アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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ニーニャの初体験

 

 

 

「すまない、待たせた」

「顔色は少し良くなったが、決定的に休息が足りてねえな。俺達はこの先に向かうから、休憩がてらバリケードを守っててくれ」

「そこまで頼んでいいのか?」

「ああ。俺達は経験値を求めて、たまたまここを見つけたんだ。利害が一致してんだよ。この先が、キマエラ族の目的地か?」

「いや、あちらから逃げて来たんだ。西海岸のマストリーからな」

「すまん。当時の地名なんかは、まったくわからん。その辺を、無線スキルで長老に聞きながら進む。最長で2日の予定だ。分かれ道は?」

「ない。5つ先の駅で、オーガゾンビが出現したんだ。……気をつけてな」

「ありがとよ。またな」

(お兄ちゃん、投光機の準備は完了! 取り付けていい?)

(頼む。ありがとな、ニーニャ)

 

 ニーニャの手伝いをして、投光機を砲塔の上に取り付ける。操作は中からは出来ず、俺が手動でオン・オフの切り替えをするようだ。

 

(行こうか。2日進んで何もないなら、そこを塞ぐか長老と相談しよう。ニーニャ、中に入ってな)

(はぁい)

(では、無線で長老さんにいろいろ聞いておきますね)

(頼む。いいぞ、ミツカ)

(了解。ハンキー、発進!)

 

 ガタガタ揺れる屋根で、目を凝らして漆黒の闇の先を見つめる。

 次のオーガゾンビは、スナイパーライフル1発では倒せなかった。

 ウイが言うには投光機でこちらに気がつき、隠密状態からのダメージ3倍ボーナスが発生しなかったらしい。

 ならばと次はハンキーのヘッドライトだけで進むと、最初のオーガゾンビのように1発で倒せた。

 

(危険物や障害物があれば、無線で伝える。悪いがミツカ、ヘッドライトだけで進んでくれるか?)

(ちょうど今のでレベルが来て、スキルポイントが3になったんだ。【鷹の目】を取ろうかなあ)

(おめでとさん。【夜鷹の目】は2段目だからな。すぐに見えるようにはなんねえぞ。次のレベルが来てから、考えたらどうだ?)

(それもそうかな。わかった。じゃあ、進むよ)

 

 束の間の静寂を、ハンキーのキャタピラが踏み潰して進む。

 半日で越えた駅は2つ。そのどちらも、地上への出入口が潰れていた。

 オーガゾンビが出現したという駅は、どうなっているのか。地上にオーガの巣があり、死体を地下に捨てている可能性が高いと俺は睨んでいる。

 屋根で考えながら、暗闇に目を凝らしていると、ハッチからウイが這い出してきた。

 ハンキーの速度が、歩く程度まで落ちる。

 

「どした、ウイ?」

「そろそろ夕食ですから。瓦礫も集めてはありましたが、足りないと困るので砂利や枕木を集めて、トンネルを封鎖する準備です」

「見張りは俺がするからいいぞ?」

「その見張りの必要を、なくすのですよ」

 

 止めても無駄か。

 無限アイテムボックスのない俺に、手伝える事など何もない。

 小走りでハンキーを追いながら砂利を集めていたウイが差し出した手を握り、屋根に引き上げてアイスコーヒーを渡す。もちろん、ミルクと砂糖入りだ。

 

「ありがとうございます。……ふうっ。美味しいですね」

「そのシリーズは、ブラックもミルク入りも美味いんだ。飯食って、今日はここまでか?」

「ですね。駅を2つ越えて、しばらく進みました。明日は朝から動くので、午前中に問題の駅に到着でしょう」

「瓦礫と砂利で塞ぐのはいいが、崩れて生き埋めなんて許さねえぞ?」

(大丈夫ですよ。ニーニャちゃん、準備は出来ましたか?)

(うんっ。今、行くー)

 

 何がはじまるのかと思って待っていると、ニーニャがトンネルの高さの枠組みを、ウイがトンネル幅の鉄板を出して、組み立て始める。

 こちら側に崩れる瓦礫と砂利を、これで押さえるつもりらしい。

 

「強度は大丈夫なのか?」

「理論上は余裕あるよー!」

 

 不安だなあ。

 そう思いながら見ていると、鉄板を5回も追加して作業は終わった。

 

「お疲れさん。ちょっとした工事だな、こりゃ」

「ハンキーちゃんを、トンネル作業車にするための部品としてスキルで制作したから、強度は大丈夫だと思うの。でも念のため、少し下がって寝るんだって」

「なるほどね。じゃあ、とっとと寝るか。明日は下手すりゃ、オーガゾンビとオーガの群れが相手だ」

 

 一夜明けて出発となるが、起きると進行方向に無数の黄マーカーが蠢いていた。

 

「たった9時間ばっかで、こんなに溜まるんか」

「そのようですねえ。14、いえ、15匹ですね。徐々に鉄板と砂利を収納しますか?」

「下手に分割したら、崩れねえか?」

「大丈夫だとは思いますが、やってみなければわかりませんね」

「一気にすべて収納なら?」

「なんの問題もなく、15匹のオーガゾンビが目の前に現れるだけです」

 

 悩むなあ。

 

「正直、俺にはどっちが安全か判断できねえ。ウイとニーニャで決めてくれ」

「ミツカお姉ちゃんの【ワンミニッツタレット】を出してもらえたら、ウイお姉ちゃんの危険も減るんじゃないかなあ」

「ハッチから顔を出してすべて収納。すぐ【ワンミニッツタレット】で、私が銃座に戻ったら【砲手の連撃】こんな感じですか」

「なんなら最上スキルの【轢殺ドラッグレース】を使おうか?」

「なんですか、その物騒なレースは」

「前方の敵を殺しながら、急発進するスキルだよ。あたしのレベルでも、このトンネルくらいは範囲内だと思う」

 

 またデタラメなスキルだな、おい。

 だが、それならこの状況を打開可能だろう。

 

「面白そうじゃんか。その最上スキルで行こうぜ」

「任せてくれ。じゃあ、ウイがハンキーのハッチを閉めたら使うよ」

「では、行きます」

 

 顔を出したウイが引っ込み、大きな音でハッチが閉じられると、テンションの上がりすぎたミツカが高笑いし始めた。

 

「ミツカ、やってください!」

「おうさっ! 【轢殺ドラッグレース】!」

 

 身構えていても転がってしまうほどのGが体を襲い、ウイとニーニャ、たーくんと一緒に壁に激突する。ウイとニーニャは無事か!?

 

 パッパラー。パッパラー。

 

「怪我はっ!?」

「ウイ、大丈夫です。ニーニャちゃん、痛い所はありませんか?」

「たーくんが庇ってくれたから平気っ。びっくりしたねー」

「ミツカ、敵は?」

「敵ぃ? バックミラーに映ってるのは、腐肉のペーストだけだよ?」

「……そうかい。とんでもねえGが来たが、どんくらい進んだんだ?」

「ふうっ。気持ちよかった。んーと、だいたい400メートルくらいかなあ」

「次からは、しっかり準備してから使おうな。そんじゃ、屋根に出る」

 

 外に出ようとすると、たーくんがハッチを開けて先に飛び出した。どっかのギャングに見せてやりたい心意気だ。

 砲塔の隣に移動して、前を睨みながらハンキーに揺られる。

 

(駅が見えてきました。あれの次が、オーガゾンビの湧いた駅ですね)

(地上に繋がってるか見る。ミツカ、ホームで停車してくれ)

(了解。繋がってたらどうするのさ?)

(ウイに塞いでもらう。さっきのがありゃ余裕だろ)

 

 マーカーがないかよく見て、ハンキーの屋根からホームに飛び移る。

 4つある階段をすべて見て回ったが、ここも地上から入れはしないようだ。

 

(地上への道はない。ハンキーに戻る)

(了解。こちらは接近するオーガゾンビが、ガトリングガンの射程内に入るまで待っているところです)

(狙撃、いるか?)

(もう来ますから、大丈夫です。ガトリングガンを何連射で倒せるかも見たいので。HPは300。攻撃、開始します)

 

 火を噴くガトリングガンを見ながら、のんびりハンキーに向かう。

 

(もう屋根に戻っていいか?)

(ええ。意外と柔らかいですね、オーガゾンビ)

(なんでオーガ兵より、経験値が高いんだろな)

 

 ホームからジャンプ。

 ハンキーの屋根に戻ってから、タバコに火を点けた。

 

(もういいぞ、ミツカ。進んでくれ)

(了解。次の駅か。どの辺でハンキーを停める?)

(視認してからでもいいんじゃねえか。ハンキーでの、戦闘の習熟も兼ねてんだし)

(そういえば、マトモに銃眼を使ってなかったね。ハンキーで突っ込んでみるのかい?)

(スコープで見てからな)

(ああ。レベルが来てたんだった。ヒヤマ、【鷹の目】と【夜鷹の目】を取るよ?)

(ニーニャもっ!)

 

 ニーニャまで取るのか。このまま、どんどん戦闘もこなせるようになっていくんかな。

 

(好きにしていいぞ。そしてニーニャ、【夜鷹の目】を取るなら、狙撃してみるか?)

(やってみたいっ!)

(『初心者の狙撃銃』を、双眼鏡代わりにしか使ってなかったからな。要求腕力は満たしてんだろ?)

(もちろんっ。ニーニャだってもう、レベル42だよ。スキル取ったから、屋根に上がるねっ)

(気をつけてくださいね。ヒヤマ、たーくん、ニーニャちゃんを頼みます)

(いいなあ、あたしも狙撃してみたいぞ)

 

 何人スナイパーになる気だ。MMOのネタパーティーじゃねえっつーの。

 たーくんにエスコートされて来たニーニャに、狙撃ポジションを譲る。

 

(ニーニャちゃんの初の獲物が、早くもやって来ましたね)

(だな。HPは280か。体格も小せえな。焦らずに撃てば当たる。やってみな)

(はいっ。うっちまーすっ!)

 

 ていっ!

 そんな気の抜ける掛け声を出しながら、ニーニャの撃ったスナイパーライフルが、オーガゾンビに命中。

 

(100ダメージか。今のは上手かったぞ。あと2発、命中させてみな)

(はぁい。……んーっ、ていっ!)

(いいぞ。あと1発で終わりだ。決めな)

(うーっ。やぁー。たあっ!)

(よく出来ました。肩とか痛くねえか?)

(大丈夫っ。はじめてニーニャだけで倒しちゃった)

(おめでとうございます。もう戻ってくださいね)

(そうだね。おめでとう、ニーニャちゃん)

 

 嬉しそうなニーニャを、たーくんがハンキーの車内に導く。

 それにしても、隠密なしの狙撃ってのはあんな威力なのか。職ごとの初期スキルってのは、よく考えられてるんだな。

 もっと見ておけば良かった。

 

(ここからは駅が近い。ライトを消して進めるか?)

(ちょっと待って。確認してみる)

 

 ヘッドライトが消され、トンネルが闇に覆われた。

 ハンキーから漏れるはずの光もない。どうやら、車内灯まで消したようだ。

 

(大丈夫だね。ヒヤマ、接近を気づかれたくないなら、【静音走行】もオンにしようか?)

(そんなスキルも来てたのか。頼む)

(了解。じゃあ、走ってみるよ)

 

 ハンキーが動き出すが、いつもの轟音がない。スキルでキャタピラの音を、ほぼ完全に抑えているようだ。

 

(どうだい?)

(最高だ。ありがとな。ここからは、スコープを覗きながら移動する。何か見えたら言うから、ハンキーをすぐに停車できるスピードで走ってくれ)

(了解。運転席の天井に、ハッチを付けて貰ったからね。オーガゾンビが群れてたら、ミサイルを撃ち込んでから轢き殺してやるんだ)

(いつの間に改造したんだか。撃つ前に撃っていのか聞けよ、戦争ジャンキー?)

(オーライ。戦場こそ、ソルジャーのリビングルームさ。フハハ)

(わあっ。オベェマの名ゼリフっ。ミツカお姉ちゃん、カッコイイ!)

 

 

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