アイツとメガネ、異世界を行く   作:ふくふくろう

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始動

 

 

 

「既存の店に喧嘩を売る気か?」

「いや、ギルドは卸売りだけで小売りはしない。それでも迷惑がかかりそうなら、肉の買い取りだって店に任せてもいいんだ。肉屋がある街は獲物は冒険者が肉屋に売ればいいし、肉を仕入れてくれとのギルドへの依頼は肉屋しか出せなくするとかさ。武器屋や雑貨屋なんかも、そうだな」

「ちょっと待て。ヒヤマはそのギルドってのを、各街に作るつもりか?」

「ギルドが利益を出せれば、誰かが同じ事をやろうとするだろ。治安の向上に貢献する気なら、シティーのギルドを真似ると思う。許可を求めるならのれん分け。真似してるのに、犯罪行為をする冒険者を使うようならぶっ潰す」

「目的は?」

 

 気恥ずかしいが、話さなければ手伝ってはもらえないだろう。

 さっきから黙って話を聞いている、レニー達もだ。

 

「その、あれだ。いつか女連中も、子供を産んだりするだろ。そして、運び屋は老いぼれていく。その時に、今のままじゃ危なくねえか? せめてこの辺だけでも、平和ならいいなってよ」

「……荒野に安全と秩序を回復するのか。男が一生を捧げるべき仕事じゃないか」

「老いぼれてくは一言多いが、孫のためにはいいかもな」

 

 運び屋もルーデルも、少しは乗り気なようだ。

 これなら、いけるか。

 

「ヒヤマ。現実的には、どうやって実現させるんだ?」

「んー。とりあえず、艦橋を借りてギルドを立ち上げるだろ。はじめは外部からの依頼なんてねえだろうから、俺達が登録して獲物や遺跡品をギルドに売る。んでそのうち空母の冒険者は役に立つと噂が出れば、依頼は増えていく。そしてこれから冒険者になろうって奴らは、ギルドに登録すればパーティーを組みやすくなる」

「いい事ずくめじゃないか」

「元犯罪者で、更生した奴はどうすんだ?」

「登録時にカウンターの【嘘看破】持ちの前で、もう犯罪はしません、誰かの意を受けてもいませんと宣言させればいいんじゃねえか? 依頼を受けるにも報酬を貰うにも、犯罪はしません、してませんと、いちいち全員に宣言させるつもりだし」

 

 運び屋がビールを出し、ルーデルはタバコを吸う。

 真剣に考えているようなので、姿勢を正して身じろぎもせずに待った。

 

 無言で運び屋が缶ビールを押したが、首を横に振って断った。俺の思いつきを真剣に考えてくれているのだから、酒を飲みながら待とうとは思わない。

 

 ウイとニーニャの計算も、まだ終わってはいないようだ。

 レニー達は興味深そうに、運び屋とルーデルの言葉を待っている。

 

「まず問題がギルドの職員だろ。職持ちで【嘘看破】持ちなんて、都合よくいねえだろ」

「職員になってくれるなら、ソイツをパーティーに加入させて、3レベル上がるまで俺達がレベリングに連れてく。ハンキーの中にいりゃ安全だ。そして最低でも、1年は勤務してもらう。3年勤めたら、さらに3レベル。冒険者になるのが怖くて無理でも、長年勤務すりゃレベルが上がるんだ。ギルドの存在とそれが欲してる人材が知れ渡れば、希望者も出てくると思う」

「子供でもいいなら、希望者はいるかもな」

「とりあえず、ブロックタウンに移住した爺さんに、頼んでみればいいんじゃねえか?」

「そう思ってる。もしも爺さんが受けて本当にギルドを作ったら、ルーデルとジュモも登録してくれるか?」

「もちろんだ。協力するぞ」

「ありがとう。花園は?」

「やるに決まってるだろう。スラムのガキ共を、なんとかしてやれるかもしれねえ」

 

 そういえば、花園はスラムの女子供を守っていたのだ。

 なら、俺も協力するか。

 

「運び屋。空母の居住権や家賃は、どんくらいにするんだ?」

「ギルドってのに俺も1枚咬ませるなら、格安でいいぞ」

「お、おい。本屋をやるんじゃなかったのかよ!?」

「ありゃ延期だ。そんな楽しそうな事を始めるってのに、隠居なんてしてられるか」

「ありがてえが、いいのか?」

「おう。だが、相棒は頼むぞ。この姿のままでも役に立つし、いざとなりゃHTAもある。邪魔にはならねえはずだ」

「運び屋は1人で大丈夫なのか?」

「死神が考えてるのは、冒険者の犯罪率低下と質の向上だろ。俺が新米の面倒を見りゃ、効果的じゃねえか」

 

 ギルドが犯罪者と敵対するとしたら、狙われるのはひよっこ冒険者だろう。それを運び屋が見ててくれるなら、頼もしいなんてもんじゃない。

 

「新米が狙われる事まで、読んでるのか……」

「当然。で、スラムのガキ共を空母に住まわせるんか?」

「申し訳ねえが、俺達が居住権を払える額の人数だけな。ブロックタウンには、元犯罪者なら問答無用で住まわせない。金があるなら、娯楽の多いシティー。貧乏人で犯罪者でないならブロックタウン。生きるために犯罪を犯したが、これからは真っ当に生きるなら空母。3つの街がしっかり結びついていれば、経済も回ると思う」

「お、おい。ヒヤマ!」

「どした、レニー?」

「オマエは最高だ! ちょっと兵員輸送車に来い、3人でどんな事でもしてやる!」

「そのうちな。今はまだ仕事がある。ウイ。そっちが終わったら、今の話をブロックタウンの爺さんにしてくれ」

「わかりました。ちょうど計算も終わったので、すぐに無線を飛ばします」

 

 フロートヴィレッジやグールの街のように、まだ見た事もない街もある。冒険者がどのくらいいるのかはわからないが、ギルドでやれる仕事もあるだろう。

 それにキマエラ族の安住の地も決まれば、助け合える事も多いはずだ。

 

「ウイ嬢ちゃん。爺さんにギルドの責任者だけじゃなく、空母が街になったら市長も受けてくれと言ってくれ。島の女子供がこの先、楽に生活できるからと」

「はい。伝えます」

「爺さん、倒れねえだろうな」

「年寄りには間違いねえが、艦長をやってたくれえだ。大丈夫だろ」

「ヘリが活躍できそうだな。冒険者の送り迎え用に改造するか?」

「タクシー使う冒険者なんて、こっちからお断りだって。非常時に救助するならまだしも」

「死神はあれだな。おっさんになったら事あるごとに、俺が若い頃は、とか言うタイプだ」

「うっせえよ」

「お爺さん、OKだそうですよ。島の長老だったそうで、【嘘看破】も【犯罪者察知】もあるそうです」

 

 それは僥倖。

 これで、なんとかなりそうだ。

 

「ツイてるな。いつからやる?」

「レニー。スラムに残ってるガキは、どのくらいいるんだ?」

「100ぐらいだ。スラムの下水道で、身を寄せ合って生きてる」

「収入源は?」

「花園が面倒を見てるのは、体を売ったりタタキをやらねえガキだけさ。女の子は針仕事。男はスラムの店の下働きなんかだ」

「……空母で出来る仕事が欲しいな」

 

 女の子は針仕事でいい。

 だが、男のガキがスラムへ働きに出ると、空母をよく思っていない大人にちょっかいを出されるかもしれない。

 

「街で雇うってのはどうだ? 半数の50が男だとして、1000人は暮らせそうな空母には、清掃員も必要だろう」

「それと甲板の駐機スペースに、畑でも作ってしまえばいい。雨が降らなくても、運河の水を汲み上げて撒いてやれば作物は育つ」

「おお。さすが、亀の甲より年の功」

「ひっぱたいてやろうか、おい」

「ははは。ヒヤマはまだ若いからなあ」

「それで、居住権と家賃はどんくれえにするんだ?」

「居住権は売らねえ。その代わり、犯罪行為は行わないと宣言してから入居。家賃は市長の判断だな。修繕費なんかもあるだろうし、街としての運営費は必要だろう」

「運び屋の懐には入れねえのか?」

「金が欲しけりゃ、働くさ」

 

 居住権を買う必要がないなら、入居希望者はいくらでもいるだろう。

 ウイとニーニャが計算したアイテム総額の5分の1をレニーに渡し、全員がヘリに乗った。

 

「行くぞ、ウイちゃん」

「はい。いつでもどうぞ」

 

 ヘリが浮き上がると、俺と手を繋いだウイが体を半分外に出して、空母をアイテムボックスに収納。細い身体を抱き寄せると、ハッチがゆっくり閉まっていく。

 

「アイテムボックスに空母なんか入れたんだ。体や網膜ディスプレイに異常はねえか?」

「はい。いつもと変わりません」

「そりゃ良かった」

「運び屋。シティー、ハンターズネスト、ブロックタウンの順でいいんだな?」

「ああ。剣聖と戦争に参加した冒険者が、シティーの屋根に集まってる。冒険者に銃と弾を渡して、剣聖を拾ってハンターズネストだ。揚陸艇を、ハンターズネストに預けるらしい」

 

 考える事は、同じか。

 俺達も揚陸艇を使う時は、ハンターズネストから出かけようと思っている。ただ、空母が川を塞がなければだ。

 

「空母を浮かべたら、通れねえかもな」

「そこはカリーネがうまくやるさ。だろ?」

「ええ。ヒヤマのためなら。剣聖のためにやれと言われたら、わざと塞いでやりますけど」

「さすが工兵だな。俺達もハンターズネストから、川を進みてえんだ。よろしく頼むよ。暇になったら、海水浴に招待すっからさ」

「楽しみにしてるわ」

 

 カリーネはベッドではエロいのに、真面目で優しそうな美人さんなんだよなあ。

 ベッドではエロいのに。

 

「冒険者に渡す銃は、拳銃かアサルトライフルですね。選んでもらいますか?」

「アサルトライフルの方が高いなら、アサルトライフルを渡せばいい。そうすればいらないなら売って、欲しい物を買うだろ」

「なるほど。それもそうですね」

「見えたぞ。手を振ってくれてるな」

「ウイ、弾もあるんだよな?」

「弾薬庫が無事でしたからね。300ずつは渡してもいいと、全員の許可をもらってあります」

 

 それなら、死ぬ覚悟までして参戦した甲斐があるだろう。

 冒険者として生きるなら、武器は強力な物がいいに決まっている。

 

 ヘリが屋根に着陸して外に出ると、剣聖と冒険者が物珍しそうにヘリに群がった。

 

「子供かよ」

「ギブミーチョコレートってやつだな」

「歳がバレるぞ?」

「ヒヤマ!」

 

 ヘリに群がっていない3人の1人が俺を呼ぶ。

 改めて見ると、前に拳銃を譲った3人パーティーだった。

 

「よう。ジョン、スミス、それにジェーンだったよな。元気か?」

「なんつー名前だよ……」

「おかげさまで元気だよ。それより、かなりの大活躍だったらしいじゃないか」

「そうでもねえよ。ジェーンはアサルトライフルがあるんだったな。これから全員に配るが、どっちか売って好きな装備を買うといい」

「防弾アーマーが欲しくて貯金してたから、もしかしたら手が届くかもしれません」

「それはめでたい。運び屋、そろそろ配ったらどうだ?」

(ヒヤマ、冒険者に犯罪者はいないよ)

(ありがとうな、ミツカ)

「俺かよ。注目されるのは、苦手なんだがな」

 

 それでも運び屋は咳払いをして、ソードオフショットガンを抜く。

 何をするつもりだと言うよリ先に、轟音が響いた。

 

「おい、危ねえって」

「弾は、撃つと同時に消したっての。おーい、今から銃を配るぞ。今回は集まってくれて感謝してる。これは、その礼だ」

 

 弾を消すスキルなんて持ってんのか。

 どんなスキルか検索しているうちに、銃は配り終わっていたらしい。

 手を振るジョン達に手を振り返して、ヘリに乗り込んだ。

 

 

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