アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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巨大遺跡

 

 

 

(サハギン5匹、排除完了)

(せっかくのごちそうなのに、取りに行けないのが悔しいですね)

(時間もねえ。ムダになるが仕方ねえさ。次を探す)

 

 河原にもうサハギンはいない。遠くに見える鉄塔に続く斜面をスコープで舐めるが、犬の影すらもなかった。

 進路上と河原をメインに、常時索敵を続ける。

 

 経験値が欲しい時にモブがいない。ゲームあるあるだが、ここは現実なのだから勘弁してくれ。

 カラスが飛んでいる。クリーチャーではないようだ。黄マーカーすら出ていない。

 スコープを目から離して、タバコに火を点ける。

 

(敵がいねえ……)

(探すといないものですよね)

(お兄ちゃん、中で休憩にしなよ。暑いでしょ?)

(そうだぞ。それに、定期的に【パーティー無線】を寄越してくれ。暑さでぶっ倒れてるんじゃないかと、心配になるんだからな)

(ありがとよ。もうちょっと探して、いなけりゃ下りる)

 

 気が付くと、たーくんが補助腕を出して灰皿を持っていた。

 

「ありがたいな。たーくんは気のつくいい子だ。この灰皿は、どうすればいい?」

 

 たーくんはなんの音も発せず、俺がタバコを消した灰皿にフタをして補助腕ごと収納した。

 ラジオからは、相変わらずのレゲエ。今日はずっとこれらしい。

 時折対岸にいるサハギンを狙撃するだけで、特に何事もなく野営の時間になった。

 俺とウイはレベル34になり、ミツカも32。ニーニャは28のままだが、すぐに29になるだろう。

 身支度と朝食を終え、俺はたーくんとハンキーの屋根に上がった。

 

(それじゃ、進むよ?)

(頼む。ハンキーのスピードがかなり上がったから、午後には遺跡に到着するだろ。俺も索敵を開始する)

 

 たーくんが流すラジオからは、クラッシックとジャズの中間のような曲が流れている。ピアノと弦楽器。バイオリンほど上品ではなく、ギターほどトルクもない。こちら独特の弦楽器だろう。嫌いじゃないな。

 

 さっそくの獲物。対岸ではなく、こちらの河原にサハギンだ。

 昨日のうちに、ブロックタウンへ向かう鉄塔の曲がり道は過ぎた。なのでここはもう人のあまり通らない地域だから、サハギンも残っているらしい。

 

「対岸にも居やがる。こうでなくっちゃな」

「ピンポーン!」

 

 ダアンッ。

 

 近い方の群れから始末する。

 2つ。3つ。4つ。

 次は対岸だ。8匹も居やがる。ニーニャのレベルもこれで来るな。

 2射してマガジンを交換。すぐに連射する。

 

(見えてんのはこんだけだ。ニーニャ、レベル来たか?)

(うんっ。ありがとう、お兄ちゃん!)

(おめでとうな。ミツカ。もう少しすっと、目的地の遺跡が射程範囲に入る。そしたら声をかけるから、ちょっとだけ停車してくれ)

(わかった)

 

 そろそろ停車を頼もうと思っていたら、ウイから早めの昼食にしたいと無線が来た。

 ならば昼食後に遺跡の索敵をしようと、ハンキーに入る。

 

「ミツカ、運転お疲れさんな」

「こっちこそだ。経験値がこんなに入るの、久しぶりだよね」

「そういえばそうですね。さあ、いただきましょう」

 

 昼メシを食っていると、ニーニャが戦闘スキルを1つくらい取りたいと言い出した。

 自衛のためにも賛成なのだが、こんな幼い少女に人も殺せるスキルを取らせていいものかと、どうしても悩んでしまう。

 

「スキルなあ……」

「ダメ?」

「ダメじゃねえがよ。ウイとミツカはどう思う?」

「今後のためにも、取得しておいた方がいいかと。なにかあってからでは遅いのですし」

「はぐっ。うんうん。レーザーライフルを活かすスキルなんてお勧めだよ」

「そうか。なら、ウイとミツカにいろいろ聞いて、よく考えて取得するといい」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

「ごちそうさん。じゃあ、遺跡の索敵をする。狙撃可能なら、そのまま始めるぞ。逃げの1手もあり得る。そのつもりでいてくれ」

 

 後部ハッチを開けると、素早くたーくんが外に出た。昨日からずっとそうで、至近距離に敵がいたら俺が攻撃されると、心配してくれているらしい。

 礼を言いながらハッチを閉めて、砲塔に寄り添うようにして膝撃ちの姿勢を取る。たーくんは、砲塔の上の定位置だ。

 

 まず見えたのは、駐車場。結構な数の車があるが、修理可能な物があるとは思えない荒れようだ。敵がいないなら、それでいい。

 そう思いながら視線を動かすと、突っ立っている人影があった。ゾンビ。

 すぐには撃たず、他にもいないか確認する。

 

(ゾンビがいる。相当な数だ。どうやらショッピングセンターっぽくてな。内部にもいると予想される。狙撃、開始するぞ)

(ハンキーで乗り込めそうか、見てもらえますか?)

(了解。狙撃しながら確認する)

 

 広い駐車場の、こちらに近いゾンビから撃ち倒す。

 36を数えたところで、外にいたゾンビは片付け終わったようだ。

 

(36体を始末した。建物正面入り口は広い。1階だけなら、ハンキーで侵入可能と思われる)

(お疲れ様です。朗報ですね。ミツカ、【轢殺ライダー】と【砲手の連撃】の組み合わせを試す良いチャンスですよ)

(漲ってきたっ!)

(せっかく取ったのに【ディソリューションショット】の出番はないかなあ)

(いいえ。ヒヤマとニーニャちゃんは左右の銃眼から、接近したゾンビを始末してもらいます。頑張ってね)

(うんっ。ニーニャ、頑張ってゾンビをたっくさん溶かすっ!)

 

 うちのパーティーに、常識人は俺しかいねえのか。

 ため息をついて動き出したハンキーの揺れに身を任せると、たーくんが灰皿を出して俺を見ていた。

 

「ありがとう。俺とお前さんだけは、マトモでいような」

「ピンポーン」

 

 タバコを3本吸い溜めする間に、ハンキーはだいぶ遺跡に近づいた。

 たーくんが灰皿をしまうと、駐車場にキャタピラを乗り入れて進む。

 車の残骸のない歩道を進み、正面入口前で無線が来た。

 

(早く中に入ってください)

(へいへい)

「お兄ちゃん、右と左、どっちがいい?」

 

 中に入るなり、ニーニャが嬉しそうに聞いてくる。

 好きにしていいと言うと、少しだけ迷いながら右を選んだ。

 

「じゃあ、乗り込むよ!」

「安全装置解除。ガトリングガン、いつでも撃てます」

「ミツカ、横転だけには気をつけてな。それと常に、後退が必要になる可能性があるのを忘れんな」

「わかった。いつでもここに戻れるように走るよ」

「ウイ、ガトリングガンは構造が複雑だからな。少しでもおかしいと思ったら、すぐにニーニャに見てもらえ。暴発でもして、怪我してからじゃ遅い」

「はい。肝に銘じます」

「ニーニャも、無理に敵を倒そうとはするな。揺れる車内での発砲だ。1発の誤射でも、大怪我する可能性は高い。何をするにも、無理をせずだぞ」

「はいっ。無理はしませんっ!」

 

 ビシッと挙手されても、なんか不安なんだよなあ。

 

「たーくん、もしもの時はニーニャを庇ってやってくれな?」

「ピンポーン!」

「よし、いくぞ。戦闘用になったハンキーのデビュー戦だ」

 

 元気の良い返事を聞きながら、田舎のトイレの鍵のようなものが付いている銃眼を覗く。

 スナイパーライフルは、軽機関銃に変更した。

 

 ガラスの割れる音。

 予想通り、自動ドアに突っ込みやがったか。

 パキパキカリカリバリバリ、そんな音を出しながらハンキーが進む。これじゃ、敵が来ましたよと大声で触れ回ってるのと同じだ。囲まれるぞ。

 

「ゾンビが来たよ。ウイ!」

「了解。攻撃開始!」

 

 軽機関銃なんて比較にならない、大きな銃声が連続する。

 

「笑えるくらい広い通路だ。ウイ、正面はいいから左右を!」

「了解。轢き殺すにしても、あまり集めてからじゃダメですよ?」

「わかってるさ。適当な数で突っ込むっ!」

「ウイお姉ちゃんは左をお願い! 【ディソリューションショット】!」

「うははっ。ゾンビが溶けたチョコレイトみたいだっ!」

 

 俺、撃つ必要なくね?

 

 パッパラー。

 

 レベル来たし。たしか、あと200以上は必要だったのにな。

 

「外に出て暴れたら、怒られっかなあ……」

「ピンポーン」

「やっぱりか。仕方ねえ。性に合わねえが、銃眼から撃つか」

「ヒヤマの分はありませんよ。【砲手の連撃】!」

 

 ああ、汚え挽き肉だ。

 

「突っ込むっ!」

「了解。総員、対衝撃姿勢を!」

 

 慌ててバーを掴み、頭を庇う。ニーニャを見ると、似たような姿勢で更にたーくんの補助腕が肩を抑えているのが見えた。

 安心した途端、衝撃と何かに乗り上げた感覚。

 

「キャタピラ浮いてねえか!?」

「なにくそっ!」

 

 衝撃。

 キャタピラが、地面を噛んで走り出す。

 

「腐肉なんかで、ハンキーが止められるものかっ!」

 

 パッパラー。

 

 もう35匹もやったんかよ。とんでもねえな、【轢殺ライダー】ってスキルは。

 

「ミツカ、残りは任せなさい!」

「わかった。射線を取りながら走るよっ」

 

 俺、1発も撃ってねえんですが。

 弾け過ぎだろ、お前ら。

 ガトリングガンの銃声が連続する。またレベルアップの音がしてようやく、その音は止んだ。

 

「マーカーはまだありますが、見える範囲に立っているゾンビはいません。どうしますか、ヒヤマ」

「30分待つ。それから、降りて探索だ」

 

 出番は全くない。換気ファンの前に座り、タバコに火を点けた。

 俺のレベルは38。今日だけで、5レベルも上がった計算になる。

 銃眼から見た様子では、ショッピングセンターだけあって商品が山のようにあった。そちらも期待できるだろう。まったく、たいしたお宝の山だ。この遺跡は。

 

「ミツカとニーニャも、かなりレベル来ただろ?」

「36だ。ここに入って3も来たよ」

「ニーニャも33!」

「来てよかったなあ。夜はハンキーを外に出して休むが、その時が楽しみだ。なんのスキル取っかな」

「武器制作を伸ばすか、武器修理を伸ばすか悩むよう」

「【轢殺ライダー】の最上スキルってなんだろね」

「おい、俺も運転はするかんな?」

 

 なんで驚いてんだよ。運転手は俺だ。

 

「まあ、戦闘中じゃなければいいか」

「なんで上からなんだよ。何様だ、お前は」

「戦闘用運転スキル持ち様に決まってるじゃないか」

「いい度胸だ。なら、俺も取ってやろうじゃねえかよ」

「無駄になるからやめてください。あ、ちなみに砲手は私ですので」

 

 こいつらは……

 

「ニーニャ、俺達の仕事が取られたぞ!」

「ニーニャちゃんは整備士じゃないですか。なにを言ってるんですか」

「……家出でもすっかな」

「扶養家族が増えるのでやめてください」

「人がまるで女を口説くしか能がないみてえに言うな!」

 

 

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