしかねえ」

「花園と剣聖くんには1人頭、硬貨50万を出してもいい。その他の冒険者は、ちょっと悩むね」

「日当で1000も出せば、動く奴は集まると思うぞ。ただし、指揮官の命に逆らうなら銃殺って教えてからだ」

「なら、それで行こう。契約書も用意する。敵が来てからでもいいのだろう?」

「ああ。塹壕掘りや地雷の設置に、人手がいらねえならな」

「4パーティーが核になって防衛線を張って、内側を剣聖にまとめさせる感じか」

 

 橋の手前に花園。レニーはガトリングガン使いなので、これは確定だろう。

 平地を車両で運び屋、ルーデル、俺が流動的に。ロボットが300もいる事だし、それでなんとかなるんじゃないだろうか。

 

「死神、橋をレニー達と冒険者に任せちまおうぜ。剣聖ってのには会ってねえが、塹壕を使った防衛戦くらいは出来るんだろ?」

「その分、ロボットが空くか。剣聖は銃を使わねえが、人望はあるらしい。指揮官やらせときゃ、なんとかなるとは思う」

「機雷を流すのは、カチューシャ商会が使っていない排水パイプからやってくれる。もちろん、人の通れない太さだ。何とかなりそうかい?」

「敵の装備次第さ。1000人が戦闘ヘリと戦車で押しかけたら、そりゃあ負ける。まあ、それはねえから安心するといい」

 

 それぞれの気になる箇所を出し合い、納得できるまで修正する。その作業を夢中で続けていたら、いつの間にか夜が明けていた。

 徹夜なんて、この世界に来てはじめてかもしれない。コーヒーを飲みながら思った。

 

「何時間、話してたんだか」

「有意義な時間だったよ。それにしても、ルーデルくんの見識の高さは凄いね。シティーの作戦参謀に迎えたいくらいだよ」

「本職の軍人だもんなあ」

「そんじゃ、俺とルーデルは今日からシティーの宿屋だ。死神は、どっち向かうんだ?」

「ブロックタウンに寄って花園に伝言。それから、南だな。目星を付けてる遺跡がある」

「レニー嬢ちゃんか。ちょっと待ってな。無線スキルが、繋がるかもしんねえ」

 

 そうか。運び屋ならレニーを知ってるから、無線を飛ばせるんだな。

 1分でもレベル上げに使える時間が増えるのは大歓迎だ。

 どれほどの時間を与えられるかは神のみぞ知るが、出来れば少しでも差を埋めておきたい。いつまでも、ペーペーでいられるか。

 

「伝えたぞ。5人で参加するとさ。それと剣聖もブロックタウンにいるらしいから、50万で引き受けるなら、ジャスティスマンの所に顔を出すだろうだとよ。ああ、死神はレベル上げに行くと言ったら、花園に車両の土産を頼むとさ」

「そう都合よくいくかっての。じゃあ、俺達はこのまま遺跡に向かうぞ?」

「おお、行って来い。土産は、トゲ付きのライダースジャケットを頼むぜ」

「気をつけてな。日に1度は無線で連絡する。それを待てない何かがあれば、誰かに無線スキルを取得させて、俺とジュモを呼んでくれ」

「死神くん達の道に、良い宝のあらん事を」

「ありがとう。そして運び屋、お前さんのセンスは終わってんぞ。じゃあな」

 

 運び屋の無駄口を背中に受けながら、来た道を黄金の稲穂亭まで戻る。

 入口横の壁に背中を預け、【パーティー無線】を使った。

 

(起きてるか?)

(おはようございます、ヒヤマ。話し合いは終わりましたか。こちらは朝食も取って、いつでも動けますよ)

(とりあえずは、ミツカを護衛にしてニーニャを実家に。シティーに来たんだから、顔を見せないとな。ついでに、銃弾の補充もか)

(了解。ヒヤマはどうします?)

(黄金の稲穂亭の入口で待つ。バギーとバイクは、ここに出しといてくれとさ)

(わかりました。ジュモとかわいこちゃんも、シティーの宿屋に移るそうです。今、みんなで下りますね)

 

 さほど待たずに、黄金の稲穂亭のドアは皆を吐き出した。

 バギーとバイクを3番出入口の前で出すと、すぐに警備ロボットが周りを固める。

 

「VIP扱いですね」

「まあ、当然だろうな。今あの2人にそっぽ向かれたら、シティーが終わる」

 

 まずジュモとシェパードを宿まで送り、数軒先のカチューシャ商店に顔を出した。

 婆さんはおらず、ニーニャが父母に顔を見せている間に、銃弾を買い込んだ。探索終わりにそのまま戦争に出る勢いで、これでもかと買いまくる。

 

「婿殿。おふくろから話は聞いている。戦争に出るんだな?」

「ええ。ニーニャはどうします?」

「うちにいて心配に押しつぶされるより、婿殿のそばにいた方がニーニャのためだと話し合った。すまないが、よろしく頼む」

「了解です。夜に婆さんは来ますか?」

「ああ。無線で確認した。もうハンターズネストを出て、婿殿達を乗せて帰るそうだ。今、かみさんがニーニャにとっておきの鉄を渡してる。婿殿には、これだ。前に売ったサブマシンガンより、威力も精度も上になる。たまたま仕入れできたんだ」

 

 イワンさんが出したのは、黒光りするサブマシンガン。

 俺にもアイテム名が見える。『ギャングスターのサブマシンガン』ストックが特徴的で、【2丁拳銃】とは相性が良さそうだ。

 

「いいですね。いくらになりますか?」

「水臭い事を。持ってってくれ。弾も1000はある」

「今回ので大金が入ったんですよ。払わせてください」

「ダメだダメだ。ほらよ、サイズは変わらんから、そのまま装備しな」

 

 押し切られて右腰にサブマシンガンを装備する。重みが心地よい。コイツは頼りになる。根拠もなく、そう思った。

 

「いいな。ありがとうございます、イワンさん」

「喜んでもらえて何よりだ。お、ニーニャ。母ちゃんから鉄はもらったのか?」

「うんっ。チタン合金までもらっちゃったの。ハンキーちゃん、喜んでくれるかなあ」

「イワンさん、それって高いんじゃ?」

「気にすんなっての、娘へのプレゼントだわな」

 

 そう言われてもなあ。

 それならお礼になるかはわかりませんがと、手持ちの缶詰なんかを小出しに売ったり土産として渡したりしていると、婆さんが船着場で待っていると連絡が来た。

 慌ただしく挨拶を交わし、すぐの再会を約束して船着場に向かう。

 

「来たね。元気そうで何よりだ。さあ、乗った乗った」

 

 急かされて船に乗り込む。

 いつもならキャビンで休憩だが、今は時間がない。俺は婆さんが舵を握る操縦席で、ジャスティスマンとの話し合いの様子を話した。

 

「……何とかなりそうだね。安心したよ」

「やってみにゃわかんねえけどな。お、もうハンターズネストか。早えな」

「急いでるんだろ。すぐに向かうのかい?」

「ニーニャがチタン合金をもらったとかで、ハンキーをイジるんじゃねえかな。たぶん、出発は明日だと思う」

「エンジンに手を入れたがってたからね。今の積載量じゃ、防弾板も取り付ける余裕がない。カチューシャ家に溜め込んでた合金類をゴッソリ譲られたなら、下手な装甲車より高性能な半装軌車になりそうだ。楽しみにしとくといいさ」

「整備や部品選択は、ニーニャに任せてっからな。俺の仕事は、運転だけだ」

「そういやヒヤマは、スピード狂の気がありそうな顔をしてるね」

「見てわかんのかよ?」

「身内に同じような目のスピード狂がいてね。ふと、思い出したのさ」

 

 

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